交通事故に巻き込まれて、
偶然、その現場に居合わせた子に憑依してしまった彼は
”2回目の人生”を天才少女として謳歌していたー。
しかしー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
美穂は、目を輝かせながら、
涼香の方を見つめていたー。
「ーこれは、こうして~…こうーーー」
”図工”の授業で、モノづくりが上手くいかずに
戸惑っていた美穂の手伝いをしていた涼香ー。
そんな涼香をじっと見つめる美穂ー。
「ーーな、なにー?」
視線を感じた涼香が苦笑いしながら美穂を見ると、
「橋口さんって、ホントすごいー…!
すっごく可愛いのに、お父さんみたい!」と、
図工の工作を簡単にこなす涼香に対してそう言葉を口にするー。
「ーーあははー…”お父さん”ってー」
涼香はそう笑いながら、
涼香に憑依している雄太は思うー。
”まさか、この身体でそう呼ばれるなんてなー”
とー。
雄太は40代ながら一度も結婚した経験がなかったために
”1回目の人生”では”お父さん”と呼ばれたことはなかったー。
それが、2回目の人生ー
”天才少女”として、人生を謳歌する今、そんな風に言われるとは、
思ってもみなかったー。
「ーわたしは”女子”なんだから、おとうさんにはなれないよ~」
涼香はそう言葉を口にしながら、工作を続けていくー。
「ーでも、前に橋口さん言ってたでしょー?
人生2回目だってー。
”前の人生”はカッコいいおとうさんだったりして!」
美穂が目をキラキラさせながら言うー。
”ほんと、こいつ俺のこと大好きだなー”
と、涼香に憑依している雄太は心の中でそう思いながら
”でもまぁ、放っておけないしー、可愛いけどー”と、
涼香の身体で少しだけ微笑むー。
”かわいい”とは変な意味ではなくー、
妹のようなー、そんな放っておけない存在という意味で、
別に変なことをするつもりは、今の涼香にはないー。
既に、涼香に憑依して数年が経過していてー、
大人の知識を持ちながらも、子供として過ごす今を
彼は楽しんでいるー。
「ーーそれ、冗談って言ったでしょ?」
涼香が、美穂の手伝いの仕上げをしながら言うと、
「え~、でも、橋口さん見てると本当に、前は大人だったような
感じがするし~!」と、美穂が笑うー。
「ーふふー、
でもまぁ、”カッコいいおとうさん”ではないと思うよー」
涼香は苦笑いしながら言うー。
それは、”本当”だー。
自分はカッコよくなかったし、
ずっと独身だったからお父さんではなかったー。
けれど、ずっと一人で色々な勉強をして、
知識を増やして来たからこそ、”今”があるのかもしれないー。
涼香に憑依している雄太自身、
学力は”かなりのもの”であるために、
この先、涼香が成長しても、後れを取ることはないー。
例えば、雄太が”大した学力のないおじさん”であれば、
涼香がランドセルを背負っている間は”天才”でいることが出来ても、
中学、高校と進んで行けばやがて凡人になっていくしー、
中学や高校レベルの授業も理解できているか怪しいおじさんであれば、
逆に中学、高校と進んで行けば”中身”の学力を周囲が追い越してしまい、
”天才”ではいられなくなるー。
が、雄太は違うー。
中学レベルも、高校レベルも、大学レベルも、学力は完璧ー。
この先、”なんか、橋口さん、勉強苦手になったねー?”なんて
言われる心配もないし、
成長して落ちぶれる心配もないー。
”へへーこの先、だんだんと身体つきも成長していくだろうしー
それも楽しみだよなー。
JKになったら、JKなりのおしゃれとかも楽しみたいしー”
涼香はそんな未来のことを考えながら
少しニヤニヤしていると、
美穂は「橋口さん、何ニヤニヤしてるの~?」と笑いながらそう言葉を口にしたー。
「ーえっ?あ~~~ふふ ひみつー」
