<皮>お前がそいつになれ③~いじめの果て~(完)

いじめっ子から”好きな子に振られたこと”を逆怨みされ、
皮にしたその子を”着る”ように命じられてしまった
男子高校生…。

”彼女”として振る舞うように強要され続ける彼の運命は…?

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「ーー坂山くん、どこに行っちゃったんだろうー」
加奈は、不安そうに友達とそんな会話をしていたー。

加奈のそんな言葉に
「まさか、自殺とかしてないよねー?
 あいつ、いじめられてたっぽいしー」
と、加奈の友達が返事をするー。

”加奈を着ている翔太”は、
加奈になってからも、あまり女子とは喋らずにいたー。

周囲もそんな加奈の様子を心配していたものの、
最近になって、急に再び今まで通り話すようになり、
加奈本人は”ちょっと気持ちが落ち込んでたからー”と、
周りに元気がなかった理由を説明したー。

女子とあまり喋らなかった本当の理由はー、
”翔太自身が単に女子が苦手だったから”だけなのだがー、
最近は急に女子とも”今まで通り”話すことができるようになり始めていたー。

「ーーー自殺なんかしてないよ!」
加奈がふと、そんな言葉を口走るー

「えっー?」
友達が、加奈のそんな反応に首を傾げると、
すぐに加奈は「あっー…ご、ごめんーなんか急にー」と、
言いながら加奈自身も不思議そうな表情を浮かべたー。

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「ーーあれ……」
女子トイレで鏡を見つめながら加奈は困惑するー

「わたしはー…ぼくー?
 ぼくは、わたしー…???

 あれーーー」

加奈になった翔太は困惑の表情を浮かべるー。

なんだかー、
”わたしは加奈”だと思い込んでいる時間が長くなっているー。
なんだか、様子がおかしいーーー

「僕…なんか、おかしいー」
加奈はそう呟くー。

”乗っ取られた”加奈の意識が戻っているー
と、いうよりかは、
”加奈を着た翔太”が、加奈の皮に影響されて
加奈そのものになりつつあるー

そんなーー
恐ろしいことが起きている気がするー

翔太は戸惑うー。

”このままだとー、僕ー”

翔太もさすがに、自分の身に何が起きているのかを
理解し始めていたー

”わたしは加奈”だとー、翔太自身がそう思ってしまう時間が
かなり増えているのだー

さっきもそうー。
完全に”加奈”になりきっていたー。
しかも”僕がなりきっている”という自覚すらなくー、
加奈そのものになってしまっていたー。

このまま放置していればー
最終的に
”加奈”は乗っ取られたまま意識を取り戻すことが出来ず、
”翔太”は、わたしは加奈だと思い込んで、翔太としての自我を消失してしまうー

そんな、気がしたー

そうなれば結果的に、”本当の加奈”も”本当の翔太”も失われてー
”わたしは加奈だと思い込んで、自分が翔太だと忘れた翔太”しか残らないー。

二人とも消えてしまったようなものだー。

今日も、龍介に呼び出されているー。

だがー、翔太は逃げる決意をしていたー。
”このままだと、僕、おかしくなっちゃうー”

「ーーわたしは…水野加奈じゃないー」
鏡に向かってそう呟く加奈を着た翔太ー

そう、大丈夫だー
まだ”わたしは”自分が翔太だと理解することができているー。

そう思いながら翔太は龍介の呼び出しを無視して、
そのまま帰宅したー。

帰宅してー
後頭部に手をかける加奈ー

けれどー

「ーー!?!?!?!?!?」
加奈を”着せられた”直後はあったはずの
わずかな引っかかりのようなものが
ほとんどなくなっているー

「えっ!?!?えっ!?!?!?
 えっ!?!?!?!?」
加奈は焦るー

これでは”加奈”を脱ぐことができないー

どうしてー???
どうしてーーー????

