<入れ替わり>想いと現実の狭間で①~欲望~

たとえ、君がどんな姿になろうともー…!

変態教授と彼女が入れ替わってしまった…!
陰謀と欲望が交錯する、本格入れ替わり物語…☆!

※TS解体新書様の第2回入替モノ祭り向けに投稿した
 新作小説デス!
 内容は入替モノ祭りの時と同じデス!
(解体新書様内の「無名さんの秘密のページ」にも掲載されています~!)

※本日(10/23)の更新は別途用意しています!(お昼頃更新☆)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

雨が降る中ー
大学の屋上に人影が見えるー

傘も差さずに、雨に濡れたままの男女ー。

男は、女の方を見つめるー。
その目は、とても悲しそうな表情ー。

男の名は、室井 宗太郎(むろい そうたろう)-
この大学の、教授だー

そんな、室井教授の方を険しい表情で見つめているのはー
雪本 梨桜(ゆきもと りお)-

この大学の、女子大生ー。

だがー
中身は”違う”

今、梨桜は、室井教授の中にいるー

”入れ替わり”-
梨桜は、室井教授に身体を入れ替えられて、
奪われてしまったのだー。

「--わたしの身体を返して!」

声が屋上に響き渡るー

その声を聞きながら、
梨桜は表情を歪めたー。

梨桜に身体を返せばー
俺はーー

室井教授(梨桜)を見つめながらー
梨桜は、瞳を震わせたー

どんなに苦しんだところでー
もう、時は戻らないー。

”梨桜に身体を返すか”

”梨桜の身体を奪うか”

道は、ふたつに、ひとつー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--また室井教授に?」
男子大学生・檜山 裕司(ひやま ゆうじ)が
首を傾げるー。

「--うん。なんだか最近、しつこくて」
苦笑いしながら裕司のほうを見つめるのは
裕司の彼女で、同じ大学に通う女子大生・雪本 梨桜(ゆきもと りお)-。

梨桜は、とても穏やかで心優しい性格の持ち主で、
しっかり者ー。
友達も多く、彼氏である裕司との関係も良好だったー。
ただ、小さいころから、若干身体が弱く、
そのせいもあってか「守ってあげたくなるような」
そんな雰囲気も出ているー。

「--あんまりしつこいようなら、
 大学にもちゃんと相談しておいた方がいいかもしれないな」
裕司が言うと、梨桜は心配そうに「うん…」と呟いたー。

室井(むろい)教授ー
”変わり者”として有名な教授で、
元々、とある科学の分野の研究者だったようなのだが、
問題行動が多く、所属していた研究室を追放され、
現在は大学教授として働いているー

「--俺からも、一言言ってみるよ。
 梨桜から何か言うのも怖いと思うし」

裕司がそう提案すると、
梨桜は「ごめんね、迷惑かけて」と、申し訳なさそうに言う。

室井教授は以前も、痴漢まがいの行為で、
危うくクビになりそうになったことがある、と聞いたことがある。
あくまで”噂”に過ぎず、本当かどうかは分からないが、
いずれにせよ、”火のないところに煙は立たない”ともいうし、
室井教授によい印象がないのは確かだったー。