涼香はそれだけ言うと、美穂の方を見て微笑んだー。
やがてー…
”2回目の人生”の小学時代を終えた雄太ー。
”橋口 涼香”として卒業して、中学に進学するー。
「ーー♪~」
中学でも、相変わらず”天才”な涼香ー。
周囲を圧倒する学力に豊富な知識ー、
5教科以外の強化も完璧でー、
しかも、ますます可愛くなっていくー。
「ーへへー予想通り、コイツは成長すると
もっともっと可愛くなるタイプの子だなー」
涼香は女子トイレで鏡を見つめながら微笑むー。
「制服も似合うしー、へへー
ってか、俺が女子の制服を着ることになるなんて
思わなかったなー。」
涼香はそう呟きながら、
”そうだー、今日の放課後はー”と、
自分が所属するテニス部のことを思い浮かべるー。
なんとなく、女子としてスポーツも楽しんでみたいと思った雄太は
女子バスケ部か女子テニス部に所属しようと考えて
色々考えた結果、テニス部にしたー。
スポーツ自体も、それなりに得意だし、
”涼香の身体”の動かし方にも今はすっかり慣れたー。
テニス部でも信頼を勝ち得て、今は先輩たちからも
可愛がられているー。
”社交辞令とか、”大人の振る舞い”も俺は完璧だからなー”
中学に入ってからも、天才少女で周囲から慕われる涼香は健在ー。
だがーー
”ある問題”が起きたー。
それはー
”涼香に憧れる美穂”のことー。
美穂は中学に入学後、いじめを受けるようになり、
みるみるうちに元気をなくし、最近は学校を休みがちに
なってしまっていたのだー。
「ーーーーあ、美穂ちゃんー」
ある日ー、涼香は美穂を見かけると、
美穂に声を掛けるー。
美穂も、可愛らしい雰囲気だったものの、
最近はいじめのせいか、暗い表情になってしまい、
その雰囲気はかつてとは大きく変わってしまったー。
涼香は、そんな美穂のいじめには一切加担せず、
今でも美穂を支えようとしていたー。
「ー橋口さんは、いいよねー。
わたしなんかとは全然違って」
美穂は暗い表情でそう言葉を口にするー。
「ーーー何でもできるし、
すっごく可愛いしー…
人気者だしー」
美穂は、そんな言葉を続けると、
涼香の方を見つめるー。
「ー橋口さんも
わたしみたいな”ゴミ”のこと、
放っておいたほうがいいよー」
美穂がそう言葉を口にするー。
「ーー…そんな…”ゴミ”なんて言わないでー」
涼香は悲しそうな表情を浮かべながら
美穂にさらに近付くと、
「ー美穂ちゃんは、わたしの大切な友達ー。
今までも、これからもー」と、
そう言葉を口にするー。
その上で、涼香は言うー。
「いじめは、わたしが何とかするからー。
誰に、何をされたのか、教えてー?」
とー。
これまでにも、美穂の”いじめ”をいくつか解決させている涼香ー。
”大人”である雄太からすれば、
人気者の涼香のポジションと、頭脳を使えばたやすくいじめは
解決できるー。
既に、最初に美穂を揶揄っていた男子生徒は、
今ではすっかり美穂のいじめから手を引いていて、
涼香自身も、その男子たちからいじめを受けたりはしていないー。
がー、美穂のいじめは”複数”のグループから続いており、
それだけでは解決していない状態だったー。
「ーーー」
美穂は悲しそうな表情を浮かべるー。
「ーわたしみたいなゴミが、橋口さんと一緒にいるなんて
許せないってー」
美穂が涙目で言うー。
「ーー…だ、誰がそんなことー?」
涼香が表情を歪めるー。
”美穂が涼香といること”が気に入らない子がいるようだー。
「ーーーーーー」
しかし、美穂は答えないー。
「ーもう、橋口さんに迷惑かけられないよー
わたしー…わたしー」
美穂がそう言葉を口にしながら泣き出してしまうー
「ーーーーー…」
涼香は、そんな美穂のことを見つめながら
心底悲しそうな表情を浮かべるー。
”俺が一緒にいたせいでー、美穂ちゃんは苦しんでー…?”
