<憑依>憑依の脅し①~悪意~

その男はー、
憑依した相手の身体で、
”絶対に他人には見せられないような姿”を撮影ー、

身体から抜けた後もその相手を脅す、極悪の憑依人だったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”ククククー
 この写真をお前の通う大学にバラまいてやってもいいんだぞー?”

電話の向こうから、そんな声が聞こえるー。

「ーーーー…!」
近くの大学に通う美沙(みさ)は、送られてきた写真を
見つめながら、困惑の表情を浮かべているー。

それもそのはずー…
送られてきたのは、露出度の高いバニーガール姿で
笑みを浮かべる”自分”の写真だったのだからー。

「ーーー…ふ…ふざけないで!こんな写真、どこからー!?
 大体、わたしはこんなもの着てないし、
 合成写真か何かでしょ!?」

美沙がそう言い放つとー
電話相手は言ったー

”いいやー。正真正銘お前自身だよー。
 合成写真でもCGでも、AIでもないー
 お前自身が、自分で撮影した写真だー”

その言葉に、美沙は「いい加減にして!」と、そう叫ぶと
「わたしはこんな服持ってないし、着てない!」と、声を上げるー。

”ククククーそれは、どうかなー”
相手はそう言うと、
”動画を送ろうー”と、それだけ言い放ちー、
今度は”バニーガール姿の美沙”の動画を送って来たー

カメラの前でセクシーなポーズを繰り返しては
甘い言葉を囁く美沙ー。

”わたし、実は痴女なの♡ ふふー”
顔を赤らめながら、そう喋る”動画の中の美沙”は、
まさに、美沙本人だったー

「ーそ…そんな……何なの…これー?」
呆然とする美沙ー

こんな服持ってないし、着たこともないし、
こんなことした覚えもないー。

「ーわ、わたしに似てる人の動画ー!?
 それでわたしを脅してるんでしょ!?」

美沙がそう言い放つもー、
電話相手は笑うー

”胸元のほくろを見て見ろよー
 正真正銘、お前だろー?”

とー。

「ーー……な…なんで…どうしてー…」
美沙は、映像の中の”自分”を見て、
確かにこれは”わたし”だと確信するー。

しかし、それでも、
こんなことをした覚えは全くないー。

”指定した口座に現金を振り込めー
 そうしたらこの動画は削除してやるー”

相手の”女”の言葉に、
「ー目的は一体何なの!?」と、美沙は震えながら言うー。

電話相手は、美沙からすれば”知らない女”ー。

しかしー、その言葉遣いは荒くー、
一見すると優しい雰囲気の声にも関わらず、
強い恐怖感があったー。

”ーーーさぁー。それはお前が知る必要のないことだー
 期日までに金を払うか、この写真と動画を大学にバラまかれるかー。
 よく、考えろー”

そこまで相手が言うと、そのまま電話は切れるー。

スマホを握りしめたまま、
呆然とした表情を浮かべた美沙は、
「ど…どういうことなのー?」と、そう言葉を口にするのがやっとだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーくくくくくくく」

椅子に座って、ラバースーツ姿のまま足を組んでいた女は、
電話を終えると、可愛らしいピンクのスマホを
そのまま机の上に置いたー。

「ーーーーー」
パソコンを見つめる女ー。

彼女の名前はー、
西澤 絵里(にしざわ えり)ー。

他人に憑依しては、その身体でお楽しみを繰り返しー、
その最中に本人が絶対に見られたくないような写真や
動画を撮影ー。
憑依から抜け出したあと、今のように”脅し”をして
利益も上げている極悪の憑依人だー。

たった今、絵里が電話で話をしていた相手・美沙も、
先日、”憑依”された女で、
こうして脅されていたのだったー。

そしてーーー

「ーー…ククククー
 こうして”悪女”になった気分はどうだー?」

鏡を見つめながら、
そう言葉を口にする絵里ー。

そうー
彼女ー、絵里自身も”被害者”だったー。

絵里は憑依されて、そのまま”男”のメインの身体として
ずっと使われ続けているー。

絵里に憑依しー、他人に憑依、さらには脅しを繰り返している
憑依人の名は、西澤 健人(にしざわ けんと)ー

絵里の正真正銘の兄だー。

当初、憑依薬を手に入れた健人は、自分の身体で
今と同じようなことをしていたー。

がー、偶然、妹である絵里の親友に、
そうとは知らずに憑依してしまい、
正気に戻ったあと、健人に脅されているその親友に
助けを求められた絵里は、
”お兄ちゃんが犯人”だと気付いてしまったのだー。

そしてーー

”ーーそんなの、絶対ダメー!今すぐ全部捨てて!”

