<憑依>ホワイトデーの真実②~真相~(完)

バレンタインデーの日のお返し…!

しかし、彼女は、”バレンタイン当日に憑依されていて記憶がない”と
語り、事態は思わぬ方向へ…!?

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「--わたしに、憑依した犯人を捜すー?」
花菜が戸惑った様子で呟くー

「うん。だって、バレンタインデーに松原さんに憑依した人、
 誰だか分からないんでしょ?
 だったら、僕が探すのを手伝うよ」

信太が言うー。
純粋な親切心からの言葉ー

「真に受けてこんな風に、ホワイトデーの準備を
 しちゃったのも、なんだか申し訳ないし、
 そのぐらいなら、力になれるから…!」

信太の言葉に、
花菜は首を振ったー

「だ、大丈夫だよ…
 もう1か月間、あれから何も起きてないし、
 それに、信太の身に何かあったら、大変だから」

花菜がそう言うと、
信太は「そっか…」と、戸惑った様子で呟くー。

「そ。滝口くんは何もしなくていいの」
それだけ言うと、花菜は空き教室の外に向かうー

「--それじゃ、ごめんね。
 告白は…ナシってことで…」
花菜の申し訳なさそうな言葉に、信太は「うん…」とだけ、呟いたー

花菜が憑依されていたー。
そんなことが、本当にあるなんてー。

花菜の弟が2月14日にそういうツイートをしているし、
恐らく嘘ではないー。

自作自演にしても、
弟とグルで、花菜が嘘をつくにしても、
さすがに”そこまでして信太に嘘の告白をして、今日そんな風にだます”
理由なんて全くないだろうし、
花菜にとって何のメリットもないー

と、なればー
2月14日に花菜が憑依されていて、
”憑依されていた花菜”が信太に告白したー
というのは事実なのだろうー

そしてー
そのせいで、花菜は今日、戸惑ってしまったー
2月14日に憑依されていた花菜からすればー
信太に告白などしていないのだからー

「------…」
”残念だなぁ…”そんな風に思いながらもー
信太は”でも…1か月間、夢は見れたかも…”と
少しだけ前向きに考えるのだったー。

先月のバレンタインデー当日に花菜が憑依されていなければ、
花菜から告白されるようなことも、なかったのだからー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「----……」
花菜は女子トイレで震えていたー

鏡を見つめながらー
怯えた表情で、
震えていたー

その怯えが何を意味するのかー

それに信太が気づくことはーー
なかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「--え?付き合えなかった?」
親友の倫平が声を上げるー

「うん…」
信太は”声が大きいよ”と指摘しながらも
そう呟くー

”憑依”のことは言わなかったー。

”僕に勇気がなくて断っちゃったんだ”と、
いうことにしておいたー

とにかく、花菜のことを悪く言うことはしたくなかったしー
憑依のことも表には出さなかったー。

今後は、ただのクラスメイトとして
また、今まで通り付き合っていくー

花菜が信太の方を見るー。
信太が花菜の視線に気づいて、花菜の方を見ると、
花菜は目を逸らしたー。

「--」
倫平も花菜の方をふと、見つめたー

花菜はいつものように、本を読みだしていてー
もう、信太たちの方を見ることはなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

信太は独自に
”花菜に憑依した人間”を追っていたー。

”松原さんに、迷惑かけちゃったしー
 そのぐらいはしてあげないと”
という親切心ー。

バレンタインデー当日に憑依されていたことを
知らなかったとは言え、
信太が急にホワイトデーに花菜を呼び出して
花菜にクッキーを差し出したーー

などという行為は、
花菜からすれば本当に驚いただろうし
怖いという感情もあったと思うー

だからこその、償いだー。

信太は、花菜の弟である、美佐男(みさお)から
話を聞く約束を取り付けていたー。

美佐男が言うー。

だがー
美佐男は意外なことを口走ったー

「実はもう、犯人は特定したんです」
とー。

「--え?」

信太が混乱しながら、美佐男の方を見ると呟くー

「犯人は、言えませんー」
とー。

「---」
信太が美佐男の方を見ると、
美佐男は苦笑いしながら続けたー

「姉さん、落ち着いているように見えますけど
 やっぱり、自分が1日、他人に身体を乗っ取られていたことで
 すごい怖がってるので、これ以上は、姉さんを
 怖がらせたくないんです」

