<憑依>あの世で知る真実

この世での人生を終えた男…

男は「あの世」など、信じていなかったー。

しかし、人生を終えた男を
待っていたのは”衝撃の事実”だったー

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北原 利治(きたはら としはる)ー

彼は、58歳の人生に幕を閉じようとしていたー。
別に、後悔はないー。

彼は容姿に恵まれず、
それが原因で揶揄われたりしたこともあったー。

女子にモテることもなくー
高校生になるころには恋愛を諦め、
生涯独身を貫いたー。

一方で、趣味はそこそこと充実していてー
プライベートな時間を確保するため、と
アルバイトを転々とした人生を送り、
”人”との繋がりはなかったものの、
趣味はそれなりに充実していたー。

けれども、経済的に余裕はあまりなかったし、
時々、恋愛というものを経験してみたかったー
そんな風にも思う人生だったー

”俺の人生を評価するなら、ハードモードってところかな…”
薄れゆく意識の中、利治は妙に冷静に、
そんなことを考えたー。

ベリーハードとか、そこまでじゃないけど、
ハードぐらいはあったと思うー

いやー
この国に生まれてそれなりに平穏な人生を送ってこれただけで
それはハードではなく、ノーマルなのかもしれないー。

そんな風にも思うー。

とにかく、自分の人生は、幕を閉じようとしているー。
そのことに、後悔はないー

元々利治は、小さいころから”身体がボロボロになってまで
長生きしたくない”と思っていて、
その通りの人生になったー

食生活にも気を遣わず、不規則な生活を繰り返したー。

だが、それもー
”老後ではなく、今を十分に楽しむー”
と、そういう考えからだー。

長生きする必要性は、彼にはなかったのだー

自分の心拍数の状況が悪化する音が聞こえるー。
ここで、人生は終わるということなのだろうー。

だが、後悔はないー

”あの世なんてものは、ねぇだろうしな…
 ま、何も分からなくなるだけだし…
 別にいいか”

本当のことを言えば、少し怖かったー

けれども、死ねば、
何も分からなくなるー
この”恐怖心”も含めて、
全てがなくなるー。

利治はそんな風に思いながら
静かにその生涯を終えたー

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プシュウウウウウ…

変な音がしたー

「ーー?」
目を開くー

「ーーー???」
利治は思うー
自分は”死んだはず”だとー。

今の音はなんだ?

そう思いながら周囲を見渡すと、
よくわからないカプセルのようなものに
自分が入っていたのか、
そのカプセルの入口が開き、
扉が開いたのだったー

「ーおつかれさん」
見たこともないような形の、霊体…?魂…?
不気味な人型の何かが近づいてくるー

声も、人間の声とは少し違う、
独特な感じだー

「ーーはは、やめられないよなー。
 ”この感覚”ー
 俺もマジでいつもビビるしー」

その人型の光のような物体は、そう言い放ったー

「ーー…ん???ん????」

俺は死んだはずだー
何だここは?
天国か?

そんな風に思っていると
「あ、そうそう、ほら、横のスイッチ押しな」と
光の人影はそう呟いたー。

「ー横のスイッチ?」
利治はそう呟くと、よく意味が分からない、と思いながら
そのままスイッチを押したー

するとカプセルの上部からキラキラした光が降り注ぎーーー

利治は、全てを思い出したー

「ーーっ…!お、、、お、、…あ、、、そ、、そうか!
 ははっ…ははははは、やっぱやばいなこれ!」

利治は全てを思い出して、笑うー
自分も目の前にいる光る人影のようなものと
同じ姿をしているー

大量のカプセルとー
それに繋がれた巨大な装置ー

その真ん中には”人生~ZINSEI~”と刻まれているー

「ーー”人生”楽しかったか?」
目の前にいる光の影が笑うー

「ーーあぁ。ってか、まだ記憶が半分しか戻ってないケド、
 マジでやばいなこれ」
利治はそう言いながら、”人生”と書かれた巨大な装置を見つめるー

この世界は”光のエネルギー体”が暮らす世界ー
エネルギー体に”死”という概念は存在せず
永遠の生命が約束されているー

だが、その一方で変化に乏しい世界で、
さすがに生きている時間が何万、何十万年となってくると
だんだんと飽きてくるー

それでも、死ぬことはできないこの生命体たちは
あるものを考え付いたー

”壮大なゲーム”をー。

この世界のように、”理想”を体現し、
争いも、病気も、死への恐怖も、労働も何もない世界ではなくー

”色々な喜びに満ち溢れているけれど、
 色々不安定で、どうしようもなくて、けれども愛しい部分のある世界”

