<入れ替わり>変幻自在の逃亡者②~絶望~

凶悪犯・室井哲也は楽しんでいた。

入れ替わりながらの逃亡を。

彼は、警察官の娘の身体を奪い、
家庭を崩壊へと導いていく。

その様子を、見せつけられて、絶望する少女の
顔を見るためにー。

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「ーーー!?」

教室中に、どよめきが起きた。

登校していた可奈恵が”別人”のようになっていたからだ。

髪の毛は茶色に染まり、
ピアスをつけ、
スカートをギリギリまで短くしている可奈恵。

「---か、可奈恵?」
クラスメイトの一人が戸惑って訪ねる。

「--わたしに話かけんな」
可奈恵は愛想なく、そう言った。

机に足を乗っけて、
口笛を吹きながら、可奈恵は
ヘッドホンで音楽を聴き始めた。

スカートの中が丸見えなことなど気にもせずに。

「---」
可奈恵は今、凶悪犯の室井に支配されている。

この真面目な女子高生に、
そして、警察官の長女でもあるこの娘に、
こんなことをさせている。

室井はそれだけでゾクゾクした。

そして、お楽しみはこれからだ。

「---おは…、って何してるんだ!生田!」
先生が可奈恵の態度に驚いて声をあげる。

しかし、可奈恵は音楽のリズムを体で
刻みながら全く先生を相手にしていない。

「--お前!」
先生が可奈恵のヘッドホンを取り上げた。

「--っ、邪魔すんじゃねぇよ!」
可奈恵がヤンキーのように叫んだ。

「--お、、お前・・・その格好は?」
戸惑う先生。

「ふふ…可愛いでしょ?
 わたしに惚れた?えっちしたい?」
可奈恵が挑発的な態度を崩さない。

「---お、、おま…
 と、とりあえず生徒指導室に来い」

先生が可奈恵を連れて行こうとする。

「---触るんじゃねぇよ!」
可奈恵はそう叫ぶと、先生の顔面に
唾を吐きかけた。

「----生田!」
先生が怒鳴り声をあげる。

「---くく、怒れ怒れ!
 わたしは今日からお父さんを困らせる
 悪い娘になるんだからっ!」

そう言うと可奈恵はイスをつかんで
窓ガラスに向かってそのイスを叩きつけた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「やめて!!やめてよ!!」
室井のアジトにとらわれていた可奈恵ー。

今は菜月美の身体になっている可奈恵は叫んだ。

「---わたしの身体で…
 そんなことしないで…」
菜月美は涙を流した。

モニターを通じて送られてくる映像ー

可奈恵の身体で好き放題やっている
室井の映像を見て、菜月美になった可奈恵は
ただただ泣き続けるしかなかった。

室井の部下たちが、そんな菜月美の様子を
見て笑っている。

生徒指導室に連れて行かれた自分の姿が
映し出されている。

腕を組んで、先生の言うことにも耳を貸さない。

やがてー
母親が呼び出されて駆けつけてきた。

母親は、娘の豹変に涙を流していた。

「可奈恵…どうしちゃったの…」
と母親は涙を流している。

「--違う!それはわたしじゃないの!」
菜月美になった可奈恵はモニターの向こうに向かって叫んだ。

けれども、その言葉が母親に届くことは、ないー。

室井は、入れ替わり薬と同時に手に入れた
特殊なカメラで、映像をライブ配信していた。

自分の身体が、どのように使われているのか
魅せつけるために。

自分の体が悪用されているサマを
見せつけられて絶望する少女の表情を見るために。

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帰宅後。

母親は泣きじゃくっていた。

「----いい気味」
可奈恵はそう呟くと、泣いている母親を無視して、
そのまま2階に上がった。

おもむろに、2階にある父の部屋を開ける。

そこには、父が仕事で使っているパソコンがあった。

パスワードでロックされている。
しかしー
可奈恵はそれを解除した。
室井が手に入れた特殊装置を使ったのだ。

「---ふふ、おとうさん
 娘のわたしの手によって、地獄に葬ってあげる」

可奈恵はそう呟くと、
パソコンの中に保存されていた、刑事上の機密を、
ネット上に”流出”させた。

「くくくくくくく…
 うふふふふふふふ・・・あはははははははははっ!」

瞬く間に拡散されていく機密情報を見ながら、
可奈恵は狂ったように笑い続けた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--生田君!」
上層部の男に、可奈恵の父、光輝が呼び止められた。

