<入れ替わり>想いと現実の狭間で④~陰謀~

どんな「想い」を抱いていてもー
「思い描いた通り」には、現実は動かないー。

陰謀渦巻く中、それでも裕司は梨桜のために、教授に立ち向かう…!

※TS解体新書様の第2回入替モノ祭り向けに投稿した
 新作小説デス!
 内容は入替モノ祭りの時と同じデス!
(解体新書様内の「無名さんの秘密のページ」にも掲載されています~!)

※本日10/26の通常の更新はお昼ごろデス~!

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夜の大学構内ー。

うつぶせの状態で奇声を上げながら
廊下を這いずっている不良生徒・
荒瀬 大吾ー。

その大吾を追いかけていた誠一は
唖然としていたー

眼鏡の位置を調整しながら、
大吾に声を掛けるー。

大吾の側には、虫かごのようなものと、
踏みつぶされたと思われるカメムシのようなものが
転がっているー

それを確認しながら、誠一が
「おい!!!何があった!」
と、叫ぶー。

だがー
大吾は
「うあ…」とうめき声を出すだけで
口から涎を垂れ流しながらー
廃人のようになってしまっているー

「--くそっ!」
大吾から手を放す誠一。

そこに、廊下の奥に走って行った裕司が戻って来るー

「--誰か慌てて走り去っていったけど、見失った」
裕司が言うと、
誠一は裕司の方を鋭い目つきで見つめながら呟いたー

「-お前はすぐ、この場を離れろ」

とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

☆登場人物☆

檜山 裕司(ひやま ゆうじ)
大学生。彼女想いの好青年。優しい性格。

雪本 梨桜(ゆきもと りお)
大学生。裕司の彼女。室井教授と入れ替わってしまう。

瀬島 康介(せじま こうすけ)
大学生。裕司の親友で、いざという時、頼りになる存在。

笠倉 麻奈美(かさくら まなみ)
大学生。裕司の幼馴染で良き理解者。

荒瀬 大吾(あらせ だいご)
大学生。不良生徒。いつもスナック菓子を持ち歩いている。

蘭堂 美穂(らんどう みほ)
大学生。裕司らの後輩。

井守 誠一(いもり せいいち)
大学生。眼鏡をかけたインテリ風男子。

室井教授(むろいきょうじゅ)
大学教授。梨桜の身体を奪ってしまう。

大久保学長(おおくぼがくちょう)
大学の学長

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「どういうことだよ…?」
裕司が言うと、
倒れている大吾を見つめながら誠一は呟いたー。

