<憑依>偽りのユートピア③~魔の巣窟~(完)

②にもどる!

女旅人が偶然訪れた王国ー。

そこは、女王も民も全員が魔物に憑依されていたー。

その事実を知った彼女はー…?

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”唯一”憑依されていない女兵士・ネレアから
事情を聞かされたルチアは、
数日間、この王国ー”コスモス王国”に留まった上で、
自然な形でこの王国を立ち去り、
自分の祖国である魔導国家フラリスに、この王国の現状を伝え
救援をお願いするつもりだった。

フラリスの国王はルチアの父でもあるー。
ルチアが頼み込めば、父は動くー。

それに、魔導国家フラリスは、
優れた魔法を使う者が多いー。
魔物退治ではかなりの功績を上げており、
魔物たちからは警戒されている国家だー。

今、ルチアが滞在しているこの王国の女王・アドリアに
憑依している魔族長たちにとっても天敵となる存在ー。

「ーーー……もう朝ねー」
ルチアは、窓の外を見つめると、
賑わいはありながらも、夜と比べると静まった街のほうを見つめるー。

やはり”夜行性が多い魔物”に憑依されている人々の
生活の中心となる時間は”夜”なのだろうー。

そう思いつつ、ルチアが部屋の外に出ると、
メイドらしき女が「あ、おはようございますー」と、声を掛けて来たー。

このメイドも、ネレアの言う通りであれば”憑依”されているー。

ただ、今ここでそれを問い詰めるわけにはいかないー。
ルチア一人で、”これだけ大勢の憑依された人間”を相手にすることは
流石にできないー。

「ーールチア様ー。女王様がお呼びですー」
メイドがそんな言葉を口にすると、
ルチアはすぐに「分かりましたー」と、そう言葉を口にして、
そのメイドの案内で、女王の間へと向かうー。

女王の間にやってくると、
昨日と変わらない様子で、
女王・アドリアは穏やかな笑みを浮かべたー。

”魔物に憑依されている”などとは、
言われていなければ信じられないー。

「昨日は、よく休めましたかー?」
女王・アドリアがそう言葉を口にするー。

アドリアの左右には
側近の女魔術師・エイネと、鎧の女騎士・イルマが
控えているー。

その他の大臣や兵士たちの方も確認しながら
”全員、魔物に憑依されているなんて、そんなことー…”と、
内心でそう呟くー。

ただ、昨日話をした女兵士・ネレアは切実な表情を
浮かべていたし、嘘を言っているとは思えなかったー。

が、同時に、今、話をしている女王・アドリアや、
他の人々が”全員憑依されている”というのも、
なかなか信じがたいことは事実だったー。

「ーーシフォン村の人たちが見たという魔物の調査を
 もう少ししたら、また旅立とうと思いますー」
ルチアは、あくまでも”昨日と同じ”雰囲気を装いつつ、
そう言葉を口にするー。

ルチアが探している”魔物”は、
ネレアによれば”わたしたちの国を乗っ取った魔物とは無関係のようです”と、
そう言葉を口にしていたー。

乗っ取られた女王・アドリアがそう言葉を口にしているのを
聞いたのだと言う。

で、あれば、その名を口に出しても恐らくは大丈夫だと
ルチアはそう考えていたし、
昨日、”魔物を探しています”と言ったのに、急にその話題を
出さなくなれば疑いを持たれてしまう可能性もあるー。

あくまでも”昨日と同じー”
それを心がけながらルチアは言葉を続けたー。

がーー
女王アドリアはふと言葉を口にしたー。

「ところで、ルチアさんー。
 あなたが探しているという”魔物”はーー
 ”この者”ですかー?」

とー。

「ーーーはい?」
ルチアが困惑した表情を浮かべると、
城の奥から”魔物”が姿を現したー

禍々しい翼に、鋭い爪を持つ人型の魔物ー

「ーー!?」
ルチアは護身用の短剣を手にするー。

「ーー魔物がどうしてここに!?
 女王様ー!お下がりください」

あくまでも”女王を守るため”という風を装い、
ルチアがそう反応するー。

が、女王アドリアは笑みを浮かべたー。

「ーあなたは”この魔物”の器となるのですー」
そう言葉を口にしながら、アドリアは
兵士たちに命を下すー。

「捕らえなさいー。」
とー。

「ーー!!」
ルチアは表情を歪めながら
女王アドリアを見つめるー。

どうやらもう、”憑依”に気付いていないフリは無意味のようだー。

「ーあなたたちはー魔物ー」
ルチアが、女王アドリアを見つめながら言うと、
アドリアはニヤッと笑うー。

「ー身体は人間ですよー? 身体は、ねー」
女王アドリアのそんな言葉と同時に
襲い掛かって来る兵士たちー。

ルチアを捕らえて、森を根城にしていた魔物に
その身体を与えるつもりのようだー。

しかし、ルチアは幼少期から剣術が好きで
その腕前を磨いていたー。

”とても強い”というわけではないけれど、
それなりに戦うことができるし、
”一般の兵士”よりは十分に強いー。

兵士たちを気絶させながら、
戦いを続けていくルチアー。

”わたしが気付いたことにバレたのー?
 それともー…”