その日の授業を終えると、
裕司は、室井教授の研究室に向かうー。

「--お、裕司!」
そんな裕司を偶然見かけて声をかけてきたのはー
親友の瀬島 康介(せじま こうすけ)-

高校時代からの親友で、
今では固い絆で結ばれている男だ。

ちょっとお調子者な一面はあるものの、
面倒見が良く、友達想いー
いざという時には、身を挺して助けてくれるような
正義感も併せ持っている。

「----梨桜がさ、室井教授からまた飯に誘われてさ」
裕司が戸惑いながら言う。

「へ~~、どうしようもねぇな、あの教授も」
康介が首を振るー。

「だから、一言言いに行こうと思ってな」
裕司の言葉に、康介は「大変だなぁ…」と苦笑いしながら、
「俺も行こうか?」と、裕司を見て、真剣な表情で呟いたー。

「-ーえ?あ、いや、いいよいいよ
 ちょっと文句言いに行くだけだし、
 あんまり大事にもしたくないからさ。

 梨桜が逆恨みされたりしても困るしな」

裕司がそう言うと、
康介も「そっか、そうだな」と笑みを浮かべる。

「-ま、何かあったら言えよ。俺に出来ることなら力になるから」

「あぁ、ありがとな」

裕司と康介はそんな会話をして別れた。

そしてー
室井教授の研究室にやってきた裕司は
室井教授の研究室をノックしたー。

「--どうぞ」
中から声が聞こえるー

わずかにかすれた感じの声ー。

研究室に入ると、室井教授が書類を整理していたー。

「--ー何の用かな?」
薄汚れた服装に小太りの体格ー
剥げた頭と、神経質そうな顔立ちー。

研究室には、悪趣味な昆虫の標本や
動物の牙などが置かれているー。

「----梨桜を食事に誘うのを、やめて貰えませんか?」
裕司が、単刀直入に室井教授に伝えるー。

「----ふ~~~~……」
室井教授が自分の薄汚れた洋服を噛み始めるー。

”気に入らないことがあると服や爪をかじるー”
それが、室井教授の癖ー。

「--梨桜が怖がっているんです…
 別に教授のことを悪く言うつもりはありません。

 ただー…
 何度も同じ人から、食事に誘われたら、
 誰だって怖いと感じますしーーー」

そこまで言うと、室井教授が「あ~~~わかったわかった」と、
手を挙げながら呟いたー。

「--ーーーわかった。もう君の彼女を食事には誘わない」

「---約束してくれますか?」
裕司が言うと、室井教授は、爪をガリガリかじりながら
裕司とは目も合わせず「約束するとも」と答えたー。

その声からは、苛立ちすら感じるー。

「-ありがとうございます。」
裕司は、教授に対しての礼儀を忘れないよう、
頭を下げるー。

「---」
室井教授は、イスに座って、服をかじり出すー。

「----」
激しく膝を上下させるー。
苛立っているのか、激しい貧乏ゆすりをしながら、何かをブツブツ呟いているー。

裕司は、そんな室井教授のほうを見つめながら
不安を覚えるー。

”梨桜を逆恨みしたりしないだろうか”
とー。

けれどー
今、これ以上室井教授に何か言えば
逆上させてしまう可能性もある。

「--すみません。お忙しい中失礼しました」
裕司は頭を下げて、教授の研究室から外に出るー

「--うぅぅぅうううぅうぅぅぅ」

研究室に残された室井教授は、
うなり声をあげながら、
まるで子供のように、研究室で暴れ始めたー

「--あぁぁあああああああぁぁああああっっ!」

幼稚園児のように、部屋の中でジャンプしながら
奇声を上げるー。

室井教授が、梨桜を食事に誘った理由は、シンプルだったー。

”可愛かったから”