憑依薬の存在を知った絵里は、兄の健人に対してそう言い放ったー。

”ーイヤだと言ったらー?”
健人がそう返すと、絵里は目に涙を浮かべながら
スマホを手にするー。

”ーー…相手がお兄ちゃんでもー…
 警察に通報するしかないー”
そう、言いながらー。

”憑依をしてはいけない、なんて法律があると思うかー?
 通報しても、警察は信じないし、動かないさ”
健人は、妹の絵里に対してそう返すー。

”ーーそんなこと、やってみなくちゃ分からないじゃないー”
絵里は目に涙を浮かべたままそう言い放つと、
そのまま警察に通報しようとしたー

”絵里ー…!やめろ。これは大事なビジネスなんだー。
 絵里ー…いいから、やめろー”
健人も、”警察に通報されたら”もしかすると警察が動く可能性も
完全に0ではない、と思いつつ、
表情を歪めるー。

がー、絵里は止まらなかったー

”ーーー…くそっ!だったらー…!”
健人は、その日、妹の絵里に憑依したー。

あれからちょうど半年ほどー
健人は、絵里の身体をメインの身体として、
他の人に一時的に憑依するとき以外は
ずっと憑依したまま、行動しているー。

「ーお兄ちゃんの言うことを聞かないから、
 こうなったんだぞー?」
ラバースーツ姿の妹・絵里の姿を鏡で見つめながら、
絵里に憑依している健人はそう言葉を口にすると、
そのまま笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー。

絵里は、用意した特殊なイスに座ると、
ボタンを押して、そのまま”自ら”の両手を拘束したー。

拷問か何かに使われていた椅子を
海外から取り寄せて改造したものだー。

拘束を解除するには、暗証番号を入力しなくてはいけないー。
健人自身はそれを知っているー。
だが、”絵里”は暗証番号を知らないー。

自ら拘束された絵里は「ククー」と、少しだけ笑うと、
そのまま「うっー…」と、うめき声を上げて
意識を失うー。

髪を揺らしながら、椅子に拘束されたままの絵里が
ガクッと気絶するのを確認すると、
兄である健人は「ーーこうしないと、逃げられちまうからなー」と、
そのまま霊体になった状態で、”今日のおもちゃ”を探すため、
自分の家を離れたー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーぁ…」
ビクッと震える美少女ー。

「ークククー…今日はお金持ちのお嬢様に憑依してやったぜー」
憑依を成功させた健人は、
父親が企業の経営者で、”お金持ち”の美少女・香奈枝(かなえ)ー。

「ーーーへへへ…お前の父親からたんまり金を奪い取ってやるからなー」
香奈枝は邪悪な笑みを浮かべながら
そんな言葉を口にすると、
「と、まずはー」と、自分で自分の胸を嬉々として揉み始めるー

「うへへへー…いいねぇーーー…!
 この前の女より、いい感触だー ふへへー」
下品な笑みを浮かべる香奈枝ー。

直前までいじっていて、憑依された際に床に落としてしまったと
思われるスマホを拾うと、
ニヤニヤしながら、自分の胸を触る様子を、
自撮りし始めるー。

しばらく、嬉しそうにそんな自撮りを続けると、
香奈枝はニヤニヤとしながら、
「さ~て、コイツの記憶を読み取るかー」と、
そんな言葉を口にするー。

そしてー、
突然、香奈枝はその場で、白目を剥いて
何やらブツブツと呟き始めるー。

「~~~~~~…~~~~」
あまりに小声過ぎて聞き取れない内容ー。
ただ、異様に早口で機械のように
”自分の記憶”に関する言葉を口にしているようだったー。

「ーーーーぁ…」
時折、苦しそうにうめき声を上げては、
口元から涎を垂らす香奈枝ー。

しばらくそれは続きー、
やがて、香奈枝が目の輝きを取り戻すと、
ニヤニヤしながら立ち上がったー

「ーーへへへー…意外と”お父様”の会社のことも
 知ってるじゃないかー」
ニヤニヤしながら、そう言葉を口にする香奈枝ー。

「ーー俺の”憑依”があれば、
 会社の機密だろうが、何だろうが
 知りたい放題だからなー
 へへー」

香奈枝はそう言葉を口にすると、
「と、その前に、まずは自撮りだー。
 コイツの誰にも見られたくない姿ー
 たっぷり撮影してやらないとなー」と、
そんな言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーっ…!」

