そのコンビニの店員は、全員憑依されているー。
どうして、そのような状況になったのかー、
そして、店長が”危険視”する人物とは…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーあ、”店長” お疲れ様ですー」
女子大生バイトの絵里が、そう言い放つと、
”店長”と呼ばれた男は、苦笑いしながら「はは、やめろよ」と、
そのまま事務所の方に向かっていくー。
「ーじゃ、ここはよろしく」
絵里が、カウンターにいたギャルの女子高生・菜々美に
そう言い放つー。
「あ、はいー。分かりましたー」
その返事を確認すると、絵里は事務所の方に入っていき
”店長”と、会話を始めるー
店長はイスに座ると、すぐに煙草に火をつけて、
絵里にもそれを手渡そうとするー。
がー、絵里は苦笑いしながら
「ーこの身体になってから、やめたんだー」と、言葉を口にすると、
「ー全然、吸いたいって気持ちにならないんだー
やっぱ”俺の身体”が依存してたんだろうな」と、言葉を続けたー。
「ーーふぅんーそんなものなのかねぇ」
眼鏡をかけた、整った顔立ちの”店長”は、それだけ言うと
絵里と”店のこと”について、色々と話し始めるー。
「ーなるほどー。これだけ利益が出ていれば問題ないなー」
店長の言葉に、揶揄う様にして、
「ー”店長”のおかげだー」と、笑うー。
「ー止せよ。俺は”ただのお飾り”だー。
実質上の店長は、”社長” きみだろうー?
まぁ、表向きは”黒崎 絵里”という女子大生だけどー、
実際、この店のことを決めて、仕切ってるのは君なんだからー」
店長が眼鏡をかけ直しながらそう言うと、
絵里は「ー”社長”はやめろってー」と、笑いながら、
「でも、店長のおかげってのは事実さー。
”女子大生”の身体でコンビニの店長です、なんて言ったって
なかなかそうはいかないだろ?
あんたの存在は欠かせないー。感謝してるよー」と、
そんな言葉を口にしたー。
「ーー何だったら、この身体で気持ちよくしてやってもー」
絵里が胸のあたりを触りながら揶揄うようにして笑うと、
「ーーはは、俺はもう年だし、そういう遊びはいいんだ」と、首を横に振ったー。
そんな会話をしていると、
「ーおーっす」と、やる気のない様子で、中性的な雰囲気の女性バイトが入って来たー。
「ーーーーあれ?店長ー お久しぶりっす」
その女性バイトー、南田 結衣(みなみだ ゆい)は、店長に気付くと、
まるで男のような口調で挨拶をするー。
「ーはは、君は相変わらずだなー
まったく、”女”として振る舞う気がないー」
店長はそう言いながら結衣を見つめるー
髪は短く、服装もまるで男のような、そんな感じー。
ただ、胸はそれなりに目立つ大きさでー、
”女”であることは隠せていないー。
「ーーいやぁ、何となく女に憑依したけど、面倒なんすよ」
結衣は、それだけ言うと、ガムを噛みながら制服に着替え始めるー。
結衣に憑依している男は、”最初”でこそ、女として振る舞っていたものの、
1週間で憑依に飽きて、今は、完全に”元の自分”通りに振る舞っているー。
「ーだったら、”男”に乗り換えればいいじゃないか」
絵里が笑いながらそう指摘すると、
結衣は「ーそれも、面倒なんすよねぇ…この身体に何だかんだ慣れましたし」と、
やる気なさそうにそんな言葉を口にするー。
「ーそれじゃ」
少し話をしていると、着替え終わった結衣が、店内の方に向かうー。
「ーーそれで…”伊崎(いざき)”はー?」
店長の言葉に、絵里は「あぁー…大丈夫だー」と、そんな言葉を口にしたー
”伊崎 康雄(いざき やすお)”ー。
このコンビニの”始まり”に大きくかかわっている人物ー。
そして、”最大の”危険人物ー…。
1年前ー…
絵里に憑依している男ー、勝嶋 洋一(かつしま よういち)は、
会社の経営者だったー。
新技術などを研究するベンチャー企業で、
社員は10人にも満たない数だったが、経営自体は安定していたー。
しかしー…
ある日のことだった。
その、伊崎 康雄が、”悪魔の研究”を、完成間近まで
進めてしまったのだー。
「ーー社長ーご覧くださいー」
天才的な頭脳を持つ伊崎 康雄には、社長である洋一も入社時から