だー。

室井教授は、お気に入りの女子を見つけると
いつもアプローチを仕掛けているー。

付き合えるー
とまでは、思っていないー

だが、可愛い女子大生と一緒に食事が出来るーと
考えるだけで室井教授は興奮していたー

「--はぁっ はぁっ はぁっ」
暴れ終えた室井教授が、荒い息をしながら呟くー

女子大生は芸術品だー。
私にとっては、宝石よりも美しいー。

宝石が目の前を歩いていたら、どうだ?
声を掛けないのも、失礼というものだろうー

「-私はただ、、目の前の芸術を誘っただけなのに!」
室井教授が、洋服をかじりながら怒りの形相を浮かべているとー

そこに、人の気配がしたー。

「--誰だ!?」
室井教授が叫ぶと、
研究室に入って来た人物は笑みを浮かべたー

「--室井教授ー。
 教授自身が、”芸術品”になってみる、っていうのは
 どうでしょう?」
笑みを浮かべる人物ー

「どういう意味だ?」
室井教授が、ふーふー言いながら相手の人物を見つめると、
相手の人物は室井教授にあるものを差し出したー。

”入れ替わり薬”
をー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

ニヤニヤしながら、康介が廊下のポスターを見つめているのを見つけて、
裕司が声を掛けるー。

「-お、裕司!」
声を掛けられた康介が振り向くと、
裕司は笑いながら、康介が見つめていたポスターの方を見るー

大学のミスコンに選ばれた”マリア・恵”のポスター。
裕司たちの1学年上の先輩で、
裕司たちとはほとんど接点はないー。

裕司が揶揄うようにして
「--康介、ホント、マリア先輩好きだなぁ」と笑うー。

「へへ…なんかこう…ハーフな顔立ちがたまらなくてさ」
康介はニヤニヤしながらそう言うと、

「そういえば、昨日はどうだったんだよ?」
と、真顔に戻って呟くー。

「ん?あ~、まぁ室井教授に指摘はしたんだけどさ、
 あの様子だと、また梨桜を飯に誘ってきそうな気もするなぁ~」
裕司が困った様子で呟くー

室井教授の態度は、明らかに不服そうだったー。

「ホント、変わり者だよな~室井教授は」
康介が迷惑そうに呟くとーーー

「---?」
康介が立ち止まったー。

大学の一角に人だかりが出来ているー。

「なんだ?」
裕司と康介が目を見合わせて、
人だかりの出来ている方に近づくと、
そこにはーーー

汚らしいシャツ姿の、室井教授がいたー

「ゲッ!室井」
康介が、嫌そうな顔をするー

裕司も同じく嫌そうだー。

人だかりの中心にいたのはー
”室井教授”だー。

しかもー

「--わたし、、、梨桜なの!雪本 梨桜!
 おねがい!信じて!
 室井教授に身体を入れ替えられちゃったの!」

叫ぶ室井教授ー

周囲が笑っているー
中年のおっさんが「わたしは梨桜なの!」と叫んでいるー

かなり、ヤバい光景だー。

「---」
裕司が表情を歪めるー

「--笠倉さん」
裕司が、人だかりの中に、よく知る女性がいることに気づいて、
声を掛けたー

「あ…!裕司くん」
裕司のことを下の名前で呼ぶのはー
幼馴染の女子大生・笠倉 麻奈美(かさくら まなみ)-。
小さいころからよく一緒に遊んだりして、
裕司に彼女が出来た今でも、友人としての関係は、
梨桜を交えて、続いているー。

容姿に恵まれていてー
勉強も、運動も、料理も、何でもできるー

”笠倉さんに出来ないことは何もない”
と、裕司がいつも言っているぐらいに、
昔から、何に対しても器用な子だー

それでいて、性格も時々毒舌なこと以外は、欠点も見当たらないー。

「---何があったんだ?」
裕司が聞くと、
麻奈美は、室井教授のほうを見つめたー

「なんか急にね、室井教授が、
 わたしは梨桜なの!って叫びはじめてー…

 ふふ、笑っちゃうよね」

麻奈美が、室井教授を軽蔑の眼差しで見つめるー

「-----」
裕司は不安になるー。

室井教授が、まるで”本当に入れ替わっているかのように”
見えたからだー。

そういえばー
今日はまだ、梨桜とは会っていなーーー

「--どうしたの?」

ー!

