彼は、幸せだった。
妻と娘に囲まれて幸せな日々を送る父ー
しかし、ある日突然それは奪われた。
幸せを奪われた父はー
憑依能力を駆使して、復讐を開始するー。
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加賀見 亮介(かがみ りょうすけ)は、
新聞を読みながら
いつものような朝の時間を過ごしていた。
「お父さん、邪魔~!」
新聞を広げて読んでいた父に小言を
言いながら近くを通る娘。
娘の加奈子は、高校2年生ー。
思春期の年齢だが、
父である亮介との関係は、悪くはない。
「--そういえば、彼氏の幸次郎くんとは仲良くやってるのか?」
亮介が聞くと、娘の加奈子はにこにこしながら
「んふふ!ひみつ~!」と笑った。
「--ふふふ」
そんな光景を見ながら母親の美恵も微笑むー。
「さて…俺もそろそろ仕事に行くか」
幸せな日常。
亮介は、妻と娘に囲まれて
平和な日々を送っていた。
「--いってらっしゃい」
美恵に見送られて、
笑顔で家を出た亮介ー
それがーー
”最後の幸せ”であることも知らずにー
もうすぐ40の亮介は、
会社でもとあるプロジェクトのリーダーを
任されていて、順調な人生を送っていた。
「--さすがだな」
部長の堂上(どのうえ)が、亮介のプロジェクトの
進捗を確認して、関心する。
「--ありがとうございます」
仕事も、
家庭も順調ー
亮介は、こんな当たり前のような幸せが
ずっと続くものだと思っていたー
「---やっぱお前にはかなわないよ」
同期の橋本(はしもと)が呟く。
同期の橋本は、入社当時からの付き合いだ
「--いやいや、そんなことないさ」
亮介は苦笑いしながら答えるー
「--ところでどうだ?今夜一杯?」
橋本が飲みに誘ってくる。
だがー
今日は娘の加奈子の誕生日だった。
「悪い、今日、娘の誕生日なんだ」
亮介が言うと、
橋本は一瞬ザンネンそうな表情を浮かべたが
「そっか」と呟いた。
橋本は独身だから、
よく同僚と飲みに行っているー。
「加賀見さんは、家族思いですから
邪魔しちゃだめですよ~!」
20代の無邪気な女性社員・瑠美(るみ)が笑う。
瑠美は、若いながらしっかりとした社員で、
亮介のプロジェクトの一員として働いている
「はいはい」
橋本は苦笑いしながらそう答えたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
加賀見家ー
「ただいま~!」
いつものように帰宅する娘の加奈子。
「あ、おかえりなさい~!」
母親の美恵が、
晩御飯の支度をしながら微笑んだー
その時だったー
加奈子の背後から、
フルフェイスヘルメットをかぶったライダースーツの
男が乱入してきたー
「--ひっ!?」
突然口をふさがれて驚く加奈子。
「--か、加奈子!?」
母親の美恵も驚いて目を見開いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕方ー
娘の誕生日ということで
ケーキを手に、自宅へと帰ってきた亮介。
いつものようにインターホンを鳴らす。
だが、返事はないー。
「---…?」
外には、見慣れないバイクが置かれているー
「---なんだ?」
不審に思った亮介は、玄関の扉に手を触れるー
すると、玄関の扉は、すぐに開いたー。
鍵がかかっていなかった。
「ただいま~!」
亮介が叫ぶ。
だがー
返事はない。
「・・・・・・」
なんだか嫌な予感を感じた亮介は、
部屋の奥に進むー
キッチンの部分に人の気配を感じた亮介ー
「---加奈子…?
美恵…?」
恐る恐るそこに向かうと…
そこにはーー
血まみれになって倒れている美恵の姿があった。
「--お、、おい!美恵!」
妻の美恵の姿を見て目を見開く亮介。
そんな亮介に、背後から声がかかった。
「おかえりなさい…おとうさん…」
振り返ると、そこには、不気味な笑みを浮かべる加奈子の姿があった。
制服を血で汚しー
その手には、包丁が握られている。
「---か、、加奈子!?」
亮介が叫ぶと、
加奈子はにやりと笑った
「--この娘さん、いい身体してるよなぁ~」
わけの分からないことを呟きながら
加奈子は自分の胸を触り始めた。
「うひひひひひ…!
