<憑依>ママを止めるため②~決断~(完)

弟を目の敵にし、
暴力を振るう母親ー。

そんな母を止めるために”憑依”した兄ー。

その先に待つ未来は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー……? ……?」
憑依されていた母・由美子は
困惑の表情を浮かべるー。

「ーーーーーぶ、無事だったのー?」
憑依されている間の意識が飛んでいる由美子は
自分の意識が飛んだと同時に、
意識を失っていた長男・茂樹が目を覚まして
普通に目の前にいることに混乱しながらも、
溺愛している茂樹の無事をまずは喜ぶー。

「ーーーうんー。
 でも、ママー
 隆史をいじめちゃ、ダメだよ」

茂樹が言うと、
由美子は、次男・隆史の方を振り返りながら
睨みような視線を向けたー。

そしてーーー

「ーあんたのせいで、シゲくんが
 怪我しちゃうところだったじゃないの!」
と、声を荒げる由美子ー。

「ママ!」
茂樹が、すぐに母・由美子を止めようとするも、
”また”由美子の言動はエスカレートしていくばかりー。

「ーーこの出来損ない!不良品!
 お前なんて、生まれて来なければよかったのに!」
再び、隆史をビンタする由美子ー

「もう許して!許して!」
泣きながら許しを乞う隆史ー。

再び始まってしまった母・由美子の暴力ー。

そんな母を見て、茂樹は叫んだー。

「ママ!
 隆史をこれ以上いじめたら許さない!」
とー。

「ーー隆史をいじめるママなんて、大っ嫌いだー!」
茂樹は、一度止めたのにまた隆史に暴力を振るい始めた
母・由美子に対してカッとなってそう叫んだー。

がーーー

「ーーー……し、シゲくんー」
振り返った由美子は泣きそうになりながら、
”溺愛している茂樹”に大っ嫌いと言われたことを悲しむー。

「ーーイジメるママは嫌いだー!
 だから、もう隆史をいじめないで!」
茂樹が、弟を守ろうと必死にそう叫ぶー。

けれどーー…
母・由美子はまたもや”歪んだ解釈”をしたー。

「あんたのせいで、シゲくんに嫌われちゃうじゃないの!」
由美子は、隆史の方を向くとヒステリックに騒ぎ始めるー。

「ーママ!隆史をこれ以上いじめるなら
 僕がオバケになって、ママの身体に取り憑くよ!」

茂樹が叫ぶー。

”憑依”などという言葉は、まだ彼は知らないー。
だからこその言葉ー。

「ーー…え?」
母・由美子は困惑の表情を浮かべながら振り返るー。

さっき、一度記憶が飛んだー。
そのことは由美子も自覚しているー。

「ど、どういうことー?」
由美子がそう言い放つと、茂樹は
「僕、さっきもママに取り憑いたんだ!」と、そう叫ぶー。

「ーー本当はそんなことしたくないけど、
 ーー隆史をいじめるならー!」
茂樹が涙目でそう言うと、母の由美子は驚いたような表情を浮かべつつー
隆史の方を見たー。

「ーーーーあんたのせいで…!あんたのせいで…!」
憑依されたのも、全部隆史のせいー。
そう言い放ち、暴力を振るい始める由美子ー

「ーーー…ママ……」
茂樹は悲しそうな表情をしながら、
さっき”ママ”の身体から抜けたのと同じように
頭の中で幽体離脱をするイメージを浮かべながら
ジャンプをすると、
自分の身体から幽体離脱してーー、
母・由美子に憑依したーーー

「ーーうっ…」
再び憑依された由美子は、
すぐに弟の隆史を撫でながら、「大丈夫ー。もう大丈夫」と、
そう言い放つー

「お、お兄ちゃんなのー?」
泣きながら隆史が言うー。

由美子に憑依された茂樹は
「うんー。今日は僕がママだー」と、そう言い放つと、
隆史は安心した様子で、「お兄ちゃんがママー」と、
そんな言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーう~ん…どうすればいいのかなぁ…?」

自分の身体をベッドに寝かせて、
家のことをやり始める由美子ー。

母・由美子に憑依した茂樹は、
”これ以上、隆史がいじめられないようにするために”
ひとまず、今日1日は母・由美子に憑依した状態で過ごすつもりだったー。

また明日、”ママ”の身体から抜け出して、
”ママ”のことも説得したいー。

そんな風に考えていたー。

晩御飯の準備を一生懸命していく茂樹ー。

「ーー今日は、隆史の好きなハンバーグをつくるから、
 待っててねー」

由美子の身体でそう言うと、
隆史は「わ~い!」と、嬉しそうに笑うー。

「ーーー…どうしようー全然わかんないやー」
”ママの真似事”をしようとしたけれど、
正直、料理なんてほとんどしたことがないし、
母親の手伝いをしたことがあるだけー。

