やたらと”弟”を敵視して暴力を振るう母親ー。
そんな”ママ”を見かねた兄が考えたのは
”ママを止めるため”に、ママに憑依するー…
ということだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーどうしてあんたは茂樹(しげき)と違って
何もできないの?」
そう言いながら母親の由美子(ゆみこ)が、
次男である隆史(たかし)のことを
何度も何度も叩いているー。
「ママ!もうやめようよ!」
長男の茂樹が、そんな言葉を口にするー。
まだ、弟の隆史は学校に通い始めたばかりー。
2歳年上の茂樹は、必死にそんな弟を守ろうとしたー。
しかしー、母親の由美子は言うー。
「ーふふふーシゲくんは優しいねー」
にっこりと笑う由美子ー。
次男である隆史に向ける”明確な敵意”とはまるで
真逆の優しい笑顔ー。
そんな優しい笑顔を向けて来る由美子に対して、
兄である茂樹は言うー。
「た、隆史も怖がってるから、もうやめてママ!」
とー。
しかしー、母・由美子は微笑みながら答えたー。
「ー大丈夫。大丈夫よーシゲくんー」
そしてー、
そう言いながらすぐに弟である隆史の方を向くと、
「ほら!あんたのせいでシゲくんが怖がってる!
全部全部あんたのせいよ!」
と、ヒステリックに騒ぎ出すー。
「ーーやめて!やめてママ!」
兄・茂樹が必死にそれを止めようとするも、
母・由美子は聞く耳を持たず弟の隆史を
何度も何度も叩き続けたー。
ようやくー、
それが終わり、母親の由美子が立ち去っていくと、
兄・茂樹は弟の隆史に向かって
心底申し訳なさそうに「何もできなくて、ごめんー」と、
そう言い放つー。
まだ学校に通い始めたばかりの弟・隆史は
腫れた顔で「ーぜんぶ、僕が悪いんだー」と、
それだけ言葉を口にするー。
「そんなことないー。そんなことないよー」
兄・茂樹はすっかり落ち込んだ様子の弟・隆史を
抱きしめながら、
今にも折れてしまいそうな弟を励ます言葉を
かけ続けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「いってきます~!」
兄・茂樹は3年生ー
弟の隆史は1年生ー。
二人ともランドセルを背負って玄関へと向かうー。
「ーーいってらっしゃいシゲくんー」
母・由美子が優しく手を振るー。
「ーーいってきます」
弟の隆史も、兄の茂樹に続いてそう言葉を口にしたー。
がー、由美子はそれを意図的に無視すると、
「シゲくんに迷惑かけないようにしなさい」と、だけ
そう言葉を口にしたー。
隆史は暗い表情でそのまま学校に向かうー。
兄弟で学校に向かいながら
兄の茂樹は将来の夢を口にするー。
「ーー僕、将来大きくなったら、おっきな会社の社長になるんだー」
とー。
「ーーー社長になって偉くなって
いっぱいいっぱいお金を稼げば、隆史のことも守ってあげられるー」
茂樹は目を輝かせながらそんな言葉を口にするー
「社長さんー…お兄ちゃんすごいー」
弟の隆史も目を輝かせるー。
「ーそしたら、隆史のことも社長にしてあげるからさ」
茂樹は、弟の隆史のことも社長にすると言いながら
無邪気な笑みを浮かべるー。
「ーーーうん!」
隆史も嬉しそうにそう返事をするー。
”ーーー”
茂樹は、そんなことを口にしながらも表情を曇らせるー。
「僕がいっぱいいっぱい頑張ればー
きっとママも隆史をいじめたりしないー。きっとー」
兄・茂樹が”社長になる”と言いだしたのは、
弟の隆史が母親の由美子から目の敵にされるようになってからだったー。
どうにかして”ママ”を止めたいー。
けれど”ママ”はいつも、隆史をイジメ続けるー。
どうすることもできない自分が嫌で嫌で仕方がなかったー。
だからー、大きくなったら偉くなって
お金をいっぱい稼いで”ママ”のことも、弟のことも
守りたいー。
そう考えていたー。
「じゃ、頑張ってー」
学校に到着すると弟の隆史と別れて、
そのまま3年生の教室に向かうー。
”隆史は僕が守らないといけないんだー”
茂樹はそう思いながら、将来への夢を膨らませていくー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
母・由美子は、家族写真を見つめるー。
そこには”夫”である昭夫(あきお)の姿も見えるー
昭夫は現在、単身赴任の最中で、
家を長期留守にしているー。
連絡は取り合っているものの、由美子は
いつもいつも、寂しい思いをしていたー。
”え?海外出張ー?”