「--ここは僕に任せろ。
 ここに残ってたら、お前も色々聞かれるだろうし、
 最悪、停学が退学だ」

誠一は眼鏡の位置を落ち着かない様子で調整しているー

大吾の顔面は、誠一に殴られたことで
ボロボロだー。

そして、この状況ー

”大吾を廃人のようにした”と
疑われてしまっても仕方がないー。

「--…俺のこと、庇うってことか…?
 井守…お前、どうしてそこまで」
裕司は戸惑うー

井守 誠一とは、大学で出会った間柄で
親友の康介を通じて知り合い、そこそこ親しいものの、
ここまでしてくれるほどの間柄ではないー。

それなのに、まるで自分のことのように、大吾を追い詰め、
今、大吾が廃人のようになってしまった件も
自分ひとりが被ろうとしているー。

「-----」
誠一は、少しだけ考えたあとに呟いたー

「--僕が高校生のときー
 僕の妹が、当時の担任から性的な暴行を受けてたんだ

 僕はそれに気づいてあげられなかったー。
 
 いやーー
 気づいていたけど、大学受験を理由に
 目を逸らしていたー」

静まり返った夜の大学の廊下ー

誠一はさらに続けたー

「”また”助けられなかったー
 そんな風に思いたくないんだー」
誠一の悲しそうな目ー

妹を苦しめていた教師ー

友人である裕司の彼女・梨桜を苦しめている教授ー。

苦しんでいる梨桜がー
どこか妹に重なって見えたー

「--また…?」

誠一は、悲しそうな目をするだけで
答えなかったー

”救えなかった”妹ー

だからこそー
今度はー
身近な人間の大切な人が、
苦しんでいるのを見て、見ぬふりはできなかったー。

大吾を徹底的に痛めつけたのも、そのためー。

「---いいから行け。
 こいつのことは僕がなんとかするー
 責任も僕が持つー」

誠一が、鋭い目で裕司を見つめるー

「--ーー井守…すまない」
裕司はそれだけ呟くと、その場を足早に立ち去ったー

一人残された誠一は、
潰れた虫と、這いずりながらうわごとを呟く大吾を見て
表情を歪めたー。

「----何の騒ぎですか?」
背後から声がするー

誠一が振り返ると、
そこには大学の学長・大久保の姿があったー。

年老いているもののー
時折鋭い眼光を見せる大久保学長は、
倒れている大吾を見つめると、
誠一の方を見たー

「--何があったのか、説明してもらいましょうかー」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

裕司はアパートに帰宅したー。

室井教授(梨桜)が「おかえり…」と
不安そうに出迎えるー

「--ただいま」
裕司は、室井教授(梨桜)に
「ごめん」と、口にするー。

「--梨桜の身体…今日は取り戻せなかったー」
裕司は、そこまで言うと、大吾から聞いた話を
室井教授(梨桜)にも聞かせたー

イスに隣り合わせで座りながら話す二人ー

話の最中に
室井教授(梨桜)が不安そうに裕司に身体をくっつけるー。

「---」
裕司は、そんな室井教授(梨桜)の方を見つめながら
梨桜(室井教授)に言われた言葉を思い出すー。

”-君の彼女を思う”想い”は見事だー
 でもーー
 ”現実”は違うー

 醜悪な容姿のおっさんになった彼女を
 君は本当に、今までのように愛することが出来るのかね?”

俺はーーー

俺はーーーー
どんな風になっても、梨桜をー!

「----無理しなくていいよ」
室井教授(梨桜)が優しく呟いたー。

「--え?」
裕司が室井教授(梨桜)の方を見つめるー。

「---姿…こんなだし…
 無理しないで」
室井教授(梨桜)はそれだけ言うと、
「--裕司の気持ちは、ちゃんと伝わってるからー…
 迷惑かけて、ごめんね」

と、付け加えたー。

室井教授の姿は、どうしても生理的に受け付けないー
中身が、梨桜だと分かっていてもー

”おっさんだからー”
ではない。

勿論、そういう違和感もあるにはあるが、
最大の理由はー

”これまで奇行で散々迷惑をかけてきた室井教授”の
姿だからー、だ。

”嫌い”という負の印象があまりにも
滲みついてしまっているー。

「---……夜ごはん、買ってくる」
裕司は、室井教授(梨桜)に向かってそう言うと、
コンビニに向かうー

途中で、雨が降って来たー

”-君の彼女を思う”想い”は見事だー
 でもーー
 ”現実”は違うー

 醜悪な容姿のおっさんになった彼女を
 君は本当に、今までのように愛することが出来るのかね?”

梨桜(室井教授)の言葉が何度も何度も
頭の中で繰り返し再生されるー

「---くそっ…くそっ…!!俺はーー…」
雨に打たれながら、涙を流す裕司ー

大切な梨桜がー
悲しんでいるのにー
俺はーー

”--裕司の気持ちは、ちゃんと伝わってるからー…
 迷惑かけて、ごめんね”

「-----梨桜…ごめん…」

裕司は、自分の中の”理想”とー
今の”現実”の狭間で苦しんでいたー

雨がさらに強まるー
裕司は一人、その中で涙を流したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌朝ー

”売人”

”?”

”連絡役”

”監視役”

”室井教授”