涼香に憑依している雄太は、そんな風に思うー。
「ーーー迷惑だなんて思ってないし、大丈夫ー。
わたしは美穂ちゃんのこと、ずっと親友だと思ってるからねー?」
涼香がそう言うと、美穂は「橋口さんは、何でわたしなんかにー」と、
悲しそうに言葉を口にするー。
「何でってー…”最初に”仲良くなった友達だからー」
涼香がそう言うと、美穂は少しだけ不思議そうな表情を浮かべるー。
美穂と涼香が知り合ったのは”中学年”の頃だー。
低学年のころはクラスも違い、ほとんど接点がなかったー。
それなのに、”最初に仲良くなった”とはどういうことなのかー、
そんな違和感を抱いたー。
”ーーこの身体に憑依してから、最初の友達が
美穂ちゃんだからー”
涼香は、内心でそんなことを思うー。
もちろん、最初はただ”可愛いと思ったから”という気持ちもあったー。
けれど今は、純粋に”最初の友達”として美穂のことを
大切にしているー。
どんなに自分が人気者であってもー、
この身体が例え、奪った他人の身体であってもー、
雄太にとっては大事な存在だったー。
「ーだから、迷惑だなんて考えないで?」
涼香のその言葉に、美穂は「うんーありがとうー」と、
そう言葉を口にしながらも、
その表情は、やはりまだ、暗いままだったー。
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”あの子が、俺と出会わなきゃ、違う人生だったのかもしれないなー”
涼香に憑依している雄太はそんなことを思うー。
”人生2回目の人間”が近くに居続けたことによって、
美穂の人生は狂ったのかもしれないー。
”普通の子供”とは明らかに違う知識量と学力を持つ状態の今の涼香ー。
そんな涼香に憧れを抱き、どこかで自分と比較してしまい、
”涼香と一緒にいるから”という理由でいじめを受けーーー…
もしも雄太が”涼香”に憑依してなきえればー、
きっと美穂は涼香にあこがれを抱くこともなく、自分を必要以上に下に見ることもなく、
いじめも受けていなかったかもしれないー。
そう考えると、”俺が人生を狂わせたのかもしれない”と、
涼香に憑依している雄太は、思わずにはいられなかったー。
”まぁでもー…
橋口 涼香の人生も奪ってるんだし、今更ーか…”
いつものように、授業を受けながら涼香はそんなことも考えたー。
けれど、雄太は別に悪意を持って涼香の身体を奪ったわけではないー。
事故で死んだ雄太は、最後の瞬間まで”死にたくない”と、強く思い続けただけだー。
その結果、偶然事故現場を目撃した涼香に意図せず憑依してしまい、
出ることもできなかったー。
どうせこの状態なら、と、涼香として2回目の人生を楽しみー…
そして、今、ここにいるー。
「ーー…っとー、こんなことばっかり考えてるのも良くないなー
美穂ちゃんのことは、できる限りわたしも支えてあげないとー」
涼香はそう言葉を口にすると、
再び、いつものように学生生活を楽しみ始めたー。
やがてー、生徒会会長にも立候補して、
会長になった涼香ー。
中学レベルの授業もお手のものな雄太ー。
遅れを取ることなく、相変わらず”天才少女”として、
周囲の子と圧倒的な差をつけていたー。
けれど、”調子に乗れば”嫌われることも、
40代であった雄太はよく熟知しているー。
日頃の振る舞いにも気を付けてー、
”社会人”として身に着けた社交辞令のスキルも駆使しー、
人気者としても君臨し続けたー。
”ーへへへへー次はいよいよJKかー…
彼氏作ったりするのも悪くねぇかなぁ…
最初、この子に憑依した時は考えられなかったけどー”
涼香はニヤニヤしながら、高校受験のことも考える時期になって、
そんなことを思い始めたー。
「ーーずっと女子でいると、だんだん考えもそうなってくるよねー」
涼香は一人、そう呟きながら
今日の1日を終えると、今も使っている”隠れ家”に向かって
歩き始めるー。
「ーーふぅ」
廃墟地帯に作った”隠れ家”にやってくると、
涼香は”雄太”が大好きだった缶コーヒーを手にして
それを飲み始めるー。
「ーあんま、この姿には似合わないからなー」
涼香は、”ここでだけのお楽しみ”のコーヒーを飲むと、
「俺の身体で飲んだ方が、美味かったかなー」と、
笑いながら呟くー。
涼香の身体は味覚も違うー。
コーヒーは、涼香の身体よりも、生前の雄太の身体で飲んだ方が
美味しかったー。
コーヒーを飲み終えると、
涼香は、隠れ家で音楽を聴き始めるー。
廃墟地帯であるために、特に誰にも迷惑は掛からないー。
♪~~~
「懐かしいよなぁ…確か30になる頃の曲だったよなー」
涼香は”雄太”が好きだった曲を聞きながら
そんなことを呟くー。
がー、その時だったー。
「ーーー!?」
涼香が人の気配を感じて振り返るー。
するとそこにはーー
涼香の親友で、まだ”いじめ”を受けている美穂の姿があったー。
「ーーーみ、美穂ちゃんー?」
涼香が思わず表情を歪めながらそう言うと、
美穂は静かに言葉を口にしたー
「やっぱりー…」
いじめは続きー、生気を失った表情のまま、
美穂は目を輝かせるー。
「ーーやっぱり、橋口さん、”人生2回目”なんだねー?」
とー、そう言葉を口にしながらー…。
③へ続く
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コメント
次回が最終回デス~!☆
”人生2回目”の彼が
どんな道を辿るのか、ぜひ見届けて下さいネ~!
今日もありがとうございました~~!
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