ブラック企業で過酷な日々を送っていた若手社員。
身も、
心も、限界だった。
そんな彼はーついに…
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「おい新崎!!」
怒鳴り声が響き渡る。
部長の泉谷(いずみや)が
罵声をあげているのだ。
「---は、はい」
新崎と呼ばれた気弱な男性社員は
怯えながら、泉谷部長の方に向かう。
「---こんなふざけた成績で、
許されると思っているのかぁ!」
泉谷部長は怒りの形相で机をたたいた。
入社2年目のー
新崎 啓也(しんざき けいや)
大学卒業後に、この会社に入社して
営業を中心とした仕事をしているのだが、
この企業はとんでもないブラック企業だった。
残業代は出ない、
有給休暇は書類上しか存在しない。
勝手に部長が切るタイムカード、
コンプライアンスなんてクソ喰らえな社風、
会長一族による同族独裁経営、
カレンダーは毎日が平日。
多くの社員が退職していったし、
過去には自殺者や、うつになってしまった
人間まで存在すると聞いている。
それほどまでに、危険な会社なのだ。
「--す、すみません」
啓也がそう言うと、
泉谷部長は激しく怒鳴り声をあげた。
啓也はーー
確かに成績は良くない。
しかしながらー、
それには、”理由”がある。
同じ部署の先輩である
武井 亮輔(たけい りょうすけ)
28の若手社員だが、
経営者である武井 剛三郎(たけい ごうざぶろう)の
孫であり、その亮輔に、啓也は手柄を横取りされているのだ。
何事にも一生懸命な啓也は、本来であれば、
成績トップに匹敵する量の契約を取ってきている。
しかしながら、その半分以上が、経営者の坊ちゃんである
亮輔に奪われているのだ。
「---申し訳ありません」
啓也は小さな声でそう言った。
「おい?声が小さいぞ?やる気はあるのか?」
泉谷部長も、啓也が、経営者の孫・亮輔に手柄を
横取りされていることは知っていた。
しかしー
それをとがめることはできないし、
そんなことは関係なかった。
泉谷部長は会長である剛三郎の長男であり、
現在社長を務めている、慎太郎(しんたろう)の
お気に入りであり、会社のイエスマンだからだ。
「---やる気がないなら、死んでしまえ!」
そう言って、
ペットボトルのお茶を、啓也に向けて
ぶちまけた。
「---」
濡れる啓也。
「--おらぁ、汚れた床を掃除しておけよ!」
それだけ言うと、泉谷部長はうんざりした様子で立ち去ってしまった。
周囲の社員たちは、一切相手にしようとしない。
見て、見ぬふりだ。
「--ちょっとぉ~部長の怒鳴り声を
昼間から聞かせないでよ~?」
部署のお局である月山 登美子(つきやま とみこ)が言う。
40代の独身女性で、妻子持ちの泉谷部長と浮気しているとのうわさだ。
「すみません」
啓也はそう言いながらも、激しい怒りに震えていた。
会社を辞めようと思ったことは何度もあった。
けれどもー
辞めなかったのはー
「---大丈夫?」
休憩所にいると、同い年ぐらいの若い女性が
声をかけてきた。
松沢 優美香(まつざわ ゆみか)、
小さいころの幼馴染で、
中学生時代まで一緒の学校だった子だ
高校、大学と離れていたものの、
偶然、この会社で再会した。
「---……はぁ」
啓也はため息しか出なかった。
休みもなく、
給料も出ず、
精神的に追い詰められている。
けれどー
「---……つらいよね…」
悲しそうな表情をする優美香。
この優美香がいるからこそー、
啓也は会社を辞めることができなかった。
啓也は、中学卒業後から一度も会っていなかった
優美香と会社で再会した際に、一目ぼれした。
そう、啓也は優美香が好きだった。
以前、会社を辞めようと思っていることを相談した時に、
優美香に「わたしを一人にしないで」と泣きつかれてから、
啓也が、会社を辞めるという選択肢は無くなってしまった。
そしてー
二人とも、落ち着いたらお互いに結婚しよう、という
約束までしている。
こんな会社じゃ、いつ落ち着くか、分からないけれどもー。
「ーーほんと、嫌になっちゃうよー」
啓也がそう呟くと、
優美香も悲しそうな表情を浮かべた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ある日ー
「--お前は、この資料、明日までに仕上げておけ」
泉谷部長が、
息子の誕生日だから、とかなんとかで、
啓也に仕事を押し付けて、帰っていく。
「お疲れ様でした」
そう頭を下げながらも、啓也は怒りに
震えていた。
残業代も出ないこの会社で、
押し付けられる残業。
本来、そんなこと、しなくて良いはずなのにー。
数時間後、書類をようやく完成させて、
帰ろうとしたとき、
隣の部屋から少しだけ光が
漏れているのが見えた。
「…誰かいるのか…?」
そう思いながら、啓也は、密かに
その部屋を覗いた。
すると…
「ふふ・・・♡ 今日も楽しかったです!」
部屋の中で、同期の優美香が、
顔を赤らめて微笑んでいた。
「---?」
啓也は思わず首をかしげる。
そしてー
奥にいた男を見て唖然とした。
「あ・・・あれは、泉谷部長!」
啓也が小声で声をあげる。
泉谷部長と優美香が
抱き合ってキスをする。
「---優美香、愛してるよ。
妻と、月山はおまけだ。
本命は、きみ一人さ」
泉谷部長がそう言って笑う。
「--うふふ、部長ったら!」
優美香が、今まで見せたこともないような
甘い表情で笑みを浮かべる。
啓也は唖然としてその場に立ち尽くしてしまった。
「いやぁ、君の同期の新崎は、本当に使えない奴だが、
優美香ちゃんは最高だよ」
泉谷部長が言う。
「--ありがとうございます」
優美香は微笑んだ。
悪女の笑みだ。
「--君は、将来必ず出世できる」
泉谷部長が満足そうに言う。
「ふふ、わたしは新崎みたいな間抜けな子とは
違うんです。
上に行くためなら、何でもしちゃいますよ~
うふふふ…」
「はは…悪い女だねぇ!
