<憑依>今からでも償えますか?②~後悔~(完)

己の欲望のために憑依薬を使い、
美少女の人生を奪った男ー。

しかし、その身体で生活していくうちに、
彼は次第に”後悔”を覚え始めるー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

”美空が美空であること”ー
それを維持するには、想像以上に大変だったー。

美空に憑依してから、美空として周囲の話を
色々聞く限り、美空は周りからとても信頼されていて、
優しくて、しっかりした子だったことが、
イヤと言うほど分かったー。

どんな時でも、誰にでも優しい真面目な子ー。
それが、美空だー。

が、美空に憑依した俊吾は
そんなにできた人間ではないー。

イライラすることもあるし、
気分屋気味なところもあるし、
そもそも何事に対してもいい加減だー。

先日も、友達からあまりにも色々頼りにされたり、
色々聞かれたりしているうちに
思わず”うるさい!”と机を叩きそうになったー。

寸前のところで抑えたものの、
その日は家に帰ってからも、ずっとイライラしたままの状態が
続いてしまったー。

「ーーはぁ…柚木 美空をやるのって大変だなー」
帰宅した美空はそう言葉を口にするー。

相変わらず表向きは”記憶喪失”の状態を装っているままー。
乗っ取った美空の”これまでの人生”が分からない以上ー、
記憶喪失を装えるような、憑依時の反応が出たのは、
幸いだったー。

「ーーー……ーーー」
ふと、友達からメッセージがスマホに届いているのを見て、
美空は「面倒くせぇなー」と、そう言葉を口にしながら
頬杖をつきながらスマホを見つめるー。

「ーーー」
出来る限り、”元の美空”に似た感じのメッセージを
送れるようにと、過去のメッセージの履歴を確認すると、
そこにも、美空の人柄が伝わってくるような
優しくてー、丁寧で、思いやりに満ち溢れたメッセージの
数々が残されていたー

「マジかよー…」
美空は頭を抱えるー。

「俺にはとても無理だー」

そう思うと同時に、
「こいつー…本当に優しいんだなー」と、
鏡に映る美空を見つめながら、
罪悪感のようなものを改めて、強く感じるー。

「ーーーーーー」
チラッと机のほうを見つめる美空ー。

とっくに社会人になっている俊吾でも、
改めて高校の授業を受けて見ると
意外と難しかったー。

けれど、美空はそんな勉強にも一生懸命で、
かなり”いい成績”だったようだー。

何もかもしっかりこなしている美空のことを思いながら、
美空を乗っ取った俊吾はー、
「お前ー…滅茶苦茶頑張ってたんだなー…
 クソみたいな俺とは違ってー」
と、静かにそう言葉を口にしたー。

とてもじゃないが、真似できない、と、
俊吾は素直にそう思ったー。

「ーーーー……」
美空は鏡を見つめながらどこか暗い表情を浮かべると、
「ーー悪かったー」と、静かにそう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

美空としての生活を続ける俊吾ー。

だんだんと、美空の身体に憑依したばかりの頃のような
ゾクゾクが少しずつ失われていくー。
もちろん、胸を揉めば興奮するし、
鏡で自分の姿を見ればドキドキもするし、
お風呂に入ればもっとドキドキするー。