ルチアは、女兵士のネレアのことを思い浮かべながら
周囲の兵士たちを気絶させるー。

すると、女王アドリアの背後にいた
女魔術師のエイネと、女騎士のイルマが顔を見合わせたー。

「ー仕方ありませんねー」
エイネが頷くと、華奢な身体を揺らしながら、
ルチアの前にジャンプして立ちはだかるー。

「ー行きますよ」
目を赤く光らせるエイネ。

一瞬、ルチアは”魔術師”かと思ったとものの、
すぐにエイネが肉弾戦を仕掛けて来たことに気付き、
応戦するー。

エイネに憑依している魔物は肉弾戦を得意とする魔物ー
見た目からは想像できないような攻撃を
次々と仕掛けて来るー。

が、ルチアも、これまでの”旅”で色々な経験をしてきていて、
憑依されているエイネに引けを取らない実力を見せたー。

「ーーーチッー」
ルチアの攻撃を受けて、吹き飛ばされたエイネは
「この小娘の身体じゃダメかー」と、そう言葉を口にしてから
笑みを浮かべるー。

「ー調子に乗るなよ人間ー
 この女の身体で”ハンデ”を与えてやってただけだー」
エイネはそう言葉を口にすると、口から黒い煙のようなものを
吐き出して、その場に倒れ込むー

エイネの身体から出て来たのは
屈強な肉体を持つオークのような怪物ー。

倒れ込んだエイネを見つめながら
ルチアは”この魔物を倒せばー”と、
ひとまず、一人でも助けようと、
オークとの戦いを始めるー。

エイネの華奢な身体から出たオークは
本来の力を発揮したー。

ルチアに猛攻を仕掛けて追いつめていくー。

そんな様子を玉座に座る
憑依された女王・アドリアは笑みを浮かべながら見つめているー。

ルチアは”絶対に、魔物たちの好きにはさせない”と、
そう思いながら、自分の華奢な身体を利用して、
巨体のオークを翻弄していくー。

「ーぐっ…ぐぐっ…!」

やがて、ルチアはエイネに憑依していたオークに
強烈な蹴りと、短刀での攻撃を命中させると、
オークは吹き飛ばされて倒れ込んだー。

「ーーーークククーやるじゃないか」
女王アドリアはそう言葉を口にすると、
もう一人の側近・イルマのほうを見つめるー。

鎧の女・イルマが少しだけ頷くと、
そのままルチアの方に向かおうとするー。

がー、倒れていたオークが起き上がると、
手で”俺に任せろ”と合図してから、
ルチアのほうを睨みつけたー。

オークが再び黒い煙となって、
倒れているエイネの身体に憑依するー。

すると、倒れていたエイネが起き上がり、
笑みを浮かべながら自分に小刀を突き付けたー。

「ーこの人間は、俺に憑依されているだけだー
 ーーつまり、俺の身体でもあり、人質でもあるー」
エイネがニヤニヤしながら、自分の首筋に小刀を突き付けながら笑うー

「なっ……」
ルチアは表情を歪めながら、憑依されているエイネのほうを見つめるー。

「ほらほら、どうするー?人間ー?
 この女の身体は気に入ってはいるけどー
 別に俺は構わないんだぜー?」
エイネが邪悪な笑みを浮かべながら、自分を刺そうとそう言葉を口にする。

その様子を見て、ルチアは短剣を手にしながら震えるー。

”憑依される前”のエイネのことは知らないし面識もない。
ただ、一つ言えるのは
彼女も元は普通の人間で、魔物に憑依されてしまった被害者だということだ。

その被害者であるエイネのことを見捨てて
このまま戦いを続けることは、
ルチアにはどうしてもできなかった。

”この王国を救う”
それだけを考えるのであれば、
エイネが人質に取られているようなこの状況でも
狼狽えずに戦いを続けるのが正しいのかもしれない。

エイネを犠牲にしてでも、他を救おうとすることが
最終的には正しいのかもしれない。

この場で戦いを止めれば、確かにエイネは救われるかもしれない。
ただ、それだけー。
エイネはこのまま憑依されたままだし、
女王アドリアらも救うことはできない。
そして、ルチア自身もー…

