<皮>永遠の美貌②~悪魔の契約~(完)

”悪魔と契約”し、
自ら”皮”となり、
悪魔を自分の中に宿すことで永遠の美貌を手に入れた女ー。

彼女は今日も”あの頃の自分のまま”日々を謳歌していたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「この歳になっても、こういう格好できるってすごいと思わない?」

高校時代の制服を身に着けて、満足そうに微笑む美奈ー

”ーー……”

「ねぇ、聞いてる?」
美奈が言うと、悪魔は”ん?あぁ”と呟いたー。

悪魔との日々は続きー
この時の美奈は既に40代中盤に差し掛かっていたー

しかし、自分の高校時代の制服を着れば
ほとんどの人間が”美奈は女子高生”だと信じて疑わないだろうー。

何故ならー
美奈の身体は”女子大生の頃”と何も変わっていないのだからー。

悪魔の力により、”永遠の美貌”が保たれているのだからー。

”でー…その格好はー?”

「ーーーあ、うんー、なんかね、弟の浩明の子供がねー
 今度、初めてデートするらしいんだけど、
 どうしてもその練習がしたいってー」

美奈は制服姿のまま、少し照れくさそうに言うー。

浩明の息子である甥から、
美奈は少し前から”初めて彼女ができてー”と、相談を受けていたー。

弟の浩明も既に40代ー
浩明の息子である甥も、既に高校生で、
初めての彼女が出来たことの相談を受けていたのだー

甥からは懐かれているし、たまに連絡を取ったりするものの、
いきなり”彼女できました”報告をされて、
美奈は最初、”え?どうしてわたしに?”と、困惑したものの、
甥の敏明(としあき)には、ある理由があったのだー。

その理由がー

”あ、あのー…お、俺、女の子とほとんど話したこともなくてー
 デートとか、全然やり方分からないのでー
 本番の前ー
 こ、今度の土曜日にお…お姉さんと練習させてくれませんかー?”

と、いうものだったー

昔から、美奈から見れば弟の息子である敏明は
”おばさん”と呼ぶのではなく、”お姉さん”と美奈のことを
呼び続けているー

そう呼ばれるたびに、美奈は”永遠の美貌”を手に入れてよかったー、と
満面の笑みを浮かべるー。

「ーそれにしても、敏明くん、わたしで練習だなんてー
 ふふふふふふ」
美奈は嬉しそうに顔を赤らめながら鏡を見つめるー

別に”高校生の格好で来てください”などとは言われていないのだが、
美奈が勝手にその気になって、高校時代の自分の制服を
用意して、今日、4日後に控えた土曜日の”練習”をしているのだったー

「ーっていうか、最近、反応薄くない?」
美奈が言うと、悪魔は”そうかー?”と返事をするー

「まさかとは思うけど、
 あなたの寿命が近いとか、そんなことないよね???」
美奈は、そんな心配をしたー

”自分の中にいる悪魔”が、先に死んでしまったら
自分の美貌はどうなるのかー
そんな心配をしていたー。

だが、悪魔は少しだけ笑ったー

”いいやー。我は人間とは違うー。
 人間たちから見れば”無限”に等しい
 命を持っているー。
 心配は、いらない”

そう、悪魔は答えたー

美奈は「それならよかった」と、言うと、
ご機嫌そうにセーラー服姿で、鏡に映る自分の姿を見つめたー

「45なのに、この服が似合うってすごくない?」
美奈が言うー。

だが、悪魔は返事をしなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーすご…入社時と全然変わらないじゃん」

会社の昼休みー
同期の女子社員が、入社時に撮影した写真を
先日、引っ越しした際に見つけたから、と
持ってきていたー

それを見て微笑む美奈ー

「わ~…ほんとだ!」

わざとらしく驚いて見せるー。

自分では、”入社時から何も変わっていないこと”は
当然理解しているー

何故なら自分は、悪魔との契約により、
”永遠に年老いることはない”のだからー。

「ーーーえ~~~」
同期の女性社員も既に40代中盤で、
当然、年相応に老いてきているー。

入社当初は”守ってあげたくなるような清楚な雰囲気の子”
だったものの、今は美奈から見れば
”ただのおばさん”と、言えるような感じだー。

その同期の女性社員は、先ほどから
入社時の写真と、今の美奈を見比べて
「ーー…美奈だけ、時間が止まってるんじゃない?」と、
苦笑いしたー。

”どう見ても”
入社時の美奈と、今の美奈が”全く同じ”ようにしか
見えなかったー

「ーーそんなことないよ~!ちゃんと歳は取ってる取ってる」
美奈が笑いながら言うと、
同期の女性社員は「どこが~!?」と、笑いながら
「まだ身体、20代のままなんじゃないの?いいなぁ~」と、呟いたー。

