事故で昏睡状態に陥ってしまった彼女ー。
そんな彼女が”動いている姿を見たい”
その想いだけで、彼は憑依人を見つけ出し、
その憑依人に頼み込むー。
”どうか憑依してほしい”
とー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
大学内ー。
秀幸はいつものように、1日を過ごしつつ、
お昼の時間帯に、食堂で”後輩”である亜美菜の姿を偶然見かけたー。
亜美菜は”友達”と楽しそうに話をしながら、
昼食を自分たちの座る机へと運んでいるー。
”明日”のことを考えながらそんな亜美菜のほうを見ていると、
秀幸の視線に気づいたのか、亜美菜も秀幸のほうを見て
少しだけ笑うー。
そして、
「先輩ー、”明日”は宜しくお願いしますねー」と、
それだけ声を掛けて来た亜美菜ー。
「ーーあ、あぁー…こ、こちらこそー」
まさか声を掛けられるとは思っていなかった秀幸は
少し戸惑いながらそう返事を返すと、
それ以上は何も会話せずに、
自分の昼食を選びに、座席から離れていくー。
”ーえ~?亜美菜、先輩と付き合ってるの~?”
亜美菜の友達の一人がそんな言葉を亜美菜に掛けるのが聞こえたー。
”ーそ、そんなんじゃないよ~!ちょっと、相談事があってー”
亜美菜はそう言葉を口にしながら笑っているー。
あの感じだと、外から見る分には”普通の女子大生”にしか見えないー。
「ーー”憑依”ってすごいなー……
まぁ、俺がしようとは思わないけどー…」
秀幸は、小声でそれだけ言葉を口にすると、
改めて”明日”のことを頭の中に思い浮かべると、
緊張したような表情を浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
秀幸の家にやってきた亜美菜はー、
秀幸のほうを見つめながら
「ーーじゃあ、打ち合わせ通りにお願いしますね」と、
そう言葉を口にしたー。
このあと、亜美菜は秀幸が使っていた不眠症対策の
薬を飲むー。
憑依薬の効果や、その薬自体の効果から
”3時間”は絶対に目を覚まさないと計算した二人ー。
亜美菜の身体が眠りにつく直前に、亜美菜に憑依している男は離脱ー、
秀幸の彼女である昏睡状態の雫に憑依ー、
そして、秀幸は亜美菜が寝ていることを確認した上で、
病院へと移動するー。
雫に憑依した男は、秀幸が到着するまでは
”意識が戻っていないフリ”を続けー、
病院に秀幸が到着したら、秀幸と会話をするー。
そういう手はずだー。
男が抜ければ、雫はまた昏睡状態に戻るため、
病院の関係者に”雫が起きている状態”を見せるわけには行かない。
そうなってしまえば、その後がややこしくなるー。
「ーーじゃあ、寝落ちする寸前にこの身体から抜けますからー」
亜美菜はそう言うと、
薬を飲む前に、秀幸のほうを見つめたー。
「ー失敗したら、先輩は大変なことになるかもしれませんが、
それでも本当に構いませんね?」
亜美菜はそう言い放つー。
ここは秀幸の部屋ー。
もしも、秀幸の部屋で、1年以上も憑依されていた亜美菜本人が
意識を取り戻せば、大変なことになるー。
亜美菜に憑依している男は、
秀幸のことは信じつつも、
”お互いにリスクを背負う”状態にすることで、
秀幸のことを試していたー。
「ーーーはいー。構いませんー。」
秀幸は臆することなく、真っすぐと亜美菜を見つめ返すー。
亜美菜がニヤッと笑うと、
そのまま薬を飲んで、眠気が限界に達したところで
”中”にいた男は亜美菜の身体から抜け出したー。
そしてそのまま、少し離れた場所にある病院で
昏睡状態のままの”雫”の元へと向かうー。
「ーーーー」
秀幸は、穏やかに寝息を立てている亜美菜を見て、
その亜美菜に毛布をかけると、
ちゃんと眠っていることを確認ー、
そのまま病院へと向かう準備を始めるー。
”ー中身は雫じゃないー”
そうは分かっていても、
秀幸は、どうしてももう一度”動いている雫”にー、
表情があって、声を発する雫に会いたかったー。
家の玄関を閉める直前ー、亜美菜が寝ているかどうか不安になって
もう一度確認する秀幸ー。
しかし、亜美菜はしっかりと眠っていて、
