いつも優しい担任の先生ー。
しかし、彼女の教え子の一人はある日、目撃してしまったー。
”先生の中から男が出て来る”
そんな、場面をー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とある教室ー。
ランドセルを背負った子供たちが、
今日も元気に登校してくると、
それぞれ、仲良しの友達と雑談を始めるー。
「ーー昨日の夜さ~、オバケが出ちゃってさ~」
そんな言葉を口にするのは、
少し小太りな雰囲気の男子生徒・緒方 翔太(おがた しょうた)ー。
昨日の夜に、家の中でオバケが出たのだと言うー。
が、周囲の子たちはそんな彼の言葉を
真に受けていないー
「でたよー緒方の嘘ー」
男子の一人が、そう言葉を口にすると、
「緒方の話、嘘ばっかだもんな!」と、
別の男子が笑いながら言うー。
緒方 翔太は”嘘つき”だー。
口から出る言葉の9割が嘘と言ってもいいー。
周囲の気を引きたいのか、
とにかく彼は嘘ばかりをつき、
最近では、周囲からも”緒方のいうことは嘘だからー”と、
それが”常識”かのように言われていたー。
「ーーあ、そうだ!
実は俺の伯父さん、有名人でさ~!」
また適当なことを言い出す翔太ー。
「はいはいはいはいー」
周囲の子たちはそう言葉を口にすると、
チャイムが鳴り響き、子供たちは自分の座席に
それぞれ戻って行くー。
「ーねぇねぇ、緒方くんー
嘘ばっかりつくのやめた方がいいよー?」
翔太の隣の座席の女子・森田 菜緒(もりた なお)が、
そう言葉を口にするも、
翔太は「えへへー引っかかる方が悪いんだよー」と、
全く悪びれる様子もなく、そう返事を返したー。
呆れ顔の菜緒ー。
やがてー、
このクラスー…2組の担任の先生である、
橋口 京香(はしぐち きょうか)先生がやってくるー。
「ーーみんな~おはよ~」
まだ20代の若い先生で、とても優しいことから、
子供たちからも慕われている人気の先生だー。
「ー先生~!また緒方が嘘をついて~!」
「ーつ、ついてねぇし!」
そんな言葉が子供たちから飛び交い、
京香は笑いながら「ーそうなの~?」と、そう言葉を口にするー。
「ーーた、大した嘘じゃないし!」
嘘をついたことを認めながらも、
反省する素振りを見せない翔太に、苦笑いしつつも、
京香はいつものように、朝の学活を進めていくー。
「ーあ、それと、今日は4時間目の授業の時に
今度の遠足の班を決めるから、よろしくね~」
そんなことを口にしながら、
今日も”いつものような1日”が始まっていくはずだったー。
しかしーーーー
”彼”は見てしまったーーーー
「ーーんだよー…?
学校にいる時間は連絡するなって言っただろー?
緊急かー?」
イタズラ好きでもある翔太は、
休み時間に、今日は、5年生が遠足でいないために
5年生の教室がある廊下をウロウロしながら
”何かイタズラしようと”考えていたー。
今日、このあたりには誰もいないー。
なんとなく、そんな空間が好きで翔太は
そこをウロウロしていたのだー。
がー、その最中、
聞き覚えのある声が聞こえて、
翔太は困惑していたー。
担任の京香ーー…
橋口先生が、”いつもとはまるで違う喋り方”で
誰かと話していたのだー
「ーーはぁ?
知るかよー何でお前のミスを”俺”が尻ぬぐい
しなくちゃいけねぇんだよー
それに、俺は先生やってるんだぞ?
そんな暇、あるわけねぇだろうがー」
京香が荒い口調で、誰かと電話をしているー
”え…先生、あんなに怒ってー…”
翔太は少し驚きながらも、
好奇心からか、そーっと、空き教室の中を見つめるー。
するとーー
次の瞬間、”信じられない光景”が目に入って来たー。
京香が、自分の頭を突然かきむしるような仕草をすると、
頭がペロッとめくれてー、
その中から見たことのない恐ろしい形相の男の顔が出て来たのだー
「ーーひっ…!?」
翔太は思わず声を漏らしてしまいそうになり、
そのまま咄嗟に壁に身を隠すー。
”ーーおい、お互いに自分のことは自分でどうにかする約束だろ?
大体、なんでそんなヘマしやがったんだー?
せっかく手に入れた新しい人生を、壊す気か!?”
