<憑依>あなたの身体 気にいった①~幽霊~

ある日、下校中に彼女は出会ってしまったー

”幽霊”とー。

その幽霊は微笑むー
”あなたの身体、気にいった”
とー。

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高校2年生の松村 雪乃(まつむら ゆきの)は、
部活で帰宅が遅くなり、夜道を歩いていたー。

最終下校の時間まで学校に残っていると、
この季節だと、どうしても時間が遅くなってしまうー。

「ーーあ…、お母さん?これから学校出るから、
 このまま帰るね。
 うんー、うん、わかった じゃあ、あとでー」

雪乃は母親に連絡を入れると、
そのまま学校の正門を抜けて、外を歩き出すー。

雪乃は”ごく普通の感じの女子高生”なタイプの子で、
成績も程よい感じに、友達もそこそこな数、存在するー。

学校では、良い方向でも、悪い方向でも
飛びぬけて目立つタイプではなく、
先生たちの評判もほどほどに良いー。

そんな彼女の”今のところ”普通の人生は、
この日ー、”ある出会い”によって壊れてしまうー。

「ーーーーえ」
いつものように道を歩いていた雪乃が、
驚いて立ち止まるー。

そこにはー
”明らかに幽霊です”と言わんばかりの
白装束に髪の長い女が立っていたからだー。

「ーーーー……」
雪乃はしばらく目をぱちぱちさせると、
そのまま歩き出したー。

「(幽霊なんているわけないし)」
そう思いながら、あまり目を合わせないようにして、
そのまますれ違おうとする雪乃ー。

幽霊ではないにせよ、
”明らかに幽霊のような格好をして夜に徘徊している女”が
まともな女ではないことぐらいは、
雪乃にも分かるー。

そのため、目を合わせずにすれ違おうとしているのだー。

だがー
そんな雪乃に、その幽霊のような女は、声を掛けたー。

「ーーーー……あなたーー」

「ーーーえ」
すれ違おうとしていた雪乃は、少し距離を取った状態で
立ち止まり、幽霊のほうを見たー。

無視して逃げようかとも思ったが、
つい立ち止まってしまったー

「ーーわたし…ですか?どうかしたんですか?」
いつでも逃げられるぐらいの距離を取っておきながら、
雪乃が言うと、
幽霊のような女は、笑みを浮かべたー。

「ーーあなたーかわいいわねー」
とー。

「ーーそ、そうですか?あ、ありがとうございますー」
雪乃は、少し照れくさそうにそう言うと同時に、
”こっそりと”一歩、後ろに下がったー

いきなり夜道で、幽霊の格好をした女が
”あなた、かわいいわね”と声を掛けてくるー

明らかに、ヤバいごとぐらい、雪乃にも分かるー。

だが、普通の世間話だけで終わるなら
それでもいいー。
変に逃げたら刺激する可能性もあるし、
100パーセント不審者と決まったわけでもないー。

「(98パーセントぐらい不審者だと思うけどー)」
相手が”女”だったこともあるのだろうかー。
これが、ニヤニヤしたおじさんだったら、
とっくに雪乃は猛ダッシュで逃げていたかもしれないー。

「ーーそ…それで、何か御用ですか?」
雪乃が言葉を続けると、幽霊のような格好をした女は、
笑みを浮かべたー。

「ーわたし、死んじゃってねー
 身体がないのー
 だから、新しい身体が欲しいなって思ってー」
幽霊女の言葉に、雪乃は「ーそ…そ…そうなんですかぁ~」と、
苦笑いしながら答えるー

”本物の幽霊のはずがないー”
そうは思いつつも、さすがにヤバいと思ったのか、雪乃は
露骨に後ろに後ずさりを始めていたー。

「ーーあなたの身体…気にいったー」
幽霊の格好をしたその女がー
笑みを浮かべながらー
雪乃の方に、近付いてくるー

「ーーひっ!?」
雪乃は、”不審者決定”と、頭の中で思いながら
ダッシュで逃げ始めるー。

「ー(一応、わたし、クラスでも足が速いほうなんだからね!)」
心の中でよく、いろいろなことを考える癖のある雪乃は、
そう心の中で呟くと、全力疾走で人通りのない道を突破し、
そのまま大通りに出たー。