ハンバーグの作り方も、全然分からず、
見よう見まねで準備を進めていくー。

元々冷蔵庫にあった、ハンバーグを手に取るー。
お湯に入れてしばらく温めれば食べることができるタイプの
ハンバーグだったものの、由美子は混乱しながら
とりあえず頭の中のイメージに沿ってフライパンを用意しー、
そこに油を放り込むー。

ハンバーグの袋を開けて、それを入れ、加熱し始めるー。

「う~ん……ママって大変なんだなぁ」
由美子の身体でそう言葉を口にしながらー。
炎を見つめていると、スマホが鳴ったー。

「ーーわ!?ぱ、パパだ!」
慌てた様子で単身赴任の父・昭夫からの電話を手に取ると
「パ、パパ?」と、そう言葉を口にするー

”ん?ゆ、由美子だよなー?”
少し戸惑った様子の父・昭夫ー

「あー、う、うんーぼ、僕ー…あぁ、ちがう、
 わ、わたし、ママよ!
 ふふふふふふ」

とてもぎこちない受け答えをする由美子ー。

”ーーー?だ、大丈夫かー?”
父である昭夫は戸惑いながらそう言葉を口にすると、
「だ、大丈夫!大丈夫よ!」と、
不自然な雰囲気で言葉を口にしたー。

父・昭夫は度々電話をかけて来るー。
お互いの近況報告などが中心だー。

”茂樹と、隆史は元気かー?”
昭夫がそんな言葉を口にするー。

昭夫は、自分の妻が次男をいじめていることを知らないー。
由美子が、隆史に対してきつく当たるようになったのは、
単身赴任が始まってからだし、
母・由美子はいちいち自分のそういった行為を
夫に話しているわけではないため
夫の昭夫は現状を知らないのだー

「うん!僕も隆史も元気ーーー
 あ、じゃないー
 し、シゲくんも隆史も元気だよ!」

”ママ”としてそう答えるー。
自分のことを”シゲくん”と呼ぶと、
なんだかとてもくすぐったいような、
変な違和感を感じるー。

そんな風に思っていたその時だったー。

「ーーー!」
台所の方から黒煙が上がっていることに気付くー。

油を大量にフライパンに注ぎー、
しかも、その際に油が周囲にも散らばり、
本来の作り方と違うハンバーグの作り方をしていた台所ー

まき散らされた油に火が回りー、
台所は”火災”とも言える、
そんな状態になっていたー。

「ーーわわわ…!どうしよう!」
スマホを下ろして、呆然とする由美子ー。

”由美子?どうした?”
スマホの向こうからは夫の昭夫の声が聞こえるー。

だが、それに返事する余裕もないまま、
慌てた様子で「隆史!」と叫ぶー。

火に水をかけて消そうとするも、
何を考えたのか
一番近くにあった”油の容器”を燃え上がる日に
放り込んでしまいー、
火がさらに勢いを増してしまうー。

茂樹はまだ子供ー。
”油”も”水”だと思ってしまったのだろうかー。

もはや消すことのできない勢いで急激に
火が家の中に広がっていくのを見て、
由美子は「に、逃げなくちゃー!」と、
隆史に声をかけるー。

隆史を玄関から外に出してー、
由美子に憑依している茂樹は、リビングのソファーで
寝かせている”自分の身体”を運び出そうとするー。

しかしーー

「ーーーダメだー」
そう呟くと、母・由美子の身体から幽体離脱するイメージをしながら
ジャンプして、自分の身体に戻るー。

「ーーママ!ママ!」
がー、続けて憑依したからだろうかー
すぐに意識を取り戻さない由美子ー

「どうしよう…このままじゃ…」
”ママも僕も死んじゃうー”
そう思いながら炎の方を見つめた茂樹はーー
再び、自分の身体から抜け出して、
咄嗟に母・由美子に憑依したーーー

「ーーーもう…!動かせないよ!」
自分の身体を引きずって脱出しようとする由美子に憑依した茂樹ー。

がー、もう限界ー。

「ーーダメだーー!」
茂樹は、由美子の身体のまま家の外に飛び出しーー

そのまま茂樹の身体は炎に包まれてしまったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー…お兄ちゃん」
弟の隆史が不安そうに表情を曇らせるー。

