<憑依>ポゼッション・ハラスメント②~エスカレート~

部下たちに”ポゼハラ”を繰り返す部長…。

そんな部長を前に社内恋愛中の若い二人は、
苦難の日々を送ることにー

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「ーーわ、わたし…最近…
 部長に、頻繁に憑依されてるのー」

休日ー
愛華が、不安そうにそう言い放ったー。

「ーえ…?ぶ、部長に?」
同じ部署の彼氏・大和は表情を歪めるー。

「うん…あの送別会の日以降、
 帰ろうとすると声を掛けられてー…」

愛華のその言葉に、大和は
「そんなの…完全にポゼハラじゃないかー」と、
怒りの言葉を口にするー。

この世界の憑依薬は”近距離”の相手にしか憑依できない制限もついているため、
こうして、岩村部長が近くにいない時に憑依される心配は全くないし、
憑依薬の種類によって異なるものの、
それぞれの憑依薬に”時間制限”が存在しているために、
人生を奪われてしまうようなことは、基本的には起こらないー。

それでもー…
”嫌な人にとってはイヤ”なのだー。

「ーーー…俺、部長に話してみるよ」
大和が言うと、愛華は「で、でもー」と表情を歪めるー。

「ーポゼハラで問題になって飛ばされた人だっているんだし、
 ポゼハラ問題で大騒ぎになった会社だってあったろ?

 ポゼハラは我慢しなくちゃいけない、なんて
 そんなのはおかしいし、
 愛華だって、実際に嫌がってるんだからー
 これ以上、我慢する必要なんてないよ」

大和がそう言うと、愛華は「うん…そうだよね…ありがとう」と頷くー。

だがー
愛華が心配しているのは、自分のこと以上にー
”大和に迷惑が掛からないかどうか”と、いうことだったー。

その思いを口にする愛華ー

しかし、大和は笑いながら首を横に振ったー

「はははー…こんなでも俺、愛華の彼氏なんだしー
 恋人とか、家族とか、兄弟とか、友達が苦しんでたら
 何とかしてあげたいって思うのは当然だろ?」

大和のそんな言葉に、愛華は
”大和が彼氏でよかったー”と思いながら
「ーー…本当に、ありがとうー」と、お礼の言葉を口にしたー。

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「ーー話って何かな?」

酔っぱらっている時などを除きー
普段は比較的社員に優しく、話も聞く岩村部長ー。

大和は、そんな岩村部長を信じて、
岩村部長に”お話があります”と、出社時に伝えたー。

そしてー、
”昼休みに”と指定された大和は、
お昼の時間になった今ー、
岩村部長と、会議室のようなところで、
話を始めていたー。

「ーーーー」
大和は、岩村部長のほうを見つめると
単刀直入に”ポゼハラ”のことを口にしたー。

”誰が”対象とは言わなかったー。

だが、ポゼハラをしているのではないか、と噂されていると聞いて、
不安になって岩村部長に相談した、という風を装い、
話を続けて行くー。

「ー部長には入社した時からお世話になっていますし、
 不安になりましてー」

大和がそう言うと、岩村部長は
「ー俺がポゼハラー…そうかぁ…」とため息をつくー。

「いやー…確かに、社員に憑依したりー
 そういうことは何度かしてるけどー…
 
 相手も納得した上で、だし、
 この前の送別会の時も、愛華ちゃんは納得してくれてると思ってー」

岩村部長がそう言い訳がましい言葉を続けると、
大和は「ーー今、世間はポゼハラにすごく厳しいですし、
部長がポゼハラで騒がれるような姿を、見たくないんです」と、言い放つと、
岩村部長は静かに数度、頷いたー。

「ーそんな風に、ハッキリ言ってくれるような部下がいて、俺は幸せ者だな」

岩村部長がそう言うと、
「ー教えてくれてありがとうー。
 どうしてもな…こういう立場になると、”小さなこと”に目が行かなくなってしまうー。
 これからも、何か気付いたことがあれば、教えてくれ」
と、笑いながら、大和に対して言い放つー

