下校中の男子高校生はー
”信じられない光景”を目撃してしまう。
それはー
後輩の女子が、”皮”にされる瞬間だったー。
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「--今日はもう遅いから、ここまでにしましょう」
文化祭目前ー
高校では、演劇部の劇の練習が進んでいたー
「ふ~、今日もお疲れ様でした!先輩!」
後輩で、1年生の女子生徒・沼澤 姫奈(ぬまざわ ひめな)が微笑むー
「--沼澤さんも、お疲れ様」
2年生の男子部員・根尾 修平(ねお しゅうへい)が、笑いながら返事をするー。
もうすぐ文化祭ー。
修平や姫奈が所属する演劇部では、
連日、放課後に劇の練習が行われていたー
毎年、文化祭直前にもなると、
文化祭で何か出し物をするような部活は、忙しくなる。
修平らが所属する演劇部も、そんな部活の一つだった。
「あ、根尾くん!ちょっといいかな?」
部長の島崎 莉菜子(しまざき りなこ)に呼ばれた修平ー。
修平の役の台詞に少し修正を加えたい、
ということで、莉菜子が申し訳なさそうに、
修平にお願いをするー。
そうこうしているうちに、
「--あ、じゃあ、わたしはお先に失礼します~!」
と、後輩の姫奈は、帰る準備を終えて、先に部室から出ていくー
他数名の部員も、姫奈の後に続くー。
「--うん…じゃあ、やってみるよ」
修平が言うと、
莉菜子は「ごめんね」と両手を合わせて、申し訳なさそうに
台詞に変更を加えたー。
莉菜子は、小さいころから色々な小説を読んでいるタイプの女子で、
それ故か、物語を作るのがとても上手だった。
去年のおわりぐらいまでは、顧問の先生が脚本を考えていたのだが、
今年に入り、莉菜子が部長になってからは、
先生にお願いされる形で、莉菜子が脚本を担当しているー
「---あ、呼び止めてごめんね」
莉菜子が言うと、
修平は「全然問題ないよ」と、答えながら
部室の片づけを莉菜子と共に始めたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「遅くなっちゃったなぁ~
でもまぁ、こういう時間も楽しいし」
修平は、スマホの時計を確認すると、
そう呟きながら、家へ向かって歩き始めたー。
「-----」
修平が、いつものように、家への道を
歩くー
特に何も起こらずー
そのまま帰宅するだったはずの修平ー
しかしー
「きゃあああああああああああ!」
悲鳴が、聞こえたー。
「--え」
修平が、悲鳴の聞こえた方向を見つめるー。
近くの路地からだー。
「---……」
修平は一瞬”そのまま聞かなかったことにしようかどうか”
迷ったー。
誰だって”危険”に自ら身を投じることに、躊躇するのは
当たり前のことだー。
しかしー
修平は、すぐに首を振ると、
その路地の方に向かって歩いて行ったー
スマホを手にー
いざとなれば、すぐに通報するなり、
動画を撮影するなり、出来る準備をしてー
「----!!!!」
修平が、裏路地を覗き込むとー
そこに広がっていた光景は、
修平が予想もしない”恐ろしい”光景だったーーー
「--あっ…あっ…あぁああっ…」
「---!!!!」
しかもーー
驚いたことに悲鳴をあげていた女はーー
修平と同じ演劇部に所属する女子生徒・姫奈だったー。
「--ああ、、、あ」
姫奈がもがくー。
姫奈の背後に男が立っているー
修平は、あまりの出来事に
驚いて、声も出ずー
スマホを握りしめたままー
その様子を見守ることしかできなかったー
人間、あまりの恐怖に直面してしまうと、
身体が動かなくなるー
と、聞いたことがあるー。
修平の今の状況は、まさに”それ”だったー
「----お前はーー
俺の”ファッション”になるんだ!」
男の声が聞こえたー
「---!!!!!!!!!」
修平は、さらに信じられない光景を目の当たりにしたー
男が、姫奈を壁際に押し付けてー
二人とも、修平が覗いている位置からは、
背中が見える状況になったー
そしてー
姫奈が後頭部から”引き裂かれたー”
「--!?!?!?!?!?!?」
修平は、
姫奈が刃物か何かで引き裂かれたー
つまりー
”人殺し”の現場を目撃してしまったと思ったー
だがー
それにしては何かがおかしいことに気づくー
修平は、あまりの光景に
スマホは握りしめたまま、動画を撮影することも、
通報することも出来ないままー
ゴクリと唾を飲み込んだー
そうー
おかしいー
刃物で姫奈が真っ二つに引き裂かれたのならー
血が出たりするはずだが、
姫奈の身体から血が出る様子はなくー
しかもー
着ぐるみショーの着ぐるみのように、
姫奈の身体が、布のようなー
そんな質感になってー
地面に崩れ落ちたのだー
まるで、
”脱ぎ捨てられた洋服”のようにー
男は一人、背中を向けたまま笑うと、
「--くくく…お前は俺のファッションだ」と、
一人呟いたー。
それからはー
”さらに現実離れした光景”を
見てしまうことになったー
男が、”着ぐるみのような状態”になってしまった
姫奈をまるで、着ぐるみを着るかのように、
身に着けていくー
(な…何をしてるんだ…あいつ…?)
