憑依薬を使って憑依した相手は、
”ゾンビ化直前”の女だったー。
そうとは知らずに憑依してしまった彼は
その身体から抜け出すこともできずに
ピンチを迎えることに…!
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「ーへへへへー
念願の憑依薬を手に入れたぜー」
今年で35を迎える男、糸村 謙介(いとむら けんすけ)は
ニヤニヤしながら、ネットで取り寄せた”それ”を見つめていたー。
”憑依薬”ー
その名の通り、他人に憑依することができる薬だ。
昔から己の欲望のままに生きて来た謙介はー、
欲しいものは何でも手に入れて来たー。
しかし、そんな彼にも手に入らないものがあったー。
それが、”彼女”だー。
”モノ”を手に入れるのとは違うー。
”彼女”という存在は、相手があってこそのものー。
自分勝手な性格でもある謙介にはー、
”彼女”という存在に手が届かないまま、
これまでの人生を送って来たー。
がー、もはや謙介にとってそんなことはどうでもよかったー。
「ー彼女が手に入らないならー
俺自身が女になってやるぜー。
この憑依薬でな」
謙介は得意気な表情で、憑依薬を手にしたまま
そう言葉を発すると、早速憑依薬を飲み干したー。
”へへへーすげぇー…”
自分の身体が消滅して、霊体になったのを
自分自身で感じながら、謙介は内心でそう呟きながら
自分の家だった場所から飛び出すー。
もうこの家は必要ないー。
”俺は新しい身体を手に入れるのだ”と、
そのまま隣町へと向かって行くー。
もちろん、近隣住民に憑依してもよかったものの、
何となく、自分の住んでいる場所のすぐ側は
気乗りしなかったー。
憑依薬を飲んで謙介自体が”消えた”ことによって
もしかしたらちょっとした騒動になるかもしれないし、
せっかく新しい身体を手に入れるのだから、
済む場所も変えて、気持ちを切り替えたいと
そんな風にも思っていたー。
そんな思いから、自分の住んでいた町を離れて、
山に囲まれた隣町へと向かうー。
”へへへへ~さ~て、俺の新しい身体にふさわしい女はいるかな”
そう呟きつつ、謙介はしばらく”憑依する相手”を探していくー。
途中で何人か”この女はいいなー”と、思うような
ターゲットはいたものの、
”もっと俺好みの奴がいるかもしれない”と、徘徊を続けた結果ー、
”理想の相手”を見つけたー
どこか幸薄そうな雰囲気を漂わせている美少女ー。
高校生か大学生ぐらいだろうかー。
いや、どっちでもいいー。
とにかく髪も、顔も、オーラも、彼好みの女が
ため息を吐き出しながら道を歩いていたー。
”ーへへへへーそんな風にため息を吐き出しちゃってー。
ま、お前が何に悩んでるのかは知らねぇけど、
俺がその悩みごと、お前の身体を貰ってやるから安心しなー”
謙介はそこまで言葉を口にすると、
ニヤッと今一度笑みを浮かべてから、
道端を歩いていたその女に憑依したー
「ーーぅ…」
憑依された女がビクッと震えるー。
それと同時に、女の身体の感覚が自分のものになってきたことを
感じると、その感覚にもゾクゾクとしながらー、
やがて、乗っ取った女の顔でニヤリと邪悪な笑みを浮かべるー。
しかしー、快感を感じると同時に
”あること”にも違和感を感じたー。
それはー…
「ーへへ、この女、妙に腹が減ってやがるなー」
”空腹”だったー。
妙にお腹が空いているー。
謙介が今までに味わったことのないぐらい、空腹だー。
「ーーま、こんなに腹が減ってりゃ、ため息も吐き出したくなるよなー
ーー…で、こいつ、金ないのか?」
一見すると、整った身なりに見えるものの、
お金がないのだろうかー。
そんな風にも思いつつ、持っていた鞄を探ってみると、
まず、”大学”の学生証が出て来たー。
鵜月 美桜(うづき みお)ー。
どうやら乗っ取ったこの身体は女子大生のようだー。
「ー鵜月 美桜ちゃんねーへへ」
美桜に憑依した謙介は嬉しそうにそう言葉を口にすると、
「今日から俺が鵜月 美桜だー」と、満足そうに呟くー。
そして、一呼吸おいてから
「わたしは鵜月 美桜ー」と、甘い声で囁くと、
一人で興奮したような表情を浮かべて見せるー。