裕司が振り返ると、そこには梨桜がいた。

「り、梨桜」
裕司は、少し安堵の表情を浮かべながら
不思議そうに、人だかりの中心にいる室井教授のほうを見つめる
梨桜のほうを見たー

「--わ、、わたしの身体を返して!」
室井教授が叫びながら梨桜の方に突進してくるー

「え!?」
梨桜が戸惑った表情を浮かべるー

その顔は、とても演技には見えないー

「--おい!」
親友の康介が止めに入るー

取り押さえられた室井教授は叫ぶー

「わたしの身体を返して!みんな聞いて!ねぇ!!!
 そいつ、わたしじゃない!!
 わたしが、梨桜なの!」

叫ぶ室井教授を見ながら
梨桜は心底怯えた表情で、
「な、、何言ってるの…?」と呟くー。

裕司が、不安そうにしている梨桜に
「だいじょうぶだから」と、梨桜を室井教授から遠ざけるー。

「---何あれ… ついにおかしくなっちゃったのかな…」
裕司の幼馴染の麻奈美が呆れた様子で首を振るー

雰囲気自体は大人しそうな麻奈美だがー
中身は明るい性格で、小さいころから”お姉さん”みたいな感じだー。

「---教授!何してるんですか!」
やがて、他の職員が駆けつけて、室井教授は取り押さえられたー。

「---…怖い…」
梨桜が裕司の腕をつかみながら呟くー

「-大丈夫…大丈夫だから」
裕司は、梨桜を安心させようとして、そう呟いたー

裕司は一瞬、”本当に入れ替わっているのではないか?”と
不安になったー。

しかし、落ち着いた梨桜本人は「そんなことあるわけないでしょ?」と
苦笑いしていたし、
振る舞いもいつも通りー

あとで、大学側に確認したところ、
室井教授の”妄想”だったことが判明したー。

室井教授が、梨桜のことを想像してばかりいたところ、
自分が本当に梨桜のような気がしてきてしまってー…
と、そういう理由だっただと言う。

「--完全に頭おかしいでしょ…」
幼馴染の麻奈美が言うー。

「--今日、実は中身室井教授なんじゃないの?って
 何回も聞かれちゃった」
梨桜が、恥ずかしそうに笑いながら言うー。

「--はは、そいつは災難だったな」
裕司の親友・康介が呆れた様子で笑うー。

しかし、裕司は難しい表情だったー。

「--どうした?裕司?」
康介がそんな裕司に気づいて声を掛けるー。

「いや…最近梨桜を食事に誘ったり、
 今日みたいなことがあったり…
 どんどん室井教授がエスカレートしてる気がしてさ…

 これ以上、何か変な行動をしてこなければいいけど…」

裕司の言葉に、梨桜は申し訳なさそうに
「心配かけてごめんね」と呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・

裕司の予感は”的中”してしまったー

「わたしは、、梨桜なの!!!室井教授に身体を入れ替えられちゃったの!」

翌日もー
室井教授は、昨日と同じようなことを叫び出したー。

結局ーー

”ほんの冗談じゃないですか”と
開き直った態度で、周囲の大学職員たちの聞き取りに応じた室井教授ー

その翌日もー
またその翌日もー

室井教授は”わたしは梨桜”と叫んで
トラブルを起こしては、大学の職員に連行されたー

夕方ー
大学の図書館で、裕司がため息をつくー。

「--何が目的か分からなくて、ホント気味悪いよ」
裕司が呟くと、
「ーー先輩も大変ですねぇ」
と、後輩の蘭堂 美穂(らんどう みほ)が微笑んだー。

大学の美術系サークルに所属していて、
同じ美術系サークルに所属している
梨桜のことを姉のように慕っているー。
その梨桜の彼氏でもある裕司とも、梨桜を通じて知り合い、
今では、裕司のことも、”先輩”と慕っている子だー。