驚く由美子ー
”あぁ、隆史も大きくなってきたから、俺ももっと稼がないとなー
ほら、海外出張するとさ、手当も出るしー”
夫・昭夫が笑いながら言うー
”ーえ…で、でも、一緒に暮らせなくなるのはイヤだって
前も言ったよねー?”
由美子が涙ながらに言うと、
”ーはは、でも茂樹だけじゃなくて隆史の分も稼がないといけないからなー
俺の会社、なかなか昇給しないしー頑張らないと”
と、昭夫はそう言葉を口にしたー。
結局、昭夫は海外出張のために家を留守にするようになったー
そしてーー
寂しさのあまり、由美子はいつしか歪み始めたー。
”あぁ、隆史も大きくなってきたから、俺ももっと稼がないとなー
ほら、海外出張するとさ、手当も出るしー”
その言葉を思い出す由美子ー
「ーー隆史さえ、生まれなかったらー」
由美子はそんな呪いの言葉を口にするー。
隆史には生まれつき持病もあって、
それがさらに生活費を圧迫しているー。
口には出さなかったが、昭夫が海外出張をすることになったのは
それも一つの原因だったー。
”隆史がわたしから昭夫を奪ったー”
いつしか、母・由美子はそんな歪んだ考えをするようになり始めていたー。
”隆史のせい”
”隆史のせい”
”隆史のせい”
由美子は次第に元々溺愛していた長男の茂樹の方への
愛情をさらに強めていきー、
逆に、次男である隆史に対して憎しみを募らせて行ったのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夜ー。
「お前なんか、生まれて来なければよかったのよ!」
母・由美子の暴力と暴言はエスカレートしていくー
「ーやめてってば!」
兄の茂樹が必死にそれを庇うー。
しかし、それすらも逆効果ー。
「ーー隆史!あんたのせいで、シゲくんも困ってる!
謝れ!謝れ謝れ謝れ謝れ!」
ヒステリックに騒ぎ出す母・由美子ー。
「ーごめんなさい!ごめんなさい!」
何が悪いのかも分からないけれどー、
ただ、この瞬間を終わらせるためだけに謝る弟の隆史ー。
「ーシゲくんしかいなきゃよかったのに!
隆史!あんたのせいで!あんたのせいで!」
さらに暴力を振るう由美子ー
「もうやめてよ!」
兄の茂樹が、隆史を守るように立ちはだかるー。
だがーー
頭に血が上り切った母・由美子は
隆史を守ろうとした茂樹を突き飛ばしてしまうー。
「ーーうぁっ」
茂樹が突き飛ばされて壁に身体を叩きつけられる形に
なってしまいー、そのまま茂樹はその場でぐったりとしてしまうー。
「ーし、シゲくん!?」
すぐに母・由美子は自分のしてしまったことに気付き、
ぐったりしている茂樹に駆け寄るー。
しかし、茂樹は意識を失っていて
それに気づいた母・由美子は泣き始めてしまうー。
”ーーーえ…”
そんな中ー
茂樹本人は呆然と、今の不思議な状況を見つめていたー。
”ぼ、僕はー?”
茂樹は周囲をキョロキョロと見回すー。
いる場所は、自分の家ー。
しかし、すぐ近くに”倒れている僕”の姿があるー。
”え…?これってー…僕、幽霊になったのー?”
茂樹は困惑するー。
母・由美子に突き飛ばされた拍子に
幽体離脱してしまった茂樹ー。
自分が死んでしまったのか、そうでないのかも分からないまま
茂樹は、泣きじゃくっている母・由美子の方を見つめるー。
だがーー
「ーーあんたのせい…」
由美子は泣きながらそう呟くー
「全部全部全部全部あんたのせい!」
自分で茂樹を突き飛ばしたにも関わらず、
逆上した母・由美子は次男である隆史の方に向かって
怒鳴り声を上げるー。
台所の方に向かった母・由美子は
ついには包丁を取り出して、それを隆史に向けたー。
隆史は必死に謝り続けているも、
由美子が止まる様子はないー。
”マ…ママ!やめて!やめてよ!”