自分の”新しい名前”を名乗ることに興奮していると、
やがて、鞄の中から”財布”も発見したー。
「こんなに腹減ってるってことは、お金もないんだろうなー」
そう思いつつ、美桜は”自分の財布”になったその財布を
開くー。
が、そこには予想以上にお金が入っていてー、
1万円札と1000円札が数枚、入っているのが見えたー。
有り金が全て現金であったとしても、それなりに
お金を持っているし、
これだけお金があるのに、ここまで強い空腹感に耐えているのは
何故なのだろうかー。
そんなことを思いつつ、近くのコンビニに向かって歩いていく美桜ー。
しかし、歩いている最中にも、まだそんなに遅い時間ではないのに、
”不自然に閉店状態”になっているお店を何店舗か見かけて
美桜に憑依した謙介は少しだけ表情を曇らせたー。
何かー、何か違和感があるー。
そう思わずにはいられないー。
そんなことを思いつつも、ようやくコンビニに到着した美桜は
コンビニが普通に営業していることに安堵しつつ、
その店内を見回して、謙介の好きなサンドイッチやおにぎり、
カップ麺を購入すると、
そのままそれをレジへと持って行くー。
「ーー……!!」
コンビニの店員は美桜を見ると同時に、
少し怯えたような表情を浮かべて、
かなり慌てた様子で会計を済ませ始めるー
”なんだなんだ?俺の可愛さにドキドキしてるのか?”
美桜に憑依している謙介はそんなことを思いつつ、
会計を終えると、
コンビニでカップ麺にお湯を入れて、
外に出ると、コンビニの裏ですぐにそれを食べ始めるー。
美桜のような美少女には似合わない光景であるものの、
謙介にとっては、そんなことはどうでもよかったー。
これからは”俺色の美桜”になるのだからー、
とー、そう考えていたー。
「ーーっ、このカップ麺、こんなに味薄かったか?」
カップ麺を少し食べたタイミングで、美桜は
表情を歪めながらそう言葉を口にすると、
もう一口、カップ麺を口に運んでいくー。
あまりにも味が薄すぎるー。
「おいおい、いくら値上げラッシュと言っても
こんな味落とされちゃ、困るだろー」
美桜はカップ麺に対してブツブツと文句を言いながら
それを食べ進めていくと、
「仕方ねぇ」と、そう言葉を口にしながら
今度はコンビニのおにぎりを口に運び始めるー。
がーー
おにぎりまでも、”かなりの薄味”で、
味を感じないレベルだったー。
「ーはぁ?」
美桜は心底不満そうな表情を浮かべると、
おにぎりのパッケージを見返すー。
「どうなってやがるー?」
まるで”おにぎりの形をした物体をかじっている”だけに感じるー。
つまり、味がほとんどしないー。
「ーーチッ」
そう思いつつ、コンビニで購入した缶コーヒーを手にして
それを飲むも、やはり味がしないー。
「こいつ、味覚の病気か何かかー?」
カップ麺だけではなく、おにぎりも缶コーヒーも味がしなかったー
そんな状況を前に、流石にカップ麺がコストカットのために
薄味にしたのではなく、それを食べている”美桜”の方がおかしいことを
悟ると、「こいつー…くそっー…ハズレかー?」と、
自分が憑依したこの身体ー…”美桜”の身体を
ハズレと呼び捨てる謙介ー。
がー、その時だったー
スマホが鳴っていることに気付き、
美桜は少しだけ不快そうにしながらも
スマホを手にすると、
スマホの画面に”白月感染症対策センター”と、
表示されているのが見えたー。
「感染症?」
美桜は表情を歪めるー。
一瞬、無視しようかとも思ったものの、
”コイツ、やっぱ何か病気なのかー?”と、
表情を歪めるー。
人によって味覚が違う。
それは分かるし、理解もできるー。
ただ、美桜の場合、それが極端すぎるー。
ここまで味覚がないのはおかしいし、
何かの感染症に感染している、と言うのであれば、
それも理解できるー。
「ーチッー、面倒な身体に憑依しちまったぜー」
美桜に憑依している謙介は、少しだけ不愉快そうに、
そんな言葉を口にすると、そのままスマホを手にして
何度か咳払いしてから、謙介が思う普通の女子大生っぽい声を出して
「はい」と、そう答えたー。
”もしもし?白月感染症対策センターの小山(こやま)ですー。
その後はどうでしょうかー?”
