「大丈夫」
彼女は、憑依されていないー。
「大丈夫」
きっと、だいじょうぶー。
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放課後ー
雅史は街を歩くー
「---」
しきりに目をこする雅史ー。
「----はぁぁぁ…」
ため息をつくー。
なんだか、視力まで落ちてきた気がするー、と
雅史は苦笑いするー。
精神的に病むと、視力が落ちることもあるのだと言うー。
自分はそこまで病んでしまったのだろうかー。
そんな風に思いながら、
雅史は家を目指すー。
「---」
スマホを見つめる雅史ー。
”---出てって!!!”
”出てって!!!!!!!!!!!”
「--!?」
”また”だー。
やはり、静穂の声が頭の中に響くー
助けを求める、静穂の声がー
憑依されて、助けを求める、静穂の声がー。
「---…静穂」
雅史は不安になるー
「--!!!」
突然、周囲が暗闇に覆われるー
雅史が驚いて周囲を見渡すと、
そこには、笑いながら歩いてくる静穂の姿ー
「--くくくくく♡」
静穂が凶悪な笑みを浮かべながら、
雅史のほうを見つめるー。
「--身体は俺のもの」
静穂が、自分の胸を触りながら笑うー
「--や、、やめろ!」
雅史は叫ぶー
そして、周囲を見渡すー。
商店街を歩いていたはずなのに、
真っ暗な何もない空間に、いつの間にか雅史はいたー
「--ふふふふふふふ…あははははははははっ!」
静穂がいつもとはまるで違う狂った笑みを浮かべるー
「--俺はさ…」
静穂がニヤニヤしながら笑うー
「--あの”トンネル”で死んだんだよ」
静穂の声なのにー
喋っているのは、静穂じゃないー
「--なんだと?」
雅史が、何もない黒い空間で
乗っ取られた静穂のほうを見つめるー。
「---知らないか?何十年も前、
あのトンネルで、事故があったことを」
静穂がニヤリと笑いながら、
雅史のほうを見つめるー
「--事故?」
雅史が聞き返すと、静穂は答えたー
「そうさ。事故さー。
毎日毎日過酷な仕事で酷使されてー
疲れ果てた哀れな男がさー、
居眠りしてしまって、トンネルの壁に車ごと激突ー
車はぺしゃんこになって、
運転手の男はー
何も報われないままー
この世から去ってしまったーーー」
静穂はそれだけ言うと、目を赤く光らせたー
「---で も
”俺”は消えなかったー
俺は、あのトンネルで、
ずーっと、ずっとずっと、自分の力が強まるのを待ってたんだー
”もっと生きてたかった”
”もっと生きてたかったー”
”もっと生きてたかったーーー”””」
静穂の声帯が壊れてしまいそうなほどに、
静穂が大声で怒鳴るー
「--と、、トンネルの黒い煙はお前か!?!?」
雅史が叫ぶと、
静穂は笑みを浮かべたー
「そうーーーー
俺は生きたいんだよ!!
か・ら・だが、欲しんだよ!!!
へへへへ
”もう少し”だー
もう少しで、、完全に…
完全に”この身体”は俺のものだー!」
静穂が両手を広げて大声で笑うー
「--お前!!静穂を返せ!」
雅史が怒りの形相で叫ぶ。
「--しずほ?」
静穂が笑うー
そして、少し考えたあとに
意味を理解して頷くー
「そうかそうか。
はははは、そうかそうかそうか。
---かわいそうにー」
静穂はそれだけ言うと、
雅史の方に近づいてきたー
”あと少し”だなー
とー。
「--なに!?」
雅史が叫ぶと、
その直後ーー
雅史は”商店街”に立っていたー
「-静穂!?」
静穂はもう、いないー
いや、本物の静穂は、先に下校していったはずー
今のはー
”幻覚”?
