<入れ替わり>私は逃亡犯②~希望~

凶悪犯罪者の身体になってしまった
女子高生。

自分の身体を取り戻すため、
彼女は奔走する…。

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”もしもし?”

妹の梓紗の声。

「--もしもし…梓紗、落ち着いて聞いて」
神(佳織)は、
公衆電話から梓紗に電話をかけた。

”どちら様ですか?”
梓紗が言う。

梓紗からしてみれば、急に知らない男から
電話がかかってきたのだから
びっくりするのは無理もないだろう。
とにかく、電話を切られないように
しなくちゃいけない。

「---し、信じてもらえないかもだけど、
 わたし、、佳織なの」

男の声でそう言う神(佳織)

「へ?何言ってるんですか?」
梓紗が冷たい声で言う。

「お姉ちゃんならもうとっくに
 帰って来てるんですけど」
梓紗の言葉に、神(佳織)は
続けた。

「誕生日は5月12日、
 血液型はA型、
 好きなものは、白いチョコレートで、
 嫌いな食べ物はブロッコリー」

神(佳織)は必死に
自分のプロフィールを口にした。

とにかく、信じてもらわないといけない。

しかしー

「…ど、どうしてそれを…?
 も、もしかしてお姉ちゃんのストーカー?」
梓紗が怯えたような声を出す。

「--ち、違うよ!わたし!佳織よ!

 ほ、ほら!
 え~っと、梓紗が6歳のとき、
 自転車で盛大に怪我したこともあったでしょ、

 あと、梓紗の誕生日は8月25日…

 それから…」

”このままでは電話を切られてしまう”
そう感じて焦った神(佳織)は
妹の梓紗との出来事やプロフィールを
思いついた順番で口にした。

”え…わ、わたしのことまで…
 …何なの…?”

梓紗がさらに不気味がっているのが
電話で伝わってきた。

「---落ち着いて!わたしはー」

”--誰から?”

電話の向こうで
自分の声がした。
佳織(神)の声だ。

”あ、お姉ちゃん!なんか、
 知らない男の人が
 わたしはお姉ちゃんなの!って言ってて…”

「--ダメ!そいつの言葉に耳を貸さないで!」
神(佳織)は叫ぶ。

けれどー
無駄だった。

”私が佳織ですが…
 何か御用ですか?”

佳織(神)は電話越しにそう呟いた。

「--ふ、ふざけないで…!
 わたしの身体を…」

”もう、俺が佳織なんだよ…”

小声で、佳織(神)がそう呟いた。

そして、
電話が切れた。

「--そ、そんな…」
神(佳織)は絶望しながらも
次は母親のスマホに電話を
かけようとした。

「--あ、おい!あいつ!」
通行人が神に気付いて指をさす。
「--!!」

これ以上は無理だ、
そう判断した神(佳織)は
夜の街へ姿を消したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

神(佳織)はなんとか潜伏しながら
元に戻る方法は探っていた。

けど、この姿のまま飛び出せば
どうなるかは分かりきっている。

なんとか、
なんとか、
誰かに助けてもらわないといけないー

かつて公共施設だった廃虚を拠点に潜伏していた神(佳織)は
あるものを見つけた。

画面がひび割れた携帯用のテレビだ。

「--う~ん…」
神(佳織)はスイッチを入れてみる。

すると、
電池が残っていたのか
映像が映し出された。

屈強な男が、
乙女のような動きをしているー。
本人はいつものように振る舞っているつもりだが
周囲が見たら奇妙に見えるだろう。

「---え…」

ニュースでは、ある事件が報道されている。

それはー
”同級生殺害事件”

殺害されたのはー
佳織の友人・西原 亮子ー。

「う・・・嘘…?亮子?」
神(佳織)が弱弱しく呟く。

「どうして…?」

親友の死に呆然としたまま
映像を見つめるー

すると、更なる衝撃が、
神(佳織)を襲った。

”亮子を殺害したのは同級生”であるとー。

その同級生とはー
未成年だからか、
名前までは報道されていなかったが
明らかに佳織のことだった。

家にも帰らず、逃亡しているのだと言う。

「---…そんな…」
神(佳織)はその場にひざをついて
涙をこぼしたー。

身体を奪われただけではなく
殺人まで犯されてしまったー。
しかも、犠牲になったのは
親友の亮子ー。

「---」

背後から足音が聞こえて
神(佳織)は振り返る。

そこには、
スーツ姿の男がいた。

「け…警察!」
神(佳織)は慌てて走り出した。

今、捕まるわけにはいかない。
入れ替わってしまったことを
明らかにしないと
妹や両親の命も危ない…!