「ーーふぅ」
周囲を見渡す雪乃ー

「ーさすがにこういうところまで、ついては来れないでしょ」
白装束の長い髪ー
そんな姿で大通りまで追いかけてきたら
騒ぎになるー。

だから、ここまで追ってくることはできないはずー

不審者と遭遇した際には、”人がたくさんいる場所にとにかく逃げる”と
いうのが、雪乃の思う、安全対策だったー

だがー

「ーーえっ!?ちょっと!?」
幽霊の姿をした女も、平気で大通りに姿を見せたー。

「ー足も速いのねー…素敵…!」
幽霊の姿をした女が笑うー。

「ーー…ひぇっ!」
雪乃は再び走り出すー。

周囲の通行人たちが、慌てた様子で走っている雪乃を見つめるー

「ーーあ、あの…!た、助けて下さい!」
咄嗟に近くのコンビニに駆け込んだ雪乃ー。

「ーど、どうかされましたか?」
コンビニのバイトと思われる店員がそう応じると、
雪乃は外を指さしながら「ふ、不審者に追われてて!」と叫ぶー。

その直後ー
お構いなしにコンビニの店内に向かってきた幽霊の姿をした女はー

「ーーーーえ」
雪乃は表情を歪めたー。

自動ドアを”すり抜けて”コンビニの店内に
入り込んできたのだー。

「ーーえぇぇぇぇっ?!本当に幽霊?!」
雪乃が驚きの声を上げるー

「ゆ、幽霊ー?」
コンビニの店員の反応を見て、
雪乃は「み、見えないんですか!?そこ!」と、叫びながら指を指すもー、
幽霊の姿は見えないのか、コンビニの店員は首を傾げたー。

「ーーはぅっ!?」
幽霊に突進されて、雪乃がビクンと身体を震わせるとー
突然、雪乃は年齢に見合わないような妖艶な笑みを浮かべたー

「ふふっ…♡」
自分の唇を、指で確認するようになぞると、
「ーーー…あら、迷惑かけてごめんなさいね」
と、突然、雪乃が人が変わったかのように微笑んだー。

「ーーーえ……え???…あ、あのー」
コンビニの店員が戸惑っていると、
雪乃はカウンターに近付いてきて、
カウンターに少し身を乗り出しながら、
「あらー……」と、興味深そうに店員を見つめたー

「ー意外と、イケメンじゃないー」
女子高生とは思えないような大人の雰囲気を突然出し始めた
雪乃に、店員は顔を少し赤らめながら戸惑うー

「ーーふふふ…かわいい反応ね」
揶揄うようにして言うと、雪乃はそのまま
コンビニの外に立ち去って行ったー。

「ーな…なんだったんだー…?」
男性店員は戸惑いながらそう呟くと、
すぐに首を横に振って、
”考えるな” ”惑わされるな”と、
自分に言い聞かせるように、
言葉を何度か呟いたー。

「ーーーー…ふふ…ーーって、、ひぇっ!?」
笑みを浮かべながら歩いていた雪乃が突然、バランスを崩して
転びそうになるー。

女幽霊が、雪乃の身体からいきなり飛び出したのだー。

「ーーあら…?」
雪乃から飛び出した女幽霊が呟くー。

「ーーー…!!…」
急に意識を取り戻した雪乃は、驚いた表情で周囲を見渡すー

「ーわ、わたし…確かコンビニに逃げ込んでー…」
そう呟いた直後、顔を上げると、
その視界に女幽霊の姿が入ったー。

「ーーー!!!
 (そ…そういえばわたし、この人に突進されてー…
  記憶が飛んでるってことは、まさか、取り憑かれてたのー?)」

雪乃はすぐにそう考えていると、
女幽霊が「ふふふ…まだ、不完全だったみたいー」と、
雪乃のほうを振り返ったー。

「ーーもうちょっとしっかり、ひとつにならなくちゃ」
女幽霊の”憑依”は、まだ不完全だったのか、
雪乃として歩いている最中に、突然、雪乃の身体と分離
してしまったのだー