うひひひひひひひぁ♡」
「な…何をしてるんだ!?加奈子!」
亮介が今一度声をかけると
加奈子はにっこりと笑う。
「わたしぃ~!
これで、身体乗っ取られて
お母さんをこの手で殺しちゃったの~!
うひひひひひひひひ~♡」
加奈子が緑色の液体が入った
小さな小瓶を手にして笑う。
「--な、、なんだって…!?」
亮介は唖然とする。
身体を乗っ取るー
だと…?
「は…はははははは」
亮介は思わず笑ってしまった。
そうか、これはドッキリだ。
「--はは…随分と過激なドッキリだな~
思いついたのは加奈子か~?」
娘の加奈子はいたずら好きな一面もあった。
だから、これは加奈子のドッキリに違いない。
「うふふ…ドッキリだと思ってるの~?」
加奈子はそう言うと、
自分の制服を引き千切り始めた。
「あはははははは~♡
本当に憑依されてるのに
信じてすらもらえな~~い!」
下着姿になった加奈子は
倒れている母親の頭を踏みつける。
「わ・た・しが、こんなことするぅ~?」
加奈子が大笑いしながら叫ぶ。
顔色が変わってくる亮介ー
「---も、、もう十分だろ…?」
亮介はあくまでもドッキリだと思っていたー
しかしー
「お前の幸せ、壊してやりたくてさぁ…!」
そう言うと、加奈子は笑みを浮かべる。
「ばいばい!おとうさん!うふっ♡」
加奈子は、
持っていた包丁でーー
躊躇なく自分の首をーーー
「----…」
亮介は、唖然としていたー
加奈子と、美恵が
冷たくなって横たわっている。
そんな…馬鹿な…。
ブォォオオオオオオオ!
家の外から轟音が響き渡るー
そう言えばーー
家の前に止まっていたバイクー
そう思って慌てて家から飛び出した亮介。
そこにはー
バイクにまたがるライダースーツの男がいた。
フルフェイスヘルメットをした男が
振り返るー。
「--貴様!」
亮介が叫ぶー
しかしー
間に合わないー
バイクはそのまま走り去ってしまうー
亮介はとっさにバイクのナンバーを暗記したー
「く…くそっ…!」
すぐに警察を救急隊が到着したがー
2人は助からなかったー
そして、警察は強引に
加奈子による無理心中だと決めつけたー
”憑依”なんて言葉、
誰も信じてくれなかったー。
数日後ー
亮介はうつろな目で会社に出勤した。
「--災難だったな」
同期の橋本が言う。
「いや…」
返事をするのがやっとの亮介。
「--その状態では、仕事も手につかないだろう。
しばらくゆっくり休みなさい」
部長の堂上が言う。
「--プロジェクトは、俺が代わりに引き継ぐから
心配すんな」
亮介の肩を叩く橋本ー。
やたらとニヤニヤしている橋本。
プロジェクトリーダーの座を奪えて、そんなに嬉しいのだろうか。
「--…」
亮介は、自然と目からこぼれる涙を
押さえつけることができなくなっていたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
妻と娘の葬儀は終わったー
仕事には行っているが、
亮介の心にはぽっかりと穴が開いたままだった。
何を食べてもー
何をしてもー
何を見てもー
何も、感じないー。
「------」
虚ろな目で、絶望の日々を送る亮介。
突然、最愛の娘の加奈子と、
妻の美恵を失ってしまったー
その傷をいやすことは、容易ではなかった。
「---」
娘と妻の顔を浮かべては涙を流す。
どうして、二人が狙われたのかー
憑依とは何かー
どうして、自分だけが生き残ったのか。
色々な考えが頭の中に浮かんでくるー。
「-----ん」
そんな中ー
亮介は、冷蔵庫と壁の隙間に何かが
挟まっているのを見つけたー。
非常に見えにくい場所に挟まっている何か。
「--なんだ、これは?」
亮介がそれを手に取るー
小瓶の中に入った、緑色の液体ー
「わたしぃ~!
これで、身体乗っ取られて
お母さんをこの手で殺しちゃったの~!
うひひひひひひひひ~♡」
憑依された加奈子の言葉を思い出す。
「---…!」
これは、あの時加奈子が笑いながら放り投げた
憑依薬…。
「---…」
亮介は身体を震わせていたー
そうだー、
自分にはまだ残っていたー
”妻と娘を奪ったやつへの怒り”がー。
亮介は決心したー。
この憑依薬を使って、
あのヘルメット男の人生を滅茶苦茶にしてやるー。
復讐なんて、妻と娘は望まない?