「ーあ、はいーありがとうございます」
大和はそう頭を下げると、岩村部長はー
「そうそうー、愛華ちゃんにも、君から謝っておいてほしいー」
と、言葉を続けたー

「ーー僕が、ですか?」
上司の前では”俺”とは言わない大和がそう反応すると、
岩村部長は頷くー

一瞬”社内恋愛”に気付かれているのではないかと
不安になったものの、岩村部長はすぐに言葉を続けたー。

「ーー俺が実際に謝ってもー、愛華ちゃんが嫌な思いを
 するだけだろうしー
 
 同期の君から伝えてもらったほうがいいと思ってね」

岩村部長のそんな言葉に、
大和は、困惑した表情を浮かべながらも
「分かりましたー伝えておきます」と頭を下げたー

会議室から出る大和ー
緊張した様子でため息をつくとー、
”思ったより、分かってくれてよかったー”と、
心の中で呟いたー

もう少し言い訳をしたり、逆ギレをしたり、
そんな反応も想定していたのだが、そんなことはなかったし、
ひとまず、安心できそうだー。

彼女の愛華が”ポゼハラ”被害に遭ったことは当然怒ってはいるが、
だからと言って、いきなり話し合いもせずに
「おい!!!岩村ああああああ!!!」と、怒鳴り込むことはできないし、
それをすれば逆に問題になってしまうことは、
大和にも分かっているー。

社会人とは、そういうものだー。

最悪の場合は、クビになる覚悟で岩村部長に立ち向かう覚悟も
出来てはいるがー、
それでも、”いきなり最初から喧嘩をする必要はない”
と、いうことだー

穏便に済むのであれば、
それが大和にとっても、愛華にとっても一番良いのだー。

「ーー岩村部長が、ごめんって、さ」
大和がそう伝言を伝えると
愛華は「ーーありがとう」と、小声で頭を下げて、
他の社員からも見える場所であることからか、
お互いにそれ以上、会話を交わすことはなかったー。

岩村部長による”ポゼハラ”はこれで解決ー…
してくれればどんなに良かったことかー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「ーー風見(かざみ)、
 今月も成績トップだー。
 いつも、本当にありがとな」

岩村部長が、自分の部屋に
社員の風見を呼び出すと、
そう言葉を伝えたー

「ーあ、ありがとうございますー」
風見は、20代後半の社員ながら
この部署の”エース”と呼ばれる存在で、
毎月のようにNo1の契約などを勝ち取っているー

おまけに容姿もイケメンだー。

「ーー風見ー」
そんな風見に対して、岩村部長は
言葉を口にするー

「ーいつも頑張っている君に、
 とっておきのご褒美をあげたい」

そんな岩村部長の言葉に、
風見は「ご褒美…ですか?」と首を傾げるー。

岩村部長は長年の経験から
”人間を観察する力”に長けているー。

そんな岩村部長は
”風見”が、入社2年目の愛華のことが気になっていることを
突き止めていたー。

「ーあぁ、愛華ちゃんにも協力してもらって、君にご褒美をーな」

笑みを浮かべる岩村部長ー。
そんな部長の笑みの意味が分からず、
風見は「は…はぁ…」とだけ言葉を口にしたー。

その夜ー。

岩村部長は、再び愛華に憑依したー。

いつものように、帰宅しようとした愛華に
容赦なく憑依したのだー。

「ーーークク」
エレベーターに乗ろうとしていた愛華が
不気味な笑みを浮かべて
オフィスの方に引き返していくー。

そして、まだ残業中の風見の方に近付いていくと
「ー先輩、お疲れ様ですー」と、
笑みを浮かべながら愛華は風見の方に近付いたー

「あ、お疲れ様ー」
風見が仕事をしながらそう答えると、
愛華がいきなり風見にキスをしたー

「ー!?」
驚く風見ー

「ーふふふ♡ 先輩ー
 いつも頑張っている先輩に、ご褒美です♡」

愛華が聞いたこともないような甘い声と甘い笑みを
浮かべながら風見に自分の身体を密着させるー

風見はすぐに「ま、まさか、部長ー?」と、
声を掛けるも、
愛華は「ー憑依された人間は、誰に憑依されたかは
覚えていても、その間にしてることは覚えていないー。
それに、憑依の”同意”は得ているから、君は何も心配することはない」と、
小声で風見に呟くー

風見はそれを聞くと顔を真っ赤にしながら
「あ、ありがとうございますー!」と叫ぶー

やがてー
壁際で抱き合って激しいキスを始める二人ー

そしてー
その様子を、おばさん社員の三美子が
物陰から笑みを浮かべながら見つめていたー。

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”ーーー昨日も……部長に憑依されたみたい…”