期待していたー。
だがー、本来の研究の趣旨からずれー、
彼は独自に”憑依薬”なるものの開発にのめり込みー、
やがて、それを本当に完成させてしまったー。
憑依薬について、嬉々として説明する康雄。
「これは世紀の大発明です!この薬があれば、誰の身体だって乗っ取ることが
できるんですー!」
とー。
がー、洋一はそんな康雄に言い放ったー。
「ー”他人の身体を乗っ取る”なんてことは許されるはずがないー。
その研究は認めないー。却下だー」
とー。
”憑依薬”
そんなものを量産できるようになってしまえば、大変なことになるー。
そう思った洋一は、康雄に研究の中止を命じたー。
しかし、康雄は指示に従わなかった。
研究の中止命令を無視し、憑依薬の開発を続けー、
ついにはーー
「ーあははははははっ♡ 見て下さい社長!こんな可愛い子が、僕の想いのまま!」
胸を揉みながら、嬉しそうに笑う美少女ー。
ついに、”本当に”憑依薬を完成させてしまったー
「ーーい、伊崎!!」
そう叫ぶ洋一。
だが、女子高生に憑依した伊崎康雄は、さらに”憑依薬の量産を開始する”と
宣言したー。
”こんなもの”が、
量産できるようになってしまったら、”世界は滅ぶ”ー
洋一は、直感的にそんな危機感を覚えたー。
そうこうしているうちに、康雄は
”この感動を、皆さんにも味合わせたい”という理由で、
会議中に出された他の社員6名と社長である洋一のお茶に
”憑依薬”の試作品を混ぜたー。
何も知らずにそれを飲んでしまった洋一ら7人は、
”自分の身体”を失ったー。
”憑依薬”を飲んだことで、身体を乗り換えることはできるが、
”自分の本体”は、黒い煙のような状態になってしまっていて、
もう、”元の自分”に戻ることはできないのだー。
途方に暮れる社員たちー。
仕方がなく、近場をたまたま歩いていた女子大生の絵里に憑依した
洋一は、”なんとか伊崎を止めないと”と、強い危機感を抱くー。
その結果ー、
彼はその日のうちに自分の会社である研究所をー
”事故”に見せかけて火災を発生させー、
伊崎康雄の研究成果である憑依薬を全て、燃やしたー。
そしてー、
今、長年の友人であった、元コンビニオーナーの男に頼み込み、
こうして、”コンビニ”を用意して貰ったー。
その友人が、今、表向きは”店長”として活動している眼鏡の男だー。
その上で、”憑依薬を無理やり飲まされて自分の身体を失った6人の社員”
全員をコンビニで採用したー。
それが、このコンビニ誕生の経緯だー。
6人の社員は、今現在、”好きな身体”に憑依して、
バイトとして勤務し、
社長だった洋一も、身体は女子大生であるために、
事実上の店長であるものの、表向きはバイトとして働いているー。
この”コンビニ”はー、
望まずして、憑依能力を手に入れてしまった6人が”暴走”しないための”鎖”ー。
そしてーーー…
伊崎康雄を外に解き放たないための”牢獄”ー。
「ーーーお疲れ様ですー」
可愛らしい美少女がやってくるー。
伊崎康雄だー。
もっとも、”身体の名前”は、福園 京香(ふくぞの きょうか)だがー。
「ーーへへへーでもまさか”社長”が、こんな風に
欲望まみれの日常を提供してくれるとは思いませんでしたよ」
京香はそう言いながら、事務所の方に向かっていくー。
「ーーーー」
絵里は、京香の入っていったほうの事務所を見つめるー。
自分が憑依している”絵里”含め、最初に憑依された7人と
”乗り換え”で犠牲になった数名には申し訳ないとは思うー。
しかし、
こうして、”自分の手の届く範囲内で”伊崎康雄を働かせておけばー、
少なくとも”これ以上の犠牲者”が出る可能性は低いー。
もちろん、他の6人だって野放しにすればどうなるかは分からないー。
あのまま、伊崎康雄が暴走していれば、憑依薬が世界中に広がり、
大変なことになっていたかもしれないー。
それを、洋一は、”このコンビニ”で抑え込んでいるのだー。
そして、現在ー。
絵里に憑依した状態で、このコンビニで”表向きはバイト”として
働きながら、伊崎康雄を含む他の7人を、それなりに上手く抑え込むことができていたー。
憑依薬を開発した伊崎康雄も、福園京香の身体で、
それなりに楽しそうに、コンビニで働く日々を送っているー。