裕司が大学内の図書館で借りていた小説を康介と共に
返却しに来た際に、偶然、鉢合わせして、
顔色の悪い裕司を見た美穂が

「先輩、地球が明日爆発するような顔しちゃって
 どうしたんですか~?」

と聞いてきたため、
裕司が室井教授のことを愚痴ったところだったー。

「---確かにな」
裕司の親友・康介も苦笑いするー。

「--室井教授のことだし、頭おかしくなったんじゃねぇか?」
ケラケラ笑いながら言う康介に、
「元からあの教授、変わり者ですもんねぇ~」と、美穂が笑うー。

雑談をする三人ー。

「あ、、」
康介が時計を見ると「そろそろ俺は帰らないとな」と、笑うー。

「--あぁ、お母さん、元気か?」
裕司が言うと、康介は「まぁな」と笑うー。

康介の父親は、既に数年前に他界、
母親と二人暮らしである上に、
半年ほど前から母親は体調を崩し、病院で入院中だと言うー。

康介は母親の容態を詳しく語ろうとはしないが、
今でも入院中で、毎日のように、お見舞いに行っているー。

「--ま、とにかく気をつけろよ」
康介が言うと、裕司は「ああ」と手を挙げるー。

「じゃ、俺も帰ろうかな。蘭堂さんも気を付けて」
裕司はそれだけ言うと、図書館を後にしたー。

・・・・・・・・・・・・・

その後もー
室井教授の奇行は止まらずー

1週間が経過したころにはー
大学の学長や理事長も、室井教授の”奇行”を問題視し始めたー。

「---マジでなんなんだあいつは?」
あきれ顔で康介が言うー。

連日、「わたしは梨桜なの!」と叫ぶ室井教授ー

梨桜はついに「いい加減にしてください!」と
室井教授に直接言いに行ったー。

だがー
室井教授は、服をかじりながら梨桜を見つめるだけで、
「わたしは梨桜なの!」と再び、奇行を繰り返したー

「--まぁ、あれだよ。
 みんな室井教授のことは頭おかしいってちゃんと
 分かってるし、
 誰も真に受けたりなんかしねぇから、大丈夫さ」

康介の言葉に、
裕司がうなずくー。

しかし、梨桜は不安そうな表情を崩さなかったー。

「--だいじょうぶ。何もさせないし、
 大学側にも、再三言っておいたから」

裕司が梨桜にそう言い放つと、
梨桜は、「うん…」と不安そうに答えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

大学の正門をくぐる裕司ー。

「よぉ」

背後から声を掛けられた裕司が振り返ると、
そこには、素行不良で問題になっている男子大学生・
荒瀬 大吾(あらせ だいご)がいたー。

退学間近、とも聞いた気がするー

「---…なんだよ?」
裕司が、大吾の方を見つめながら返事をすると、
大吾は笑みを浮かべたー

「--最近、面白れぇことになってるじゃねぇか。
 お前の彼女」

とー。

「--あ?」
裕司は不満そうに大吾の方を見つめるー。

いつもスナック菓子の袋を持ち歩きながら
行儀悪く、それを食べている大吾ー

今日もポテトチップスをかじりながら
大吾が裕司を見つめるー

「---怒るな怒るな。
 ちょっと冗談言っただけじゃねぇか」

大吾はそう言うと、
「食うか?」とポテトチップスの袋を裕司に向けるー。

「ふざけるな。いらないよ」
裕司はそれだけ言うと、
大吾に背を向けてそのまま立ち去っていくー

大吾は、そんな裕司の背中を見つめながら
ポテトチップスをバリっとかみ砕いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

それからさらに数日が経過するー。

室井教授の奇行はさらに続くー

まるで”狂ったストーカー”のように…

大学側もさすがにあきれ果てたのか、
大学の大久保(おおくぼ)学長らは、
室井教授の処分を検討し始めるのだったー。

しかしー
そんな中、事件は起きたー

「---」
梨桜が、大学から帰ろうとしているとー
室井教授に声を掛けられたー。

「-今日も、いい天気だね」
室井教授が、頭をかきむしりながら笑うー。

「---…何か、御用ですか?」
梨桜は警戒心をあらわにするー。

”わたしが梨桜なの!”などと叫んでいる
”頭のおかしな男”を前にしたらー
警戒するのは当然だー。

梨桜は梨桜ー。
入れ替わってなどいないのに、
そんなことを言われてしまうと、
梨桜自身も気味が悪いし、
決して、良い気持ちはしない。

「---わたしの…わたしの彼女になるつもりは、ないか?」
室井教授が、信じられない言葉を口にしたー

「--は…?え…?
 あ、、あの…ごめんなさい…
 わたしは彼氏もいますし…

 …と、いうよりも、もういい加減にしてください!
 教授が、教え子に告白するなんて…」

梨桜は、そこまで言いかけて、言葉を止めたー

室井教授が服をかじりながら
「うぅぅぅぅぅぅううう…」と、まるで獣のように
梨桜を睨んでいるー。

「---…あ、、、あの…失礼します」
梨桜は足早に立ち去ろうとしたー。

しかしー

「--これが最後のチャンスだ!
 君は、芸術品のように、美しいー。

 まるで、宇宙の誕生をこの目で見つめているかのようだ!」

室井教授が、梨桜に向かって叫ぶー。

”完全に頭がおかしい”
梨桜は、そう思いながら足早に立ち去ろうとするー。

ーードン!