「完全に定着するまで、少し時間がかかるみたいー」
女幽霊はそう呟くと、笑みを浮かべるー。

そんな女幽霊のほうを見て、雪乃は慌てた様子で
「ちょ!ちょっと!タイム!少し待ってください!」と、
身振りも交えながら、
”とにかく一旦ストップ!”と叫んだー。

「ーーーーー何かしら」
言葉は通じるのだろうー。
女幽霊が、雪乃の言葉を聞いて立ち止まるー。

「ーーわ、わ、わたしに取り憑いて、何しようとしてるんですか!?」
雪乃が必死に叫ぶと、
女幽霊はクスッと微笑んだー

「なにって?
 女の子として、普通に学校に行ったり、普通に遊んだりー
 あと、男の人と遊んだりー」

女幽霊の言葉に、
雪乃は「だ、だからってわたしの身体を勝手に使わないでください!」
と、叫ぶー。

「ーーそうは言われてもねぇ…」
女幽霊は少し困ったような表情を浮かべると、
「ーわたし、自分の身体、もうないし」と、
自分のことを指さすー。

「ーそ、それは確かにそうですけどー…!
 で、でも、それって、幽霊さんは、もうちゃんと人生を
 1回終えたってことですよね!?」
雪乃の言葉に、女幽霊は「そうね」と、頷くー。

「ーわたしはまだ1回目なんですから、勝手に
 わたしの身体を取り上げないでください!」

雪乃はそれだけ言うと、
頭を下げて、幽霊を避けながら立ち去ろうとするー。

しかしー

「ーーでもねー
 あなたも死ねば分かるわー」

女幽霊はそう呟いたー。

「ーもう1回、身体が欲しいってー」
その言葉に、雪乃は「ーーだ…だ…だめです!何でわたしなんですか!」と
言いながらその場から逃げようとするー。

「何でって?
 あなたの身体が気に入ったからー」
女幽霊はそう言いながら、再び雪乃に憑依しようとするー。

たまらず逃げ出す雪乃ー
人通りの少ない道を逃げながら、雪乃は叫ぶー

「ーわたしより可愛い子いっぱいいますし、
 わたしより何でもできる子もいますし、
 わたしより両親が金持ちの子だっていますし、
 なんでわたしなんですか!?」

その言葉に、
女幽霊は微笑むー。

「あなたも十分可愛いし、
 誰が、何を気に入るかは、本人の自由でしょ?」

「ーーひぇっ」
雪乃は、”この幽霊はどうしてもわたしを狙う気みたい”と
判断して、そのまま何とか幽霊を振り切ろうとするー。

「ーーーつかまえたー」
路地から大通りに飛び出そうとしたタイミングで
女幽霊が雪乃の目の前に出現するー

「ひっ!?」
ズブッ、と、幽霊が雪乃の中に入り込もうとしてくるー。

悪寒と倦怠感とゾクッと、いう雰囲気と、
痛みはないけれど、何かが身体の中に差し込まれているような
ゾワゾワ感ー
言葉では言い表すことの難しいそんな感覚を覚えながら
雪乃は「あ…ぁ…ぅ」と、苦しそうに声を上げるー。

「ーー……わたしの…身体に…」

”ーー!”

「ー勝手に…入らないでください!」
雪乃は、支配に必死に抗いながらそう叫ぶと、
自分の身体に入り込もうとしていた女幽霊を振り払うようにして、
そのまま逃げ出すー

「ーーー!!」
振り払われて、路上に尻餅をつくような形になってしまった
女幽霊は唖然とするー

「ーーまさか、取り憑かれそうになったのを、
 振り払うなんてー…
 すごいじゃないー」

走り去っていく雪乃の後ろ姿を見つめながら、
女幽霊は微笑むー

「でもーー…
 簡単に手に入らないものこそ、
 どうしても手に入れたくなっちゃうのよねー…」

そう、呟くと、不気味な笑みを浮かべてから
女幽霊は静かにその場から姿を消したー。

「ーーはぁ…はぁ…」
女幽霊を振り切った雪乃は、荒い息をしながら
周囲を確認すると、
「よかったぁ…」と、ほっと溜息をついたー。

もう、女幽霊の姿はないー
諦めてくれたのだろうかー。

そう思いながら彼女は、髪を整えると、
そのまま自分の家の玄関の扉を開けて
「ただいま~」と、いつものように帰宅するのだったー。

②へ続く

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女幽霊に身体を執拗に狙われるお話…!
果たして逃げ切ることはできるのでしょうか~?

今日は暑いみたいなので(これを書いている午前中でも、既にちょっと暑いですネ~)
熱中症に気を付けて下さいネ~!

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