修平は、そう思いながらもー
”沼澤さんを助けないと…”と思いながらも、
身体が恐怖で動かなかったー
やがてー
姫奈の”皮”を男が着終えるとー
男は、姫奈そのものの姿になったー
拳を握りしめたり、開いたりー
脚を動かしたりー
「あ、、、あ~」と、まるで”マイクテスト”をするかのように
声を何度か出してみたりー
「---ククク…よし」
姫奈が、そう呟いたー
「---え…」
修平は、尻餅をついてしまうー
(変な男が、沼澤さんを着ぐるみのようにして
男が沼澤さんを”着て”沼澤さんになったー?)
「---はぁ~~~あ、
これで俺も明日から女子高生だ!
ひひ、、うひひひ、ひゃははははははは!」
聞いたこともないような、姫奈の不気味な声ー
姫奈が、振り返ろうとしたー
修平は、あまりの恐怖に
その場から猛ダッシュで逃げたー。
人生で、一番必死に走ったかもしれないー
そんな風に思えてしまうほどに、
本当に、肉体の限界まで走ったー
帰宅した修平は、
無意識のうちに身体を震わせていたーー
修平は、特別臆病な性格ではなく、
ごく普通の男子高校生だー
だがー
見てしまった光景が、
あまりにも現実離れしていてー
あまりにも、受け入れがたいおかしな光景だったことからー
修平は、恐怖を感じてしまったー
「---ぬ、、沼澤さん…」
修平は、不安に思いながら、姫奈に対してLINEを送ってみるー
”あのさ、、文化祭のことだけど…”
と、他の話題を振るようにしてー
「----」
姫奈から返事はないー
既読もつかないー
「--さ、、さっきのは…」
修平は震えるー
何かの見間違いであってほしいー
普通に、いつものように、返事を送ってきてほしいー
そう願っているとー
「---!」
3分ほどして”既読”がついたのだー
「---!」
そして、すぐに返事が来たー
”どうかしましたか~?”
ごく普通の返事ー
姫奈と特別親しいわけではないが、
時折、雑談のやり取りをしたり、
部活の相談をしたりすることはあるー。
特に、それらの時と、姫奈の雰囲気は変わらないー
”あ、いや、僕の台詞、部長から言われて変更があったからさ、
沼澤さんとの会話シーンでも、僕の台詞いくつか変わってるから
一応連絡しておこうと思って”
修平は、そう返事を送るとー
”わざわざありがとうございます!どのシーンですか?”
と、顔文字つきで返事が来たー
”----”
修平は、姫奈とやり取りしながら思うー
”いつもの沼澤さんだー”
とー。
何も、違わないー
何かあったならー
誰かに襲われたならー
こんな普通にやり取りはできないはずだー。
修平は、そう思いながら
姫奈とのやり取りを終えるー
”おやすみなさい!”