「--どういうことなんだ?」
上層部の男が怒りをあらわにしている。

「---?」
光輝はわけもわからず、上層部の男の部屋へと移動した。

「---これは、どういうことだね?」
ネット上に”凶悪犯室井の捜査”関するデータが流出している

「こ…これは…?」

「--このデータを知るものはごくわずかだ。
 そして、室井対策チームのリーダーである君だけに、
 自宅への持ち帰りを許可した。
 ・・・内部のパソコン以外から流出しているということは
 君が流出させたということだ」

上層部の男は失望を露わにしながら言う。

「--ま、まさか・・・早川警視正、私は・・・」
光輝が上層部の男に言うと、
男は答えた。

「こうなってしまっては、手段は選ぶまい」

”警察組織の暗部”とも言われる
早川警視正率いる処理班は、
決して表ざたになることはない。

裏では、表ざたに出来ない事件を内々に処理する。

世の中は、綺麗ごとだけでは済まされないー。
時には、暗殺や非人道的なことをしなくてはならない。

早川警視正率いる暗部のような存在があってこそ、
この世の秩序は保たれる。

「--君には、もう任せてはおけない」
上層部の男、早川警視正は言った。
「--私がじきじきに処理する。
 入れ替わり薬云々の話を、
 世間に広めるわけにはいかない」

「----」
光輝は困惑しながらも自宅へと慌てて帰った。

何故だ?
何故自宅のパソコンからデータが?」

「---」
家に入ると、人の気配が無かった。

「ひひ・・・」

奥から声が聞こえた。

「--な・・・なんだ?おい…摩耶子?可奈恵?」
妻と娘の名前を呼ぶ。

「ひひひひ・・・ひひひひひひ♡」
奥から聞こえる声。

光輝は険しい表情でそこへと向かうー。
声のする方向へー。

「-----!!」
光輝は驚いて目を見開いた。

包丁でーー
娘の可奈恵が、母の摩耶子を刺していた。

何度も、何度も

「しゅるるるるる・・・♡」
不気味な音を立てながら、可奈恵が包丁を舐めている。

「---か・・・かな・・・」
警察官ー
しかも、暗部と呼ばれる、決して表ざたにならないチームに
所属している光輝は”修羅場”と呼ばれる事柄も
何度も潜り抜けてきた。

しかしー
これはーー

「---ひっ!」
妻の摩耶子は、とっくに死んでいた。

可奈恵が父の方を振り返る。

「--おとうさん お・か・え・り♡」
母親の頭を踏みつけながら笑う可奈恵

「ーーな、何やってんだお前!」
光輝は叫んだ。

可奈恵は笑いながら答える。

「--お父さん、しつこいんだもん。
 いつまでも、いつまでも、追いかけてきてさ」

可奈恵がイライラした様子で言う。

「---な、何だって・・・?」

「---”俺”を追ってくるのをやめろって
 言ってるんだよ!」

可奈恵が突然大声で怒鳴り出した。

その言葉で、光輝はハッとする。

「まさか貴様ーー!
 貴様が室井か!」

凶悪犯罪者の室井ー。
光輝はここ半年、ずっと室井を追っていた。

入れ替わりの足跡をたどることで。

「---俺の邪魔をするとこうなるんだよ。
 妻を殺され、娘は俺に奪われた!
 くくく・・・どうだよ?
 真面目なこの子だって、
 こんな風に乱せるんだぜ! ははははははっ♡」

