”あなたはわたしの犬”ー。
犬を飼っていた心優しい女子大生ー。
彼女はある日、近所に住む女に憑依された挙句、
魂を身体から追い出されて、飼い犬に憑依させられてしまうー…。
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大学生の里田 克美(さとだ かつみ)は
飼い犬のココのことをとても可愛がっていたー。
ココは、克美が中学校を卒業するときに
この家にやってきた犬でー、
大学生になった今でも、克美は毎日のように
ココと戯れているー。
「ーーー姉さん、俺よりココのこと、可愛がってるからなぁ~」
弟の真守(まもる)がそう呟くと、
克美は「え~?そんなことないよ~!」と笑いながら答えると
「じゃあ、散歩行ってくるね~」と、大学から帰宅して早々、
ココを連れて散歩に出かけたー。
ココを連れて色々な場所を回る克美ー。
ココと時折会話をしたり、時折休んだりー
穏やかな表情で散歩を楽しむ克美ー。
毎日の犬の散歩ー
苦に思う人もいるかもしれないー。
だが、克美にとっては全然苦痛ではなかったしー
ココと一緒にいられる時間が何よりも大切だったー。
「ーあ、こんにちは~!」
たまたますれ違った近所のおじいさんと挨拶を交わす克美ー。
忙しい日や体調不良の日などを除きほぼ毎日
ココの散歩をしている克美は、
近所の人達からもよく知られている存在ー
礼儀正しく、真面目な克美はー
ココ共々、近所から愛される存在だったー
「あ、克美ちゃんーこんにちは」
近所のおばあさんに声を掛けられて、
克美は立ち止まると、
ココのことを可愛がってくれるおばあさんと雑談を交わすー
楽しそうに笑う克美ー
だがーーー
近所には、克美のことを好意的に見る人間ばかりではなかったー
「ーーーー…」
ギリッ…と、歯ぎしりをするおばあさんー。
彼女はー
克美が住む家がある住宅街に住んでいる
一人暮らしの中年女性だー。
菊田 美奈子(きくた みなこ)ー
彼女にはー
小さい頃からー友達もおらず、
家族からも愛されずー
性格は歪み切っていたー
最近では奇行で近所を困らせるようなこともありー
特に”幸せそうにしている家族”に対しては
激しい敵意を燃やしているー
そんな、女性だー。
”元々性格に問題があって”孤立していたのかー
それとも、
家族や友達ー、周囲の人間に恵まれず”歪んだ”のかー
それは今となっては分からないー。
性格が歪んだのは
”先”なのか、”後”なのかー。
その答えは、もはや本人ですらわからない。
しかしー
どちらにせよ、今の美奈子が危険人物であることには
変わりなかったー。
そんな美奈子が、
ココを散歩させている克美の方に近付くと、
「こんにちは」と声をかけるー。
「あ、こんにちは~」
克美は、そんな美奈子に対しても、
他の人に対する笑顔と変わらぬ笑顔で挨拶をするー
だがー、美奈子はそんな笑顔にも
内心、腹を立てながら
「ーーそうやって、ご近所さんからチヤホヤされて
嬉しいの?」と、笑顔を浮かべたまま嫌味を口にしたー。
「ーえ…いえ、ココは散歩が好きなのでー」
克美は、美奈子の嫌味に対しても、
笑顔を浮かべながらココのほうを見つめるー
しかしー
「ーその犬は本当に喜んでいるのかしら?」
美奈子はなおも嫌味っぽく言葉を続けたー
今日の美奈子は特に不機嫌だったー
パート先で、”子供が熱を出した”と、同僚の主婦が
休んだことで、急遽、呼び出されていたからだー。
”彼氏”がいたこともなく
当然、子育てをすることも一生ない美奈子からしてみればー
”子供が熱を出した”という理由で欠勤するなどということは
許しがたいことだったのだー
そんなこともあってー
今日の美奈子は特に不機嫌だったー
「ーはいー。ココ、散歩が終わると、いっつも、とっても元気になるんですー」
克美が、美奈子の嫌味を上手くかわすようにして言葉を続けるー
いやー、そもそも克美はとても優しい性格で
嫌味としても受け取っていないのかもしれないー
「ふ~ん あんたに犬の気持ちが分かるの?」
美奈子が、なおも食い下がるー。
だが、克美は「ーそうですねー。ココがどう思ってるのかは分からないですけどー
