彼はー、”節約のため”だけに憑依を行っていたー。
周囲から”ケチ”と言われても、”せこい”と言われても、
ひたすらに節約を追求する彼の憑依は、
今日も続いていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーなんだそりゃー?」
将介の友人・守亮が
大学の食堂で白飯を食べている将介に対して
そう言葉を口にするー。
将介は、そんな守亮に気付くと
少しだけ笑ってから
「見りゃ分かるだろ?白飯だよ」と、
そう言葉を口にするー。
「いやまぁ、そりゃそうだけどさー
それ、昼メシ?」
守亮が困惑しながら言うと、
将介は「まぁなー。喰ってるだけマシだろ。
昨日と一昨日は昼間、何も喰ってないし」と、
そう淡々と言葉を口にするー。
「は、ははー…まぁ、そりゃそうかー…?」
将介と話していると、
”白飯だけでもいいのか?”と、こっちまで
変な気分になってきてしまうー。
守亮はそんな風に思いながら、
「ーーーそういや、お前の電気代とか水道代もヤバそうだよなー
逆の意味でー」と、苦笑いしながらそう言葉を口にするー。
通常ー、電気代や水道代が”ヤバい”と言えば
それは、”高すぎる”ことを示す場合がほとんど。
けれど、今、守亮が将介に聞いているのは
”節約しすぎてあり得ないぐらい安くなってそうだよな”と、
いう意味での”ヤバい”だったー。
「ーーあ~~俺、自宅の電気ほとんど使わないからなぁ」
将介がそう言葉を口にすると、
守亮は心底驚いた様子で「はぁ!?」と、そう言葉を口にしたー。
それもそのはずー…
将介は帰宅するとすぐに”憑依能力”を使い、
幽体離脱をするー。
この日は、将介が定期的に憑依している中では
数少ない”男”のターゲットに憑依した将介ー。
20代後半のフリーター男で、一人暮らし、
夜は確実に家にいるために、使いやすいー。
「ーおっ!!!新作買ってんじゃん!」
フリーター男に憑依した将介は、
その男が、前に遊んだゲームの最新作を買ったらしく
家の棚にそれが増えていたのを確認すると
嬉しそうにそう声をあげたー。
もちろん”前作”を遊んだのも
他人の身体、他人の家で、だー。
このゲームを遊ぶのに、将介自身は
1円たりともお金をかけてはいないー。
「ーーへへーじゃあ早速ー」
フリーター男に憑依した将介はそう言葉を口にすると、
そのまま新作ゲームを他人の身体で遊び始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーふぅー」
数日後ー。
将介は、一人暮らしのOL・雅恵(まさえ)の身体で
のんびりと過ごしていたー。
この雅恵は、会社が超ホワイト企業なのか、
必ず定時に帰宅するかつ、
一人暮らしであるために”節約のための憑依”をしやすいー。
それが、雅恵に憑依している理由だー。
雅恵自身、大学時代は美貌を競うイベントで
優勝したことがあるような経験の持ち主で、
今もかなりの美人であるものの、
雅恵に憑依した将介は、
そんなことに興味がないかのように
スマホを眺めていたー。
「ーーははー」
好きな動画を見ながらひとりで笑う雅恵ー。
将介自身ー、”恋愛”には全く興味がないー。
何故なら、”金がかかる”からだー。
超がつくほどケチな将介からしてみれば
恋愛も”無駄金”でしかない。
恋愛などすれば、将介にとっては耐えがたいほどの
出費が増えることになるー。
それ故に将介は既に”生涯独身”を自分の中で決めていたし、
恋愛をするつもりも、彼女を作るつもりもなかったー。
以前、友人の守亮に対しても、
「性欲は金の無駄だ」と、そう断言していて、
恋愛しないし、そういうお店に行くことも一切ないし、
Hな動画を買ったり、作品を遊んだりすることもないー。
そもそも将介は、
一人でお楽しみもしない。
ゴミが増えたり、水道代が掛かったりするのは
金の無駄だからだー。
そんな生活を続けるうちに、なのか、
それとも”元々”なのか、
雅恵のような美人に憑依しても、
全く身体自体に興味を示すようなことはなかったー。
「ーっとー…」
スマホを眺めていた雅恵はスマホを一旦置くと、
そのままトイレへと向かって行くー。
