<寄生>宇宙旅行に迫る影②~幸せ~(完)

楽しいはずだった宇宙旅行ー。

その様子は一変したー。
謎の寄生生物に宇宙ステーションが襲撃され、
逃げ場のない闘いが、続くー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー」
警備員たちがいる区画で銃声を聞いた洋平は、
恐る恐る奥へと向かうー。

警備員たちは、銃を所持しているのだが、
当然洋平は銃など所持していないー。

警備員が発砲するほどの出来事があったということはー
この先に進むことは、当然危険であることを意味するー。

「ーーーー!」
物陰から顔を出すと、警備員が「たすけて…!たすけて!」と
叫んでいたー。

そしてー
その警備員を追い詰めていたのは、
同じ旅行客の女性だったー。

”ーー”
洋平は”確か無重力スペースで姉妹らしき組み合わせで楽しんでいた
うちの一人だなー”と、頭の中で考えるー。

「ーーお前みたいな人間…いらなぁぁぁぁぁ~~~い」
笑いながら、その女性は警備員に向かって発砲したー。

階段から”その女性の姉”らしき人物が下りてくるー。

「ーーみ~んなやっつけちゃった」
妹のほうが言うと、姉が「ふふふ いい子ねー」と、言いながら
信じられないことに二人はそのまま抱き合ってキスをし始めたー

互いの口から寄生虫を出しながら、嬉しそうにキスをする二人ー

「ーーーく、、くそっ…なんなんだー…なんなんだあいつらー」
萌花と同じー、あの二人も”虫”に支配されているー

そう察した洋平は来た道を引き返すー。

”み~んなやっつけちゃった”
そんな言葉に、洋平は警備員たちは全滅したことを悟るー。

先ほどから館内放送も途切れているー。
宇宙ステーションの責任者である米倉や、その周囲の
スタッフも、既にー

「ーー洋平~~~~…」
背後から声がしたー。

「ーー!」
洋平が振り返ると、
そこには、身体中に寄生虫のようなものを這わせた状態の
萌花の姿があったー

「ー人間の身体って、いいねぇー…
 動きやすいし、”繁殖”しやすーー おぇっ…」

言葉の途中で口から寄生虫を吐き出しながら
萌花がニヤリと笑うー。

「も、、萌花…」
服の多数の個所が破れて、肌を晒している状態の萌花ー

寄生虫たちが、服も破ってしまったー
そんな感じに見えるー

洋平は咄嗟にすぐ隣の階段に駆け込み、
管理室を目指すー。

そこならー

「ーーーー!」
階段を上った直後、口を塞がれた洋平は
表情を歪めると同時に、死を覚悟するー。

だがー

「ーー静かに」
男の声が呟いたー

「ーー!」
洋平が咄嗟に声の主を見ると、
その男は、宇宙ステーション内のバーのマスターだったー

「ーーー…あ、あなたはー」
洋平が言うと、「無事でよかったー」と
バーのマスターは呟いたー。

「ーーど、ど、どうなってるんですかー」
小声で洋平が言うと、マスターは、バーになっている区画のシャッターを封鎖して
”籠城”の状態を作り出すー。

その中には、男性客と女性客が数名ずつ、
避難していたー。

「ーーー分からないー
 未知の生物が外部から侵入したようだー」
マスターがそう言うと、
ショットガンのようなものを手に、
シャッターの外の様子を伺うー。

「み、未知の生物ー…ですか?」
洋平が言うと、マスターは頷くー

「詳細は不明だー…
 だが、あんな生き物は地球では見たことがないし、
 おそらくは地球外のー」

宇宙は広いー。
人間の知っていることなど、全体の0.1%にも
満たないだろうー。

人間以外の生命体が、どこに存在していても
決しておかしくなどないのだー。

宇宙は人間の所有物ではないー。
人間のルールも、倫理も、何もかも、
宇宙では通用しないー。

人間にとっての”No”が他の生命体にとっても”No”とは
限らないのだからー。

「ーーー…俺の彼女がやつらに乗っ取られました…」
洋平が言うと
マスターは「責任者の米倉さんも、他のクルーもほぼ全滅状態だー」と、
表情を歪めたー。

「そ、そんなー」
洋平は唖然とするー。

「ーーーぼ、僕たちはいったいどうなるんですか!」
バーがある区画に無事に避難できた避難者のうちの一人が叫ぶー