でも、喜んでると思います」と、だけ言うと、頭を下げて
そのままココと共に再び歩き始めたー
「ーーー……」
ギリッと歯ぎしりをする美奈子ー。
”ああいう女ー、一番嫌いー”
服をかじりながら美奈子は、立ち去っていく克美の後ろ姿をじーっと、
睨み続けたー
家族から愛されー、近所から愛されー
友達も、確か彼氏もいるー
そんな”克美”のような子がー
美奈子は大嫌いだー。
美奈子が手に入れることのできなかったものをー
全て持っているようなー
そんな、気がしてー
おまけにー
性格が良いことも、美奈子からしてみれば
不愉快極まりなかったー
「偽善者ー!」
美奈子は小さくそう吐き捨てると、
家の中に戻っていき、
イライラした様子でお菓子を暴食し始めたー
そしてー
そんな美奈子が”恐ろしいモノ”を手に入れてしまったのは
その数週間後のことだったー
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”憑依薬ー”
偶然、ネットで見つけた夢のような薬ー。
これを飲むと、自分の身体から幽体離脱することができー、
他人に憑依することが出来るー。
憑依後ー
元々その身体に入っていた魂を追い出してー
身体を完全に支配することができるのだー。
「ーーあの生意気な女ー、今日もクソ犬の散歩を
してるのかしら」
美奈子はそう呟きながら、
憑依薬の容器を手に、克美がいつもココの散歩をさせている
時間帯になると、外をウロつきはじめたー。
するとー
しばらくしてー
”いつものように”ココの散歩をさせている克美の姿が
目に入ったー
「いたーーー…!」
商店街の肉屋の店主と挨拶をして、
少し雑談をすると、
そのまま公園の方に向かって行く克美とココー。
「ーーあんたみたいな生意気な女ー
わたし、大っ嫌いー…」
美奈子はそう呟くと
「全部奪ってやるー…」と、ボソボソ呟きながら
克美が、あまり人通りのない公園の一角ー。
木々が生い茂っていて、犬の散歩には最適なコースに
入っていくのを確認すると、
ニヤッと笑みを浮かべたー
「あんたの若い身体ー、わたしが使ってあげるー」
美奈子はそれだけ言うと、
克美から少し離れた場所で、
全く躊躇することなく、憑依薬を飲み干したー。
小さい頃は、容姿にも恵まれなかったー
だからー
可愛い子を見ると腹が立つー
小さい頃から今まで、自分はずっと不幸だったー
だからー
幸せそうな子を見ると腹が立つー。
美奈子からすればー
克美は”何もかもが腹立たしい生意気な小娘”だったー。
そんな小娘の全てを奪ってやるー!
そう思いながら美奈子は”自分の身体にはもう戻れない”ことなど
お構いなしで、憑依薬を一気に飲み干すと、
ぐるんと、目を回転させて、そのままふらふらとその場に倒れ込んだー
「ーーー!」
美奈子は、自分の身体が倒れ込むのをー
確かに目撃したー
「ーーーー…!!」
一瞬、驚いたものの、憑依薬の力が本物であったことを
確信し、ニヤリと笑うー。
そしてー
少し離れた場所で何も知らずに散歩を続けている克美に向かってー
自分の霊体を突進させたー
「ーーひっ!?!?!?」
飼い犬のココを微笑ましそうに見ていた克美が
変な声を出してびくっと身体を震わせるー
急に苦しくなって、その場にしゃがんで咳き込むとー
やがてー…
綺麗な光を放つ、球体のようなものを、
克美は吐き出したー
その瞬間、ニヤニヤしながら克美は笑いだすー
「やったー…
やったー…
生意気なこの女の身体ー…くふふふ…今日からわたしのものー…!」
奇妙な言葉を吐き出す克美ー
先程まで穏やかな様子だったココが、
突然、克美を見て警戒心を露わにして吠え始めるー
「ー何なの?」
克美が不機嫌そうにココのほうを見つめるとー
「お黙り!」と、険しい表情で叫んだー
だがー
ココは怒りの形相で、克美に向かって吠え続けるー
「ーうっさいわね!黙れって言ってるのよ!」
ココを叩く克美ー。
しかしー
すぐに”吐き出した克美の魂”を見つめるとー
ニヤリと笑みを浮かべてからー
とても柔らかいー握り潰せそうなほどのそれを掴みー
ココの方に向かってそれを投げつけたー
ココの身体がビクッと震えるー