そう思いながら、なんとか慌てて”加奈”を脱ごうとするも、
それでも加奈の皮を脱ぐことが出来ず、翔太はパニックに
陥るー。

「ーわたしは…わたしは加奈じゃないー
 わたしは…わたしは翔太よ!」

鏡を見つめながら、そう呟く加奈ー

「ーわたしは翔太 わたしは翔太ー

 わたしはーー

 わたしはー…」

混乱が急速に失われていき、
加奈は少しぼーっとしてからー
「わたしは…加奈ー」と、呟くー

「ーーあれ…」
加奈は座り込んだまま、
「なんか、わたし、変ー」と、首を傾げるー。

「ーーー……わたしは…ーーー」

加奈は、ふと
”今、わたし、坂山くんの名前を名乗ってなかった?”と
不安を感じ始めるー。

加奈の意識が戻ったわけではないー。
しかし、加奈の皮に影響されて、”翔太”が急速に”加奈”になりつつあったー。

「ーーー…わたし、疲れてるのかなー?」
加奈はそう呟くと、
「ー坂山くん、どこに行っちゃったんだろうー?」と、
不思議そうに、そう言葉を口にしたー

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翌日ー

加奈は、さらに困惑していたー

”そういえば、わたし、何で柴田くんと付き合ってるんだろうー?”
とー。

柴田龍介はいじめっ子三人組のリーダー格。
”いじめが嫌いな”加奈からしてみれば、龍介のことなんて好きじゃないー。

なのに、少し前に告白されて、それを自分は受け入れているー。

「ーー……ーー」
加奈は、龍介のほうを見つめながら
”ああいう男子、嫌い”と、心の中で呟くー。

今日も”坂山くん”は登校していないー
それと、いじめグループの一人だった眼鏡の森嶋拓斗も登校していないー。

二人とも”行方不明”だと聞いているー。

加奈は、龍介に対し、
”放課後、話があるんだけど”と、別れ話をしようとすると、
龍介は少し青ざめた様子で「わ、わかったー」と、だけ答えたー

”いじめをするような男子とは、別れよう”
加奈は改めてそう思うと、静かにため息をついたー

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昼休みー

「た、助けてくれー」
龍介が、いじめ仲間の一人、イケメン男子の沢村圭吾に
そうすがりついていたー

「ーいやいやいや、
 意味が分かんねぇ」
圭吾が首を横に振ると、
龍介は叫ぶー

「お、俺ー森嶋なんだ!
 身体は柴田だけど、俺ー」

龍介がそう叫ぶと、
圭吾は「ーいや、意味が分からん」と、呆れ顔で呟くー。

「ーーこ、こいつを着たんだけど、俺、脱げなくなっちまってー!
 だんだん、俺、自分が森嶋拓斗だって、分からなくなって来てー
 助けてくれー!
 このままじゃ俺、龍介になっちまう!」

龍介が狼狽えながら叫ぶー。

いじめの主犯”柴田龍介”は、
加奈に振られたあと、加奈を皮にして、それをいじめている翔太に着せたー。
翔太に”加奈”を演じさせ、告白してカップルになったー。

そこまでは、計画通りだったー。

だが、龍介は、いじめ仲間の眼鏡をかけた男子”森嶋拓斗”に、
翔太に加奈を着せた際の会話を聞かれてしまったー。

「面白そうなことしてるじゃないかよー。
 俺も混ぜてくれよ」

そう、拓斗から言われたあの日ー、
龍介は”口封じのために拓斗を皮にして始末しようと”したー。

だがーーーあの時、
龍介は”返り討ち”に遭ってしまったー。

針を奪われて、逆に拓斗に龍介が皮にされてしまい、
着られてしまったのだー

”森嶋拓斗”が登校しなくなった日からー
龍介の中身は拓斗に変わっていたー。

翔太は気づいてなかったものの、
”放課後に呼び出されてキスをされた”あの日から、
龍介の中身は龍介ではなくなっていたのだー。

しかしー、
龍介を乗っ取った拓斗は今、翔太と同じ状況にあったー

「ーこのままじゃ俺、龍介になっちまう!」
龍介がそう叫ぶと、もう一人のいじめっ子、圭吾は
「いや、悪いー。付き合ってられねぇわ」と、
呆れ顔でそのまま立ち去って行ったー。

”龍介”に「俺、龍介になっちまう」なんて言われても、
何も知らない圭吾からすれば、
理解できるはずもなかったー。

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放課後ー

龍介が加奈の前にやってくるー

そして、龍介は
青ざめた表情で加奈を見たー

「ー”お前も”かー?」
そう、言葉を口にしながらー。

「ーーえ?」
加奈が困惑するー

「お前も、自分が誰なのか、分からなくなってきてるんだろ?」
龍介がそう言うと、加奈は首を傾げながらー
「わ、わたしは水野加奈だけどー…何言ってるの?」と、
困惑の表情を浮かべるー