電話相手の男は、自分の名を名乗ると、
美桜に対してそう言葉を口にしたー。
「ーえっとー、どうって?、どのことですか?」
相手に”憑依したために今までの記憶がない”と、いうことは
悟られないようにしつつ、そう言葉を口にするー。
すると、電話相手の男・小山は言葉を続けたー。
”ー例の奇病の件ですー
ひとまず”兆候”は見られなかったので
経過観察することになっていましたよねー?
それで、どうかな、と思いまして”
相手の男のその言葉に、
美桜に憑依している謙介は、少しイラっとしたような
表情を浮かべながら
「ーー例の奇病って何でしたっけ」と、
不愛想にそう返事をするー。
もちろん、相手の男からすれば、
美桜が”理解している前提”で話をするのは
当たり前のことではあるけれど、
ただ、美桜に憑依している謙介からすれば、
何となくそれに対してイラッとした。
”ーーーそうですねー…
…”ゾンビ”とでも言いましょうかー。
人間を変異させてしまう奇病ですー”
担当の男・小山は少し小声になると
そう言葉を口にしたー
「ぞ、ぞ、ぞ、ゾンビ!?」
美桜が声を上げるー。
もちろん、本来の美桜は既にそのことを
知っていたのだろうから、
そんな反応をするのは、本来であれば
おかしいのかもしれない。
しかし、驚かずにはいられなかったー。
”ー落ち着いて下さいー。
鵜月さんは、先日の検査の際には特に兆候はありませんでしたー
なので、念のため経過観察という段階で、
この先、特に何も症状が出なければこの先も問題なくー…”
相手の男のその言葉に、美桜は険しい表情を浮かべるー。
そしてーー
「ーーどんな症状が出たら、まずいんでしたっけ?」
と、相手の男から情報を聞き出そうと、そう言葉を口にするー。
すると、担当者の小山は言った。
”ー食欲の異様な増大ー、食べても食べても空腹が落ち着かない状態ー、
人間が美味しく見える、人間から美味しそうな香りを感じるー、
人間の肉以外に味を感じなくなるー、目の充血ー、
それに疲れや皮膚の劣化、そういった症状ですー
それと、声がかれるなどの症状が出ることもありますー”
その言葉に、
「ーー!」と、美桜に憑依している謙介は唖然とするー。
「ー…その症状が全部出ていると、まずいということですか?」
美桜は、反射的にそう言葉を口にしたー。
少なくとも声は枯れていないし、皮膚は劣化していないー。
目の充血は分からないけれど、とにかく、今言われた症状の
全てが出ているわけではないー。
がーー
”いえ、人によって個人差はありますー
ただ、”ゾンビ化”が近付くにつれて先程お話した症状が
強まったり、増えたりしますー”
と、そんな言葉が返って来たー。
「ーーー嘘だろ…?」
スマホを握りしめながら、一人そう呟く美桜。
異様な空腹に、先ほど食べたカップ麺やおにぎりの”味”のなさー…
それにー…
味がしなかったとは言え、あれだけ食べたはずなのに
美桜は”まだ”空腹だー。
これが意味するのはー…
「ーーーー」
美桜に憑依した謙介は表情を歪めるー。
”冗談じゃねぇー。せっかくいい身体を手に入れたってのにー…
しかも、憑依薬、いくらしたと思ってるんだー”
そう思いつつ、
「ーーもし、”感染”してたらどうなるんですか?」と、
そう確認すると、
”ゾンビになりますー。現時点で元に戻す手立てはありません”
とー、そう言葉が返って来たー。
謙介の住む、隣町ー
山に囲まれたこの地では
”人をゾンビにする謎の奇病”が少しずつ広がっていたー。
美桜は、それに感染していたのだー
「ーーくそっ」
電話を終えた美桜は、スマホを放り投げるー。
そして、美桜に憑依している謙介は、
美桜の身体から抜け出そうとしたもののー
「ーーー…え?」
”奇病”に冒されている影響なのだろうかー…
美桜の身体から抜け出すことができなかったー
「ーーお…おいっ…ふ、ふざけるなー…!」
美桜に憑依している謙介は声を上げるー…
憑依した相手は、ゾンビ化直前の女子大生ー。
そして、そのタイムリミットは着々と迫りつつあったー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依した相手はまさかのゾンビ化直前…!
大変な状況になってしまいましたネ~!
続きはまた明日デス~!!

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