その容姿に安堵しながら秀幸は病院に向かって走り出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
病院で何食わぬ顔でお見舞いにやってきたと告げ、
そのまま”雫”の部屋にやってきた秀幸ー。
「ーーー」
雫は、いつものようにベッドに横たわっているー。
秀幸は病室の扉を閉めると、
ひと息ついてから
「到着しましたー」と、そう小声で言葉を口にすると、
”男”に憑依された雫は、ゆっくりと目を開いたー。
そしてーー
「ー秀幸ー」
と、そう言葉を口にしたー。
”打ち合わせ”通りー、
”雫本人であるかのような”振る舞いをしてくれている男ー。
「ーーー…し、し、雫ー…」
頭の中では分かっているー
分かってはいるけれどー、
まるで、本物の雫が目を覚ましたかのように感じて、
目から涙が溢れ出してしまう秀幸ー。
「ーふふー…そんなに泣かないでー秀幸ー」
”憑依されている”雫はそう言葉を口にすると、
秀幸の手に優しく触れるー。
「ーーーー!」
”雫”が動いているー。
”雫”が喋っているー。
それだけでー、
目からさらに涙が溢れ出してしまうー。
「ーー雫ーーー」
秀幸は、そんな雫の手を優しく握りしめると、
”本当の雫ではない”と分かっていながら
「ーずっと、ずっと待ってたー」と、そう言葉を口にしたー。
”ーーやれやれー”と、雫に憑依している男は、
そう思いつつも、
”自分にも大切な人がいればー、こんな風に思ったのかもしれないー”と、
そんな風にも考えて、秀幸のほうを優しく見つめるー。
「ー秀幸ー。わたしも会いたかったよー
今、どんな状況なのー?」
雫がもしも”本当に目を覚ましたら”を考えつつ
男が雫としてそう言葉を口にすると、
秀幸は目に涙を浮かべながら
”最近の近況”を語り始めたー。
雫に憑依している男は、その話を
”まるで本当の雫”かのように
優しく、穏やかに聞いて行ったー。
「ーーそうなんだー…そんなにたくさんお見舞いに来てくれてたなんてー
ありがとうー」
長話を聞き終えると、雫はそう言葉を口にするー。
その後も、楽しそうに話を続ける二人ー。
がー、”亜美菜の身体”が目を覚ます可能性や、
病院の看護師が見に来る時間も考えると、
もうこれ以上は続けられないー。
「ーーー今日は来てくれて、ありがとねー」
雫がそう言うと、
秀幸は目に涙を浮かべながら頷くー。
”おわり”の時間が近付いて来ると同時に、
秀幸は悲しそうに呟くー
「ーー俺、何やってるんだろうなー…」
とー。
「ー本当は、雫じゃないって分かってるのにー
でも、動いている雫を見て、泣いてー…
ーーーこんなことしても、雫が戻って来るわけじゃないのにー」
秀幸は、そう言葉を口にすると、
「ーー感謝してますー。でもーーー何してるんだろうなーって思って」と、
”雫の中にいる男”に、そう言葉を口にしたー。
涙を流す秀幸を見つめる雫ー。
雫に憑依している男は、少しだけ戸惑っていたものの、
秀幸の頭を優しく撫でると、
「ーー誰だって、辛いですよー。こんな状況はー」と、
静かにそう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”雫”は再び昏睡状態に戻ったー。
「ーーー」
秀幸は、悲しそうにその様子を見つめると、
「また、来るよー」と、
意識が戻らない雫に声をかけてー、
そのまま立ち去るー。
一方、雫に憑依していた男は、
秀幸の家に戻ると、
ちゃんと”眠ったまま”だった亜美菜に憑依ー、
まだ薬の効果があったせいか、そのまま秀幸の家で
寝てしまい、秀幸が戻って来たタイミングで
起こされると、眠そうにあくびをしたー。
「ーあれで、良かったですかー?」
雫がそう言うと、
秀幸は寂しそうにしながらも、
「ーー本当に、ありがとうございましたー」と、
そう言葉を口にするー。
まだ眠そうにしながらも、ゆっくりと起き上がった
亜美菜は少しだけ笑うと、
「ーー先輩は、本当にあの人のことが好きなんですねー」と、
そう言葉を口にした上で、
「ーーそれじゃー」と、そのまま立ち去ろうとするー。
「ーーーあの」
秀幸が立ち去ろうとした亜美菜をそう呼び止めると、
亜美菜は苦笑しながら振り返ったー。
「ーー1回きりって約束のはずですよー?