「ーーー(ふふふ…いいでしょ?)」
心の中では、そんなことを思いながら
美奈は今日も”永遠の美貌”を堪能していたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

金曜日の夜ー

美奈は甥の敏明と通話しながら
”じゃあ、明日は南口で待ち合わせねー”と、伝えるー

敏明は”ありがとうございますー”と言いながら、
”あ、あのー俺の振る舞いに変なところとかあったら、
 遠慮なく言ってくださいね”と、呟くー。

「ーうん。もちろんー」

そんな返事をしながら、
美奈は”高校生の甥と制服姿で歩いてたらー”と、
いうことを妄想するー

別に甥の敏明に恋愛感情があるわけではないし、
そんな感情はないー。

けどー
”もしもカップルと間違えられたらー”

45歳の女が、高校生と制服デートをしている風に
誤解されたらー

「ゾクゾクしちゃうー」
美奈は嬉しそうに顔を赤らめると、
ふと、悪魔が呟いたー

”飽きた”
とー。

「ーえ?なに?どうしたの?」
美奈が、内側から聞こえて来た悪魔の声に対して
そんな返事をするー。

何が、飽きたというのか。

美奈は、首を傾げながら
「ーわたしの身体、貸す?」と、呟くと、
悪魔は何も答えなかったー。

「ねぇ、何が飽きたのー?
美奈が制服姿でそう呟いたその直後だったー

ピキッ、と後頭部に強い違和感が走ったー

身体の自由が急に利かなくなっていくー。

その感触に違和感を感じて、
美奈が再度、”悪魔”に確認すると、
悪魔は”少し、行きたい場所があるー”とだけ呟いたー。

「ーーーーえ…でも、今日はもう寝なくちーーー」

美奈がそう言いかけた直後ー
悪魔は”初めて”美奈の身体を強引に支配したー

そして、制服姿のままお構いなしに家の外に出るー

”えっ!?ちょっと!?どこに向かうの!?”
美奈の意識が叫ぶー

だが、美奈の身体を支配した悪魔は、
そのまま夜の街を
セーラー服姿のまま歩きー
ある場所へと向かっていくー

”ーーーあ”
美奈の意識もすぐに気づいたー

支配された美奈が向かっているのはー
”最初にこの悪魔と出会った場所ー”

山のふもとにある洞窟ー。

そこに美奈がやってくると、
悪魔は呟いたー

”我は、飽きたー
 今日で、終わりだ”

とー。

「ーえ…?」
身体の自由を取り戻した美奈が、
洞窟の中で困惑の表情を浮かべると、

”我はまた、ここで眠るー
 今まで楽しかったぞ、人間ー”

と、そう、呟いたー

「ーーーえ…ど、どういう意味ー?」
美奈が困惑すると、
悪魔は”我はお前の身体から出て行くー”と、
そう呟いたー

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!?
 それじゃ、わたしはどうなるの!?
 他の人たちと同じように
 普通に歳を取っていくってことー!?

 そ、そんなの困るんだけど!」

美奈がそう叫ぶと、
悪魔は”言ったはずだ”と、言葉を続けたー

”我は気まぐれであるー、と”

悪魔の言葉に、美奈は最初に悪魔と出会った時のことを思い出すー。

「さぁ、選ぶが良いー。
 我は気まぐれー。
 我の気が変わらぬうちにー」

確かに、悪魔はそう言っていたー。

だが、しかしー…

ピキッー

美奈の後頭部に亀裂が入りー、
美奈の身体から、完全に力が抜けていくー

「あ…うぁ…」
美奈がうめき声を上げると、
パックリと割れた美奈から、”悪魔”が飛び出したー

ガーゴイルのような姿の悪魔が、
美奈の外に出ると、
美奈のほうを見つめて、
何か呪文を唱えるー

皮になっていた美奈は”元の状態”に戻り、
「ーーあ」と、すぐに悪魔のほうを見つめたー

”ーーお前の中で、色々な人間の世界を見るのは楽しかったー
 だが、もう飽きたのでなー。
 
 人間だって、玩具で遊んで飽きたら、遊ぶのをやめるだろう?
 それと、同じだー。

 我も、戯れに飽きたー。
 それだけのことー”

