<憑依>ポゼッション・ハラスメント①~ポゼハラ~

”ポゼハラ”ー

この世界では、当たり前のように使われ、
そして問題になっている言葉ー。

主に、会社内において
”望まない憑依”をさせたり、させることを強要する行為を示すー…。

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この世界では、憑依薬が当たり前のように存在しているー。

憑依とは、他人の身体に入り込み、
その身体と意識を自由に操る行為のことだー。

憑依薬を飲んだ人間は、自分の身体自体が
”幽体”となって、そのまま幽霊のように
誰かに憑依することができるー。

そして、誰かに憑依すれば
その身体を意のままにすることができるのだー。

だがー
この世界では、そんな”憑依”もきっちりと法律で
縛られている上に、
憑依薬自体にも色々な規制が入っているためー
基本的に”他人の身体を永遠に支配し続ける”ような
使い方はできないようになっているー。

憑依薬自体の憑依時間もモノによって
異なるものの、短時間で身体から追い出されるように
なっているし、
憑依した状態で犯罪を犯せば”中身”が、罪に問われる法律も
存在しているー。

そのためー
この世界では憑依薬が世界的に出回っても、
それを”好き放題悪用して、社会を滅茶苦茶にする”レベルのことは
できないようになっていたー

がーーー

”小さな悪事”に利用することぐらいなら
当然、出来てしまうー。

憑依薬が蔓延したこの世界で、
問題になっていることの一つが

”ポゼッション・ハラスメント”
通称、ポゼハラだったー。

「ーーーえへへへへへへへ 愛華(まなか)ちゃんー
 ちょっとぐらいいいじゃんさぁ」

とある会社ー。
社員の一人が、転職することになり開かれた送別会ー

その送別会の会場で、
岩村(いわむら)部長が、ニヤニヤしながら
入社2年目の女性社員・笹井 愛華に絡んでいるー。

「ーーーーー…」
周囲には内緒で愛華と付き合っている
同じく入社2年目の男性社員・久岡 大和(ひさおか やまと)は、
表情を歪めるー。

社内恋愛禁止ー…とはなっていないものの、
上司の性格や会社の雰囲気を考えた上でー
愛華の意思も尊重して、
大々的に付き合っていることは公表していないー。

「ーーへへへへ 5分だけだからさ~
 ”憑依”させてくれよぉ~?へへへへ」

岩村部長が憑依薬を手に笑うー。

送別会の余興として、
岩村部長が愛華に憑依しようとしているのだー

「ーそ、それはちょっとー…すみませんー」
愛華が困り果てた表情で、”憑依”を断るー。

「ーー愛華ちゃん!そんなんじゃ、社会ではやっていけないぞ~!」
他の男性社員が、笑いながら愛華にそう言い放つー

「そうよ~!わたしだって若い頃はよく上司に憑依されたもの」
おばさん社員の三美子(みみこ)が、そう言い放つー。

「ーーーへへへへ ほら、みんなもそう言ってるし」
岩村部長が笑いながら、なおも愛華に迫るー

だが、愛華は困り果てた表情で、
顔を赤らめて、今にも泣きだしそうな雰囲気を見せているー

大人しい性格の愛華は、
上司から”ポゼハラ”を受けているのだー

望まない憑依を無理やりさせたりー、
憑依されたくない人間に無理やりされることを強要したりー、
それが、”ポゼハラ”だー。

「ーー大丈夫よ~全然痛くないし、
 一瞬だから!」

おばさん社員の三美子がそう言うと、
愛華は「で、でもー」と、困惑しながら
何とか反論しようと試みるー。

しかし、入社2年目で年齢的にも立場的にも
この会社ではなかなか反論することが難しい状況ー

ついに見かねた大和は口を開くー。

「部長ー…それ以上はポゼハラになってしまいますよー」
とー。

あくまでも穏やかな口調で、
岩村部長に喧嘩を売ったり、敵対する目的ではなく、
愛華を助けるためー、
そして岩村部長を止めるためにそう言い放ったー

「ーーあぁ~~久岡ぁ!
 あんまりシラけること言うなよぉ~?
 今森(いまもり)を気持ちよく送り出してあげようって
 気はないのかぁ~?」

既に完全に酔っぱらっている
岩村部長がそう叫ぶー。

今森とは、今日の送別会の主役ー。
つまり、これから転職することが決まった男性社員の名前だー。

「ーい、いえーですがー
 ポゼハラって騒がれれると、色々面倒だと思いますしー」

大和がなおも食い下がると、
「ーそれは、相手が嫌がっているのに、無理やり憑依したり、
 憑依させたりした場合の言葉でしょう?」
と、三美子おばさんがそう言い放ってきたー。