「--!?」
梨桜の目の前に、室井教授ー。

いつの前にか、走って追いかけてきていた室井教授が、
梨桜の目の前にいたー。

「----もう一度だけ言うー
 私の女になるつもりは、ないか?」

ふー、ふー、と息をしながら、
室井教授が下品な笑みを浮かべるー。

「---お、、お断りします!」
梨桜が毅然とした態度で室井教授にそう言い放ったー

「--ぐぐぐぐぐぐぐ…ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ…」
爪をがりっがりっとかじる室井教授ー。

「---はぁぁぁ…なら仕方ないー。」
室井教授が悪魔のような笑みを浮かべたー

「--私が、君になるー」

「-!?」

突然、室井教授が梨桜にキスをしたー
もがく梨桜ー。

そして、梨桜と室井教授はその場に倒れ込んだー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

同時刻ー
裕司と、幼馴染の麻奈美が、
大学の出口に向かって歩いていたー。

大学前で、梨桜と合流する約束をしている裕司は、
少し遅れてその場所に向かっていたー。

「--え~ホントに?
 裕司くんと梨桜ちゃんってば、大学にいるうちに
 結婚しそうなイメージ、あったんだけどなぁ~」

幼馴染の麻奈美が言うー。

「ーーははは、まだそこまでの話はないよ」
裕司が言うと、
麻奈美はほほ笑んだー

「--小さいころは、”麻奈美ちゃんと結婚するー”
 なんて言ってたのにね?」

麻奈美がいたずらっぽく笑うー

「おいおい、やめてくれよ~
 修羅場とか、勘弁だからな?」

裕司が言うと、
麻奈美は「うそうそ、わたしは裕司くんと梨桜ちゃんを応援してるからね!」と
笑みを浮かべたー。

その時だったー

「---裕司!」
物影から梨桜が姿を現したー

ニコニコとほほ笑んでいる梨桜ー。

「---あ、梨桜!お待たせ」
裕司が言うと、梨桜は裕司の方に近寄ってきてほほ笑むー。

「--じゃあ、また」
裕司が麻奈美に向かってそう言うと、
麻奈美も「うん」とほほ笑むー

梨桜と麻奈美の目が合うー。

麻奈美が不思議そうな顔をしていたその時だったー

「---裕司!」
物影から室井教授が姿を現したー

「---」
梨桜が笑みを浮かべるー。

「--裕司!!助けて!!わたし、、わたし、本当に室井教授に
 身体を入れ替えられちゃった…

 そっちの、わたしは、、わたしじゃない!」

室井教授が叫ぶー

「--はぁ…」
裕司が頭を抱えるー

”またか”

「--室井教授…いい加減にしてもらえませんか?」
裕司が荒い口調で言うー

「---!!」
室井教授が戸惑うー。

「---」
梨桜が、裕司の背後で笑みを浮かべたー

その様子を少し離れた場所で、麻奈美も
事の成り行きを見守っているー

麻奈美も最近”室井教授が梨桜を名乗って迷惑をかけている”
ことは知っていたし、実際にその場面を見たこともあるー。

「---ち、、違うの…!今度はほんとに!」
室井教授が叫ぶー

「--いい加減にしてくれよ!」
裕司がついに声を荒げたー

「梨桜が怖がってるんだよ!
 なんでそんな意味わかんない行動するんだよ!

 梨桜に、俺に何の恨みがあるんだよ!」

裕司が言うー。

「--ち、、ちがっ…わた…」
室井教授が、梨桜の方を見るー

梨桜がー
凶悪な笑みを浮かべていたー
口元に涎を貯めながらー

そうー
”今回”は、
本当に入れ替わっているー

室井教授がここ最近、
何度も何度も”わたしは梨桜なの!”と叫んでいたのはー
”この日のためー”

既にー
大学側も、裕司も、みんなーー
”室井教授の、わたしが梨桜なの発言 に呆れ切っていたー”

その状況を作り出すための、罠ー

「---いい加減にしなさいよ!」
麻奈美も割って入るー。

「--ち、、ちが…わ、、わたし、、本当に、、本当に梨桜なの…」
室井教授(梨桜)が目に涙をためるー

「--もういいです いこう梨桜」
裕司はあきれ果ててそう呟くと、梨桜(室井教授)に声を掛けるー

まさかー
”今回は”本当に入れ替わっているとは、夢にも思わずにー

梨桜は、内心で笑いながら裕司と共に歩くー

”クククー
 ついに、、ついに芸術的なこの身体を手に入れたー”

「---梨桜?」
裕司が、笑みを浮かべている梨桜(室井教授)の方を見るー

梨桜(室井教授)はその視線に気づいて微笑んだー。

「---裕司が、必死に守ってくれて、嬉しくて」
とー。

「--はは、当たり前さー」
裕司は、何も知らないまま、そう呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--あはははっ!ああははははははっ!!!ははははははははっっ!!!」