兄の茂樹は必死にそう訴えかけるもー、
幽霊のような状態になってしまっている自分の言葉は届かないー。
何とかー、何とかしなくちゃー。
そう思いながら茂樹は必死に周囲を見渡すー。
そしてーー…
茂樹はふと思いついたー。
オバケが人間に取り憑くような、そんなアニメだか
絵本を見たことがあるー。
それを思い出した茂樹は、とにかく弟の隆史を守りたい一心で、
母親である由美子に向かって自分の霊体を突進させたー。
「ーーーうっ…!」
ビクッと震える母親の由美子ー。
「ーーーごめんなさい…ごめんなさいー」
ガクガクと震えながら、そう言葉を口にする弟の隆史ー
そんな隆史を前に、
母親の由美子に憑依した茂樹は
驚いた様子で自分の身体を見つめるー。
「マ…ママだー」
由美子の身体でそう呟くー。
少しドキドキしながらも、
泣きながら謝り続けている隆史の方を見つめると、
「ーーー…た、隆史ー…」
と、そう言葉を吐き出したー。
自分の口から”ママ”の声が出ていることにもドキドキするー。
ゴクリ、と唾を飲み込みながらも、
「隆史ー…もう、大丈夫ー」と、そう言葉を口にすると、
弟の隆史は驚いた様子で「マ…ママ?」と、そう言葉を口にしたー。
「ーーーーぼーー僕だよ…茂樹だよー」
由美子の身体のまま、そう言い放つ茂樹ー。
隆史は、”何を言っているのか分からない”と言わんばかりの
表情を浮かべながら戸惑っていたものの、
やがて、「お…お兄ちゃんー?」と、そう言葉を口にするー。
「うんー僕だよ!茂樹だよー。
もう、ママに隆史のことをいじめたりはさせないからー」
由美子の身体を支配した茂樹はそれだけ言うと、
弟の隆史を優しく抱きしめながら
「もう大丈夫ー もう大丈夫ー」と、何度も言葉を繰り返したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30分ほど経過してー、
弟の隆史が落ち着いたタイミングで、
”抜け殻”になった自分の身体を見つめる由美子ー。
「ーーー……僕の身体、ちゃんと生きてるみたいー。
生きてる人は心臓が動いてるって前に先生が言ってたしー」
学校で習ったことを思い出しながら
”茂樹”の身体を見つめる由美子に憑依した茂樹ー。
隆史は「ママの中から出られるの?」と、
少し不安そうに言葉を口にするー。
由美子は「わ、分からないけどー…やってみるー」と、
そう言葉を口にしながら、
”ママ”の身体から出ていくことができるように、
色々と試し始めるー。
自分の幽体が、母親である由美子の身体から
出ていくような、そんなイメージを浮かべたり、
抜け殻になった自分の身体を抱きしめてみたり、
色々と試していくー。
「ど、どうしようー?僕がママのままになっちゃったらー
ママがいなくなっちゃうー」
由美子が不安そうにそう呟くー。
いつも怒ってばかりの由美子の表情が不安に満ちた表情に変わるー。
弟の隆史も少し不安そうだー。
がーーー
色々と試していく中で、
”ママの身体から抜ける”イメージをしながらジャンプした
その時だったー
「ーーー!!!」
スポっと身体の中から抜けるような、そんな感触がして
ジャンプした由美子の身体がそのままその場に倒れ込むー
幽体離脱に成功したー。
”や、やったー”
茂樹はそう思いながら、すぐに眼前の光景を見つめるー。
「マ…ママ!?お、お兄ちゃんー!?」
茂樹の幽体が見えない隆史は、突然、”ママ”が倒れたようにしか
見えずに、戸惑いの声を上げているー。
それを見つつ、少しだけ笑うと、
茂樹はすぐに自分の身体の方に向かいー、
自分の身体で目を覚ましたー。
「ーお、お兄ちゃん よ、よかったー」
隆史が困惑した表情でそんな言葉を口にすると、
茂樹は「元に戻れたみたいだー」と、嬉しそうにそう言葉を口にしたー。
やがてー、憑依されていた母・由美子も目を覚ますー。
そんな由美子に対して、
「ーママ、隆史をいじめちゃダメだよ」と、茂樹はそう言い放ったー。
そしてー
その日以降、茂樹は”イメージしながらジャンプする”ことで、
幽体離脱することが可能になってー、
”ママ”が隆史をいじめるようなことをするたびに、
”ママ”に憑依してそれを止めるようになったのだったー。
②へ続く
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コメント
弟を守るために母親に憑依…!
そんな、お話デス~!
明日も続きがあるので、
どうなっちゃうのか、見届けて下さいネ~!☆!
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