勿論、欲望を楽しむためではない。
ただ単に、雅恵の身体がトイレに行きたくなっただけのことで、
それ以上の理由はない。
「ーーー」
慣れた動作で、”女”としてのトイレを済ませる雅恵ー。
トイレを済ませると、どこか男っぽい動きで
部屋に戻っていくと、
再びスマホを眺め始めたー。
全ては、そうー、”節約”のために。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから数日が経過したー。
今日も帰宅しながら、将介は
”節約のため”に憑依することを
考えていたー
「今日は茜にするかー。この前、漫画途中までで
終えたしー」
将介は今日は妹の茜に憑依することを決めて、
そう言葉を口にすると、
いつものように帰宅すると、
早速ベッドに横たわってそのまま幽体離脱、妹である茜に”憑依”したー。
「ーーぁ…」
ビクッと震える茜ー。
「ーいつもごめんな」
乗っ取った身体で悪事を働いたりしているわけではないし、
乗っ取った身体で勝手にHなことをしているわけでもないー。
とは言え、乗っ取られる側からしてみれば、
身体を勝手に使われる、ということは
やはり恐ろしいことでしかないのも確かだ。
将介も、それは分かっているのか
いつもそんな謝罪の言葉を口にしながら、
憑依することが多いー。
「おっ、あったあったー」
茜の身体でこの前、茜に憑依していた際に
”途中まで”読んだ漫画を嬉しそうに発見すると、
そのままそれを読み始めようとするー。
ふと、姿見で茜の姿を見つめると
「今日もおしゃれだなー…はは」と、
”ケチな自分とは大違いだ”と、自虐的に笑って見せるー。
お互い、実家にいた頃もよく
妹の茜からも”ケチ!”などと言われていたー。
そんなことを最近のことのように思い出しながら
少しだけ笑うと、
そのまま漫画を読み始めようとしたー。
がー
ガタッー
「ー!?」
漫画を読む体制に入っていた茜は
ハッとした様子で、部屋の外の方に視線を向けるー。
それもそのはずー、
”家の中”で、物音がしたのだー
「ーーーー…」
戸惑いの表情を浮かべながら持っていた漫画を置いて、
その音がした方向を見つめるー。
”茜のことは守らなくちゃいけないー”
そう思いつつ、部屋にあった重そうな本を手に、
いざとなったらそれで戦う覚悟を決める茜に憑依している将介ー。
茜とは特別仲良しなわけではないし、
会えば「ケチ!」といつも言われるような、
そんな間柄ではあるものの、
それでも兄と妹。
もしも何者かが侵入してきたのであれば、
代わりに撃退するぐらいのことはしてあげたかったー。
「ーー!!」
部屋から顔を出すと、トイレが流れる音が聞こえたー。
”誰かが勝手にトイレをー?”
と、そう思っていると、
そのトイレから、男が姿を現したー
「ーーえ…」
その男は辞書を持って、険しい表情をしている茜のほうを見て
不思議そうに「どうかしたのか?」と、そう言葉を口にするー。
がー、その男を見た茜に憑依している将介は
思わず声を上げたー。
「も、も、も、も、守亮!?!?」
とー。
そうー
何故か妹である茜の家に、将介の大学の友人である”守亮”の姿があったのだー。
「こ、こ、こ、ここで何をー!?」
”憑依能力”のことは誰にも言っていないー。
そのため、自分が将介であるようなことを
少しでも疑われるような言葉は口にするべきではなかったものの、
たまらず、そんな言葉を口にしてしまったー。
「ーーえ…な、何をってー…?」
守亮は戸惑いながら、そう言葉を口にすると、
「ーーで、デート?ーー…だよな?」と
守亮がそう言葉を返して来たー。
「で、で、で、デートぉ!?」
茜の身体で思わず裏返ったような変な声を出してしまう。
茜がこんなおかしな声を出すことができるのかと、
そんな意味でも感心してしまう。
「ーーあ、あ、茜ー…?」
守亮が戸惑いながら言うと、
「ーい、いや、おまっー…俺に内緒でー」
と、茜の身体でそこまで言葉を吐き出すと、
将介は首をぶんぶんと横に振って
自分の頬を何度か叩くー。
将介は”憑依した状態”で他人と会ったことがないー。
いつも、乗っ取った身体で、ただ単にスマホを見たり、