こんな風に陰で言われてることを知ったら、
新崎のやつ、自殺しちゃうかもしれないよ~?」
部長が冗談めいて言うと、
優美香は微笑んだ。
「--それならそれで、いいじゃないですか!
勝手に死んだなら、な~んにも関係ありませんし」
笑う二人。
啓也には、二人が悪魔に見えたー
その場から立ち去る啓也。
「---……つらいよね…」
普段の優しい優美香を思い出す。
啓也は泣いた。
ぜんぶ、ぜんぶ嘘だった。
啓也は、悲しみに満ちたまま、
衝動的に、気づけば、自分の仕事をしていた部署で、
首をつろうとしていた。
そしてー
「--それならそれで、いいじゃないですか!
勝手に死んだなら、な~んにも関係ありませんし」
悪魔のような優美香のセリフが頭をよぎった。
啓也jは「俺は会社に殺された」と、
ペンで壁に大きく書き、
恨み言をつづると、叫んだ。
「---あぁ、死んでやるよ!」
怒りと悲しみ、
そんな感情から、
衝動的に、啓也はーー
自殺してしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
朝早く出勤していた清掃員の男・
蒲原(かんばら)は、
自殺している啓也の姿を見つけた。
「あ・・・ひぃぃぃぃ!?」
蒲原は慌てて人を呼びに行った。
そしてー
経営者武井一族の長男・
慎太郎社長が、その場にかけつけた
「---面倒なことをしてくれたもんだ」
慎太郎が言う。
清掃員の蒲原は身体を震わせている。
「---」
壁を見つめた慎太郎は
苛立った様子でメガネをかけ直した。
「---”内密”に処理する。
あの遺言は見なかったことにしてくれ」
慎太郎社長が言うと、
清掃員の蒲原は「へ、、、で、、でも?」と
狼狽える。
狼狽える神崎に、
慎太郎は封筒を取り出して手渡した。
中には、100万円
「へ、へい!確かに!」
蒲原はそう言うと、笑いながら立ち去って行った。
「---」
社員が出勤するころには、
壁に刻まれた遺言は処理されていた。
唖然とする社員たち。
しかしながらー
同期たちは、”新崎啓也”の悪口を言ったり
笑ったりするばかりだぅた。
「---クスッ」
幼馴染の優美香も、鼻で啓也の死を笑っていた。
しかしー
ココにいる全員、気づいていなかったー。
怨霊となった啓也がーー
すぐ傍にいたことにーー。
啓也は、優美香の顔の目の前にやってきて
優美香を睨んだ。赤い目でー。
しかし、優美香は気づかない
「---??」
少し悪寒を感じた優美香は、不思議そうな表情を
浮かべたが、すぐにまた笑顔に戻るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
就業時間ー
「--お疲れ様でした~」
優美香が、泉谷部長に挨拶をする。
泉谷部長は「あぁ、お疲れさん」と
笑みを浮かべた。
部屋から出る優美香。
そんな優美香には、朝からずっと、啓也が、付きまとっていた。
優美香を睨み続ける啓也。
そしてー
啓也は優美香に手を伸ばした。
ーーー!?
自分の手が、優美香の中に吸い込まれる。
「---うっ!」
優美香が苦しそうな表情を浮かべた。
「---許さない」
啓也はそう呟いて、優美香の身体に
自分の身体を重ねた。
「--ひぐっ!?」
優美香が身体を震わせた。
「な・・・なに・・・?あ、、あれ、、身体…が?」
優美香がおびえた表情で
戸惑っている。
そしてー
”復讐してやる”
その言葉に優美香がビクンと身体を震わせたー。
「-------」
顔をあげた優美香の目は赤く染まっていた。
「ーーー復讐、、、してやる」
優美香は静かにそう呟いた。
会長の武井 剛三郎
社長の武井 慎太郎ー
自分の成績を横取りした坊ちゃんの
武井 亮輔
泉谷部長ー
お局の月山 登美子ー
清掃員の蒲原ー
「ユルサナイ…ユルサナイ!」
優美香が叫ぶ。
そしてー
この優美香自身にもー
「---そうだ…復讐だ…!」
優美香は目を見開いて、
不気味に口元を歪めた…
②へ続く
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次回から始まる憑依復讐劇…!
優美香の身体を使って、
会社に復讐していきます…!
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