<憑依>あなたの身体 気にいった③~追跡の果て~(完)

女幽霊に身体を狙われてしまった雪乃ー

何度か一時的に身体を乗っ取られながらも、
雪乃は必死に幽霊から逃げようとするー

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー…」
雪乃は、自分が何度かあの幽霊に取り憑かれたことを
自覚し、不安を感じていたー

”だんだん、長くなってるー…”

雪乃は困惑の表情を浮かべるー。

最初はー
コンビニで少しの間ー

2度目はー
夜から朝にかけてー

3度目はー
学校の休み時間だったはずなのに、夜になるまでー

どんどん、自分が自分で失くなっている時間が
長くなっているー。

”このまま…わたし、完全に取り憑かれちゃうのかな…?”
雪乃は、強い不安を覚えるー。

親に相談することも、もちろん考えたー。

けれどー
雪乃も、もう高校生ー。

親に”わたし、幽霊に身体を狙われてるの!”などと言いながら
助けを求めれば、
どのような結果になるかぐらい、
実際にそんなことをしなくても簡単に想像ができるー。

「ーーーーダメ…相談できないー」
雪乃は困惑の表情を浮かべながら、
”どうして、わたしなの…?”と、表情を歪めるー。

”自分で言うのもだけど…”と思いながら
雪乃は自分のことを”確かに、ちょっとは可愛い部類に入るかもだけど”と、
考えるー

けれどー、雪乃より可愛い子は、探せばいくらでも見つかるはずだし、
雪乃よりスタイルの良い子も、成績の良い子も、家庭環境が恵まれた子も、
たくさんいるはずだー。

「ーーそれなのに、どうしてわたしー…」
雪乃がそう呟いているとー
突然、背後から声がしたー

「ーーあなたの身体が気にいったからよ」
女幽霊が笑みを浮かべて、雪乃の背後に立っていたー。

「ーー!!!!ひっ!?」
雪乃が、怯えた表情で女幽霊を見つめるー

「ふふー…そんなに怖がらなくたっていいじゃないー。
 もちろん、”何か所”か候補はあったけどー
 あなたが一番良かったからー」

「ーど、ど、どういうことですか…?」
雪乃は不安そうに呟くー。

「ーだ…だいたい…幽霊さんだって、ちゃんと自分の身体、
 生きている時はあったんですよね…?」
雪乃は、幽霊に向かって必死に言葉を投げかけたー。

誰かに相談して、信じてもらうことは難しいー
かと言って、この幽霊から逃れることも難しいー
仮に部屋の窓を何かで埋めて、一切侵入できないようにして、
相手が幽霊である以上、壁をすり抜けるだろうし、
逃げても、逃げても、追ってくる気がするー。