それを創造した

それが”人生~ZINSEI~”という名のゲーム。

そう、人生とは、ゲームだったのだー
巨大なオンラインゲームのようなもの、と言ってもいいー。
神々のような存在が作りあげた、疑似世界ー。

プレイヤーは、
あらかじめ、”どんな人生”を歩むかある程度設定
キャラメイクを終えたら、カプセルに入り、記憶を一時的に消去、
ゲームを開始するー

ゲームを開始すると、疑似世界の中の
”胎児”に憑依し、
人生を味わうことになるー。
そして、死ぬと、ゲームは終了、
カプセルの機能で記憶が戻るー
という仕組みだー

誰にも憑依されないまま生まれた子供は
AIによって制御されており
「NPC」として、行動しているー
しかし、AIは超高性能であるために、
人間が「この人はプレイヤーで、この人はNPC」と
判別できるようなことは、ないー。

光の生命体が、カプセルに入ると
自動的に、まだ誰も”使っていない”胎児や赤ん坊の身体が
憑依先として振り分けられ、人生がスタートするー

2歳や3歳ー
小さいころの記憶がハッキリしないのは、そのためだー。

2歳や3歳まで、プレイヤーがいない状態=NPCとして
行動していた人間に、プレイヤーが憑依するー…
そのため、「自分の記憶は3歳から」だったり「2歳から」だったり
「もっと前から覚えている」だったり、人によって異なるー

記憶喪失した人間が稀に存在するのはー
例えば25歳まで「どのプレイヤーにも使われていない身体」=「NPC」
だった身体にプレイヤーが憑依したためだー。
「NPC」として生きていた間の記憶は、基本的には引き継がれないー。

プレイヤーは、プレイ開始前に必ず記憶を消去されるー。
記憶を消すことにより、
”人生”を緊張感をもってプレイできるー

「ーでも、”利治”って人生が全部ゲームだったなんてな」
利治が笑うー

「ーーだろ?俺ももう5回ぐらい人生をプレイしてるけど、
 いつも死んでゲーム終了になるとしばらく不思議だもんな」
目の前にいる光の影が呟くー

今も、当たり前のように、多くの人が
”人生”をプレイしているー。
それが神々のような存在の”ゲーム”であると知らずにー
自分もその神々のような存在であることを知らずにー

「ーーー……宇宙も地球も、ゲームだったかぁ…」
利治は頷くー

思えば、自分も、既に101万年生きているー。

「ずっとここで過ごしてたほうが、平和なんだけどな」
利治が言うと、
「刺激が足りなすぎるから”人生”をプレイするんだろうが」
と、目の前にいる光の影が笑ったー。

この世界には「性別」も存在しないー
男らしい光の影、女らしい光の影もいるが、
それはあくまでも「性格」であり、性別ではないー

「ーーってか俺、なんで冴えない独身男性選んだんだっけ?」
利治が聞くと、
目の前にいた光の影が
「俺はあえて困難に挑む!とか言ってたじゃないか。
 ほら、前は金持ちのお嬢様でプレイしてたから
 楽すぎて退屈だったとか言ってただろ」
と笑うー

「あぁ、そうだそうだ 思い出した」
利治は、笑うー。

今回の人生をプレイする前に、利治は
初期設定で”ノーマル”を選び、
人生の味付けに”孤独”を選んだー
そして容姿の設定を”ベリーハード”にして
あえて困難なプレイを選んだのだったー

「ー次は女でプレイするかな?へへへへ」
笑う利治に、
「男としてプレイしたあとは、そう思うよな」と
光の影は笑ったー

しかしー
実際に次は可愛い女性でプレイしてエッチなことをたくさんしてやるぜ!
と思っていても”人生”をプレイする前に記憶を消されてしまうため
結局、普通の女子として人生を満喫してしまうことが多いー

