”魔王の息子”の肩書きで、
異世界ではやりたい放題をしてきた彼。
しかし、この世界にやってきたことで、
彼は変わっていくー。
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「我が息子、ルドラは
ドーラの禁忌の秘術によってその魂を異世界へと飛ばしたー」
魔王ゾルは、
三大幹部のバロ、セラの二人に向かってそう言葉を口にしたー。
「な、なんとー…それはどういうことですかな?」
世話役も務めるバロが戸惑いの表情を浮かべるー。
巫女服姿の女幹部・セラも「ーそれはつまりーー…?」と、
首を傾げているー。
「ーー我が秘術で、ルドラ様は魂だけの存在となって
異世界へとお飛びになられたー」
三大幹部の最後の一人、ドーラがそう言葉を口にすると、
魔王ゾルは頷くー。
「ーーーま、魔王様ー
ルドラ様は確かに横暴な振る舞いが目立ち、
将来の懸念もありますー。
ただー…それでもー」
バロが慌てた様子で言うと、
魔王ゾルは言ったー。
「ー慌てるなー。バロよ。
誰も、ルドラをこの世界から追放したとは言っていないー。
あくまでも、一時的なものだ」
とー。
「一時的?」
セラがそう言葉を口にすると、
ドーラが言葉を口にした。
「魔王様は、
ルドラ様の成長を願って、私に秘術の使用を命じたー。
ルドラ様は、異世界で色々な経験を積むことで、
成長されると、そう見込んでの判断だ」
魔王ゾルは、静かに頷くー。
ルドラが横暴な振る舞いをしていることは
父であるゾルも知っていたし、苦々しく思っていたー。
以前、”ルドラに逆らって消された同級生がいる”と、
ルドラや周囲の同級生たちは思っていたものの、
実際には、ルドラとトラブルを起こしてしまった相手の生徒の元を
魔王ゾルが自ら訪れて、頭を下げて謝罪した上で、
魔族たちの使う”お金”の支援ー、
そして、別の”ルドラと関わらずに済むもっと良い学校”への
転入の手続きなどを全て行い、
”ルドラから避難させていた”に過ぎないー。
このようにして、魔王ゾルは息子のルドラが
問題を起こすたびに、ルドラによって傷つけられた相手や
”父上に言いつけるぞ”などと脅されていた相手に
謝罪をし、助けるということを繰り返していたー。
それをルドラや周囲は”ルドラに逆らったから父親の魔王に消された”と
誤解していたに過ぎないー。
そんな生活を続けていれば、”愚かな息子”でも、
いつかは気づいてくれるー、そう思っていたものの、
ルドラはますます”僕には父上がいるから、最強なんだ”と、
歪んだ解釈をしてしまい、
父親である魔王ゾルの手にも負えない存在と
化してしまっていたー。
魔王ゾルは最終手段として、古の呪術書に記載されていた
”異世界へと魂を飛ばす”術を
配下である三大幹部の一人、ドーラに指示をして使用、
ルドラを異世界へと飛ばしたのだったー。
「ー此度の”異世界”での経験でルドラはきっと
大きく成長するだろうー
魔王の息子として、ふさわしい存在にー」
魔王ゾルはそう言葉を口にするー。
”僕は魔王の息子”、それが存在しない世界でー、
ルドラが何かを感じ取り、成長してほしいー。
それが、父としての切実な願いだったー。
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「ーーーな、何なのアイツー…?」
一方、魔物たちから見れば”異世界”である
この世界に飛ばされてしまった
ルドラは、美桜の身体で必死に勉強をしー、
必死にこの世界の振る舞いやルールを覚えて、
その生活を大きく変化させていたー。
授業中に、完璧に先生からの質問に答えて見せた美桜ー。
それを見ていたいじめっ子の姫香は、不満そうに
表情を歪めるー。
今まで、”できそこない”と見下していた存在が、
自分よりもはるかに優秀なー…
そんな振る舞いを見せ始めたことに姫香は苛立つー。
「ーーこの世界に父上はいないーーー
なら、僕はーー」
美桜に憑依しているルドラは、
いじめられている少女に憑依して
”僕は魔王の息子なんだぞ”が通用しないことを
嫌と言うほど理解してー、
”僕の力で生きて行かなきゃいけない”と、
そう思い始めていたー。
そして、理不尽ないじめを受けたことで、
自分の振る舞いを反省し、
それを改めることも学んだー。
生まれてからずっと”魔王の息子”というステータスに
守られてきたルドラ。
けれど、実際には、生まれてからずっと
それが付きまとう世界に生まれて、ルドラは
”魔王の息子”というステータスに守られていたのではなく、
蝕まれていたのかもしれない。
彼は、本来、努力すれば
”それが実る”だけの実力は兼ね備えた人物ー。
魔王がいない世界ー
僕の父上は魔王なんだぞ、が通用しない世界ー
そこに来て、やっと父・ゾルの望み通り、
彼は大きく成長することができたのかもしれない。
けれどー
「いい加減、ウザいんだけど」
いじめっ子のリーダー格・姫香が、
紗枝・由紀を引き連れて、
ルドラが憑依している美桜に牙を剥いたー。
”最初はただ、気に入らなかったー”
いつもおどおどして、大人しい雰囲気の美桜がー。
そんなある日、
姫香は別の女子生徒の私物に陰険なイタズラをしていて、
そのことを美桜に目撃されてしまったー。
勉強は不得意だけど、真面目な性格の美桜は
それを先生に伝え、姫香たちは指導を受けることになった。
その結果がー、これだ。
姫香たちは美桜を逆怨みして、いじめのターゲットに選ぶと
それ以降、しつこく美桜をいじめ続けたー。
「ーーー僕はもう、お前たちなんかに負けない!
