<憑依>地獄の唄①~復讐~

彼は、幸せだった。

妻と娘に囲まれて幸せな日々を送る父ー
しかし、ある日突然それは奪われた。

幸せを奪われた父はー
憑依能力を駆使して、復讐を開始するー。

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加賀見 亮介(かがみ りょうすけ)は、
新聞を読みながら
いつものような朝の時間を過ごしていた。

「お父さん、邪魔~!」
新聞を広げて読んでいた父に小言を
言いながら近くを通る娘。

娘の加奈子は、高校2年生ー。
思春期の年齢だが、
父である亮介との関係は、悪くはない。

「--そういえば、彼氏の幸次郎くんとは仲良くやってるのか?」
亮介が聞くと、娘の加奈子はにこにこしながら
「んふふ!ひみつ~!」と笑った。

「--ふふふ」
そんな光景を見ながら母親の美恵も微笑むー。

「さて…俺もそろそろ仕事に行くか」

幸せな日常。
亮介は、妻と娘に囲まれて
平和な日々を送っていた。

「--いってらっしゃい」
美恵に見送られて、
笑顔で家を出た亮介ー

それがーー
”最後の幸せ”であることも知らずにー

もうすぐ40の亮介は、
会社でもとあるプロジェクトのリーダーを
任されていて、順調な人生を送っていた。

「--さすがだな」
部長の堂上(どのうえ)が、亮介のプロジェクトの
進捗を確認して、関心する。

「--ありがとうございます」

仕事も、
家庭も順調ー

亮介は、こんな当たり前のような幸せが
ずっと続くものだと思っていたー

「---やっぱお前にはかなわないよ」
同期の橋本(はしもと)が呟く。

同期の橋本は、入社当時からの付き合いだ

「--いやいや、そんなことないさ」
亮介は苦笑いしながら答えるー

「--ところでどうだ?今夜一杯?」
橋本が飲みに誘ってくる。

だがー
今日は娘の加奈子の誕生日だった。

「悪い、今日、娘の誕生日なんだ」
亮介が言うと、
橋本は一瞬ザンネンそうな表情を浮かべたが
「そっか」と呟いた。

橋本は独身だから、
よく同僚と飲みに行っているー。

「加賀見さんは、家族思いですから
 邪魔しちゃだめですよ~!」

20代の無邪気な女性社員・瑠美(るみ)が笑う。

瑠美は、若いながらしっかりとした社員で、
亮介のプロジェクトの一員として働いている

「はいはい」
橋本は苦笑いしながらそう答えたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

加賀見家ー

「ただいま~!」
いつものように帰宅する娘の加奈子。

「あ、おかえりなさい~!」
母親の美恵が、
晩御飯の支度をしながら微笑んだー

その時だったー

加奈子の背後から、
フルフェイスヘルメットをかぶったライダースーツの
男が乱入してきたー

「--ひっ!?」
突然口をふさがれて驚く加奈子。

「--か、加奈子!?」
母親の美恵も驚いて目を見開いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夕方ー

娘の誕生日ということで
ケーキを手に、自宅へと帰ってきた亮介。

いつものようにインターホンを鳴らす。

だが、返事はないー。

「---…?」
外には、見慣れないバイクが置かれているー

「---なんだ?」
不審に思った亮介は、玄関の扉に手を触れるー

すると、玄関の扉は、すぐに開いたー。

鍵がかかっていなかった。

「ただいま~!」
亮介が叫ぶ。

だがー
返事はない。

「・・・・・・」
なんだか嫌な予感を感じた亮介は、
部屋の奥に進むー

キッチンの部分に人の気配を感じた亮介ー

「---加奈子…?
 美恵…?」

恐る恐るそこに向かうと…

そこにはーー
血まみれになって倒れている美恵の姿があった。

「--お、、おい!美恵!」
妻の美恵の姿を見て目を見開く亮介。

そんな亮介に、背後から声がかかった。

「おかえりなさい…おとうさん…」
振り返ると、そこには、不気味な笑みを浮かべる加奈子の姿があった。

制服を血で汚しー
その手には、包丁が握られている。

「---か、、加奈子!?」
亮介が叫ぶと、
加奈子はにやりと笑った

「--この娘さん、いい身体してるよなぁ~」
わけの分からないことを呟きながら
加奈子は自分の胸を触り始めた。

「うひひひひひ…!
 うひひひひひひひぁ♡」

「な…何をしてるんだ!?加奈子!」
亮介が今一度声をかけると
加奈子はにっこりと笑う。

「わたしぃ~!
 これで、身体乗っ取られて
 お母さんをこの手で殺しちゃったの~!
 うひひひひひひひひ~♡」

加奈子が緑色の液体が入った
小さな小瓶を手にして笑う。

「--な、、なんだって…!?」
亮介は唖然とする。

身体を乗っ取るー
だと…?