それを見て、笑みを浮かべる克美ー
吠えていたココが、途端に怯えたようなー
困惑したような表情を浮かべてー
叫ぶようにして吠え始めたー
”克美の身体を奪い”
”克美の魂を飼い犬のココに憑依させた”
「ーーーふふふふふ…どう、”犬”になった気分は?」
ココに向かってかがみながら、
克美に憑依した美奈子はニヤニヤと笑みを浮かべるー
愉快でたまらないー
あの幸せそうにしていた女がー
今は”わたしのペット”になっているのだからー
怯えた表情のココは”ワン!”と吠えるー。
しかし、その意思は通じないー
克美は、克美が今までの人生で浮かべたことのないような
邪悪な笑みを浮かべるとー
「ほら…歩きなさいー」と、
犬の散歩に用いるリードを無理やり引っ張り始めるー
身体を反対側に持って行こうとして抵抗の意思を示す
”ココに憑依させられてしまった克美”
だがー、克美に憑依した美奈子は
笑みを浮かべるとー
「あんたー…本当に生意気ねー」と、
ココを睨みつけたー
「ーあなたはわたしの犬になったんだからー…
無駄な抵抗はやめなさいー」
そう言いながら、ココに顔を近づけるとー
克美は、見下すような視線をココに向けながら
そのまま強引にココを引っ張っていくー
”ーーど、どうしてー…!?な、なんでこんなー…?”
ココに憑依させられてしまった克美は
ひたすら戸惑っていたー
”自分の身体が奪われた”こともそうー。
そしてー、
”自分がココになってしまった”こともそうー。
自分自身がどうなってしまうのかも心配だったし、
大好きなココの身体に入ってしまったことも、
心配だったー
”ーー…や、やめてください!”
必死にそう叫ぶもー
「ワン!」と、吠えることしかできないー
克美は
「さっきから吠えてばっかりー…!
うるさいのよ!」と、石を拾って、
それをココに投げつけたー
「ーーーあなたはわたしの犬なの!
犬の癖に生意気よ!」
克美はそう叫ぶと、
ココを無理やり引っ張って、そのまま家に向かって行くー
通行人が、克美が乱暴にココを連れているのに
驚いた表情を浮かべていたものの、
今の克美にそんなことは、まるで興味のないことだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ただいま~~~」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら帰宅する克美ー。
「ーーワン!ワン!ワン!!!」
ココになってしまった克美は、
必死に家族に異変を知らせようと何度も何度も
吠え続けるー
「ーーうるさいって言ってんのよ」
ココに顔を近づけると、克美は小声でそう言い放ちー、
ココの頭を軽く叩くー
それでも吠えるのを止めないココー。
ココに憑依させられてしまった克美からすれば、
必死だったー。
例え吠えることしかできなかったとしても、
吠え続けるしかなかったー。
母親かー、弟の真守かー、
それか、このあと仕事から帰宅するであろう父親かー。
とにかく、誰か一人でもいいから
”この異変”に気付いてもらう必要があったー。
「ーーうるさいわね…!いい加減にしなさいよ!」
小声で克美に憑依した美奈子が言うー。
「ーー誰も、あんたが犬になったなんて気付きやしないー
あんたの身体はもうわたしのものー
そしてーーーーあんたはわたしのペットよ!」
克美は小声でそう言い放つとー
”姉さんおかえり”
という声が聞こえたのに気づき、
立ち上がってその声の主ー
弟の真守のほうを見たー
「ーー!?」
真守を見た克美は突然顔を真っ赤にして
口元を手で押さえたー
「いーーー、イケメン!?」
弟にドキッとしてしまった克美ー
そんな”変な姉さん”を見て、
弟の真守は「え…?????」と、困惑した表情を浮かべたー
②へ続く
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コメント
おばさんに身体を奪われた挙句、
犬に憑依させられてしまうお話デス~!
続きはまた明日デス~!
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