だがー…
それから数日のことだったー。
「ーーえ?なんだって?」
朝、コンビニにやってきて、事務所で制服を身に着けていた絵里が
表情を歪めるー。
「ーー最近”何件”か起きているみたいですよ~
”可愛い子が急におかしくなって”奇行に走る事件ー
昨日の夜も、隣町でJKが急に笑いながら路上で放尿したってー」
”おばさん好き”の男・鴻上は、
先日の強盗の件で久恵の身体を失ったものの、
既に新しいおばさん・琴子(ことこ)の身体を手に入れていたー。
聞けば、ゴミ屋敷のおばさんのようだが、
”それを綺麗に磨くのが、興奮するってものでしょう?”などと、
本人は笑っていたー。
その琴子から聞かされた話ー。
それは、”最近、この近辺で容姿の整った女性を中心に、
急に奇行に走る事案”が、複数件、起きているという話だったー。
「ーーーまさか、うちの社員が関係しているのかー?」
”社長”の時のクセで、絵里がそんな言葉を口にすると、
琴子は「いいえ それは分かりませんけどー」と、そんな言葉を口にするー。
たまたま頭のおかしな子が立て続けに出現しただけかもしれないし、
”憑依”を他にも成し遂げた人間がいるのかもしれないー。
少なくとも、伊崎康雄が開発した憑依薬のサンプルは
あの時、全て研究施設ごと焼き払ったはずだし、
データも、素材も、全て消失したはずー。
会社の設備なしに、伊崎康雄が個人で開発できるとは思えないー。
がーーー…
最悪なパターンは、伊崎康雄が”憑依”を悪用し始めている可能性だー。
絵里に憑依している洋一が、”コンビニ”という仕事と居場所を与えー、
”7人”が、憑依能力を悪用しないよう、今までブレーキをかけて来たー。
しかし、それが壊れたのだとすればー。
「ー憑依なんて、あっちゃいけないー。」
自分自身も、絵里という子の人生を奪ってしまったー。
がー…それは”犠牲”を10、100、1000と増やさないためー。
もちろん、それでも褒められたことではないのは分かっているー。
が、自分を含め憑依能力を持つ8人の誰かが暴走すれば、
どんどん憑依犠牲者が増えるー。
そうならないため、今までやってきたー。
”おい!!!からあげちゃんが品切れ!?どういうことだよぉ!?”
店内から男性の声が聞こえるー
「あわっ!あわわわわわわっ!」
女性バイト・梨花の困惑する声が聞こえて来るー。
梨花の中身は”30代の女性社員”ー。
憑依能力を手に入れたあとは”また学生時代を楽しめる♪”と、
嬉々として女子大生に憑依したー。
「ーーあらあら、梨花ちゃんが絡まれてるわー」
琴子はそう言うと、そのままお店の方に向かっていくー。
「ーーー」
そんな琴子の後ろ姿を見ながら、シフト表を見つめる絵里ー。
明日はちょうど、”京香”
つまりー、伊崎康雄と二人のシフトの時間がある。
「ーーー…」
”確認してみるか”
絵里はそんなことを思いながら、表情を曇らせたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
品だしをしながら、
Hな本を立ち読みしている京香を見て、
「こらこら、まだ高校生でしょ?」と、言うと、
京香は「あははーごめんなさ~い」と、笑いながら本を売り場に戻すー。
「ーーもう」
お客さんがいなくなるまで”女子大生バイト”として振る舞う絵里ー。
客が切れるタイミングを見計らうー。
「ーーー」
”よし” 絵里は、お客さんが途切れたことを確認すると、
「ーー伊崎」
と、鋭い口調で言い放ったー
「はい~?」
京香が笑いながら、絵里のほうを見つめるー。
「ーお前、”憑依”で、遊んだりしてないよな?」
絵里のそんな確認に、
京香は「え~?」と、少しだけ笑うと、
「ーー遊んでるに、決まってるじゃないですかー」
と、そんな言葉を口にしたー
③へ続く
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次回が最終回デス~!
全員が憑依されているコンビニに
憑依されたフリをしながら潜入して
働くのも、何だか楽しそうですネ~!笑
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