わたしにとってもリスクがありますしー、
それに憑依するときと、出るときー
身体に結構負担がかかるのでー
”わたし”の大事な身体がダメージを受ける
可能性もありますからねー」
しかしー、
亜美菜のそんな言葉に対して、
秀幸は苦笑いしながら首を振ると
「流石に何度も頼んだりはしませんよー」と、
それだけ言葉を口にすると、
「ーー最後にもう1回、ありがとうございましたって言おうと思って」と、
そう言葉を口にして、
お礼の言葉を口にすると、頭をぺこりと下げるのだったー。
「ーーー」
亜美菜は、そんな秀幸のほうを見て「ふふっ」と笑うと、
「ーー先輩みたいな人に好かれて、あの彼女さんも
幸せだったでしょうねー」と、そう言葉を口にするー。
秀幸は少し照れ臭そうに笑うと、
亜美菜は「あ」と、言葉を口にしてから
「ーわたしは、先輩のこと好きになりませんからねー?
何せ、中身は”男”なのでー
こう見えて、恋愛対象は”女子”ですからー」と、
クスクス揶揄うように、言葉を口にするのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
病院へとやってきた秀幸は、
少しだけ微笑むー。
あの日の雫は、雫本人ではなかったー。
それは分かっているー。
でも、それでも、嬉しかったー。
もう一度、動いている雫を見ることができてー。
そしてー、
そのおかげで、また希望を持つことが出来たー。
また、雫の姿を自分の中で刻み付けることが出来たー。
動いている雫の記憶を、生きた雫を
自分の中にまた、鮮明に刻み付けることができたー。
秀幸はそんなことを思いつつー、
希望を抱きつつ、病室の扉を開くー。
がー、その時だったー。
「ーーーーえ…?」
病室の扉を開くと、雫が眠っていたベッドの上でー、
雫が座って、窓の外を眺めていたー。
「ーーーー…ーーー雫ー?」
秀幸がそう言葉を口にすると、
雫はゆっくりと振り返って
秀幸のほうを見つめたー。
「ーあ、秀幸ーー
おはよう?」
寝ぼけた雰囲気でそう言葉を口にする雫ー。
「ーー!?!?!?!?」
秀幸は思わず、病室の外に飛び出すと、
業務連絡的な連絡を取るために、
連絡先を交換した後輩・亜美菜に連絡を入れたー。
”ーー先輩?何ですか?
今、友達と買い物中なんですけどー?”