狂ったように笑う梨桜(室井教授)

「ん~~~ついに手に入れた!!
 あはっ!あはははははははっ!」

梨桜の家に帰宅した
梨桜(室井教授)は、一人子供のようにはしゃいで、ジャンプしたり
万歳したりしているー

喜んだり、怒ったり、感情が高ぶったりすると、
暴れる室井教授の癖ー

「---」
梨桜(室井教授)は、スマホを開くー

指紋認証をクリアして、
スマホを開くと、
梨桜(室井教授)は表情を歪めたー

”あの変態教授のことは、俺がどうにかするから
 梨桜は心配しなくていいよ”

”ガリっ”

スマホを見つめていた梨桜(室井教授)は怒りの形相で、
爪をかじり始めるー。

爪を噛む癖などなかった梨桜(室井教授)が
ガリガリと綺麗な爪を噛んでいるー。

「---ううぅぅぅうぅううううう……
 あああああああっ!」

スマホを放り投げて、怒り狂った様子で、
部屋で飛び跳ねる梨桜(室井教授)-

やがて、可愛らしいベッドの上で落ち着くと、
梨桜(室井教授)は服をかじりながら呟いたー

「-ーー”容姿”に恵まれた貴様たちには分かるまい…」

とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ーーー

「---おはよ~!」
梨桜(室井教授)が微笑みながら近づいてくるー。

「---あ、おはよう」
裕司がそう言いながら、梨桜(室井教授)の方を見るー

全体的に黒い服装に身を包んだ梨桜(室井教授)ー。

いつもと、少し違うー
そんな違和感を一瞬覚えたー

梨桜(室井教授)が少し恥ずかしそうに、黒いミニスカートを押さえながら
裕司の方を見たー。

そして、口を開くー

「---これ、可愛いでしょ?」
梨桜(室井教授)が微笑みながら、
身に着けたペンダントに手を触れるー。

「動物の牙をから作られたペンダントなの!ふふふ」
梨桜(室井教授)が身に着けていたのはー

動物の牙から作られたペンダントー

正直、梨桜にはあまり似合わない気がするし、
裕司は強い違和感を抱いたー。

「---あ、、あぁ…そうなんだ、似合ってるよ」
裕司がお世辞を口にするー

そんな裕司を見つめながら
梨桜(室井教授)は内心で笑みを浮かべたー

”ククク…私自身が芸術品になれて嬉しいよー”

梨桜を芸術品とまで言い放っていた室井教授は、
自分自身が梨桜になれたことで、
自分が芸術品そのものになったような快感を味わっていたー

そしてー

”--少しずつ、私好みに変えていってやるー”

梨桜(室井教授)は笑みを浮かべるー
室井教授自身が好きな”獣”の牙のペンダントを身に着けることはー
”梨桜を支配して、意のままにしている”ということを
室井教授が自分自身で感じるための、マーキングー。

「----あ、そうだ、俺、レポート提出してこないと」
裕司が言うと、
梨桜(室井教授)は静かに微笑んだー

「うん。行ってらっしゃい」
とー。

裕司が立ち去っていくと、梨桜(室井教授)は笑みを浮かべたー

「--君の彼女は、もう、私のものだー。
 私はーー”室井 梨桜”になったんだからな…
 くくくくくっ」

梨桜の声でーー
室井教授自身の苗字である”室井”を名乗らせてみるー

激しく興奮したー
激しく支配している感覚を覚えたー

唇をペロリと舐めると、梨桜(室井教授)も大学の方に向かって歩き始めたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

レポートの提出を終えた裕司が、大学内を歩いていると、
眼鏡をかけたインテリ男子・井守 誠一(いもり せいいち)
に声を掛けられたー

「---室井教授の件は、もう片付いたのか?」
誠一が眼鏡をいじりながら、心配そうに裕司の方を見つめるー

誠一は、非常に頭が良い反面、神経質で気難しい一面があるー。
無神経でトゲのある発言で人を傷つけてしまうこともあるものの、
本質的には悪い人間ではなく、その知識力は、時として力にもなってくれる人物だー。