「っ…!」
神(佳織)の逃げた先は行き止まりだった。

振り返る神(佳織)
悪い事は何にもしていないのに
どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの?と
そう思いながら、
神(佳織)は叫んだ。

「わ…わたし…わたし…違うんです!」

とー。

スーツの男は
神(佳織)の方を見つめているー。

少し無精ひげの目立つ、
けれども顔は整った男性だ。

「--違う!落ち着け!」
男性は言った。

「--俺は刑事じゃない。
 俺はー
 ”入れ替わり薬”を開発した者だー」

彼は両手を上げながらそう言った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

神(佳織)は、廃虚の一角に
腰を下ろしながら呟いた。

「本当ですか?」

ーと。

「あぁ」
スーツの男は
かつて入れ替わり薬を研究していて
現在は倒産している会社に勤務していた
主任研究員だった。

「あれは、過ちだった。
 会社の利益のためと、上からの命令で
 開発を続けていたんだが、
 ”入れ替わり薬”の完成間近になって
 実際に人間でテストして…
 怖くなって…

 それで、内部告発して
 行政の指導が入って会社は倒産したんだ」

彼ー…
山瀬 研吾(やませ けんご)は
入れ替わり薬を開発した張本人だった。

「--それで、元に戻る方法だが」
山瀬は、ポケットから液体の入った容器を
取り出した。

「もう一度、入れ替わり薬を使うー 
 それしかない」

山瀬の言葉に、神(佳織)は驚く。

「え…」

山瀬はそんな神(佳織)の反応を見て続ける。

「当時、行政指導が入る前に入れ替わり薬は何個か
 完成していてね…
 これもその一つだ。誰の手にもわたらないように
 保管していた…。

 これを使って、
 君の身体を奪った犯罪者と、君がもう一度入れ替われば
 君は元の身体に戻ることができる」

山瀬の言葉に、神(佳織)は
希望に満ちた表情を浮かべながらも答えた。

本当に、この人は信用できるのだろうかー。

「ありがとうございます。
 けどー、どうして入れ替わったことに気付いたんですか?
 それに…どうしてわたしを助けてくれるんですか・」

神(佳織)の質問に、山瀬は頭をかきながら答えた。

「---……」

少し、都合が悪そうな表情を浮かべると
山瀬はようやく口を開いた。

「--ニュースを見てね。」

確かに、ニュースでは神や、佳織のことが報道されている。

それを見れば
”入れ替わり”だと勘づくことも
入れ替わり薬の開発者なら
可能かもしれない。

「--入れ替わり薬は
 元々俺が作りだしてしまった過ちだ…
 俺の過ちによって、誰かが被害を受けてるなら、
 俺には、それを助ける義務がある」

山瀬はそう答えた。

神(佳織)は、
ほかに手段もないし、この人を信じるしかない、
少なくとも嘘はついてなさそうだと判断して
山瀬を信じることにした。

「---でも、、わたし…」
神(佳織)が呟く。

「身体が戻っても、わたし…」

佳織の身体は既に、親友の亮子を殺してしまっている。

つまりー
戻っても自分は殺人者なのだ。

「--それなら心配ない」

山瀬は笑みを浮かべた。

「政府も、入れ替わり薬は明るみに出したくないから
 俺が掛け合えば、君の身体の罪は、無くすこともできるさ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

元・入れ替わり薬開発担当の山瀬と出会ったことで、
神(佳織)には希望が見えてきた。

あの凶悪犯罪者から、自分の身体を取り戻す…!