悪魔の言葉に、
美奈は「ーで、でも、それじゃ、わたしはこれから歳を取っていくってことでしょ!?」と
制服姿のまま叫ぶー。

「ーいや、歳をとることはないー」
悪魔はそう呟くと、美奈は突然「うっ…」と苦しみ出したー。

「ーーー覚えているか?」
悪魔は呟くー。

「ーな…何…を?」
美奈は、自分の手が急激に老人のようになっていくのを見ながら
声を上げるー。

いや、手だけではないー
髪も、顔も、足も、身体中が
急激に”老化”していくー

「最初に、お前を皮にするときに、
 我は剣でお前を刺したー」

悪魔が言うー。

確かに、それは覚えているー
美奈は苦しみながら”老化”した身体が、さらに老化していくのを見るー

いや、それはもはや老化とは言えないー。
老化を超えている異変ー。

明らかに、おかしいー。

「ーあの時、お前は死んだー。
 我が、死したお前を皮にして、その中に入ることで、
 お前は生きながらえていたにすぎないー。

 お前が老化しなかったのは、既に死んでいるからー。
 そして、お前の身体が腐らないよう、我が魔力で、
 お前の身体を維持していたにすぎないー」

悪魔が言うと、
美奈は「そ…そ…そんなー」と、震えながら呟くー。

手が朽ち果てていくー。
砂のようになって消えていく手ー。

「ーー人間で例えるとー
 そうだなー
 昆虫を標本にしているのと、同じような感じ…とでも言おうか?

 我はお前を標本のような状態に、
 我が魔力で適切に処理することで、
 いつまでも”美しい姿”でいることができていたー。

 それだけのことー

 適切な処理をやめれば、昆虫の標本も朽ち果てるー

 それと、同じだー」

悪魔が淡々と言うと、
「ー楽しかったぞ、人間ー
 感謝するー。
 だが、我はもう飽きたー。
 ここでまた、眠ることにしようー」
と、言葉を付け加えて頭を下げたー。

「ーーーー…だ…だました…の…?わたし……を」
美奈の足が砂となって消えていくー

顔がまるで屍のように変形していくー

「ー騙す?違うー。
 我は感謝しているー

 お前にー。

 欲深い人間と共に過ごすのは、楽しかったぞー

 だが、我もそろそろ飽きて来たー
 言ったであろう?我は気まぐれだと」

悪魔の言葉に、
美奈は「ーーに…20年以上も…!急に飽きただなんてー!」と、叫ぶー

しかしー
人間と、悪魔の感覚は違うー。

「ーー20年など、お前ら人間で言えばーそうだな…
 2か月ぐらいの感覚だー。

 2か月間、何かにハマって、飽きるー
 人間には、よくあることではないのか?」

そこまで言うと、悪魔は深々とお辞儀のようなポーズをして
美奈に感謝の気持ちを述べたー

「ーありがとう人間ー
 楽しい時間だったー。」

悪魔と人間の”感覚”は違うー
”考え方”は違うー

この悪魔は、美奈を騙す気もなければ、悪いことをしたとも思っていないー。
お互い、楽しい時間を過ごした、と
充実感を感じているー

だが、美奈はー

「ーーた…助けて… たす… ぁ… ぼっぁ…」

泡を噴くようにして、
”悪魔に裏切られた”
”騙された”
と、負の感情を抱きながら、その場に溶けるようにして
消えてしまったー

”永遠の美貌”は、
永遠ではなかったー

”永遠”とは、何かの気まぐれによって
いとも簡単に、変わってしまうものなのかもしれないー。

彼女の、ようにー。

おわり

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コメント

悪魔との契約は慎重に…!
ですネ!

お読み下さりありがとうございました~!

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皮<永遠の美貌>

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