「ーーー月曜日の地球からの便を待つしかー」
マスターが呟くー

「この区画は完全に封鎖したー。
 やつらが入り込むことはできないー。
 月曜日になれば地球から定期便が到着するー。
 それに乗って脱出するしかないー」

マスターの言葉に、
洋平は「で、でも、それじゃ、奴らに乗っ取られた人たちはー!」
と、叫ぶー。

「ーーー残念だがー…現状では救出する方法は分からないー」
マスターの言葉は的確だったー。
確かに、現状、寄生されてしまった人間を救う方法は不明だー。

いや、それどころか”助かる”のかも分からないー。

寄生虫に苦しめられていた萌花の姿を思い出す洋平ー。
洋平は拳を握りしめるー。

”宇宙空間”ー
バーがある区画の窓から見える宇宙の景色を見つめながら
バーのマスターは険しい表情で呟くー

「ーーー物資も限られている上に、逃げ場もないー。
 状況は、厳しいー」

その言葉に洋平も、他の避難者たちも唾をゴクリと飲み込むー。

人間は、宇宙の前では無力だー。
この宇宙ステーションの中で生活することはできても、
少しでも外に出れば
”死”あるのみー。

宇宙旅行の憧れの地が、地獄に変わったー。

「ー地球への連絡はー…取れているんですか?」
洋平が聞くと、バーのマスターは
「通信系統が遮断されていて、米倉さんが地球に異常発生を
 知らせようとしたときには、
 この宇宙ステーションの通信は使えない状態だったー」
と、呟くー。

万が一に備えて、
通信設備も”4重”に準備していたー。
しかし、予備の3つも含めて、責任者の米倉が地球に緊急通信を
入れようとしたときには、既に”破壊”されていたのだー。

「ーーーそんな…」

今は土曜日の未明に当たる時間だー。
この宇宙ステーションに地球からの定期便がやってくるのはー
”月曜日”

土曜日・日曜日・そして月曜日の迎えが来るまでー。

それまで、持ちこたえることができるのかー。

洋平が険しい表情で考えているその時だったー

「ーー…ゆっくんを助けなくちゃ…!」
避難していた人物の一人が、突然そう叫んで、
シャッターを開閉するスイッチを押そうとしてしまうー

「おい!」
他の避難者が叫ぶー

「ーゆっくん、ゆっくんがわたしを守って、まだ外にいるの!
 ゆっくん!」

泣きながらパニックを起こした女がシャッターを開けようとするー
マスターが咄嗟にその女を止めようとするー

「やめろ!今、開けたらここにいる全員があいつらの餌食になるだけだ!
 なんとか月曜日までー」

「ーうるさい!離してよ!ゆっくんを助けるの!」

”パニック”ー
緊急事態における敵ー。

洋平はどうするべきか迷いながら様子を見守っているとー
”彼氏を外に探しに行こうとしている女”が、
マスターからショットガンを奪い取って「邪魔しないで!」と
叫びながら発砲したー。

バーのマスターの身体が吹き飛び、カウンターに叩きつけられるー。

悲鳴が上がるー。

「ーゆっくん!今、今行くからね!」
叫びながらシャッターを開ける女ー。

だがー
外には”寄生”された姉妹や、萌花が待ち構えていてー
その女は萌花にキスをされー
あっという間に支配されてしまったー

「ーく、くそっ!」
悲鳴が上がる中、洋平は咄嗟の判断で、
天井にあるダクトのようなものを見つけたー

近くの棚を台にして咄嗟にそこに逃げ込む洋平ー

悲鳴が下から響き渡るー。

ダクトの中に入った洋平は、
耳を塞ぎながら震えていたー。

もはやー
萌花を助けるどころの状況ではなくなってしまったー。

まだ、宇宙ステーション内に無事な人々もいるのだろうー。
しかし、時間が経てば経つほど、悲鳴や怒声は聞こえなくなりー、
やがて、”不気味な笑い声”や”喘ぐような声”だけが
聞こえるようになっていたー。

”くそっ!もう誰も、残っていないのかよ…”
洋平はそう思いながら、身をダクトのような場所の中に
潜め続けたー。

トイレに行きたいー
お腹も空いたー

色々な欲求が身体の底から湧き出てくるー。

けれどー…
今はどうすることもできないー。

”月曜日になれば、地球からの定期便が来るー
 それまで耐えるしかー”