裕司は、そう書いた紙を手に、
大学内の図書館にやってきていたー。

親友の康介ー
幼馴染の麻奈美の二人が、それを見つめるー

「---昨日、荒瀬から聞いた話を整理するとこんな感じか」
裕司は呟くー。

梨桜を必ず助けるー
その想いは、変わらないー。

大吾は病院に搬送されたものの、
うわごとを呟くだけで、廃人状態ー

「---クソメガネは…停学になったって今朝連絡があったよ」
康介が言うー。

”クソメガネ”とは、康介の親友・誠一のことだ。
昨日、大吾の件を全て被り、裕司を逃がしたあと、
大久保学長から停学を言い渡されたのだというー

「井守…」
裕司はそれだけ呟くと、

紙を見つめるー

「--荒瀬は”連絡役”と言ってたー
 室井教授と、”誰か”の伝言役みたいな感じだと思うー。

 入れ替わり薬は”売人”から購入したって言ってたんだけど、
 荒瀬を使って、室井教授とやり取りしていたやつが
 ”売人”と同一人物なのかは分からない」

裕司が紙に書いた
”売人”と”?”の部分を指さすー。

「--あとは…荒瀬が”あいつは監視役”と言ってたからー
 最低でも、室井教授と荒瀬以外にー
 ”二人”は絡んでいると思ってもいいー」

「------」
麻奈美が暗い表情を浮かべるー

康介も、不安そうな表情ー

「-ーーーー」
裕司が二人を見つめるー。

二人の不安な表情はー
どのような意味があるのだろうかー。

”心配”
それともー?

”自分が疑われているのではないか?という不安ー?”

荒瀬は言ったー

”俺が連絡役で、あいつが監視役”だとー。

”監視役”となれば
裕司や梨桜に近い人間である可能性が高いー

確かに、荒瀬大吾は、裕司や梨桜とはあまり接点がなかったー。
と、なるとーー

裕司は、二人の方を見て笑ったー

「--みんなに迷惑かけてごめんー。
 でも、俺は梨桜を助けたい…

 だから…もし、何か分かったらでいいんだ…
 何か分かったらー
 教えてほしいー」

裕司は、穏やかな笑顔を浮かべていたー

”ふたりのことは、信じている”

そういう顔だったー。

康介は、高校時代からの親友ー
時折デリカシーはないが、
気のいい人間で、友達を騙すようなタイプではないー。
根は熱い男だー。

麻奈美は、幼馴染ー。
麻奈美のことは小さいころから知っているー
裕司とは何だかんだで、まるで兄と妹ー、あるいは姉と弟の
ような関係だし、裏切るようなことは絶対にないー

裕司は、ふたりを心から信じていたー

疑おうなど、微塵も思わないー。

”売人”

”大吾と監視役を操る人物”

”監視役”

この3人ー
あるいは、”売人”と”大吾と監視役を操る人物”が
同一人物なら二人ー。

それに加えて梨桜になった室井教授ー。

それらを追い詰めなければ、梨桜を助けることはできないー。

大学内の図書館から出る三人ー

康介が立ち去っていくのを確認すると
麻奈美が近づいてきたー

「--”売人”に心当たりがある?」
裕司が、驚いて麻奈美の方を見ると、
麻奈美は頷いたー。

「--うん。前から噂になってるんだけどね、
 大学内で違法な薬物とか、怪しい薬を
 密かに売ってる子がいるって」

麻奈美は”入れ替わり薬”と関係あるかは分からないけど、
”売人”って言ってたなら、その子が、
入れ替わり薬を誰かに売ったのかもしれないー、
と、つけ加えたー。

「--それは、誰…?」
裕司が言うと、
麻奈美は口を開いたー

「--3年の、マリア恵(めぐみ)-」

ハーフの美女でミスコン優勝者でもある
マリア・恵ー。

裕司たちからすれば”先輩”であり、
ほとんど接点はない人物だったー

「マリア恵ー?
 あのミスコンの?」

裕司が言うと、
麻奈美は頷いたー

「--あくまでも噂なんだけど、
 わたしの友達の後輩も、そのマリア恵から
 怪しい睡眠薬を買ったことがあるんだって」

ヒソヒソ話をする麻奈美ー

裕司は「…わかった、ありがとう」と、頷くと、
「--昔から、笠倉さんには支えられてばっかりな気がするな」と
苦笑いしたー

麻奈美も、懐かしそうに笑うと
「--無理は、しちゃだめよ?」と、心配そうに裕司に
向かって呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---」
大久保学長が、何やら書類に目を通しているー。