亜美菜が面倒臭そうに言うー。
「ーーー…ひ、憑依人さんですよね?ですよね!?」
秀幸がそう言葉を口にすると、
亜美菜は”意味不明”と言いたげに
”はい?そうですけどー。何ですか????”と、
そう返事をするー。
雫が目を覚ましているー。
”憑依されている亜美菜”が電話に出ているー。
と、言うことはー…
雫が目を覚ましたことを信じられずに、
思わず”また憑依されている”のだとそう思って
確認のために亜美菜に電話をかけてしまった秀幸ー。
が、亜美菜が電話に出たということはー
今、目を覚ました雫はー…
秀幸は嬉しさのあまり、亜美菜と電話していることも忘れて
病室に戻ると「雫ー…よかったー」と、
そう言葉を口にしながら、まだ寝ぼけた様子の雫を
優しく抱きしめたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーまったくー
急に電話を掛けて来てー
しかも、途中で電話を急に切るなんてー」
数日後ー
呆れ顔で笑う後輩の亜美菜ー。
「すみませんー。
雫が目を覚まして、それどころじゃなくなってしまってー」
秀幸が苦笑いしながらそう返すと、
亜美菜は「でも、良かったですー」と、そう言葉を口にするー。
雫が意識を取り戻したことを改めて報告した秀幸ー。
亜美菜も何だか少し嬉しそうにしていたー。
そしてーー
「ーーじゃーーわたしと先輩は絶交です」
亜美菜がそう呟くー。
「え?」
秀幸がそう言うと、
亜美菜は「何て顔してるんですかー?」と、そう笑う。
そして、続けたー。
「ー彼女さんが帰って来たんですよ?
わたしと一緒にいれば、勘違いされるかもしれませんし、
彼女さんを不安にさせてしまいますー。
わたしの”憑依”がバレるリスクもあるー。
わたしなんかに構ってないで、先輩は
目を覚ました彼女さんのことを大事にしなくちゃダメです」
とー。
その上で「まさかわたしのこと、好きになったりしてませんよね?」と、
そう確認してくる亜美菜ー。
「ーーははー、それはないよー
俺は雫一筋だからー」
笑いながら秀幸がそう呟くと、
亜美菜も笑うー。
「ーよかったー。
ーと、いうことで、わたしと先輩は今日で絶交ー。
元々の関係に戻りましょうー。
”同じ大学にいるだけで、名前も知らない間柄”にー」
亜美菜がそう言うと、秀幸は静かに頷いたー。
そしてー
改めて、言葉を口にしたー。
「ー本当に、ありがとうございましたー」
とー。
「ーどういたしまして」
亜美菜はそれだけ言うと、背を向けて手をあげながら、
そのまま立ち去って行ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雫はー
無事に意識を取り戻した。
亜美菜によれば
”憑依”して、抜けたことで、身体に刺激を与えたことで、
意識を取り戻すことに繋がったのではないか、ということだったー。
雫の身体への憑依が、雫の身体に何らかのショック療法に
なったのだろう、とー。
けれど、
理由はどうあれ、雫は意識を取り戻したー。
そして、健康状態にも問題はないー。
「ーーーー秀幸ー」
雫が意識を取り戻して、1ヵ月ー。
秀幸が
待ち合わせ場所にやってくると、
退院した雫が穏やかに微笑んだー。
「ー雫ー」
ずっと、こんな日を待っていたー
ずっとー
秀幸は、雫の前にやってくると、
雫は笑いながら言ったー。
「そういえば、今日ー、誕生日だったよねー?
去年、”すっごいやつ”用意するって言ってたのにー
まだ退院したばかりで用意できなくて、ごめんね」
とー。
そんな言葉に、秀幸は穏やかに笑うと、
「はははー、いいよー」と、そう言葉を口にしてから
雫のほうを見つめたー。
”雫が目を覚ましてくれたー”
それこそが、一生忘れられない誕生日プレゼントだー。
そう思いながら、
秀幸は、この先も雫を精一杯支えて行こうと、
そう決意するのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
彼女も目を覚まして
ハッピーエンドなお話でした~!☆
…憑依人に乗っ取られている
後輩の亜美菜本人からすれば
バッドエンドかもですケド…☆
お読み下さり、ありがとうございました~!☆!
★作品一覧★

コメント
色んな展開を考えられて、どうなるか…と思ってたら…
ハッピーエンドと思ったら…
確かに亜美菜は憑依されたままでしたネ苦笑
完全なハッピーエンドではないかもですネ!★
感想ありがとうございます~~!★
主人公たち視点からすれば
ハッピーエンド…ですネ~!★