それでもー…
ルチアに”その女がどうなっても構わない”と言わんばかりに
戦いを続けることは、どうしてもできなかったー。

短剣を落とすルチア。

エイネがニヤリと笑うと、
女王アドリアは、森を根城にしていた魔物のほうを見つめた。

「ーあの人間が、お前の新たな器だー。
 あの者に憑依すれば、お前も我らの仲間ー
 我ら魔物のためのユートピア”コスモス王国”の一員」

ニヤッと笑う女王アドリア。

「ーーーー…」
ルチアは女王の側近の一人、鎧を身に纏う女・イネスに捕らえられて
魔物の前に引き立てられるー。

「ーーー…くっ」
ルチアは、それでも、最後まで心までは屈服しなかったー。

凶悪な風貌の魔物が近付いてきて、
ルチアを見つめるー。

「ーーーー」
が、魔物は少し不満そうな表情を浮かべると、
女王アドリアのほうを見つめる。

「女の身体を使えと?」
とー。

「ーククー女の身体も心地よいぞ?憑依してみれば分かる」
女王アドリアはそう言葉を口にすると、
”憑依”の魔術を唱え始めるー。

女王アドリアに憑依した魔族長が死に物狂いの末に手にした魔法ー。

魔物に向けてそれを放つと、
魔物の身体が霊体となるー。

魔物は不満そうにしながらも、ルチアに向かって飛び込むと、
ルチアは悲鳴を上げながら、”抵抗”してみせたー

瞳が赤く染まりながらも、ルチアは「わたしは…わたしはルチアー」と
粘りを見せる。

が、女王アドリアも、エイネも、イネスも
”そんな抵抗は無駄”だと知っているー。

笑みを浮かべながらその様子を見つめると、
ルチアに向かって言った。

「ー無駄な抵抗はやめろ。身を委ねて楽になれ」
とー。

ルチアは、身体の自由が奪われていくのを感じながらも、
女王アドリアらも想定外の精神力を発揮して
短剣を手に取るー。

「ーー!」
側近のエイネが一瞬驚いたような表情を浮かべると、
すぐに「歯向かえば、この女は」と、再び自分自身ー
エイネの首筋に刃を向ける。

がー、次の瞬間ー。

ルチアは「わたしの身体はー好きにはさせない」と、
最後の力を振り絞って短剣を握りしめると、
自分自身を突き刺したー。

「ーー!?!?!?」
女王アドリアは一瞬驚くー。

それと同時に、ルチアの身体を通じてダメージを受けた魔物が飛び出るー。

”憑依した身体”が仮に死んでも、
憑依した側は死なない。
ただ、ダメージは受ける。

魔物が驚いた様子で飛び出ていると、
瀕死のルチアは気力だけで
自分に憑依した魔物の頭を掴んで、
そのまま自分ごと、魔物を串刺しにしたー。

「~~~~~~~」

ルチアと、魔物が息絶えるー。

その様子を見て
女王アドリアは驚いた様子を浮かべながらも
「ーーーまぁ良いー」と、
森で仲間に引き入れた魔物とルチアの遺体を片付けるように
指示するのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ルチア様…なんてこと…」

この王国で唯一正気を保っている女兵士・ネレアは
ルチアの死を知り、悲しみと罪悪感に駆られるー。

そしてー、
今までは、”内情を探るため”と、ずっとこの中に留まっていたものの、
勇気を振り絞って”外”に脱出する決意を固めたネレアは
その日のうちに見回りと称して
コスモス王国を脱出した。

ルチアの持っていた短剣を回収しー、
それを手に、ルチアの祖国である魔導国家フラリスへと向かうー。

”コスモス王国”の現状を伝え、助けを乞うためにー。

ネレアの言葉では、
フラリスが動いてくれるかどうかは分からない。

けれど、ネレアはもうこうするしかない、と、
ルチアの意思も受け継いで、フラリスへと向かうのだった…

おわり

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コメント

乗っ取られた王国を救出…
することはできませんでした~!

でも、魔物は倒せたのと、
一人脱出はできたので…
希望はゼロではありませんネ~…!

お読み下さり、ありがとうございました~!

「偽りのユートピア」目次

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他者変身<偽りの婚活>

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