「は…はははははは」
亮介は思わず笑ってしまった。

そうか、これはドッキリだ。

「--はは…随分と過激なドッキリだな~
 思いついたのは加奈子か~?」

娘の加奈子はいたずら好きな一面もあった。

だから、これは加奈子のドッキリに違いない。

「うふふ…ドッキリだと思ってるの~?」
加奈子はそう言うと、
自分の制服を引き千切り始めた。

「あはははははは~♡
 本当に憑依されてるのに
 信じてすらもらえな~~い!」

下着姿になった加奈子は
倒れている母親の頭を踏みつける。

「わ・た・しが、こんなことするぅ~?」
加奈子が大笑いしながら叫ぶ。

顔色が変わってくる亮介ー

「---も、、もう十分だろ…?」
亮介はあくまでもドッキリだと思っていたー

しかしー

「お前の幸せ、壊してやりたくてさぁ…!」

そう言うと、加奈子は笑みを浮かべる。

「ばいばい!おとうさん!うふっ♡」
加奈子は、
持っていた包丁でーー
躊躇なく自分の首をーーー

「----…」

亮介は、唖然としていたー

加奈子と、美恵が
冷たくなって横たわっている。

そんな…馬鹿な…。

ブォォオオオオオオオ!

家の外から轟音が響き渡るー

そう言えばーー
家の前に止まっていたバイクー

そう思って慌てて家から飛び出した亮介。

そこにはー
バイクにまたがるライダースーツの男がいた。

フルフェイスヘルメットをした男が
振り返るー。

「--貴様!」
亮介が叫ぶー

しかしー
間に合わないー
バイクはそのまま走り去ってしまうー

亮介はとっさにバイクのナンバーを暗記したー

「く…くそっ…!」

すぐに警察を救急隊が到着したがー
2人は助からなかったー

そして、警察は強引に
加奈子による無理心中だと決めつけたー

”憑依”なんて言葉、
誰も信じてくれなかったー。

数日後ー
亮介はうつろな目で会社に出勤した。

「--災難だったな」
同期の橋本が言う。

「いや…」
返事をするのがやっとの亮介。

「--その状態では、仕事も手につかないだろう。
 しばらくゆっくり休みなさい」

部長の堂上が言う。

「--プロジェクトは、俺が代わりに引き継ぐから
 心配すんな」
亮介の肩を叩く橋本ー。

やたらとニヤニヤしている橋本。
プロジェクトリーダーの座を奪えて、そんなに嬉しいのだろうか。

「--…」
亮介は、自然と目からこぼれる涙を
押さえつけることができなくなっていたー

・・・・・・・・・・・・・・・・

妻と娘の葬儀は終わったー

仕事には行っているが、
亮介の心にはぽっかりと穴が開いたままだった。

何を食べてもー
何をしてもー
何を見てもー

何も、感じないー。

「------」
虚ろな目で、絶望の日々を送る亮介。

突然、最愛の娘の加奈子と、
妻の美恵を失ってしまったー

その傷をいやすことは、容易ではなかった。

「---」

娘と妻の顔を浮かべては涙を流す。

どうして、二人が狙われたのかー
憑依とは何かー
どうして、自分だけが生き残ったのか。

色々な考えが頭の中に浮かんでくるー。

「-----ん」
そんな中ー
亮介は、冷蔵庫と壁の隙間に何かが
挟まっているのを見つけたー。

非常に見えにくい場所に挟まっている何か。

「--なんだ、これは?」
亮介がそれを手に取るー

小瓶の中に入った、緑色の液体ー

「わたしぃ~!
 これで、身体乗っ取られて
 お母さんをこの手で殺しちゃったの~!
 うひひひひひひひひ~♡」

憑依された加奈子の言葉を思い出す。

「---…!」
これは、あの時加奈子が笑いながら放り投げた
憑依薬…。

「---…」
亮介は身体を震わせていたー

そうだー、
自分にはまだ残っていたー

”妻と娘を奪ったやつへの怒り”がー。

亮介は決心したー。
この憑依薬を使って、
あのヘルメット男の人生を滅茶苦茶にしてやるー。

復讐なんて、妻と娘は望まない?
法律が捌いてくれる?