憑依人である健人が、香奈枝に憑依しにいったため、
いつも”メインの身体”として使われている妹の絵里は
正気を取り戻していたー。

しかしー、
健人が絵里の身体から抜け出す前に、
自ら椅子に拘束された状態にしているため、
絵里は拘束から抜け出すことはできないー。

「ーーー…お兄ちゃんー…わたしの身体でいつも何をしてるのー…?」
絵里は不安そうにしながら、
”絶対、他の人にも憑依して悪さをしてるに決まってる”と、
心の中でそう呟くー。

「ーー……何とかしないとー」
絵里はそう言葉を口にしながら、
暗証番号の入力装置に番号を入力するー。

暗証番号さえ入力すれば、この椅子の拘束具は外れるー。

しかし、”憑依されている間の記憶”が存在しない絵里には、
正解の番号が分からないー。
いつも、この状態で正気を取り戻すたびに、
絵里は手当たり次第暗証番号を入力しているものの、
”何桁”が正解なのかも分からないし、
解除することはできていないー。

「ーーーあぁ…もう!!」
絵里は苛立った様子を見せるー。

”わたし”が憑依されてからどのぐらいの時間が
経過したのかー、
憑依されている間に”わたし”は何をしているのかー、
何もかもが分からない状態ー。

「ー早くしないとお兄ちゃんが戻って来るー…
 そしたら、また、わたしー…」

絵里は、自分が自分でなくなってしまうことに対する
恐怖心を抱きながら、そんな言葉を口にすると、
暗証番号を入力しながら、同時に周囲も見渡すー。

何かー、何か拘束から逃れる方法はないのかどうかー。

ここから逃げ出して、
兄の悪行を警察に駆け込んで伝えてー…
それからー…

”ーーここから逃げ出しても、お兄ちゃんはまたわたしを
 見つけ出して憑依してくるかもー…”

絵里はそんな不安を感じるー。
がー、それでもずっとこの状況でいるわけにはいかないー。

この状況が続けばーーー

「ーーーー!」
絵里は表情を歪めるー。

”来たーー”
そんな風に思ったー。

何度も何度もこれを繰り返しているうちに、
絵里は”兄”が戻って来ると分かるようになってしまったー

「ーお兄ちゃん…!なんでこんなことするの…!?
 憑依で、どれだけ多くの人を傷つけてるの!?」

絵里が、”見えない”兄に向って叫ぶー。

”ーーー…うるせぇよー”
香奈枝への憑依を終えて戻って来た健人は、
絵里を見つめながらそう呟くと、静かに笑うー。

”多くの人を傷付けて来たのはー
 お前もだよー。
 俺に乗っ取られたお前は、他人を脅す悪女なんだからー”

健人は、ニヤニヤとしながらそう呟くと、
絵里の言葉を無視して、そのまま絵里に憑依したー

「ーークククククー…バカな妹だぜ」
再び憑依されてしまった絵里はそう呟くと、
そのまま暗証番号の正解を入力して
椅子の拘束を解除すると、
そのまま立ち上がったー。

「ーーさて、と…
 あのお嬢様もそろそろ意識を取り戻す頃だろうからー
 頃合いを見計らって電話するかなー」

絵里は、拘束されていた身体を
少しほぐすかのように首を動かしたり、
腕を動かしたりすると、
そのままゆっくりと歩き出して、電話を手にするー。

「ーーーー」
電話番号を入力しながら、鏡を見つめる絵里ー。

「ーーククククー…
 わたしは、憑依されていた子を脅すわる~い女ーー
 
 なんてなー」

極悪人の笑みを絵里に浮かべさせて、
健人はゾクゾクしながら、香奈枝が電話に出るのを待つー。

”も、もしもしー…?どちら様ー…?”
怯えた様子の香奈枝の声が聞えて来るー。

それもそのはずー
さっきまで”憑依”されていた香奈枝には
今の状況が分かっていないー。
怯えていて、当然だー。

「ーークククククー…はじめましてー
 お前に少し見せたいものがあるんだー」
絵里は低い声で、そう言葉を口にすると、
香奈枝に対して”脅し”の言葉を投げかけたー…

②へ続く

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コメント

8月最初のお話は、
憑依から解放した後も脅しを続ける、
悪質な憑依人のお話ですネ~!☆!

今月もやっぱり暑い日が多そうなので
皆様も気を付けて下さいネ~!

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憑依<憑依の脅し>

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