けれど、だんだんと”乗っ取った身体”ではなく、
自分の身体という感覚になってきて
最初のような新鮮味や、驚きはなくなってきてしまったー。

「ーーーーチッー」
ベッドに寝転びながら、片手で胸を揉んでいたものの、
それに飽きて舌打ちをする美空ー。

周囲は、”記憶喪失”ということになっている美空のことを
未だに心配し続けてくれているー。

そんな状況が続けば続くほど、
さらに罪悪感が蓄積されていくー。

「ーーーーーごめんなー」
この日も、美空は鏡を見つめながら
そう言葉を口にしたー。

”本来の美空”に謝らずにはいられなかったー。

どうして、こんな気持ちになったのかは分からないー。

いい加減に生きてきた俊吾ー。
人の身体を奪うことを何とも思わなった俊吾ー。
けれど、今は正直後悔しているー。

美空になってみて、
”美少女だから、美空みたいになれる”と、いうわけではないー
ということを彼は知ってしまったー。

少なくとも、俊吾には真似できないような努力を
美空はしていたー。
俊吾からしてみれば”こんな生活は続けられない”と思うほどにー。

そして、そんな美空の人柄は、周囲に多くの人をひきつけ、
両親や友達、色々な人たち美空のことを心配してくれていたー。

そんな光景を目の当たりにしてー、
”こいつに身体を返してやりたい”と、そんな風に思ったー。

自分自身が美空として生きることを面倒に思うようになったー…
のかもしれない。

ただ、それだけではなく、
”こんなに頑張ったこいつの人生を奪うなんて、俺は何てヤロウだ…”
と、そう思うようにもなっていたー。

「ーーーーくそっー」

自分が”美空”になって、美少女になったから
気持ちに余裕が生まれて、
そういうことまで考えられるようになったー…のかもしれない。

けれど、いずれにせよ、今の俊吾は、
”美空に憑依している俊吾”は、
美空に対する罪悪感でいっぱいだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーお問い合わせをしたいのですが」
美空はそう言葉を口にすると、スマホを手に
”憑依薬の販売元”に対して電話をかけていたー。

「”この身体”を返すことはできますか?」
憑依薬を購入して、憑依した人物であることを告げた上で
相手にそう言葉を口にすると、
相手は静かにため息をついてから、言葉を口にしたー。

”残念ですが、僕の売る憑依薬は
 ”一方通行”ー。
 一度憑依した身体から出ることはできませんー。

 憑依の際に、あなたの肉体は消滅した。
 あなたはもう、その身体と完全に同化して、
 その子そのものになったー。”

憑依薬を売る男はそう言葉を口にすると、
美空は泣きそうになりながら
「で、でも、返してあげたいんですー」と、
今一度そう言葉を口にするー。

”ー残念ですが、無理です。
 後からそのように後悔するのであれば
 あなたは先に気付くべきだった”

男の言葉に、美空はスマホをぎゅっと握りしめるー。

その上で、
「そ、そうだー…こ、この身体で憑依薬を飲めば、
 俺がこの身体から抜け出して
 本人に身体を返すことができるんじゃー!?」と、
希望に満ち溢れた声でそう言い放つー。

けれどー…
それも”ダメ”だったー。

”残念ながら乗っ取ったその身体で憑依薬を飲めば、
 最初にあなたが憑依薬を飲んだ時のように
 その身体が消滅するー”

憑依薬を売る男は淡々とそう言葉を口にするー。

その上で
”残念ですが、いかなる方法においても、
 その身体の元の持ち主に身体を返すことができません。
 その身体に憑依した時点で、その身体はあなたのものとなった。
 元々いた精神は心の奥底に封印されて…

 そう、”つぶれた”とでも言いましょうかー。
 ですから、もう、元に戻ることはないのです”と、
そんな言葉を続けたー。

「ーーー~~~~~~~…」
悲しそうな表情を浮かべて放心状態、と言わんばかりの
表情を浮かべる美空ー。

「ーーーー」
目から涙が溢れ出してくるー。
”泣く”などということはまずなかった俊吾ー。

美空の身体の涙腺が脆いのか、
あるいはー、涙を流すほどに俊吾自身、
悲しんでいるのかー。

「ーー」
なかなか止まらない涙を、何とか堪えながら
美空は言葉を振り絞るようにして、
電話相手の”憑依薬を売る男”に対して言葉を口にするー

「ーー今からでも、”償う”ことはできますかー?」
とー。

”ーーーーーーー”
電話相手の男は少しの間、沈黙するー。

その上で、口を開いたー。

”あなたが本人にしたことは、取り返しがつかない。
 仮に本人の意識はまだどこかにあるのだとすれば、
 本人はあなたのことを永遠に許さないでしょうー”

とー。

その言葉を聞いた美空に憑依している俊吾は
”分かってるよー…そんなことはー”と
内心で呟きながらスマホを握りしめるー。

仮に、自分が反対の立場だったとしたらー、
当然、”自分の人生を奪った相手”のことを
許すことなどできないし、そんなことは分かっているー

けれどー…

「ーーー毎日が、辛いんだー」
美空として喋るのではなく、中身の俊吾として
そう言葉を振り絞ると、
”憑依薬を売る男”は、淡々と答えたー。

”それが、他人の身体を奪ったあなたが背負うべき罪ー。”
とー。

「ーーー……っー」
美空は心を抉られるようなショックを受けながら、
スマホにさらに力を込めるー

「ーーーーー……すまなかったー」
言葉を吐き出すようにそう呟く美空に憑依した俊吾ー。

が、”憑依薬を売る男”は少し呆れたように笑うと、
”僕に謝られてもー。”と、それだけ呟くー。

確かにそうだー。
この男に謝っても何にもならないー。

それでも、美空に憑依した俊吾はー、
私利私欲のために、こんなに一生懸命頑張っていた子の
身体を乗っ取ってしまったことを、
今になって強く、強く、後悔していたー。

”ーーーーーー”
そんな、心の底からの後悔が、
ほんのちょっとだけー、憑依薬を売る男にも届いたのだろうかー。

”ーあなたが今からでも償うことができるとすればー…
 それはーーー”