「ーーー!!!!!」
龍介を着ている拓斗は表情を歪めたー。

「ーーお…お前……さ、坂山だろー?坂山翔太だろ?」
龍介を着ている拓斗は、そう言い放つー。

だが、加奈を着ている翔太、であるはずの加奈は
きょとんとした表情でー
「ーーどういうこと?」と、首を傾げたー

龍介は、困惑したー。
目の前にいる”加奈”は、
”自分の未来”だー。

拓斗も間もなく、自分が拓斗であったことを認識できなくなりー、
龍介そのものになってしまうー

「ーーち…違う!お前は坂山だ!水野さんじゃない!
 水野さんの皮を着て、水野さんになっているだけだ!」

龍介が叫ぶー。

しかし、”もう”自分が翔太であることも分からなくなってしまった
”加奈を着た翔太”は言い放ったー

「ーどうしてわたしが柴田くんと付き合っちゃったのかは
 分からないけどー
 やっぱりごめん、わたし、人をいじめるような人、好きじゃない」

加奈がそう言い放つー。

”どうして、龍介と付き合ってしまったのか”
そんなことに強い違和感を感じるものの、
それでも”加奈”の身体に影響されて、自分が自分であることも
分からなくなってしまった翔太は、
”僕は翔太だ”と、思い出すことはできなかったー

「ーーそ、そん…なー」

”別れ”を告げられたー
そんな事実に、龍介は強いショックを受けるー。

それと同時に、拓斗の自我が急速に龍介の皮に飲み込まれていくー

「そんなー…そんな…俺は…俺はー」
”龍介を着た拓斗”は、訳も分からずそう叫ぶー。

”振られたことがショック”なのか、
”自分が自分であることを忘れてしまうこと”に焦っているのかー

理由も分からなくなり、後頭部にあたりを必死にかきむしる龍介ー。

しかし、既に龍介の皮は”脱げない”状態になっていて、
そのまま、拓斗も龍介そのものになってしまったー。

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結局、”加奈を着た翔太”と
”龍介を着た拓斗”は、そのまま相手に取り込まれるような状態に
なってしまったー。

結果、翔太と拓斗は”行方不明”のままー。

加奈と龍介は”他の生徒たち”から見れば
今まで通りだが、
実際には、二人の意識は奪われたままで、
今の二人は、
”自分を加奈だと思い込んだ翔太”と、
”自分を龍介だと思い込んだ拓斗”だー。

しかも、もう二人は元に戻ることも出来ないー。
翔太は加奈の記憶と人格に影響されて、完全にそのものになってしまっていてー、
拓斗も、それは同じことだったー。

「ーーうん、ありがとう」
完全に加奈になってしまった翔太は、
今日も友達の女子と楽しそうに話しながら
充実した学校生活を送っているー

物静かで心優しい感じはそのままでー、
言うべきことはハッキリと言う、そんな
振る舞いも前と何も変わっていないー。

「ーーーーー」
けれど、加奈は時々、”妙に自分を見てドキドキする”ことがあるー。

”またー…”
トイレで手を洗っている最中に鏡を見て、
”また”急に、自分の姿にドキドキしていることに気付くー。

”なんなんだろうーこれ…”
加奈はそう思いながらも、その理由は分からないー。

”女子との接点があまりなかった翔太が、
 加奈になっていることにドキドキしている”状態がー
無意識のうちにわずかに表に出てきていることによるものー

しかし、もう、翔太は自分が翔太であったことも思い出せないー。

「ーーー…まぁー別に…病気とかじゃないと思うし…いっか」
加奈は一人そう呟くと、少しだけ微笑んで、
その場を後にしたー。

今日も何の疑いもなく、
自分のことを”わたしは加奈”だと、思い込んでー。

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「ーなんだこれ?」

龍介になってしまった拓斗が、
龍介自身の部屋を整理していると、
”人を皮にする針”の説明書らしきものを見つけた。

針自体はもう、”何の針だかも分からないまま”
どこかに落として紛失しているー

「ーー人を皮にする?ははっ!なんだこれ?
 おもちゃの説明書か?」

そんな風に笑いながら、何も気にすることなく
それを捨てる龍介ー

捨てられた説明書にはー

”長期間の着用はご遠慮ください。
 着用者の自我が飲み込まれる恐れあり”

と、書かれていたー

おわり

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コメント

”着た”皮に、そのまま取り込まれるような結末でした~!

乗っ取られた本人が正気を取り戻したわけでもなく、
乗っ取った本人も自分であることを忘れてしまって、
悲惨(?)な結末に…★!

でも、翔太くんは結果的にいじめを受けなくなったので、
そこはハッピーなのかもしれませんネ…★

お読み下さりありがとうございました~!

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