男を誘うような、いかにも不良そうな風貌に
なった可奈恵を光輝は見つける。

「---どうする?お父さん?
 俺を逮捕するか?」

可奈恵が挑発的に言う。

光輝は、携帯していた手錠を手に持つ。

「--でもよぉ?俺を今捕まえたら、
 たぶん、お前のところのお偉いさんは、
 この体ごと、俺を殺すぜ?」

可奈恵が胸を揉みながら笑う。

「----くっ」
光輝は動きを止める。

上層部の男、早川警視正の顔を思い浮かべる。

確かに
”あの男”なら確実にやるー。

娘ごと、室井を葬り去る。

”わたしは、秩序を守る為ならこの手を泥のように
 汚す覚悟だ”

以前、そう言っていた。

「---ふふ、馬鹿なおとうさん♡」
そう言うと、可奈恵は笑いながら玄関の方に向かう。

「待て!」
光輝が叫んだ。

だがー

「そろそろまた”引っ越す”からさ。
 ばいばい、おとうさん♡」

そう言うと、可奈恵はウインクしながら、
立ち去って行った。

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室井のアジトでは、
可奈恵が、菜月美の方を見て笑っていた。

「---どう?あんたの家庭、壊れちゃった!
 ふふふふふふ、見てたでしょ?」

菜月美の身体になった可奈恵が涙を流す。

母親が殺されたー
父親がーー

「うっ・・・うっ…ひどい…」
菜月美の身体で泣きじゃくる可奈恵。

「---イイ・・・イイよ可奈恵ちゃん!」
凶悪犯罪者室井が憑依する可奈恵が表情をゆがめた。

「自分の身体で好き放題されている姿を見せつけられて
 絶望しているその顔ーーー・・・
 最高だよ・・・ゾクゾクするよ・・・
 ふふふふふ、ははははははははは」

可奈恵が狂ったように飛び跳ねながら笑っている。

「ど・・・どうしてこんなことするの・・・!」
菜月美になった可奈恵は叫ぶ。

「どうして?
 決まってるだろ?
 一度きりの人生、本能の赴くままに生きなきゃ、
 勿体ないだろ!?

 世間体なんてくだらねぇ!
 俺は俺のしたいことをして生きる!」

その時、布に包まれた少女の身体が
運ばれていくのが目に入った。

「---ふん」
可奈恵は笑う。

あれはーー
”江麻”と呼ばれる少女の身体だー。

菜月美の精神が入っている江麻の体ー。

入れ替わり終えた体を、室井は時々、部下たちに”プレゼント”する。

江麻の身体は散々遊ばれた挙句、
冷たくなってしまったようだ。

「ククク・・・
 次はお前の番かなぁ?」

可奈恵は不気味にほほ笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---あぐっ・・・」

翌日の夜・・・
路上で可奈恵が、デートに向かう途中の女子大生に
キスをしたー。

倒れる可奈恵。

「---ふふ・・・♡
 わたしったら彼氏のためにおしゃれしちゃって・・・」

女子大生・里音(りおん)が微笑んだ。

「捕まえられるものなら、捕まえてみろぉ・・・
 ひひひひひひ、はははははははっ!」

里音は早速、部下たちに連絡して
可奈恵の体を回収させた。

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可奈恵の身体になった女子大生の里音。

菜月美の身体になった、警察官の娘、可奈恵。

そしてーー
室井に支配されている女子大生の里音。

「----ふふふふ♡」
里音になった女子大生は満足そうに微笑んだ。

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”ア ジ ト は こ こ”

早川警視正のもとに、
特殊な通信が送られてきた。

「----ほう」
そこには、室井のアジトの位置が記されていた。

”女子大生”の里音は、
早川警視正が用意した潜入捜査官だ。

室井が、光輝の娘、可奈恵を乗っ取ったことを
察した早川警視正は、美貌を持つ部下を、
送り込んだ。

室井の入れ替わりの対象にされれば、
必ず拉致されて、アジトにつれて行かれると、
計算してー。

「---室井・・・終わりだ」
早川警視正は”洗浄”することを決意した。

「--この世の秩序を保つためだー」

アジトに居る”全員”を跡形もなく消し去る。
この世の秩序を維持するためにー。

③へ続く

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次回で最終回です!
入れ替わられてしまった少女たちごと、
凶悪犯の室井を消し去るつもりのようですが、
その結末は明日のお楽しみデス。

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