だからー
話し合いで解決するしかないー

雪乃はそう思って、必死に言葉を続けるー。

「ーもちろん」
女幽霊の言葉に、雪乃は
「だ、だったら!」と、叫ぶー。

「あなただって、生きているうちに、自分の身体が
 他人に奪われたらいやですよね!?」

震えながら叫ぶ雪乃に対して
女幽霊は「それはそうね」と、微笑むー。

「ーーーわたしはー
 わたしの身体は、わたしのものなんです!
 勝手に取り憑いて、好きなことに使ったりしないでください!」

雪乃が言い放つー

女幽霊が、どのような反応をしてくるか分からないー。
だからこそ、怖いー。

けれどー
女幽霊はクスッと笑ったー。

「ーーーーーー人のものを勝手に盗むのは、ダメですよね?
 あなたのしていることは、泥棒と同じですよ!」

怯えながらも、必死に言葉を言い放った雪乃ー。

そんな雪乃を見て、なのか、女幽霊は
「そうね。泥棒は良くないわ」と、笑みを浮かべたー。

「ーーだったら、約束してくださいー」
雪乃はさらに言葉を続けるー。

「もう、わたしの身体を勝手に奪ったりしないってー」

怖かったー
けれど、
一度言い出したら、止まらなかったー

ある意味、追い詰められたことによって
覚悟のようなものがー
できたのかもしれないー。

「ーーーーー…わかったー。約束するわ」
女幽霊の言葉に、雪乃は少しほっとした様子でー、

「でも、死んだあとってやっぱり寂しいですよね?」
と、心配そうに呟くー

女幽霊は「ーーまぁ、これはこれで楽しいわよ」と、微笑むー

雪乃はそんな幽霊を見て
「ーわたしに絶対に取り憑いたりしないなら、
 これからもこうやって話し相手になったりはできますからー」と、笑うー

「ー優しいのね」
女幽霊が笑うー。

「ーーー……や、優しいのかどうかは分かりませんしー
 あと、学校の授業中とか、人前とか、そう言う時は
 話しかけられても返事できませんけど」

雪乃は”幽霊さん、他の人には見えないみたいだから、独り言呟く
やばい女の子になっちゃいますし、わたし”と、付け加えたー。

「ーーふふ…ありがとう」
女幽霊はそう呟くと、スーッと姿を消したー

「ーーー!!」
周囲を見渡す雪乃ー

だが、気配のようなものもしなくなった気がするー

ホッ、とため息をつく雪乃ー。

「ーーあっ!」
すぐに雪乃は、何かを思い出したかのように
そう呟くと
「あの!急に背後から登場したり、急に脅かすように
 登場したりするのは無しですからね!!ホントにびっくりするんで!」と、
もう聞こえているか分からないけれど、
女幽霊に向かってそう言い放ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

朝になっても、意識が飛んだような感じはなくー、
睡眠もしっかりと取れた様子だったー。

それでいて、学校でもあの幽霊が
登場することもなく、穏やかな日常が戻ってきていたー。

「ーそういえば昨日、雪乃、様子がおかしかったけど、大丈夫?」
友達の一人が心配そうにそんなことを聞いてくるー

「ーーえ…!?あっ…?う、うんー大丈夫だよ!」
雪乃は少し慌てた様子で答えたー。

昨日ー…
意識が途中から飛んでいることを自覚している雪乃は、
その間に”自分”が何をしていたのかを知らないー。

だが、友達がそう言っているということは、
やっぱり、”それなりに変”な状況だったのだろうー。

「ーー…わ、わたし、昨日、どんな風に変だったの?」
雪乃が小声で呟くと、友達は
「や、やっぱり、雪乃、今日も変だよ?」と、苦笑いするー。

”自分が何をしていたか聞いてくるなんて普通じゃない”

そう、思ったのだー。

「ーーーごめんごめんー」
雪乃はそんな風に笑いながら、
周囲を見渡すー。

”もう、大丈夫ー”

あの幽霊がまた現れることがあっても
昨日の説得を分かってくれた、と
雪乃はそう信じていたー。

しかしー

放課後ー
今日も部活で遅くなり、最後まで部室に残って
戸締りをしていた雪乃は、振り返ったー

「ーーーあ」
雪乃が女幽霊に気づくー。

相変わらず、髪が長くー
白装束でー
いかにも幽霊な感じの女ー

「ーまぁ…本当に幽霊さんなんだし、
 その姿は仕方ないか…」

雪乃は一人、小声でそう呟くと、
「ー今は周りに誰もいないんで、いいですよ」と、
雑談しに来たのかと思いながら、
幽霊のほうを見つめるー。

「ーーー最後の1日、楽しめたかしら?」
女幽霊が突然、そう言葉を口走ったー

「え…?」
顔色を変える雪乃ー。

「ーあなたの身体ーやっぱり貰うことにするわ」
女幽霊の言葉に、雪乃は「え…」と、困惑しながら
後ずさるー

「ま、待ってください!昨日、わたしと約束しましたよね?」
雪乃は、慌てながらもそう呟くー。

「ーえぇ、したわ」
女幽霊が答えるー。

「ーーじ、じゃあ…どうして!?
 もしかして、約束を破るつもりですか?」
雪乃の言葉に、女幽霊は首を横に振るー

”破らないわ”
とー。

「ーだったら!そういうこと言ってわたしを怖がらせるの、やめて下さい!
 人のものを勝手に盗まないって約束、ちゃんと守ってください!」

雪乃がそう言い放つとー
女幽霊はー顔を隠している長い髪をかき分けてー
その顔を、雪乃の方に向けたー

「ーーー!?!?!?!?!?」
雪乃が困惑するー

その顔はーーー
まるで”自分”だったからだー。

「ーーー人のものは、盗まないわー。
 わたしが貰うのは”わたしの”ーーー
 過去のわたしの身体ー」

女幽霊の言葉に、雪乃は表情を歪めたー。

「ーーーわたし、高校生の頃のあなたー、いえ、わたしと
 中学生の頃のわたしと、大学生の頃のわたしとー
 色々なわたしを見て来たけどー、
 やっぱり一番良かったのは今のあなたー