法律が捌いてくれる?
そんなの、家族を奪われたことがない人間が言う言葉だー。
亮介はそう思った。
「--俺は、命をかけて復讐するー」
亮介は、父親としての顔を捨てて、
復讐鬼となった。
妻と娘を奪った奴を追い詰める為にー
まずは、あのヘルメット男の正体を突き止めなくてはならない。
幸い、あの男が乗っていたバイクのナンバーを覚えている。
それが、手掛かりになるかもしれない。
数日後―
亮介はいつものように出勤するー。
復讐だけを生きがいにして過ごす日々ー。
その時だったー
「----…!!」
ふと会社の駐車場に止まっていたバイクが目に入る。
「こ…これは…!」
バイクのナンバーに見覚えがあった。
間違いない。
あの時、家から逃走したフルフェイスヘルメット男のバイク。
「--くっ…
娘と妻を奪ったのは…会社の奴なのか?」
亮介はそう思いながら、会社の中へと入って行く。
「--ふぅ」
部長の堂上がため息をつく。
「---君には同情するが…
最近、極端に仕事ぶりが悪くなっている」
堂上の言葉に、亮介は頭を下げる。
「---いっそのこと、しばらく休職したらどうかね?」
堂上が言うー
亮介は堂上部長の言葉を軽くあしらい、
休憩室の方に向かうー
自販機でコーヒーを買って
それを飲み干す。
そんな亮介の元に後輩女性の瑠美がやってくる。
「---加賀見さん…大丈夫ですか?」
心配そうに尋ねてくる瑠美。
「---…あぁ…大丈夫…
心配かけて悪いな」
亮介はそう返事をした。
心配をかけてはいけない
迷惑をかけてはいけない
そう思いながらも、
亮介は、普通にすることなどできなかった。
「…加賀見さん…
何かあったら、いつでもわたしに言ってくださいね…
わたしにできることなら、なんでもしますから…」
瑠美が言うー。
「--ありがとう。でも、大丈夫だから」
亮介はそう呟くと、休憩室を後にしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
仕事を早めに切り上げた亮介は、
駐車場で例のバイクを見張りながら
バイクの持ち主が現れるのを待っていたー
娘に憑依して、妻と娘の命を奪った張本人をー。
そしてー
持ち主はやってきた。
バイクにまたがる男ー
それはー
部長の堂上だったー。
「ど…堂上部長…!?」
40代後半の堂上部長。
彼こそがーヘルメット男の正体ー
そして、妻と娘を憑依薬で奪った張本人ー
「---」
亮介は鬼のような形相で、
走り去っていくバイクを見つめたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
堂上部長は、
娘の真理佳(まりか)と楽しそうに談笑していた。
「--いよいよ来週か」
呟く堂上部長。
「--うん。」
娘の真理佳は、来週に結婚を控えていたー。
23の真理佳はー
大学時代からの彼氏とゴールインし、
結婚することになったのだー。
父として、堂上部長も
そのことをとても、嬉しく思っていた。
寂しいと思う反面ー
盛大に祝ってやりたいという気持ちもある。
そんな、不思議な感情。
「ひっ!?」
真理佳が突然、表情を歪めた。
「--!?どうした!?」
堂上部長が慌てた様子で真理佳を見つめる。
真理佳は胸のあたりを苦しそうに押さえている。
「ど、、どうしたんだ!?」
堂上部長は苦しみだした娘に向かって叫ぶ。
しかしー
すぐに娘は落ち着いた。
「…あ………あぁ…あ…」
「…だ、、、大丈夫か?」
堂上部長の言葉に、
真理佳は頷いた。
「うん」
にっこりとほほ笑む真理佳。
「---部長、この身体は貰いましたよ」
真理佳が憎悪に満ちた表情で父を睨む。
「な…なに!?」
驚く堂上部長ー
「---ふふふ…復讐の時間だ」
亮介はー
堂上部長の娘・真理佳に憑依した。
妻と娘を奪った、
堂上部長に復讐するためにー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
前置きが長くなりすぎて本番に突入できませんでした…汗
明日からは憑依がメインです~☆
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