かなりの高齢だが、
その眼光は、鋭いー。

部屋がノックされるー

大久保学長が机に書類をしまうと「どうぞ」と声を出したー。

「失礼します」
梨桜(室井教授)が不敵な笑みを浮かべながら
大久保学長の部屋に入って来るー。

「--お時間頂いて申し訳ありません」
梨桜(室井教授)は、今日も室井教授が好きな
動物の牙のペンダントをぶら下げているー。

「---構いませんよ」
大久保学長が、いつも通り敬語で応じるー。

大久保学長は”誰”に対しても敬語なのだー。

「---それで、話とは?」
大久保学長が、梨桜(室井教授)の方を見つめるー

「--大久保学長は、以前、生物物理の分野で、
 表彰されたことがあるとお聞きしました」

梨桜(室井教授)の言葉に、
大久保学長は「ふむ…昔の話ですね」と笑うー。

大久保学長も、室井教授と同じ分野出身の元研究者ー。

多大な功績ー
とまではいかないが、そこそこの功績のある研究者だー

「--大久保学長に、わたしを紹介してほしいんです
 研究者の皆様に」

梨桜(室井教授)が微笑むー

「---」
大久保学長が梨桜(室井教授)を見つめると
「きみが、研究者の道に興味を持っているなんて、意外ですね」
と、呟くー。

「--わたしは研究者として名をあげたいんです!」
梨桜(室井教授)が興奮した様子で叫ぶー。

”かつて、手にできなかった研究者としての栄光を、今度こそー
 この、芸術品のような肉体と共にー”

梨桜(室井教授)の言葉に、大久保学長は首を振ったー

「すまないね」
とー。

「--な、、何故ですか!?」
梨桜(室井教授)が叫ぶー

「--……チッ」
梨桜(室井教授)は舌打ちしたー

大久保学長がすぐに応じないことは、予想もしていたー

だがー
今の室井教授には”梨桜の身体”という武器があるー

「--大久保学長…お望みなら、わたしの身体を好きにしても構いませんよ…?」
甘い声で囁く梨桜(室井教授)-

”わたしはもう一度、研究者の道に、返り咲くのだー”

「ーーー」
冷たい目で梨桜(室井教授)を見つめる大久保学長ー

「-君からは歪んだ欲望を感じますー。
 純粋な探求心以外のー
 歪んだー自尊心をー」

大久保学長の鋭い目ー

「--っっ」
梨桜(室井教授)は無意識のうちに服をかじり始めていたー。

「---雪本梨桜さんー
 君を、研究者仲間に紹介することはできません
 お引き取りをー」

大久保学長の言葉に、
梨桜(室井教授)は頭を下げて学長の部屋から出るー。

「--ううううううううううっ」
梨桜(室井教授)が悔しそうな表情で服をガリガリとかじり始めるー。

そんな梨桜(室井教授)の前に、
女が姿を現したー

「--!」

「--ーーーーー室井教授」
その女は、笑みを浮かべたー

梨桜の姿をしているのに、室井教授とーーー

梨桜(室井教授)が驚いていると女は続けたー

「--”連絡役”が役立たずだったので”処分”しましたー」
微笑む女ー

「--ま、、まさか君が、荒瀬を使って…」
梨桜(室井教授)が戸惑っていると
女は口元を歪めたー。

室井教授は、荒瀬大吾を通じて入れ替わり薬を受け取り、
やり取りも全て荒瀬大吾を通じて行っていたー

そのためー
”女”のことは知らなかったー

「---お話があります」
女の低い声ー

梨桜(室井教授)はゴクリと唾を飲み込んだー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

♪~~

昼食を済ませた裕司がスマホを確認すると、
2件のメッセージが届いていたー

1件目は、裕司を手伝ってくれた、眼鏡がトレードマークの誠一。

”僕は大丈夫だ。停学はちょっと痛いけど、まぁ、なんとかなるさー。
 お前も気をつけろよ”

そう書かれていたー。

裕司は、感謝の言葉を返信するー。

そして、2件目は
幼馴染の麻奈美ー。

”怪しい薬を売ってる”売人”と、
 今日の授業が終わったら、接触できるようにしておいたからー”

麻奈美の突然の連絡に、裕司は戸惑い返事を送るー

今年のミスコンに輝いた”マリア・恵”が、
怪しげな薬を同級生らに密かに販売しているのだというー。
ハーフでもあり、数年前までは母国にいたという恵は、
母国から、怪しげな薬を取り寄せ、販売しているー…
という噂があるようだー。

麻奈美に確認すると、
麻奈美の後輩の友人が、マリア恵から、強力な抗不安薬を
買ったことがあるとのことで、麻奈美が後輩の友人を通じて、
今日の大学の授業が終わった後に、マリア恵と
接触する約束を取り付けたのだというー

”--ありがとうー
 でも、動きが早過ぎてびっくりだよ”