山瀬の言うとおり、
自分の件は、ニュースで報道されなくなった。

報道されているのは
凶悪犯・神沼神の方だけだ。

「---」
神(佳織)は見つからないように、
自分の家へと向かう。

山瀬から受け取った入れ替わり薬を手に…。

もう一度入れ替わって、
自分の身体を取り戻す。

「いやああああああああ!」
家の中から悲鳴が聞こえた。

「---!!」
神(佳織)は家の玄関の扉があいていることに気付き、
中へと侵入した。

今の悲鳴はー
妹の梓紗の声。

佳織の部屋から
聞えてきた。

「--梓紗!」
神(佳織)は叫んだ。

口から出るのは男の声。
でも、もうそれも終わり。

この身体を返却して
自分の身体を取り戻す。

父と母の姿が見えなかったが、
この時間帯は、父は仕事、
母は買い物に行っていることが多いから
そのためだろう。

「--梓紗!」
神(佳織)が叫んで部屋に飛び込むと、
そこには佳織(神)が笑みを浮かべて立っていた。

梓紗は倒れている。

「梓紗に何をしたの!」
神(佳織)が叫ぶ。
図太い男の声で、女言葉を発するー
なんとなく違和感を感じながらも、
神(佳織)は入れ替わり薬を飲みほした。

「--あんた…!」
佳織(神)の表情から笑みが消える。

そしてー

佳織(神)が机に置いてあるスマホを取ろうと
動き出したー。

「---私の身体を、返して!」

佳織(神)が神(佳織)の方を見ながら
警察に電話を入れる。

「テ、テレビでやってる犯人が、家に…!」
佳織(神)が電話でそう叫んだ。

ーー逮捕されるのは、あんたよ!

神(佳織)はそう叫んだ。

そしてー
無理矢理抱き着いてキスをするー。

自分とキスをする…
変な感覚…
ふいに、力が緩んでくる。

もがく佳織…

数秒の沈黙ー

身体に力が戻ってきた。

自分の、身体にー。

「---…やった…!も、戻れた!」
佳織は嬉しそうに叫ぶ。

神は、驚いた表情でふらふらして倒れる。

「---も、もしもし!」
元に戻った佳織は慌てて電話を手にした。

そして、警察に伝える。

”神沼神がここにいるんです!”

とー。

神は倒れ込んだまま起き上がらない。

「--梓紗!」
同じく倒れたままの梓紗に駆け寄る佳織。

「う…」
梓紗は生きていた。

何をされたの?と心配になりながら
梓紗の方を見ると、
梓紗は安心したように、笑みを浮かべて
「お姉ちゃん…!」と佳織に抱き着いた。

ほどなくして、警察が到着する。

神は、警察が到着した直後に、
意識を取り戻したが
もう手遅れだった。

神がこっちを見て何かを叫んでいる。

けどー
警察の声と、凶悪犯の逮捕ということで
周囲に集まった野次馬にその声は
かき消されてしまったー。

連行されていく神。

「--お姉ちゃん…」
「---梓紗…ごめんね」

佳織と梓紗は、
お互いの無事を喜び、抱き合ったー

平穏な日常が戻ってきた。
一時はどうなるかと思ったけれどー、
佳織は再び元の日常を取り戻すことができたのだった。

逮捕された神沼神は、この後に及んで
容疑を否認して、何か意味不明なことを
口走っているのだとか。
本当に、往生際が悪いなぁ、などと佳織は
呆れながら、今日も学校に向かうのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「-----さよなら」

夜の廃虚ー。

そこにはー
自らに包丁を突き立てて、
冷たくなってしまった
入れ替わり薬の元研究者・山瀬の
姿があった。

不気味な人影が、
月の光に照らされてゆらりと浮き上がるー

その人影は不気味に笑いながら
夜の闇へと消えて行くのだったー。

③へ続く

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コメント

今日は神(佳織)視点でした!
ハッピーエンド!!~???笑

明日は佳織(神)視点で
真実を明かしていきますよ~!
おたのしみに~!

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