負けてたまるか」
美桜は、そう言葉を口にすると、
髪を引っ張って来た紗枝の髪を逆に引っ張り返し、
反撃を受けて驚いた紗枝を壁に押し付けて、
「ーお前たちのしていることはーー
かつての僕と同じー…最低の行為だー」と、
そう言い放つー。
「ー訳わからないこと言ってんじゃないわよ!」
背後から、由紀が襲い掛かって来るー。
けれど、その由紀の攻撃を回避すると、
由紀は持っていた棒で、紗枝を叩いてしまい、
そのまま勢い余って躓いて転倒してしまうー。
しかしー…
美桜の思わぬ攻撃に腹を立てた姫香は、
”鋭いハサミ”を取り出したー。
家庭科の授業で使う、鋭い刃のハサミだー。
それを美桜に向かって容赦なく振りかぶって来るー。
「ーーうわっ!くそっー!
に、人間めー」
美桜は小声でそう言葉を口にするー。
何とか回避をするも、
次第に姫香に追い詰められていく美桜。
”ルドラ”には才能はあるー。
けれど、少し前から急にやる気を出しただけのルドラには
やはり限界はあるー。
しかも、今使っているのは”慣れない身体”だし、
美桜の身体自体、元々運動神経も鈍いほうであるために、
そう活発に動き回ることはできないー。
「ーーーーーっっ…」
やがて、壁際に追い詰められてしまった美桜は、
ハサミを向けられて、必死に身を守ろうとするも、
そのまま刺されてしまいそうになるー。
”ーーぐっ…ち、父上ー僕はーー…”
ルドラは、父・魔王ゾルのことを思い出すー。
”助けて父上”と、
この後に及んで、そう思ったわけではない。
”父上ー僕はーーどうしようもない息子だったー
僕はー魔王の息子失格だー”
と、そう思ったー。
願わくばー、”生まれ変わった自分”を、
考えを改めた自分を父上に見せたかった、とそう思ったー
けどーー
「ーーあんたなんか、死んじゃえ!」
姫香は邪悪な笑みを浮かべながら
ハサミを美桜に首筋に突き立てようとするー。
流石に、いじめっ子仲間の紗枝と由紀も
「ちょっと!?姫香!?」と、声を上げているものの、
”キレると止められない”姫香は止まる様子はないー。
死を覚悟する美桜に憑依したルドラ。
がー
「ーーぁ…」
ビクッと震える美桜ー。
同時に、紗枝と由紀もビクッと震えるー。
「ーーーえ…」
美桜が、そう言葉を口にすると、
姫香はハサミを投げ捨てて、笑みを浮かべたー。
「ールドラ様ー。
よく、頑張りましたなー」
とー。
「ーーえ…????…」
美桜が不思議そうに首を傾げるー。
すると、姫香は言ったー。
「バロですー。ルドラ様と同じように
この世界にやってきて、この者の身体を借りました」
姫香がそう言葉を口にすると、
由紀に憑依した魔術師・ドーラが”帰り道”となるゲートを魔術で開くー。
「ーールドラ様。ここから我らの世界にお帰りを」
由紀の言葉に、
紗枝に憑依したセラが言うー。
「わたしたちはルドラ様を助けに来ましたー」
とー。
あくまでも、”父・魔王ゾル”が、ドーラに頼んで
”成長のためにあえてこの世界に飛ばした”のではなく、
偶然の事故である風を装い、そう言葉を口にする紗枝に憑依したセラ。
「ーーー…み、みんなー…」
美桜に憑依した状態のルドラは、そう言葉を口にすると、
その場で突然、土下座の仕草をし始めた。
「ー!?」
姫香に憑依しているバロが少しだけ驚く。
「ーー僕は、魔王の息子だー」
向こうの世界で、散々喚き散らしていたその言葉を、
ルドラは今一度、美桜の身体でそう呟く。
「ーーただー、僕はその立場の使い方を間違っていたー。
すまないー」
そんな言葉に、
姫香に憑依しているバロ、由紀に憑依したドーラ、
紗枝に憑依したセラは少しだけ安堵の表情を浮かべる。