早く、萌花を助けたいー。
だが、宇宙ステーションの他の人間が
全滅ー…あるいは、残っていたとしても残りわずかな状態で、
寄生虫の大群と、乗っ取られた人々を前に
何かできるのかー?と、言われれば、何もできないだろうー。

このままダクトから飛び出しても、洋平が新たな犠牲者に
加わるだけで、みんなを助けることなどできないー

「ー俺は…ヒーローなんかじゃないからなー」
ダクトの中にいると、ここが宇宙であることも忘れてしまうー。

洋平は、恥を忍んで、この場で漏らすしかないかー…などと
考えていると、声がしたー

「洋平、たすけてー…
 洋平ーーー」

ダクトの下から萌花の声が聞こえたー。

「ーー!?!?!?!?」
洋平は身を潜めながら
ダクトの中を移動して、その声がする部屋の真上にやってきたー

「洋平…あ…ぁ… ぁ… ぁひぃ… ぁ…」
萌花が座り込んだまま身体を震わせて、
口から泡のようなものを垂らしているー。

「あ…ぁ… たすけて… たすけて…」

そんな萌花の言葉に、洋平がダクトから飛び降りるまでにー
30秒もかからなかったー

「萌花!」
地球が見えるガラス張りの展望室に座り込んだ萌花の前に
姿を現した洋平ー。

周囲に寄生虫や、他の乗っ取られた人々はいないー。

それを確認して、萌花を助けようとする洋平ー

「萌花!大丈夫か!萌花ー!」

だがー
萌花はニヤリと邪悪な笑みを浮かべたー。

「ーーーえ」

「ーこうすれば、来てくれると思ったよ♡
 バカな、人間ー」

萌花を乗っ取った寄生虫は、萌花の記憶を元に、
”助けを求める萌花のフリ”をして
”まだ見つかっていない洋平”をおびき出したのだー

「ーー!?!?!?!?」
萌花に抱き着かれてキスをされる洋平ー

身体の中に、何かが入り込んでくるのを感じるー

「ーーぐ…!」
洋平が、苦しんでいるとー
突然、意識が飛んでー

そしてーーー

「ーーー洋平…洋平…どうしたの?」

洋平は、目を覚ましたー

「ーーえ…俺…?」
洋平が寝ぼけた様子で周囲を見渡すー。

「ーーーも~!何寝ぼけてるの!今日は良太(りょうた)の誕生日でしょ!」
萌花が言うー。

「ーーーえ……あれ…」
洋平が戸惑っていると、萌花は
「ーあ~寝ぼけてる!」と笑うー。

「ーーー…え…え~っと」
洋平が戸惑っていると、
「今日は良太の誕生日で、これから買い物に行く予定だったでしょ!」
と、説明するー。

「良太ーー?」
洋平が聞き返すと、萌花は「寝ぼけすぎ!」と、笑いながら、
良太は、洋平と萌花の息子であること、
洋平と萌花は今、結婚して一緒に暮らしていることなどを
萌花は優しく説明してくれたー。

「ーーあ、、そ、、そっかーそうだったな」
洋平が笑うと、萌花はにっこりと微笑むー。

「ーーわたしたち、幸せでしょ?」
萌花の言葉に、洋平は「あぁ、もちろんだよー」と、微笑むー

「永遠に、”夢のような”幸せな時間をー
 過ごしていこうねー」

その言葉に、洋平は静かに頷いたー。

寄生された人間はー
”幸せな幻”を見続けるー。
自分が、寄生されてしまったことも、思い出せずー、永遠にー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

月曜日ー

地球からの定期便が到着したー。

責任者の米倉が、笑みを浮かべながら出迎えるー。

「ー地球からの物資ですー。
 それと、旅行客の皆さんは、2時間後に地球に出発しますので、
 帰る準備をーー」

地球から来た職員がそう言うと、
米倉が静かに笑みを浮かべたー。

「ーーーあなたたちも、仲間に入れてあげますよー」
と、口から寄生虫を吐き出しながらーー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

寄生モノのお話でした~!
宇宙で何か起きてしまうと逃げ場がないので
恐ろしいですネ~★

お読みくださりありがとうございました!

コメント