雅史はそう思いながら、静穂にLINEを送るー
すぐに静穂から返事が来たー
”大丈夫だよ”
とー。
「--静穂…」
雅史は確信するー。
静穂はやはり、憑依されているー。
あの黒い煙が、静穂に成り済ましているのかー
それとも、静穂は、”無自覚のまま”乗っ取られているのかー
どちらにせよー
静穂を助けなくてはいけないー
空が、赤色に染まっていくー
雅史は、そんな空を見上げてー
「静穂…俺は必ず、静穂を助けるからー」と
決意の眼差しで呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・
だがー
その夜ー
雅史は震えていたー
急に激しい悪寒を感じたのだー
「くそっ…こんな時に風邪を引くなんて」
雅史は震えるー
「---だいじょうぶ?」
母親が雅史を心配するー
「--大丈夫だよ」
雅史はそう呟きながらも
激しい悪寒に苦しんでいたー
「---そう」
母親がにやりと笑うー。
不気味な笑みを浮かべて、
目を赤く光らせる母親ー
雅史は、それに気づかないー。
「---そうね…大丈夫よ」
母親が呟くー
「--大丈夫…
あなたはもうーー
”眠りなさい”」
母親が、静かにそう呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
雅史が、学校に向かうー
静穂を助けなくちゃー
と、そう思いながらー
街中に、人がいないー
雅史はそれにも気づかずー
学校に向かうー
空が黒い煙に包まれているー
”そんな… やめてよ!!!ねぇ!!”
静穂の声が聞こえるー
「---」
雅史は、”今、助けるから”と学校に飛び込むー
学校に入ると
「だいじょうぶだよ」
「だいじょうぶだよ」
「だいじょうぶだよ」
と、周囲の同級生や先生、後輩たちが
雅史のほうを見て、みんなそう呟くー
「--何が大丈夫なんだ!」
雅史は叫ぶー
寒い
寒い
これは、
なんだ???
雅史が教室にたどり着くと、
そこには、静穂がいたー
「--静穂から出ていけ!」
雅史が叫ぶー
「----」
静穂が雅史のほうを見たー
静穂が、泣いているー
「もう、、やめて!!!」
静穂が叫ぶー
「--そんな演技に騙されるか!!」
雅史が大声で叫ぶー
教室はー
いつの間にかー
消えーー
不気味な、精神世界のような空間で、
静穂が雅史のほうを見ているー
「--お前を、、静穂から、追い出してやる!」
雅史が静穂を押し倒すー
そしてー
静穂の上に乗り、
静穂から出ていけ!!!!と叫ぶー
「--やめて…やめてってば!」
静穂が泣き叫ぶー
「---やめてってば!」
静穂が泣き叫んだー。
その場所はーー
”心霊現象が起きると言われているトンネル”
「---ふ~~~~」
静穂の上に乗っている雅史が目を赤く光らせたー
「---もうすぐ”完全に支配”できる」
雅史が笑うー
悲鳴を上げる静穂ー
「---ククククク…お前の彼氏の雅史クンはな、
今、自分の”精神世界の中”をさまよってるんだー」
雅史が笑みを浮かべたー
今までの光景はー
”憑依された雅史”が見ていた夢ー
雅史の精神世界での出来事ー
現実は、違うー
雅史が、トンネルに入ったあとー
”重苦しい空気”を感じた時ー
雅史は、憑依されたー
そこで、雅史の意識は、既に途切れー
雅史は精神世界で”自分の記憶を元に再現された映像”を
見続けているー
トンネルの中で静穂が憑依された光景もー
静穂とファミレスに行ったのもー
そのあとの数日間もー
全て、乗っ取られた雅史が、見ている映像ー。
時々雅史が聞いていた
”たすけて”という声は、
現実世界で、静穂が叫んでいた声ー
”雅史を助けて!!”と
叫ぶ、静穂の声の一部ー
「--ひひひひ…こいつの意識は、、間もなく消えて
身体は完全に俺のモノだ」
雅史が笑うー
静穂が「やめてよ!!!」と泣き叫ぶー。
雅史が静穂の首を絞めるー
「---静穂から、出ていけ!!!」
雅史の意識は、まだ”夢”を見ているー
静穂を助けようとー
静穂の首を絞めて、叫んでいるー。
「---静穂から、、出ていけ!!!!!」
乗っ取られた雅史の意識はー
”自分”が乗っ取られていることに気づいていないー
静穂が乗っ取られていると思い込んでいるー
静穂が苦しそうにもがくー
「雅史…目を、、、目を、、覚まして…」
冷たいトンネルの中ー
乗っ取られた雅史が、
静穂の首を絞めているー