姫奈からの最後の返事ー。
男が姫奈を着てー
まるで、姫奈を乗っ取ったように見えたー
だがー
今の一連のLINEでのやり取りに
”おかしな部分”は存在していなかったー
”ごく普通の”会話だったー。
他人が姫奈に成り済ましているのであれば
このような自然な会話は出来ないはずだー。
「----…僕が何か見間違えただけか…?」
修平はもう一度、先ほどの光景を思い出すー
だがー
どう考えても答えが見当たらないー
「----」
”きっと僕は疲れているんだ”
そんな風に思いながら、修平は、その日、眠りについたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝ー
学校に登校してきて、廊下を歩きながらも
修平の表情は曇ったままだったー。
1年生の姫奈は、2年生の修平らとは
普段は接点はあまりないー
1年生と2年生の教室の位置は違うし、
演劇部の活動以外では、顔を合わせない日もあるー。
だがー
どうしても気になってしまう。
昨日、見てしまった
まるで”悪夢”のような光景が
どうしても頭の中に浮かんでしまうー。
”何かの見間違いだー”
そうは、思いながらも、
自分の目が、
自分の耳がー
実際に見て・聞いた、あの光景を
忘れることが、どうしても出来ないー。
「----」
昼休みに入ると、修平は1年生の教室がある東棟へと向かったー。
そして、姫奈のいるクラスを覗くー。
「---」
姫奈はーー
普通に、教室にいた。
友達と楽しそうに雑談しているー
「--あ!満田(まんだ)くん」
修平が、偶然通りかかった演劇部メンバーの一人・満田を
見かけて、声を掛けるー
「あ、先輩!どうしたんすか?」
姫奈と同じクラスの満田は、修平が1年生の教室の近くに
来ていることを不思議に思ったのか、少し驚いた表情を浮かべたー
「--沼澤さん、いるかな?」
”いる”のは確認したが、
何食わぬ顔で聞く修平ー。
「--え?あぁ、いますよ。
あ、まさか先輩!沼澤さんのことー」
人を揶揄うのが好きな後輩・満田が
ニヤニヤしながら修平を見つめるー
修平は少し顔を赤らめながら
「違うって、そういうのじゃなくてさ、
僕の台詞が変わったから、修正の台本、
渡そうと思って」
と、理由をつけたー。
これは”嘘”ではないー。
本当は部活の時に渡せばいいのだが、
”用件がある”風を装うために、
わざわざ台本をちゃんと持ってきたのだー
「あぁ、それなら、俺が渡しておきますよ」
満田の言葉に、
修平は”いや、僕が自分で”と、言いそうになったが、
あんまりここで食い下がっても逆に変に思われてしまう、と
考えて、「じゃあ、お願いするよ」と
修正の台本を手渡したー。
「---じゃ、また放課後、練習で」
満田が、修平に対して言うー。
修平は「うん」と答えながら、
立ち去ろうとする満田にもう一度声を掛けたー
「--あ、沼澤さん、今日、変わったことない?」
とー。
どうしても、聞かずにはいられなかったー
「え?」
と、満田は首を傾げながらも
「--別に、ないっすよ」と答えて
そのまま教室に戻っていったー
”やっぱりー
僕の見間違えだよな”
修平は、そんな風に、自分で自分を納得させるー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後ー
演劇部の練習が始まるー
姫奈がやってきて
「先輩!昼休みは台本、ありがとうございました」と
礼儀正しく頭を下げるー
心なしか、顔が少し赤らんでいるような気がしたが
きっと、気のせいだろうー。
「--あぁ、うん。問題ないよ。
もう文化祭も近いし、少しでも早くって思って」
修平が言うと、姫奈は嬉しそうに微笑んだー
その様子を後輩の満田がニヤニヤしながら見つめているー
満田は、別に姫奈と特別な関係ではなくー
先輩である修平と姫奈のことをむしろー応援、いや、
揶揄うような感じで、楽しんでいるー。
「---ところでさー」
修平は、少しだけ躊躇ったあとに
”ずっと気になっていること”を口にしたー。
「--沼澤さん、昨日、何かあった?」
修平は、”いつまでも気にするより、直接聞くのが一番早い”と
考えた結果、
そう、言葉を口にしたのだったー
「---え」
姫奈は一瞬驚いたような顔を浮かべると、
「--ふふっ」
と、笑ったー
「---」
修平は、緊張した面持ちで姫奈の言葉の続きを待ったー
”何も、ないですよ”
姫奈が、そう言ってくれることを、願ってー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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後輩の口から出て来る言葉は…!?
続きはまた明日デス~!
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