朝ー
愛華からそんな連絡が入ったー

「えっ…えぇ…?」
大和は思わず困惑してしまうー。

岩村部長は、確かにもう憑依しないと約束してくれたのだー。

「ーー会社の上に相談した方がいいかもしれないなー…」
大和はそう呟くが、
愛華の返事は、そんなに乗り気ではないことが分かるー。

それもそのはずー
憑依薬が存在しないような世界でも
”セクハラ”や”パワハラ”に泣き寝入りする社員は、たくさんいたー。

それが間違っていることであっても、
”それを受けた人間”が声を上げることには勇気がいるー。

報告を受けたりー
会社に居場所が無くなったりー。
あるいは、そのハラスメントの加害者には罰が与えられたとしても
結局自分もその会社に居にくくなってしまいー、
最終的に辞めるようなことになってしまうー…

と、いう人間もいる。

この時代の”ポゼハラ”も同じー。

望まない憑依をされたり、憑依をさせられたりしても、
逆らうことができないー。

「ー部長がエスカレートする前に、何とかしないと」
大和がそう電話の向こうの愛華に言い放つも、
愛華は”でもー…部長が逆上したら、何をされるか分からないしー…”と
怯えた口調で呟くー。

”それに、わたしー…クビになったら、どうすればいいの?”
途方に暮れた様子の愛華ー。

「ー大丈夫…大丈夫だからー」
大和は、愛華を安心させようとそう呟くー。

この世界には”誰に憑依されたか”を遺伝子レベルで
調べることのできるシステムも存在しており、
”憑依された人間”が、”憑依してきた人”のことを記憶している以外にも
”ちゃんとした証拠”が残るように設計されているー。

これも、憑依薬が犯罪に使われないようにするシステムの一つだー。

だからー、
愛華に”部長”が憑依したと証明することは簡単だー。

憑依されていた時間帯も、特殊な技術で調べることが可能になっていて、
”憑依されていたんです!”と言っても信じてもらえないということは、ない。

だがー
ポゼハラを受けている場合、それを解決させるのは
なかなか難しいー。

セクハラや、パワハラ以上にー
被害者にとっては厄介な存在ー。

大和は、今一度岩村部長と話し合おうと、
出社すると同時に、部長に声を掛けようとするー。

だがーー

「ーーねぇ、ちょっと」
おばさん社員の三美子が、大和に声を掛けて来るー。

岩村部長とよく仲良くしていて、
嫌味な性格のおばさんだー。

「はい?」
大和が反応をすると、
三美子が、スマホを手に、
昨夜の写真ーー

”憑依された愛華が、イケメン社員の風見とキスをする写真”を
見せ付けて来たー

「ーーー!?!?!?!?!?」
大和が表情を歪めるー

「ー昨日、退社する前に偶然見かけちゃったの」
その言葉に、あらゆる感情が吹き出しそうになるー

”岩村部長が愛華に憑依してこんなことをやらせた”

のかー

それとも、

”愛華が自らの意思で浮気している”

のかー。

どちらだとしても、大和にとっては最悪の展開ー。

しかもー
”恐らくは、前者”ー。

「ーーー」

だが、顔を赤くして、今にも怒り出しそうな大和を見て、
三美子は笑うー。

「ーまぁ、うちは社内恋愛禁止じゃないしー
 こういうことも、あるのかしらねー」

三美子の言葉に、大和は
「ー!」と、気づくー。

大和と愛華は社内恋愛中であることを隠しているー。

ここで、三美子の挑発に乗り、
何か反応すれば
”社内恋愛”に気付かれてしまうー。

「ーーーー」
岩村部長が、じっとこちらを遠くから見つめているのに気づきー、
大和は冷静さを取り戻すと
「ーーそうなんですねー…まぁ、誰が誰と仲良くするのも、自由ですから」と、
笑顔で返事をすると、そのまま自分のデスクへと向かったー。

”女性社員に憑依して、他の男性社員にキスをさせる”ー

許されざる行為ー。

”ーーあんたのポゼハラー…絶対に許さないー”
大和は心の中でそう思いながら、
何とか岩村部長を懲らしめようと、あれこれ考え始めるのだったー

③へ続く

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コメント

エスカレートしていく”ポゼハラ”ー

どうにかすることはできるのでしょうか~?

明日が最終回デス~!

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