担任の京香ー…ではなく、恐ろしい男の声が響き渡るー
「ーーせ…先生ー…」
翔太はその空き教室に足を踏み入れないようにしつつ、
後ずさりしていくと、「先生は…怪物だー…」と、そう言葉を口にするー。
担任の橋口先生の頭が割れて、その中から
知らない男が出て来たー…
事情を何も知らない翔太からすればー、
”先生は怪物だ”と、そう思ってしまうのも無理はなかったー。
半分パニックになって、自分の教室に駆け込む翔太ー。
翔太が教室に青ざめた様子で駆け込むと、
「ーみ、み、みんなー…せ、せ、せ、先生はー
橋口先生は怪物だ!」と、そう叫ぶー。
「はぁ?」
教室にいたクラスメイトの男子の一人が、
うんざりとした様子で表情を歪めるー。
「ーおいおい、またかよ緒方ー
今朝もオバケがどうこう言ってたばっかりなのにー」
男子の一人が呆れ顔で言うと、
「ち、違うんだー!」と、翔太は青ざめたまま叫ぶー。
「お、お、俺、見たんだー!」
「見たって何を?」
別の男子が、話を聞く前から”どうせ嘘だろ?”と
言わんばかりの呆れ顔でそう返事をすると、
翔太はなおも続けるー。
「ーー…せ、先生がー、橋口先生が
自分のこと”俺”とか言っててー、
橋口先生の中から知らない男の人が出て来るのをー!」
とー。
「ーーーーー」
それを聞いた翔太のクラスメイトたちは顔を見合わせて爆笑したー。
「ーあははは!出たよ、緒方の嘘ー!
っていうか、どんどん嘘、下手になってね?」
男子の一人が笑うー
「先生の中から男の人が出てきたってなんだよー?
そんなことあるわけねー!」
別の男子もゲラゲラと笑うー。
「ち、ち、違うんだ!ほ、ホントに、ホントに見たんだ!」
翔太がそう騒ぐも「はいはい」と、周囲からは
呆れ顔で、そんな反応をされてしまい、
誰一人として翔太の言葉を信じる者はいなかった。
「ーー本当なんだよ!信じてくれよー!」
翔太はなおも、隣の座席にいる菜緒にそう言葉を口にすると、
菜緒は困惑の表情を浮かべながら
「そんなこと、あるわけないでしょ」と、言葉を口にするー。
菜緒はクラスでも真面目な子で、優等生だー。
先生からもよく褒められているような、そんなタイプの子だー。
翔太は、その菜緒に対して言うー。
「じ、じゃあ、森田さん、一緒に見に来てくれよ」
とー。
「ーーえ~…?」
菜緒は、困惑の表情を浮かべるー。
翔太も、自分自身が”嘘つき”なことは自覚しているー。
そのせいで、信じてもらうことが出来ない状況であることも
分かっているー。
だからこそ、クラスでも優等生な菜緒にお願いしているのだー。
自分がダメでも、菜緒が見たと言えばみんな信じるー、と、そう思ってー。
「ーーーー…じ、じゃあー…」
菜緒は、ため息を吐き出しながら、翔太と一緒に教室の外に出るー。
「ーーどこで、見たの?」
菜緒が言うと、翔太は
「今日、5年生、遠足だろー?そこの教室で見たんだー」と、
そう言い放つー。
菜緒は”そんなこと、絶対あり得ないよー”と、
思いつつも、優しすぎる性格故か、
翔太の話に付き合い、そのまま翔太に案内されて
5年生の教室がある方向に向かおうとするー。
しかしー、
その時だったー。
「ーあらー、緒方くんー、森田さんー
どうかしたのー?」
5年生の教室がある方向に向かう途中ー…
そっちの方向から戻ってきた
担任の京香ー…橋口先生と鉢合わせしてしまったー。
「ーーーぁ……」
ガクガクと震える翔太ー。
「ーーほら~…やっぱり先生、いつも通りじゃんー」
菜緒は、呆れ顔で翔太に対して小声で口にすると、
何の疑いも持たずに「ー緒方くんが、先生は怪物だ!!って
教室で騒いでたのでー」と、苦笑いするー。
「ーー先生が怪物?」
京香は一瞬だけ表情を曇らせるー。
が、すぐに「緒方くんってばー、嘘でみんなを困らせちゃだめでしょ?」と、
笑いながら”先生”としてそう言葉を口にすると、
翔太は「お、俺は騙されないぞー!お前は先生の皮を被った怪物だ!」
と、そんな風に叫ぶー
「あらあらー」
京香は”先生”として微笑みながら、一瞬、背後を向くと
恐ろしい形相で「クソガキがー…」と、小声で言葉を口にするー。
「ーー先生?」
不安そうな表情を浮かべる菜緒ー。
すぐに”先生”として穏やかな笑顔で
再び二人のほうを向くと、
「ーー緒方くんー、落ち着いてー。
先生は怪物なんかじゃないからー」
と、そう言葉を口にするー
それでも、疑いの眼差しを向ける翔太ー。
「嘘だ!俺は見たんだ!