ゲームを遊んだり、のんびりしたり、そういったことしか
してこなかったため、こうして
”自分の身体ではない身体”で、他人と会話をするのは
これが初めてだったー。
「~~~~~~…」
茜の身体で何度か深呼吸をすると、
大学での自分の友人ー、
いつも昼食にツッコミを入れて来る守亮が、
自分の妹の”彼女”であることに心底驚きと動揺のようなものを
感じながら、何て言っていいか分からず、
しばらく変なジェスチャーをしつつ、
発する言葉を必死に頭の中で考え始めるー。
「ーー…え、えっと~…あのね」
”乗っ取った身体でその本人のフリをする”
そんなことも、これが初めての経験だー。
とにかく、将介は”節約のため”にしか、
憑依を使って来なかったために、
他の憑依人たちが経験していそうなことを、
”まるで経験していない”状態であることも事実だった。
「ーー?」
妹・茜の”彼氏”だと思われる守亮が、困惑の表情を
浮かべながら茜のほうを見ているー。
守亮の立場になって考えて見れば、
もちろんそれも当然の反応と言える。
急に茜の振る舞いがおかしくなったわけだから、
それは勿論、戸惑っても仕方がないー。
「ーーあ、あのー…
俺ーいや、わたしと、つ、付き合ってるんだよねー?」
茜のフリをしながら、そう言葉を口にすると、
守亮は「ん?あ、あぁー…え…き、急にどうした?」と、
心底戸惑った表情を浮かべるー。
将介は、別に守亮のことは嫌いではないし、
ちゃんと友人だと思っているー。
が、”妹の彼氏”という目で見たことがないし、
親友が妹の彼氏となると、何だかとても複雑で
変な気分になってしまうー。
「ー俺ーいや、お、お兄ちゃんに…こ、このこと、
話したー?」
茜としてそう言葉を口にするー。
遠回しに”どうして俺に黙ってたんだ?”と、
そう確認する将介ー。
「ーーーお兄ちゃん?
え、茜、一人っ子だって…?」
守亮は戸惑いながらそう言ったー。
「え」
茜に憑依している将介も戸惑ってしまうー。
「ーーえ…え???
い、いやー、え、あの…」
茜の身体のまま、心底混乱する将介ー。
恐らくー、
”ケチすぎる”兄のことをイヤで、
彼氏である守亮に存在自体を隠していたのだろうー。
「わ、わ、わたしのお兄ちゃんー、
め、滅茶苦茶ケチでー」
茜がそう言うと、
守亮は「え…」と、そう言葉を口にしながら、
”迫田”という、そうたくさんいるわけではない名字を前に、
「ま、まさかー」と、声を上げるー。
勿論、守亮も茜と付き合う時に”迫田?アイツと同じだなー”と、
将介のことは思い出していた。
が、茜が一人っ子だと説明したために、”じゃあ違うか”と、
将介と茜は無関係だとそう思ってしまっていたー。
「ーーーえ、も、もしかして、
お兄さんって迫田 将介って名前?」
守亮がそう言うと、
茜に憑依している将介は「え、あ、うんー」と答えるー。
守亮は「そ、そっかー…あ、そうだー、急用を思い出したー」と、
そう言葉を口にして、慌てて帰る支度をし始めるー。
「ーーあ、え???帰る??」
茜に憑依している将介が困惑しながら言うも、
守亮は足早に家を飛び出してしまったー。
「ーーお、おいー…
はぁー、まぁ、いっかー」
茜に憑依している将介は困惑しながらも、
いつも通り、”節約のための憑依”を再開するー。
そしてーー
その数日後ー、
茜と守亮は別れたということを知ったー。
”彼女の兄が将介だと嫌なのか”
それとも単に気まずかっただけなのかは分からないー。
が、結果的に
妹にとっては彼氏だった守亮との絆を引き裂いてしまったこと、
もしかしたら守亮に”将介が彼女の兄だと嫌だ”と思われているかもしれないこと、
そして、妹の茜に存在をそもそも秘密にされていたことを知ってしまいー、
将介は少しだけ、ショックを受けるのだったー
おわり
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コメント
”節約”のために憑依を利用している男の物語でした~!
なんだか、変わった使い方ですネ~★!
お読み下さり、ありがとうございました~★
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