そんなの、家族を奪われたことがない人間が言う言葉だー。

亮介はそう思った。

「--俺は、命をかけて復讐するー」
亮介は、父親としての顔を捨てて、
復讐鬼となった。

妻と娘を奪った奴を追い詰める為にー

まずは、あのヘルメット男の正体を突き止めなくてはならない。
幸い、あの男が乗っていたバイクのナンバーを覚えている。
それが、手掛かりになるかもしれない。

数日後―

亮介はいつものように出勤するー。
復讐だけを生きがいにして過ごす日々ー。

その時だったー

「----…!!」

ふと会社の駐車場に止まっていたバイクが目に入る。

「こ…これは…!」
バイクのナンバーに見覚えがあった。

間違いない。
あの時、家から逃走したフルフェイスヘルメット男のバイク。

「--くっ…
 娘と妻を奪ったのは…会社の奴なのか?」

亮介はそう思いながら、会社の中へと入って行く。

「--ふぅ」
部長の堂上がため息をつく。

「---君には同情するが…
 最近、極端に仕事ぶりが悪くなっている」
堂上の言葉に、亮介は頭を下げる。

「---いっそのこと、しばらく休職したらどうかね?」
堂上が言うー

亮介は堂上部長の言葉を軽くあしらい、
休憩室の方に向かうー

自販機でコーヒーを買って
それを飲み干す。

そんな亮介の元に後輩女性の瑠美がやってくる。

「---加賀見さん…大丈夫ですか?」
心配そうに尋ねてくる瑠美。

「---…あぁ…大丈夫…
 心配かけて悪いな」
亮介はそう返事をした。

心配をかけてはいけない
迷惑をかけてはいけない

そう思いながらも、
亮介は、普通にすることなどできなかった。

「…加賀見さん…
 何かあったら、いつでもわたしに言ってくださいね…
 わたしにできることなら、なんでもしますから…」

瑠美が言うー。

「--ありがとう。でも、大丈夫だから」
亮介はそう呟くと、休憩室を後にしたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

仕事を早めに切り上げた亮介は、
駐車場で例のバイクを見張りながら
バイクの持ち主が現れるのを待っていたー

娘に憑依して、妻と娘の命を奪った張本人をー。

そしてー
持ち主はやってきた。

バイクにまたがる男ー

それはー

部長の堂上だったー。

「ど…堂上部長…!?」

40代後半の堂上部長。
彼こそがーヘルメット男の正体ー

そして、妻と娘を憑依薬で奪った張本人ー

「---」

亮介は鬼のような形相で、
走り去っていくバイクを見つめたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜ー

堂上部長は、
娘の真理佳(まりか)と楽しそうに談笑していた。

「--いよいよ来週か」
呟く堂上部長。

「--うん。」
娘の真理佳は、来週に結婚を控えていたー。

23の真理佳はー
大学時代からの彼氏とゴールインし、
結婚することになったのだー。

父として、堂上部長も
そのことをとても、嬉しく思っていた。

寂しいと思う反面ー
盛大に祝ってやりたいという気持ちもある。
そんな、不思議な感情。

「ひっ!?」
真理佳が突然、表情を歪めた。

「--!?どうした!?」
堂上部長が慌てた様子で真理佳を見つめる。

真理佳は胸のあたりを苦しそうに押さえている。

「ど、、どうしたんだ!?」
堂上部長は苦しみだした娘に向かって叫ぶ。

しかしー
すぐに娘は落ち着いた。

「…あ………あぁ…あ…」

「…だ、、、大丈夫か?」
堂上部長の言葉に、
真理佳は頷いた。

「うん」
にっこりとほほ笑む真理佳。

「---部長、この身体は貰いましたよ」
真理佳が憎悪に満ちた表情で父を睨む。

「な…なに!?」
驚く堂上部長ー

「---ふふふ…復讐の時間だ」

亮介はー
堂上部長の娘・真理佳に憑依した。

妻と娘を奪った、
堂上部長に復讐するためにー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

前置きが長くなりすぎて本番に突入できませんでした…汗
明日からは憑依がメインです~☆

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