「ーーそ、それはー」
大和はすぐに”笹井さんは嫌がってー”と、助け舟を出そうとするも、
それよりも先に三美子が
「ー笹井さんは、イヤじゃないわよね? たった5分って
 部長も言ってるんだからー」と、
半分脅すような口調で呟くー

「ーそ…ーーそれはー」
愛華は、圧力に押されてついに頷いてしまうー

”同意のない憑依は犯罪ですー”
そんな貼り紙がされている居酒屋ー。

飲みの席で憑依トラブルが起きることはよくあるためー
そんな貼り紙をすることが、義務付けされているもののー
実際のところ、その効果が100パーセント出ているか?と
言われればそうではないのが現実だったー。

「ーーへへへへ…じゃあ行くぞ~!」
岩村部長が嬉しそうにそう叫ぶとー、
憑依薬を早速飲み干してー
身体が幽体となり、一時的にその場から消えるー。

身体をぶるぶると震わせながら、
愛華が困惑しているとー
やがて、愛華の身体がビクンと震えて、
愛華は岩村部長に憑依されてしまったー

「ーえへへへへへへへへぇ♡ 可愛いねぇ♡」
憑依された愛華は別人のように豹変して、
みんなの前に立つと、
「ーーおっぱい揉んじゃいま~す♡」と、
ゲラゲラ笑いながら宣言して、
社員たちの前で胸を揉み始めるー

一部を除いて、喜ぶ社員たちー。

そんな光景は、大和にとって
まさに地獄だったー。

「ーえへへへへへ すっげぇ気持ちイイー」
ニヤニヤしながら愛華がそう言い放つと
愛華は、”憑依時間”を確かめるために
用意したストップウォッチを見つめるとー
ニヤッとしてから、
「ー愛華ちゃんのストリップショーを始めちゃうぞぉ」と、
ゲラゲラと笑い始めたー

ほとんどの社員が酔っぱらっている中ー、
愛華を乗っ取った岩村部長は、
あろうことか、色っぽいポーズを取りながら、
服をゆっくりと脱ぎ捨て始めるー。

「ーーーーー」
大和は思わず怒鳴り声を上げそうになったがー
ぐっとそれをこらえるー

満面の笑みで、服を脱いでいる愛華から
目を逸らす大和ー

今、ここで文句を言えばー
”愛華が憑依されている以上”
何をされるか分からないため、
今、大和が愛華のために取ることができる
最良の行動はー

”怒りをグッと堪えることー”
だったのだー。

「ーーーーーすっげええええええ…!へへへへ」
下着姿になった愛華が笑いながら、
自分の身体を見つめていると、
三美子が「あと1分30分ー」と、憑依の残り時間を告げるー

「へへへへ おっと、そろそろ服を着ないとな」と、
慌てて愛華は服を着始めると、
「お前ら、笹井には内緒だからな」と、笑いながら
指を唇に当てたー。

服を着ている間にも、
転職する今森に向かって
「ーわたし、今森さんのこと、ずっと好きだったんですぅ♡」などと
”サービス”と称して愛華に告白させたり、
やりたい放題をしてー、
部長は愛華の身体での5分間を堪能したー

「くっ… へへ 終了かー」
愛華の身体からはじき出されて実体化した
岩村部長は名残惜しそうにそう呟くとー、
テーブルの上で意識を失った愛華のほうを見つめるー。

数秒後ー
愛華は目を覚ますと、
自分が何をさせられていたのか、自覚はないながらも、
何となく想像がついてしまいー、
顔を真っ赤にして、
周囲の社員たちから目を逸らしたー