 つまりー”高校生のときのわたしの身体”かなーって。
 だから、この時代に来たのー」

女幽霊ー…
”未来の雪乃”は、そう微笑んだー

「ーーみ…み、み、み…未来の…わたし?」

「ーそう、未来のあなた」
雪乃はそう言うと、笑みを浮かべたー。

「ーーーだから、あなたの家も知っていたし、
 あなたのスマホの暗証番号も思い出せるし、
 あなたに彼氏がいないことも覚えてるー」

女幽霊=未来の雪乃の言葉に、
雪乃は震えるー。

「ーーー…う…嘘です!わたし、そんな喋り方ー」
雪乃は、今の自分とだいぶ違う雰囲気の
女幽霊=未来の雪乃に対して言い放つー。

「ー大学でー初めての彼氏ができるー
 お父さんとお母さんに挨拶も済ませて、
 一緒に同居を始めるー

 でもねー」

未来の雪乃は言葉を口にし始めるー。

「ーーーその彼氏は、借金をしていて、
 やがてわたしは、その彼氏がお金を借りた先から、
 狙われるようになって、
 最後には捕まって、夜の街で働くことになっちゃうの」

未来の雪乃の言葉に、
雪乃は「そ…そんな…」と、呆然とした表情を浮かべるー。

「ーー嘘じゃないわよ」
未来の雪乃はそれだけ言うと、
「ーわたしだって高校生の頃はそんなこと、夢にも思ってなかったー
 まぁー、今のあなたと同じ状況だったわけだから、当然よね」
と、言葉を付け加えたー。

「ーわたしはそれでもあの人が好きだったー
 だから、自由になるために、夜の街で一生懸命
 働いて、働いて、働いて、働いたー

 10年以上働いたかなー?

 でも、最後に待ってたのはー
 ”死”だったー。

 お客さんから些細な事で逆怨みされて、刺されちゃったの」

未来の雪乃は、そこまで言うと、
「ーなんの救いもない人生だったわー」と、
自虐的に笑ったー。

「ーーーーそんな…」
雪乃は震えるー。
本当にこの女幽霊は”未来の自分”なのだろうかー。

まるで別人のような雰囲気は夜の街で
働き続けたことによるものなのだろうかー。

「ーーでも、死んだわたしは
 この世に対する強い未練があったんだと思うー

 だから、こうしてこの世界にまだ、残ってるー」

そこまで言うと、未来の雪乃は笑みを浮かべたー。

「ー他人の身体を奪っちゃいけないー
 そんなこと、分かってるー

 でもねー
 あなたは、わたしー。
 だから、誰も辛い思いをしないし、
 誰からもモノを奪わないー。

 色々な時代のわたしを見て来たけどー
 やっぱり、一番輝いてたときー

 あなたがーー気にいったー」

未来の雪乃はそう言うと、
雪乃の方に向かってきたー

「ーーちょ…ちょっと待って!?やめて!」
雪乃が叫ぶー

けれど、未来の雪乃の意思は強かったー

「今度は、幸せな女として生きるのー。
 だから、あなたの身体ーーちょうだいー」

未来の雪乃が身体に入り込んでくるー。

雪乃は、言葉に言い表しがたい、奇妙な感覚を
感じながら、悲鳴を上げたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーあ、雪乃!おかえり~!」
帰宅した雪乃に対して声を掛ける母親ー

「ーーふふ…ただいまー」
帰宅した雪乃は、不気味な笑みを浮かべたー

そのまま部屋に戻ると、
雪乃は自分の姿を鏡で見つめるー

「ーわたしが、わたしの身体をどうしようと、自由でしょ?」

未来の雪乃に乗っ取られた雪乃はそう呟くと、
クスッと笑みを浮かべたー

おわり

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コメント

身体を執拗に狙われる憑依モノでした~!

現代の雪乃が完全に乗っ取られてしまいましたが、
行動次第では、
この先の未来が変わって、憑依した未来の雪乃が
消えたりすることもあるかもしれませんネ~!

お読み下さりありがとうございました~!

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