静穂は、涙を流しながら、雅史のほうを見るー
”だいじょうぶ”
”だいじょうぶ”
”だいじょうぶ”
雅史はまだ夢を見ているー
周囲がみんな、そう言うー
だいじょうぶ
だいじょうぶ
だいじょうぶ
とー
そっか、だいじょうぶなんだー。
雅史は、静穂から手を放すー
安心して微笑む雅史ー
気づけば雅史は、いつも通りの教室にいたー。
「--だいじょうぶだよ、雅史」
雅史の精神世界ー
乗っ取られて、心の奥底に追いやられた雅史ー。
雅史以外の存在は
雅史の記憶と、
そして悪霊が作り出した”偽りの世界”
「--だいじょうぶだよ、雅史」
静穂は笑うー。
「--あなたは、もう、何にも考えなくてー」
静穂は満面の笑みで雅史を抱きしめるー
「----あなたはーーー
憑依されたけど、大丈夫ー
もうー
大丈夫ー
身体は代わりに、使ってあげるからー」
雅史は、もう、何も考えられなかったー
”そっかー”
そんな風に思いながらー
雅史の意識は、永遠の眠りについたー
「----くくく」
トンネル内部ー
雅史が静穂から離れて
笑みを浮かべるー
首を絞められていた静穂が、雅史のほうを見るー
雅史は笑ったー
「--支配が、完全に、終わったョ」
とー。
「--そ、、そんな…」
絶望の表情を浮かべる静穂ー
”精神世界”で必死に戦っていた雅史本人の意識が
たった今、完全に乗っ取られてしまったー。
精神世界の中で、静穂が憑依された!と必死に駆け回っていた
雅史は、皮肉にも、自分自身が憑依されていたのだ
「ーーー雅史を返して!」
静穂が叫ぶー。
「--ははは、もう無理だよ。
まぁ、お前の声もこいつに、ちょっとは響いていたみたいだけどな」
乗っ取られた雅史が笑うー
精神世界に閉じ込められた雅史に、
静穂の声も何度か届いていたー
けれどー
雅史本人はその意味に気づけなかったー
そしてー
ついに、自分が乗っ取られていくことに気づけないままー
完全に乗っ取られてしまったー
「--ははははは、俺はこれからこの身体で生きていくー
やっと、やっと、身体を手に入れた」
雅史が自分の身体を見つめながら笑うー
静穂は「雅史を返して…」と悲しそうに呟くー
「--ーーーいやだね。せっかく乗っ取った身体だー
これから俺はまた、人間として生きていくんだ」
凶悪な笑みを浮かべる雅史ー
静穂は、雅史にすがりつこうとするも、
雅史は静穂を振り払ったー
「--お前のことは、助けてやるよー。
どうせ、ここでの出来事を誰かに話しても
信じてもらえやしないー」
雅史はそれだけ言うと、
トンネルの外に一人、歩いていく。
静穂が「待ってよ!」と叫ぶー。
「正気に戻って!!」と
雅史に泣き叫ぶー。
だがー
その声は雅史には届かず、
乗っ取られた雅史は、そのまま
トンネルの外へと姿を消したー。
その後ー
雅史は、数日後に”失踪”したー。
雅史の両親が必死に雅史を探したもののー
雅史が見つかることはなかったー
あの悪霊が、雅史の身体で新しい人生を
送り始めたのだろうー。
静穂は、教室の、”雅史の机”を見つめたー
雅史はもう、そこにはいないー
「---雅史…」
けれど、静穂にはもう、どうすることもできなかったー。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----…あれ」
雅史の意識はー
暗闇に幽閉されていたー
もう、何もないー
空が真っ黒に染まりー
周囲も真っ黒に染まりー
目も見えないー
途中で、最近、目の見え方が悪いと感じたのはー
視覚も、あらゆる感覚も、乗っ取りが進んでいたからー
「-----」
何も考えられなくなった雅史は、
精神世界の中で目を閉じたー
”だいじょうぶ”
呪いのように、その言葉が聞こえるー
「----…はは」
雅史は安心したかのように微笑むと、
そのまま目を閉じたー
雅史の自我が、完全に乗っ取られてー
”消滅”した瞬間だったー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・
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今月最後のお話でした~!
11月もたくさんのアクセス、ありがとうございました!!!
来月も頑張ります!
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