「--あぁ、井守か…。昨日もまた”わたしは梨桜なの!”って
 言ってたよー」

裕司が言うと、
誠一は、眼鏡をかけなおしながら「そうか」と呟くー。

「---完全に頭おかしくて、困っちゃうよ…
 梨桜も不安がってるしー」

裕司が苦笑いしながら、そう告げると、
誠一は、眼鏡を光らせながら呟いたー

「---”本当にイカれてるやつ”は、入れ替わったなんて
 言わないさ」

とー。

「え?」
裕司が首を傾げる。

誠一が裕司に近づいて、裕司をまっすぐと見つめたー。

「---…”頭がおかしいだけ”のやつは、
 入れ替わったなんて、言わないー。

 室井教授は”何か目的があって”
 奇行を繰り返しているんじゃないか?」

誠一の鋭い指摘に、裕司は

「---でも、、何があるってんだ…?」
と、戸惑いの表情を見せるー

誠一は眼鏡の位置を調整しながら、呟いたー

「それは僕にも分からないー
 けど、気をつけろよ…檜山」

裕司に向かって、そう言い放つと、
思い出したかのように、呟いたー

「それとーーー
 室井教授がお前を探していた」

「--え?」

裕司は、”また俺に何か用なのか?”と
不安を覚えるー

「---わかった。ありがとう」
裕司がそう言うと、誠一は「いいさ」と、だけ返事をするー。

そして、立ち去ろうとする裕司に言葉を付け加えたー。

「---気をつけろよ」
とー。

「---ああ」
誠一と別れた裕司は、室井教授の研究室に向かうー。

室井教授の”奇行”

何か目的があるとすれば、
いったいーーー…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーわたし…負けない」

昨日は、大学の室井教授の研究室で一晩を過ごしたー

室井教授になってしまった梨桜は、
”室井教授の家”も知らないため、
帰ることすらできなかったのだー。

けれどー
一晩かけて気持ちを整理した室井教授(梨桜)は
トイレの帰りに偶然出くわした誠一に”裕司を探している”と、
伝言を頼んだのだったー。

裕司はきっと、ここに来てくれるー

「なんとか…
 なんとか、裕司にだけでも信じて貰わなくちゃ…」

室井教授(梨桜)はそう呟くと、
決意の表情で、裕司がやってくるであろう
研究室の入口の扉を見つめたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はははははっ!!最高だよ!!
 これでもう私は誰にも馬鹿にされない!」

梨桜(室井教授)が、大学の一室で笑っているー

スカートを履いているのに、
足を広げた状態で座り、
室井教授の癖である”貧乏ゆすり”をしているー。

足を激しく動かしている梨桜(室井教授)を
見ながら、同じ部屋にいる人物は笑ったー

「---ん?あぁ、これか?癖でね」

梨桜(室井教授)は相手から指摘されて
貧乏ゆすりを止めるー。

「-あぁ、わかってるとも。
 彼の前では、普通に振舞うさ」

梨桜(室井教授)はそう呟くー。
相手が室井教授に釘を刺し、そのまま立ち去っていくと、
梨桜(室井教授)は笑みを浮かべたー

「芸術品のような美しいこの身体ー
 そして、私の頭脳ー」

梨桜(室井教授)が笑いだすー。

「今度こそ、私の研究を世間に認めさせてやるぞ!
 ふふふふ、ひひひひひひひひひ!」

まるで子供のように飛び跳ねながら
狂ったように笑う梨桜(室井教授)を見て、
梨桜(室井教授)と同じ部屋にいる人物は
寒気すら覚えたー

”外見が同じでも、まるで別人みたいだー”

とー。

狂ったようにはしゃぐ梨桜(室井教授)を見て
今一度、”彼氏にばれないように”と釘をさすと、
その人物は、その部屋から静かに立ち去って行ったー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・

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TS解体新書様の第2回入替モノ祭り参加作品デス~!

お祭りが終わり、少し時間が経ったので、
憑依空間でも掲載していきます!

今回は解体新書様での最後のお祭り…ということで、
私なりにできる限りの力を注ぎこんで
完成させた入れ替わりの物語デス!

初めての方は、ぜひ最後まで楽しんでくださいネ~!

続きはまた明日載せます~!

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