裕司がそう送ると、
麻奈美は”裕司くんのためだから、ネ!”と、
返事を送って来たー

「------」
裕司は、みんなを信じると決めているー。
麻奈美のことも、もちろんそうだー。

”売人”
”大吾に指示をしていた人物”
”監視役”

誰一人ー
自分の身の周りにはいないー

そう、信じたいー。

裕司は、スマホを手に、”その前に”と、
昼のうちに済ませておきたい用事を済ませるために
歩き出したー。

しばらくして、裕司は目的の場所にたどり着くー

「--あれ?先輩!
 ぶどうジュースだと思って口にしたウーロン茶だった!みたいな
 顔して、どうしたんですか?」

後輩の蘭堂 美穂ー。

彼女は、梨桜と同じサークルに所属していて、
梨桜とも親しいー
梨桜を通じて、裕司と知り合ったぐらいだー。

梨桜が室井教授と入れ替わったあとも、
何も知らず、梨桜と一緒にいることもありーー

”危険”なのだー

裕司は、迷った末に、美穂に本当のことを話すことにしたのだー。

「-----……」
美穂が口をぽかんと開いているー

「はは…世界が終わる1秒前みたいな顔だな」
裕司が、いつもの美穂の口癖を真似て、笑うー

「--そ、、そ、、そ、その言い回しはわたしの特許ですよ!」
美穂が自分の特徴を真似されたことに顔を赤らめながら言うと、
「---嘘みたいですけど…」と続けたあとに、
裕司の顔を見つめながら頷いたー

「先輩が言うなら、本当なんですよね…きっと」

その言葉に、裕司は「ーーこのことは内緒に」と呟くー。

梨桜(室井教授)が何をし始めるか、分からないからだー。

でもー
後輩の美穂の身に何かあれば、梨桜も悲しむし、
伝えておかなくてはならないー
そう思って、裕司は美穂に入れ替わりのことを伝えたー。

「--分かりました。わざわざありがとうございますー」
美穂が微笑むー。

「--何かあったら、すぐ俺に連絡して」
裕司はそれだけ言うと、足早に、次の目的地へと向かったー

”大久保学長”に
誠一の停学の件をーー
少し、処分を軽くしてもらえないか、
頼みに行くつもりだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大学での1日が終わるー