「ーーそっか」
信太は、花菜の弟である美佐男の言葉を、受け止めると
「--今日はありがとう」と呟いたー

「--はい。こちらこそー
 姉さんのこと、心配して、わざわざ弟の僕にまで
 話を聞きに来てくれるなんて、ありがとうございます」

弟の美佐男が微笑むー

美佐男は、”姉さん”である花菜の話をするたびに
顔がほころんでいたー

それほどまでに、姉のことが好きなのだろうー、
ということは信太にもよく伝わって来たー

「-僕が、姉さんを絶対に守りますので、安心してください」
美佐男の言葉に、信太は「うん」と頷いたー

中3であるという美佐男ー。
だが、美佐男はとても立派な感じの少年だったー。

「--」
信太は”こんな弟さんがいるなら、松原さんも安心だな”と、
そのまま、美佐男の前から立ち去って行ったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

結局ー

花菜と特別な関係に発展するようなこともなくー
そのまま、学生生活の時間は過ぎ去っていくー。

信太は
”憑依されたっていうのは本当なのかな?”という疑惑も
抱いていたー。

あれから、花菜は信太のことを少し避けている感じだしー、
結局”誰が花菜に憑依したのかも”分からないー

やっぱりー
花菜と弟の美佐男がグルで、僕にドッキリを仕掛けたんじゃないかー
という考えも浮かんだー。

けれどー
そう思うたびにー
”弟と結託してまで僕を騙して、松原さんに何の得がある?”という
考えにたどり着き、腑に落ちないーー

そんな感じだったー

恐らく、憑依は本当なのだろうー。
しかし、本当だとしても、弟の美佐男が言う通りー、
これ以上関わっても意味がないし、
弟の美佐男が犯人を既に突き止めているのであればー
もう、これ以上首を突っ込むことではないー。

信太は、少しだけ自虐的に笑うとー
「浮かれちゃうなんて、馬鹿みたいだな、僕ー」と
バレンタインデーからホワイトデーまでの間に抱いた
”短い夢”のおわりを自覚して、
少しだけ寂しそうに微笑むのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから何十年も経過したー。

結局、信太は、生涯独身を貫いたー
彼女が出来ることはなく、
人生で最初で最後の告白はー

”憑依された花菜”からの告白だけだったー。

信太は、結婚しない!と頑なに決めていたわけではなかったのだがー
それからも、女性との縁はないままー、
最後まで独身を貫いたー

”出会いがなかったのだから仕方ないし、
 結婚が全てじゃないよ”

と、信太は、よくそう言っていたー。

本人は、仕事や趣味である程度充実していてー
満足そうに、82歳にして、その長い人生に幕を下ろしたー

”あの日のホワイトデーの真実”を
知らないままー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あの日ーーー

信太が知ることが出来なかった”真実”

2月14日ー

「--1か月後のホワイトデーに返事を聞かせて」
花菜は、信太に告白したー

そしてー
この”告白”は
正真正銘の告白だったー

この日ー
花菜は”憑依”などされていなかったのだー。

花菜は、本当に、信太のことが好きだったー。

”ずっとーー好きだったの…だからー”

「--!」
その時ー
花菜が、信太に告白している空き教室の前を
通りかかった人物がいたー。

その人物はー
信太の親友でもある、倫平ー。

倫平は、花菜のことが好きだったー

「----!!!!!!!!!!」

倫平は、花菜が信太に告白していることを知りー、
愕然としーー
話を盗み聞きしたー。

”1か月後に返事を聞かせて”

その言葉を聞いた倫平はすぐさま行動に出たー。
祖父が物置に遺した”謎の憑依薬”と呼ばれる薬を使えばー
なんとか、花菜と信太がカップルになるのを阻止できるかもしれないー、と。

花菜とは幼馴染でもあった倫平は、
花菜の弟である美佐男と親しかったー

美佐男に連絡を入れる倫平ー。

美佐男は、姉である花菜が大好きだったー
それ故に、彼氏が出来ることなど、許せなかったー
”姉さんは、僕のものだー”