憑依薬を売る男は、そう言葉を口にすると、
美空に憑依している俊吾は、スマホを握りしめながら、
その男の言葉を食い入るように聞き始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーうん!それはね~こうやって~…
 うん、それでいいと思うー」

それから半月ー。
学校では”いつものように”優しい美空の姿があったー。

友達から頼りにされた美空は、
面倒臭そうな表情を微塵も見せることなく、
笑顔でそれに応じるー

そして、自分自身も一生懸命ー、
誰からも見えない場所であっても、とにかくひたすらに勉強を続けて
成績上位を維持していたー。

表向きは”記憶喪失”として、周囲は美空に接していたー。

けれど、本当は”憑依された”美空は
どうしても本来の美空とは違う部分も多かったし、
周囲は違和感を感じていた。

でも…ここ最近は違う。

クラスメイトたちも、先生たちまでもが、
美空が元の自分を取り戻しつつあるー、
”失われた記憶を取り戻しつつある”と、
そう喜んでいたー。

「ーーーただいま」
帰宅した美空が、母・麗子に向かってそう言葉を口にするー。

「おかえりなさいー」
母・麗子は穏やかな表情で娘の美空を出迎えると、
美空は「あ、そうだ”ママ”ー今度学校で~」と、
学校の話を口にし始めるー。

母・麗子のことを”ママ”と呼ぶ美空ー。

俊吾に憑依された後の美空は
母親のことを”お母さん”と呼んでいたー。
俊吾自身、元々美空が母親をどう呼んでいたか
知らなかったからだー。

母・麗子もそんな呼ばれ方をして、
”記憶喪失だから仕方ない”とは思いつつも
心を痛めていた。

けれど、少し前から美空は母親のことを”ママ”と呼ぶようになったー。

「ーーー美空ー。
 記憶ー…だいぶ、思い出したみたいねー」
母・麗子が穏やかな表情で微笑むと、
美空は「ーーうん。全部じゃないけど、ほとんどー」と、
そう言葉を返したー。

麗子は「よかったー」と、それだけ言葉を口にすると、
美空も静かに微笑みながら、自分の部屋へと向かって行くー。

そして、自分の部屋に到着した美空は、
鏡を見つめながら、
少しだけ溜息を吐き出すー。

”憑依薬を売る男”から、あの時言われた言葉を思い出しながらー。

”ーあなたが今からでも償うことができるとすればー…
 それはーーー
 …あなたが奪ったその人生を壊さないよう、
 死に物狂いで生きることです。”

憑依薬を売る男はそう言ったー。

”美空”になりきって、周囲からの美空のイメージを壊さないように
美空として生き続けるのだと。

それが、今からできる数少ない償いであるとー。

”そんなことが、償いにー?”
美空に憑依している俊吾がそう聞くと、
憑依薬を売る男は頷いたー。

”あなたは永遠に苦しむかもしれません。
 しかし、あなたが柚木 美空として生き続ければ
 少なくともその子の周りの人間が悲しむことは無くなるー。

 本人も、奪われた自分の人生を滅茶苦茶にされたり、
 すぐにでも終わりにされたら余計に腹立つでしょうし、
 親や友達は悲しませたくないでしょうー。

 だから、あなたはこの先永遠に他人の人生を奪ったこと、
 そして周囲を騙し続けることに対する罪悪感に苦しみながら
 柚木 美空として生きていくー。

 それが、あなたが償いという名の罰を受け、
 そして、悲しむ人をこれ以上増やさないための唯一の方法です”

憑依薬を売る男は、あの日、
そう言ったー。

「ーーーーーーーー」
美空に憑依している俊吾は、あの日から
”自分であること”を捨てたー。

”柚木 美空”として生きるためー、
スマホ内に残された友達や家族とのメッセージのやり取りまで
全て分析して、
そして勉強も死に物狂いで始めたー。

許して貰えるとは思っていないー。
でも、これが”今からでも償える方法”だと、彼は信じて
今日も「わたしは柚木 美空ー」と、自分に言い聞かせながら
罪悪感を背負い、生きていくのだったー…。

おわり

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コメント

憑依した後に罪悪感を感じちゃうタイプのお話でした~…★!

後から気付いても、身体を返すことが出来ないタイプだと
どうにもならないですネ~…!

お読み下さり、ありがとうございました~!★

「今からでも償えますか?」目次

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