先生の中から知らない男の人が出て来るのをー!
すっごい怖そうな人が出て来るのをー!」
そう叫ぶ翔太ー。
が、隣にいた菜緒は
「そんなこと、あるわけないじゃんー」と、
困り果てた表情を浮かべながら、
翔太の言葉に反論するー。
「ー俺は見たんだ!絶対に、見たんだー」
翔太がそう叫ぶのを見て
”京香”を乗っ取っている男は、心の中で呟くー
”チッー、このガキー
俺がさっき電話してるところを見たってことかー?
くそっー、真壁(まかべ)のやつが
この時間に電話してくるから、こんなことになるんだー”
そう心の中で呟きながらも、
京香を乗っ取っている男は、すぐに続けてこうも考えるー。
”ま、でもー……こいつはいつも嘘ばっかりついていて
すっかり周りからも呆れられてるからなー
どんなに騒いだところで、誰も信じないだろうし、
こいつも諦めるだろー”
そんな風に考えると、
京香としてにっこり微笑むと、
「ほら、緒方くんー次の授業が始まっちゃうよー?
教室に戻りましょ?」と、いつものように先生として
言葉を口にするー。
「ーー化け物の言うことなんて信じるものか!」
翔太は、そう言い放つー。
「ーお前は先生じゃない!本物の先生はどこだ!」
翔太はなおもそう続けたー
「ーーん…?」
京香は少しだけ表情を歪めるー。
たった今、翔太が口にした
”本物の先生はどこだ!”という言葉が
引っかかったのだー。
「ーーーー」
そして、少しの間考えると
”なるほどなー”と、心の中で呟くー。
”こんなガキに、この先生を”皮にして”乗っ取ってるなんてこと、
想像もできねぇだろうしなー
つまりは、俺のことを”偽物の先生”だと勘違いしていて
本物はどこか別にいる、と、そう思っているというわけだー”
内心でそう分析した男は少しだけ笑うと、
”いざとなった時には、何とでも誤魔化せそうだなー”と、
やはりこんな子供、恐れる必要はない、と
内心で余裕の笑みを浮かべるー。
「ーー緒方くんー、偽物の先生なんているわけないでしょ?
テレビとかゲームじゃないんだからー」
”先生”として諭すような口調でそう言い放つ京香ー
「そうだよー…戻ろう」
菜緒も、呆れ顔でそう呟くと、翔太は
二人に押されるような形で、渋々と教室に戻り始めるのだったー。
教室に戻り、次の授業が始まっても
翔太は「みんな!橋口先生は怪物なんだ!ここにいる橋口先生は
本物じゃないんだ!」と、何度も何度も、周囲にそう伝えようとしたー。
がー、周囲のクラスメイトたちはそんな翔太の言葉を
失笑したー。
”また緒方の嘘だよ”
”いい加減にしなよ”
”お前うるせーよ”
そんな声が教室内に飛び交ったー。
やがて、翔太の言葉は”嘘”として、封じ込められて
授業はいつも通り進んで行くー。
いつも、嘘ばかりついている翔太ー。
自業自得と言えば、自業自得な結末だー。
しかしー、それでも翔太は諦めなかったー。
「くそっー俺は本当に見たんだ!
今の橋口先生は怪物なんだ!」
翔太は、悔しそうに一人そう言葉を口にするー。
「ー悪い奴が、橋口先生に化けているに違いない!」
実際には”本物の橋口先生”が乗っ取られている状態であるものの、
翔太は少しずれた解釈をしていて、
”今、ここにいる橋口先生は偽物で、本物はどこか別の場所にいる”と
そう、考えているー。
そんな、ズレた考えを抱いたまま、翔太は”先生を助けないとー”と、
そんなことを思いながら、放課後、職員室に向かって走り出すのだったー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
担任の先生が”皮”にされている…!?
そんなお話デス~!
目撃した子が嘘つきな子だったのが…
先生を皮にしている男の幸運…かもしれませんネ~!
続きはまた明日デス~!!

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