とー。

花菜と信太がカップルになるということを
”阻止”する思惑が一致し、
倫平と美佐男はグルになったー

2月14日にー
美佐男は、倫平から言われた通り
”姉さんが憑依された”というツイートを
夜にかけて、何回か行ったー。

そしてーー
3月14日ー

放課後ー

教室から出て、
花菜を呼び出している空き教室に向かおうとする信太ー

そんな信太に対して、親友の倫平が
背後から肩を叩くと
「健闘を祈るぜ」と笑みを浮かべながら呟き、
そのまま廊下を走り去って行ったー。

信太の前から走り去った倫平は、
そのまま男子トイレの個室に入り、憑依薬を飲み込むー

”悪いなー信太。
 お前に花菜ちゃんはやらないぜ”

笑みを浮かべながらー
憑依薬を飲んだ倫平は、そのまま意識を失うー

そしてー

”滝口くん…OKしてくれるかな…?”
ドキドキしながら、信太に呼び出された空き教室に向かう花菜ー。

空き教室に信太より先に到着したタイミングでー

「---ひぅっ!?」
ビクンと震える花菜ー。

花菜はーー
3月14日…
ホワイトデーの当日に、倫平に憑依されてしまったー

そこに信太がやってくるー

「松原さんから告白されるなんて、僕、本当にびっくりしたけどー…
 僕の答えは、
 もう、出ているからー」

「--僕の方こそ、よろしくお願いしますー」

信太が、バレンタインデーの返事をしてくるー

花菜本人ならー
この時、喜んで信太の返事を聞きー
そして、信太とカップルになっていただろうー

「クク…」
憑依されている花菜は信太に気づかれないように
悪い笑みを浮かべると、答えたー

「---どういうこと…?」

「---わたし…バレンタインデーの記憶が…ないの…」

とー。

”悪いな信太ー”
憑依されている花菜は、笑みを浮かべたー

「--それじゃ、ごめんね。
 告白は…ナシってことで…」

ホワイトデーの日ー。
倫平は花菜に憑依してー
適当な話をでっちあげてー
告白の返事を断った。

「----……」
花菜は女子トイレで震えていたー

鏡を見つめながらー
怯えた表情で、
震えていたー

女子トイレで憑依から解放された花菜はー
”自分の意識が飛んだ”ことに、
一人、怯えていたー。

そしてその後ー
信太と花菜は、互いに距離感が出来たー

信太は、なんとなく花菜に近寄りにくい雰囲気が
出来てしまい、バレンタインに告白されたことは
その後、一切口にはしなかったー。

ただ単に花菜に憑依して
「やっぱバレンタインの告白はナシで!」と
言ってもよかったのだがー
”憑依”をあえて口にすることによって、
信太を引かせてー
花菜に今後、近づかないようにしたー。

”憑依”を信じればー
”自分も憑依されるかもしれない”と不気味に思い
花菜に近づかなくなる可能性が高いしー

”憑依”を嘘だと思えばー
”憑依”なんて、明らかに嘘臭い話を持ち出してまで
信太を揶揄った花菜ー、として
信太は花菜のことを嫌うだろうー。

その、倫平の思惑通りになってしまった形だー。

そして、大人しい性格の花菜は
”信太からの返事を貰うために空き教室に足を運んだ”
あとの記憶が飛んでいることに強い不安を感じてー
その後、信太に告白しなおすことも、
信太と親しくなることもないまま、高校を卒業しー
以降、信太と会うことはなかったー。

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「----ははは」
老人になった倫平は、死んだ信太の墓を前で呟いたー

「--俺のせいで、生涯彼女なしーか」
倫平は、そう呟くと、
自虐的に呟いたー

倫平もー
結局、花菜と付き合うことはできずー

信太だけではなく
倫平もーー
生涯彼女なしでこの年まで生きて来たー

倫平は、墓の前で呟くー

「--お前の恋を、邪魔した報いなのかもなー」

その半年後-
倫平は病に倒れ、そのまま世を去ったー。

今頃ー
彼らは、死後の世界で再会しー
信太は倫平から
”遠い昔のホワイトデーの真実”を聞かされているのかもしれないー

おわり

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コメント

ホワイトデーをテーマにした憑依モノでした~!
倫平くんが、邪魔をしていなければ、
信太くんの人生も全く違うものになっていたー…
かもしれませんネ!

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