後日ー。

自宅の火災ーー
そんな悲劇を迎えた二人は、
意気消沈していたー。

結局、家は全焼ー。
”長男”の茂樹は火災により死亡したー。

しかしー、茂樹自身は母・由美子に憑依していて無事で、
茂樹の身体だけが無くなってしまった状態だったー。

茂樹は、自分の身体に戻った時に
母親が目を覚まさないのを見て、
このままじゃ二人とも死んじゃう、と、
自分の身体を捨てて母・由美子に憑依したー。

自分の身体も外に引っ張り出そうとしたものの、
それは叶わず、
結局、自分の身体を失ってしまったのだったー。

最初は”僕の身体”が無くなったら、自分も消えてしまうのでは?と
不安に思っていたものの、
それは無くー、
今もこうして”ママの身体”に憑依した状態で
生活自体を続けることはできているー。

ただしーー

「ーー”ママ”はー?」
弟の隆史の言葉に、由美子に憑依した茂樹は悲しそうに
首を横に振ったー。

”自分の身体を失った”からだろうかー。
母・由美子の身体から出ることができなくなってしまいー、
結果的に、母・由美子の身体で生きることを余儀なく
されてしまったのだー。

「ーごめんー。僕のせいだー」
由美子がそう言うと、
弟の隆史は「ううんー。お兄ちゃんは僕を助けてくれたんだし、
お兄ちゃんは僕のヒーローだよ!」
と、そう言葉を口にするー。

しかしー、
どんなに自分に暴力を振るっていた存在でも
母親は母親ー。
隆史は、どことなく寂しそうな表情を浮かべていたー。

そんな隆史を見つめながら、
由美子は少しだけ考えてから、口を開くー。

「ー僕ー、隆史のお兄ちゃんとして
 そしてママとして頑張るからー」

もう、”本当のママ”には会えないかもしれないー。

だからー
自分が兄として、そして母として
頑張らないといけないー。

そう思った茂樹は、
由美子の身体で優しく微笑んだー。

「今日から僕、お兄ちゃんママとして頑張るよー」
とー。

「ーお兄ちゃんがママ?わぁ!すごいや!」
弟の隆史は無邪気にそんな言葉を口にするとー、
寂しそうにしながらも、少しだけ笑顔を浮かべたー。

数日後ー
単身赴任の父親が戻って来たー。
由美子に憑依した茂樹は”由美子”として何とか振る舞いー
”長男の死”の問題ー、そして新しい家の確保の問題ー、
そういったことを父・昭夫は色々と手配してくれたー。

再び父・昭夫が単身赴任のために家を立つと、
由美子になった茂樹は、
「これからは僕がママの役もやらないとー。」と、
そう言葉を口にしながら、
何とか、弟の隆史を守ろうと、改めて決意をするのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5年後ー。

「ーーーーーはい、分かりましたー。 はいー
 それでよろしくお願いしますー」

由美子が、電話を手にそんな言葉を口にしながら
電話を終えるとー、
来年から中学生になる弟・隆史の方を見て、
母・由美子は微笑んだー。

「ーー今日も頑張ったね~えらい」
学校帰りに弟・隆史はいつもここに立ち寄るー。

”社員たち”も、そんな隆史のことを
可愛がってくれているー。

あれから5年ー
由美子に憑依した茂樹は、
かつて、弟の隆史と約束していた”大きくなったら社長になるんだ”という
夢を叶えていたー。

茂樹は元々、カードゲームが好きで
それに関係する小さな会社を、必死に勉強して作って、
今では中規模の会社に成長を遂げているー。

良くも悪くも”中身は子供”であることが
逆に良い方向に作用して、
色々なカード関係の商品のヒットを飛ばしているー

「ママのカード、学校でも人気だよー」
笑いながらそう言い放つ隆史ー。

「ーふふ、よかったー。」
由美子は、そんな言葉を口にしながら笑ったー。

「ーあ、そうだー。
 今日は早めに帰れるから、
 そしたら、隆史の好きなハンバーグを作ってあげるねー」

あれから5年ー。
もう、あの時のような失敗もしないー。
”ママ”として色々なことも学んだー。

今ではすっかり”ママ”として振る舞うこともできるー。

「ーーやったぁ!」
喜ぶ隆史を見ながら、
由美子は、これからも”ママ”として、
そして”お兄ちゃん”としても頑張って行くことを
固く、誓うのだったー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

自分の身体と、母親(中身)を失ってしまったものの、
前向きな結末のお話でした~!☆!

ちなみに、5年後の世界でも
夫は引き続き別の場所に単身赴任中デス~笑

お読み下さりありがとうございました~!☆

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