父・魔王ゾルの願いは、ルドラに届いたのだー。
「ーー……ルドラ様ー。
そういう言葉は、”自分の身体”で言うものですぞ?」
姫香に憑依しているバロが笑うと、
美桜に憑依しているルドラは「そうだな」と少しだけ笑って立ち上がるー。
ドーラが開いた、”元の世界へのゲート”を指差す
由紀に憑依したドーラ。
「ーこちらへ。これで元の世界に戻れます。
その際に、人間の身体からは分離しますので
ご安心を」
由紀に憑依したドーラの言葉に、
美桜に憑依したルドラは少しだけ考えるような表情を浮かべてから
立ち止まる。
「ーこの人間はー…いじめを受けているー
僕に何かできることはないか?」
と、そう呟くー。
バロは、憑依していた人間に配慮できるようになったルドラに感心すると、
「そこは、我らにお任せください」と、そう言葉を口にしたー。
”憑依されていた間の記憶”は、本人が怖がらないように補正されるー。
そしてーー
「ーーわかった」
ルドラは、安心した様子でゲートをくぐると、元の世界へと
戻っていくー。
美桜の身体は、異世界に飛ばず、そのままその場で気を失うー。
「ーさて…ーー
我々は一仕事しなければなりませんなー」
姫香に憑依しているバロたちは、
”お仕置き”をするためにもここにやってきていたー。
姫香、由紀、紗枝の記憶を補正して、
いじめていた罪悪感を強めー、
それを先生たちに自ら伝えて、
処罰を受けるようにー。
そう、仕向けたのだったー。
この先、彼女たちは罪悪感に当面の間、苦しむことになる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
元の世界に戻ったルドラは、
今までの行動の非を詫び、
父親である魔王ゾルにも謝罪したー。
その意を受けた魔王ゾルは、
魔物たちに対する謝罪の機会をルドラに与えたー。
「僕は魔王の息子だー。
僕の父上は、魔王ゾルだー。
でも、僕はその息子にふさわしい振る舞いが
できていなかったー。
自分一人じゃ何もできないのにー、
何の才もないのに、
魔王の息子という肩書きに溺れた愚か者になってしまっていたー」
ルドラはそう言葉を口にすると、
大勢の魔族が見つめる中、改めて謝罪をしたー。
「本当に、すまなかったー。
僕は、これから魔王の息子として、
少しでも父上に追い付けるように、
精進していくことを約束するー。
まだまだ、愚かな面を見せることもたくさんあると思うー。
けれど、どうか、許してほしいー」
ルドラの言葉に、
魔王配下の三大幹部、バロ・ドーラ・セラの三人も、
安堵の表情で見つめるー。
「ルドラ様も、いい感じになってきたじゃない」
セラがそう言葉を口にすると、
バロは少しだけ笑いながら言ったー。
「でも、まだまだこれからが大事ですぞー」
とー。
”また”この世界に戻って来てしばらくしたら、
前のようなルドラ様に戻ってしまうこともあるかもしれない、と、
そう呟くバロ。
「ーそうならぬように、我らがお支えしなくてはな」
魔術師のドーラがそう言葉を口にすると、
バロは「そうですなー」と、静かに言葉を口にしながら、
すがすがしい表情で謝罪を終えたルドラのほうを見つめるのだったー。
おわり
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コメント
魔王の息子がちゃんと改心する結末でした~~!★
元の世界に戻って、またワガママ放題にならなければ、
良い後継者になることができそうですネ~!
お読み下さり、ありがとうございました★!
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