「ってか、バイト先で俺をいじめてきた、森川店長、
 NPCだったのかよ!」

笑う利治ー。

”人生”のゲームプレイ状況をモニターで確認しているー

利治ら光の生命体に”憑依”されている人間は”プレイヤー”
それ以外の、誰にも憑依されておらず、AIに制御されている人間は”NPC”だー。

人間は、自動的に繁殖するように作られていて、
光の生命体がそれに憑依して、プレイする形だー。

「ーーNPCにパワハラ受けて悩んでたとか、笑っちまうんだけど」
利治が言うと、
光の影は「ははは…あるあるだな!」と笑うー

そして「俺なんかこの前、愛してた女性が、NPCだったからな!」と
光の影は笑ったー

「ーーまぁ…NPCかPCかなんて、人生やってる間は
 分からないのが、面白いところなんだけどな」
光の影の言葉に、利治は「さ~て、もう1プレイしてくるか」と笑うー

「おいおい、連続プレイかよ」
光の影が言うと、
「ーだってここ、平和だけど、退屈じゃん」
と、利治は笑ったー

ここにいれば、何も怖いことはないー
永遠の生命が約束されているー

だが、ここはやはり、つまらないー

死への恐怖もー
苦しいことも、怖いことも何もないー

只々、平凡な時間だけが流れていくこの空間ー。
不満はないが、かと言って喜びもないー

永遠と”平坦”な時間が流れるこの空間ー

だからこそー
この世界の住人は”人生”という巨大なゲームを作り上げたー。

「ーー今度はどんな人生にするかなぁ…」
初期設定を行う利治ー。

利治に声を掛けた光の影が笑うー

「今度は女か?」

その言葉に「まぁ…俺、いっつも交互にプレイしてるからな」と
言いながら前回は”利治”という人生をプレイした光の影が言うー。

この”光の影”のような生命体は個性に乏しく、
利治だったこの光の影も、次、女性として人生をプレイして
それが終わってここに戻ってきたときには
女性らしい振る舞いをするようになっているだろうー

”無個性”

とにかく、何も起こらず、平和であるのと引き換えに、
この世界では、何も起こらないー。

「ーーあえてハードモードに挑むかー。」

利治はそう呟きながら、
”人生”の初期設定を行っていくー。

”容姿”の設定や
”人生”の内容の設定などをある程度行いー、
あとはAIが、”人生~ZINSEI~”の中の最適な胎児や
身体を見つけて、ゲーム内の人物のいずれかに
自動で憑依させてくれるー。

「ーーーさて、じゃあ、今度は悲劇の人生を歩んでくるよ」
利治はそう言うと、再びカプセルに入ったー。

「ーー…うわぁ…」
利治と話していた光の影は、利治が設定した内容を見て、
”これ絶対、どうしてわたしがこんな目に…って考えるやつじゃないか”と、
苦笑いするー。

カプセルに入った光の人影のような姿の利治は
再び記憶を消去されー
”次の人生”をスタートさせるー。

生まれる直前の胎児に憑依する形でー
利治だった存在は、
再び”新たな人生”を始めるのだったー

おわり

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コメント

世界観があまりに飛びすぎていたので、
一度私の中で没になった作品だったのですが、
スケジュールの都合上(月の切り替わり+曜日の都合上)日程が1日空いたので
書いてみることにしました!

実際に人生を終えたとき、
その先に何か待っているのか…気になりますネ…★

お読みくださりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    なんかこれ、昔のとある名作RPGの三作目を思い出す内容の話ですね。

    それにしても刺激のために、わざわざ自分から悲劇の人生を歩もうなんて、ドMじゃないだろうか?
    実際にすべてを忘れて、悲惨な人生を生きてる間はシャレにならない気がします。

    もう少し続きの話も見てみたかったですね。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      昔の名作RPGの3作目…!
      作品名が分かれば私も見てみたいデス…笑

      この登場人物たちは恐ろしく気の遠くなる時間を生きているので、
      最初の頃は幸せな人生を楽しんでいたのですが、
      だんだん刺激を求めるようになってしまった感じですネ~!
      全てを忘れて生きている間は確かに苦しいと思いますケド…汗

      書こうと思えば、世界観を膨らませられそうな気はしますネ…★!

  2. 匿名 より:

    転生があるとか言われていますし、最近、人生ってこのお話の通りじゃないのかなって思ってます(笑)
    読んでいて、すごくワクワクしました。
    没作品とおっしゃっていますが、機会があれば続編を読んでみたいものです。
    ありがとうございました。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      人生を終えた時にもしかしたら、
      想像を超える何が待っている…かもですネ…!

      個性的な世界観すぎたので、書くか迷ってた作品ですが
      書いてよかったデス!