裕司は、麻奈美から指定された場所に向かうー。

そこに”売人”が現れるはずだー。

親友の康介は、いつも通り、入院中の母親のために既に帰宅ー
麻奈美も用事があるとのことで、
裕司は一人、”売人”との合流地点に向かうー

「-----」

背後から足音がするー。

既に、大学の周囲は薄暗くなっていたー。

「----…」
無言でやってきたのはー
ミスコン優勝者の”マリア・恵”だったー。

「----お望みのものは何かしら?」
マリア恵が、微笑むー。

「---ーーー余裕ですね」
先輩相手のため、裕司が敬語で恵に話しかけるー。

「--余裕?」
恵が表情を歪めたー

「--怪しげな薬の売買をしているのにー
 そんな風に顔を晒すなんて」
裕司が言うと、
恵はほほ笑んだー

「--それは、あなたも同じでしょう?」
とー。

自信に満ち溢れている恵ー。

恵は言うー。

「--わたしはお互いに顔を晒して”取引”
 することにしているのー

 確かに、リスクはあるー
 けど、それは買う側にとっても同じことー。

 わたしは相手に
 ”法律上認められていない方法で輸入した薬”で
 あることを伝えてから、売るー。

 そして、相手は、それを買うー。

 どういうことか、お分かり?」

マリア・恵にはー
美貌と同時に
狂気がにじみ出ていたー

「--わたしを売れば、あなたも破滅するー。
 ”売る側”と”買う側”は
 一蓮托生ー。
 
 それにーー
 わたしが顔を晒すことで、
 あなたのような相手を
 威圧する意味合いもあるのよ」

マリア恵の言葉ー

違法な販売をしながら
”顔”を晒しているー

その自信に満ち溢れた振る舞いと威圧感がー
相手を委縮させるー

それが、マリア恵の計算ー

裕司が苦笑いすると、
マリア恵は続けたー

「--お望みの品を言ってごらんなさい…
 ”紹介”ということは
 わたしが何を売っているかは、ご存じなのでしょう?」

恵の言葉に、
裕司は、意を決して呟いたー

「--”入れ替わり薬”」

とー。

「--!」
マリア・恵の表情が明らかに歪んだー。

「--……何のことかしら?
 そのようなものはなくってよ?」

恵が一瞬で冷静さを取り戻して微笑むー。

「---噂で聞いたんですー
 誰かが、入れ替わり薬を購入したってー…

 だから、俺もそれが欲しいと思いまして」

裕司はあくまでも”客”を装うー。

「--」
クスッと笑う恵ー

「--残念ね…
 それは、わたしではなくってよ」

恵はそれだけ言うと、時計を見つめて、
「--わたしを売れば、あなたも破滅するー。
 分かってるわね?」と、だけ呟くと、
そのまま足早に立ち去って行ったー

「----」
裕司は、確信したー

”売人”は、マリア恵であるとー

そしてー
”入れ替わり薬”を誰かに売ったことも
ほぼ間違いないー。

計算高そうに見えて、マリア恵は、案外脆そうだー。

次は、マリア恵を泳がせるべきだろうー。

”売人”はマリア・恵ー

だがー
残りの
”監視役”と、
”マリア恵から入れ替わり薬を購入し、大吾を通じて室井教授に提供した人物”
が不明のままだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---あら、梨桜ちゃん、こんばんはー」

梨桜(室井教授)が、梨桜が暮らしている
アパートに帰宅するー

「--うぅぅぅぅぅうう…」
梨桜(室井教授)は悔しそうに爪をガリガリとかじりながら、
自分の部屋に向かうー

近所のおばさんに声を掛けられたことにも気づかない
梨桜(室井教授)-

「--梨桜ちゃん?どうかしたの…?」
梨桜(室井教授)の様子がおかしいことに気づいた
近所のおばさんが再度、声を掛けるー

しかしー

「ーーうるさい!誰にも私の邪魔はさせんぞ!」
梨桜(室井教授)は、梨桜として振舞うことも忘れて
大声で叫んで、そのまま部屋へと入っていくー

唖然とするおばさんー

部屋に入った梨桜(室井教授)は、
部屋で怒り狂ったー

奇声を上げながら飛び跳ねて暴れまわるー

「はぁ…はぁ…」
梨桜(室井教授)が服をかじりながら、
大学で言われたことを思い出すー

荒瀬大吾を利用して、入れ替わり薬を室井教授に提供した”女”は
言ったー

”-教授がそこまで無能だなんて思いませんでしたー”

とー。

女は、荒瀬大吾を通じて
室井教授に”入れ替わりがばれないように”と何度も
釘を刺してきたー。

大吾を通じて、
入れ替わり薬を提供し、
入れ替わる前に”わたしは梨桜なの!”と何度も問題を
起こさせたうえで、入れ替わるように”知恵”も与えたー。

だがー
室井教授も、大吾も自滅したー

女はそれに怒っていたー

そしてー

”プランBに変更します”
と、女は言ったー

「----うぅぅぅぅぅぅ」
梨桜(室井教授)が怒りの形相で、”入れ替わり薬”を
握りしめていたー

”女”は、当初、
室井教授と梨桜を入れ替えて、
梨桜になった室井教授には、少しずつ裕司から
離れて行ってもらいー
裕司にも、梨桜にも絶望を与えようとしていたー

しかしー
入れ替わりがバレた今ー
それは、もう出来ないー。

だからこその”プランB”-

今度は、裕司と梨桜に、更なる地獄を見せるー

”室井教授ー
 あなたみたいな”無能”は、
 もう、用済みですー”

女は、梨桜(室井教授)にそう囁いたー

”あなたの最後のお仕事はーー”

女から言われた言葉を、
梨桜(室井教授)は頭の中で何度も何度も考えながらー

「--私は…私は、、、」と、
何度も何度も、服をかじり続けたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---ーーー」