目の前で繰り広げられた”ポゼハラ”を前に
大和は激しい怒りを感じつつも、
今の時代はー
こういう”ポゼハラ”が当たり前のように各地で行われている時代ー。

セクハラ、パワハラに匹敵する規模のハラスメントー
それが”ポゼッション・ハラスメント” なのだー。

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「ー昨日は、大丈夫だったか?」

翌日ー
大和は休憩室で二人きりになったタイミングで
愛華にそう尋ねたー

「う…うんー」
愛華は飲み物を手にしながら、暗い表情でそう呟くー。

「ーー…ごめんな…役に立てなくて」
大和は、目の前で行われた”ポゼハラ”を阻止することが
できなかったことを、心底悔しそうにしながら
そう呟くと、愛華は「ううん」と首を横に振ったー

「ー助けてくれようとしてたのは、よく伝わってたしー」
愛華のそんな言葉に、大和は改めて「ごめん」と、呟くと、
そのまま休憩スペースを後にしようとするー。

「ーーあ、あのー」
そんな大和に愛華が背後から声を掛けるー。

「ーーん?」
大和が振り返ると、愛華は不安そうな表情を浮かべながら
「わたし…昨日、憑依されている間ー…
 何をさせられていたの…?」と、
大和にそう尋ねたー。

「ーえ…そ、それはー」
大和は困惑するー。

まさか、胸を揉んで服を脱がされた、などとは言えないー。

「ーーー…大したことはしてなかったよー」
大和がそれだけ言うと、
愛華は「そっか」と、少しだけ安堵したようなー
そんな表情を浮かべたー

だがー
そんな二人の様子を、中年のおばさん社員・三美子が
物陰から見つめていて、静かに笑みを浮かべたー。

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「ーなんだって?」
岩村部長が、表情を歪めるー

「あの二人、前から怪しいと思ってたけど、
 いい関係みたいねぇ~」

三美子がニヤニヤしながら言うと、
岩村部長は「ーそうか」と、呟くー。

別にこの会社は社内恋愛は禁止されていないー。

だが、岩村部長の部署は”別”だー。
今までにも数名、社内恋愛に発展した人が
この部署でもいたものの、
その”すべてが”引き裂かれているという”噂”もあるー。

「ーーー……まぁ、うちの会社は
 別に社内恋愛は禁止されていないからなー」

岩村部長が少しだけ笑顔を浮かべてそう呟くと、
三美子は「そうですね」と頷くー。

そのまま立ち去っていく三美子ー。

だが、岩村部長は険しい表情を浮かべていたー。

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その日の夜ー

「ーお疲れ様」
岩村部長がオフィス内ですれ違った愛華に
そう挨拶をするー。

「ーーー……お疲れ様ですー」
愛華もペコリと頭を下げて、
そのまま立ち去ろうとするー。

だがー
岩村部長は、ポケットに忍ばせていた憑依薬を飲み込むとー
そのまま、エレベーターに乗ろうとしていた愛華に憑依したー

「ーうっ…」
ビクンと震える愛華ー

この世界の憑依薬は
”憑依されている最中の記憶が残るもの”と”残らないもの”があるー。

部長が使っているのは”残らないほう”だが、
”犯罪などに利用されるのを抑止するため”として、
いずれのタイプの憑依薬でも
”憑依された側”は、”誰に憑依されたか”だけは
分かるようになっているー。

しかしー
それでも岩村部長には関係なかったー

「ーくくく…生意気な女だー」
乗ろうとしていたエレベーターが到着しても、
それを無視してオフィスの方に戻ると、
「ーーこの身体で、同期の男を誘惑したのか?あぁ?」
と、愛華の声で、愛華の身体にかけるようにして叫ぶー。

5分間で、胸を揉みまくり、髪を乱しまくりー、
身体のあちこちを触りー、
愛華を乱しきると、そのまま岩村部長は”時間切れ”で
愛華の身体の中から飛び出したー

乱された状態の愛華がオフィスの床で目を覚ますと、
岩村部長は何事もなかったかのように
「おつかれさま」と、笑みを浮かべるー

”岩村部長に憑依されていたー”
そう悟った愛華は怯えたような表情で、慌ててオフィスから逃げ出していくー

その様子を見ながら岩村部長は
不気味な笑みを浮かべたー。

②へ続く

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コメント

憑依薬を使ったハラスメントが横行する恐ろしい世界…!
続きはまた次回デス~!

今日もありがとうございました~!

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