夜ー。
裕司のアパートで、裕司と室井教授(梨桜)が
食事を続けているー

裕司は、なんとか室井教授(梨桜)を
明るくしようと色々な話題を
振っていたー

大学の様子ー
大学の友人たちのことー
裕司の部屋のことー
趣味の話ー

色々な話を裕司は続けるー

”少しでも梨桜を元気づけてあげよう”ー

そんな願いからー。

そしてーーー
”自分自身、室井教授になってしまった梨桜のことを
 完全に受け入れることが出来ていないー”
という現実から逃れるためー

頭では中身が梨桜であると理解しているー

それでもー
どうしてもー
今まで数々の奇行を繰り返してきた室井教授に対する
嫌悪感が、
その姿を見るたびに、出てきてしまうー。

「---裕司ーー」
室井教授(梨桜)の表情から、
わずかな笑みが消えるー

「--わたしのこと…嫌いになったらーー
 捨ててもいいからね…」

悲しそうなその言葉ー
裕司も寂しそうな表情を浮かべてー

「そんなこと言うなよー」と、
室井教授(梨桜)の手を握るー

本当は抱きしめてあげたかったー

でもー
できなかったー。

「--必ず……必ず、梨桜の身体を取り戻すからー…
 だからー
 そんなこと言うなよ」

裕司が優しく室井教授(梨桜)の方を見つめると、
室井教授(梨桜)は「うん…」と弱弱しく呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

学校終わりに
裕司・麻奈美・康介の3人は、
不良生徒・荒瀬大吾が入院している病院に
お見舞いに向かったー。

大吾は相変わらず、うわごとを呟くだけー。

医師は”悪いところはどこにもないのだが”と
お手上げ状態ー。

「---おかしくなったふりをしてるってことはないの?」
麻奈美が、裕司に小声で呟くー

康介は大吾の方を見つめたまま
”哀れなもの”を見る目で、大吾を見つめているー。

「---分からないー
 でもーー」

裕司は、あの日、大吾が逃亡したあとの時のことを思い出すー

大吾は、一度、裕司と誠一の前から逃亡したー。
そして、大学内の連絡通路で倒れていたー。

近くには潰された虫と、捨てられた虫かごが転がっていたー。

「---もし」
裕司が呟くー

「--もし、あの時誰かに、
 荒瀬と虫が入れ替えられていたとしたらー?」

裕司は、そんな予感を覚えずにはいられなかったー。

「--そんな、まさか…?」
麻奈美が戸惑うー

裕司と麻奈美は、大吾の方を見つめるー
うわごとしか呟かない大吾ー

まるで、ゾンビのようにすら見えるー。

「---でも、それじゃ、彼はもうー」
麻奈美が言うー。

もし、裕司の言う通り、
あの時、大吾と昆虫が入れ替えられてー
昆虫が潰されたー
の、だとすればー
もう、大吾が元に戻ることはーーーー

ないー。

「---」

裕司・麻奈美・康介の三人が、
戸惑っていると、
病室に年配の女性と、車いすに乗ったツインテールの少女が
入って来たー。

裕司たちは頭を下げるー。

「---お兄ちゃん…」
車いすの少女が呟くー

少女の目からは、涙がこぼれているー。

入って来たのは、大吾の母親と妹ー。

裕司たちは、その母親と少し会話を交わして、
病室を出たー。

大吾の妹はー
小さいころに交通事故に遭い、足が不自由になり、歩けなくなって
しまったのだと言うー

その時、当時小5だった兄の大吾が、一緒に公園で
遊んでいたことから
”妹の足が不自由になったのは俺のせいだ”とずっと
悔やんでいて、それから、荒れていったのだと、母親は言っていたー

けれどー
どんなに荒れても、大吾は家族には優しくー
常に妹のことを気遣っていたー

母親は、そんな風に語っていたー

裕司は、大吾のいる病室の扉を見つめるー。

”--俺は”連絡役”-
 室井教授への伝言役だよー
 見返りに”入れ替わり薬”を貰う約束をしてるー。”

大吾の言葉を思い出すー

「----」

確証はないー
けれどー
裕司は、荒瀬大吾が妹のために入れ替わり薬を欲していたのではないかー

そんな風に思い、罪悪感に襲われたー。

「---裕司くん」
麻奈美が裕司を呼ぶー。

康介が、”麻奈美が裕司と二人で話したがっている”と悟り
「あ、俺はジュースかってくるよ」と、
一度その場を離れるー。

「----もう、やめない?」
麻奈美が言うー

「--え?」
裕司は思わず変な声を出したー

「--これ以上は危ないよ…!」
麻奈美が心底心配そうに裕司を見つめるー。

「---…笠倉さん」
裕司が戸惑うー。

大吾の病室の方角を見つめながら麻奈美は続けるー。

「--もし裕司くんの言う通りならー
 相手は”人の命”だって何とも思ってないってことになるー

 これ以上…これ以上首を突っ込めば
 また誰かが不幸になるかもしれないし、裕司くんだって…」

「---…」
裕司は悲しそうな表情を浮かべるー

「-ーーー梨桜ちゃんが…梨桜ちゃんが
 もし元に戻れないなら、
 ほら、、わたしが、代わりにーーー」

麻奈美がそう言いかけると、
裕司は優しく首を振ったー

「--笠倉さん…心配してくれてありがとうー。
 
 でもーー
 梨桜を見捨てることはできないしー
 梨桜の代わりは、どこにもいないー

 もちろん、笠倉さんの代わりだって、どこにもいないー

 だからー
 俺は立ち止まらないよー」

そこまで言うと、
裕司は”確かに、笠倉さんをこれ以上危険な目に遭わせることはできない”と
考えて口を開くー

だがー「笠倉さんはー」と言いかけたところで、
スマホが鳴り、裕司は「ちょっとごめん」と、スマホを手にするー。

「-----!!!」
裕司は表情を歪めたー

”---今から、大学の屋上に来いー
 さもなくばー
 雪本梨桜の身体ごとー屋上から飛び降りるー”

スマホから聞こえる梨桜の声ー
梨桜(室井教授)だー

「なっ…」
裕司が驚くー

だがー
すぐに電話は切れてしまうー

「くそっ」
裕司はそう呟くと、麻奈美に対して
”急用ができた”と、
夕日が差し込む中、大学の方に向かって走って行ったー

「------」
一人残された麻奈美ー

そんな様子を康介が物影から見つめていたー。
そして、ため息をつくと、自販機で2本、ジュースを購入するー。

”麻奈美は、裕司のことが好き”なのだと、
康介は悟っていたー。

梨桜があんなことになってしまった今ー
麻奈美は、つい、裕司に”梨桜ちゃんの代わりにわたしが”
などと口にしてしまったのだろうー。

「---ーー」
麻奈美は、涙を流していたー。

裕司に想いが届かないことー

そしてー
何よりー
梨桜が大変なのに、その梨桜から裕司をー
一瞬でも奪おうとしてしまったことにー

「-ーーー元気出せよ」
康介が優しく微笑みながら
何も見なかったふりをして、麻奈美にコーヒーの缶を手渡すー

それを受け取った麻奈美は慌てて涙を拭いて呟いたー

「--女の子を慰めるのに、コーヒーなの?」
とー。

「---あ、、いや、つい…」
康介が苦笑いすると、
麻奈美も目に涙を輝かせながら少しだけ微笑んで
「でも、ありがと」
と、呟いたー

想いと現実はー
違うー

理想は現実にはならないー
現実は、理想とは違うー

麻奈美は”裕司の良き幼馴染”でいたいー

でもー
時折醜い自分が、前に出てきてしまうー

本当はー
”幼馴染の彼女”として、
裕司と共に歩みたかったのかもしれないー

それが、彼女の理想ー。

「----」
康介はそんな麻奈美を見つめながら
「--ー」優しく言葉を掛けるー。

康介も、そうー

彼も、想いと現実の狭間で苦しんでいるー。

沈みかけた太陽が屋上を照らす中ー
梨桜(室井教授)は、夕日を見つめていたー

ガリ、ガリ、と爪をかじる梨桜(室井教授)-

「私はただー
 自分の成果に対しー
 正統な評価が欲しかっただけなのだー」

梨桜(室井教授)が悔しそうにそう呟くー

「-----」
屋上に向かう裕司を偶然見かけた
大久保学長が、
年老いた顔に、険しい表情を浮かべるー

裕司が屋上の扉を開けるー。

想いと、現実は違うー

それでも、裕司はー
梨桜のためにー

室井教授から、梨桜の身体を取り戻すためにーーー

「---梨桜の身体を返せ!」
裕司が叫ぶー

夕日に照らされた梨桜(室井教授)が不気味な笑みを浮かべたー

現実は、厳しいーーーー

どこまでもーー

⑤へ続く

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コメント

ここから物語はさらに動いていきます~!
最終回まで、ぜひ楽しんでくださいネ~!

今日もありがとうございました~!!

通常の更新はいつも通り、お昼前後デス!

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