”一人にならないと出られない部屋”に
閉じ込められてしまった5組の男女…。
それぞれが、それぞれの考えで行動する中、
訪れた結末はー…?
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「愛梨~…?なんか今日、変じゃないー?」
一番最初に脱出した愛梨・壮一ペア。
しかし、壮一は愛梨に憑依したまま、
その”身体”を持ち逃げしていたー。
先程、部屋で喘ぎ狂っていた姿を、
親に見られた愛梨は気まずそうにしながらも
「べ、べ、別に~」と、笑みを浮かべるー。
だが、その視線は、チラチラと自分の胸に向かっていて
明らかにその様子はおかしいー
”だ、大丈夫かしらこの子ー…”
愛梨の母親は、不安そうに愛梨を見つめるー。
しかし、そんな母親の不安を他所に、
愛梨に憑依した壮一はニヤニヤしながら
「あ、そ、そうだーお、お風呂入るー」と、顔を真っ赤にしながら
お風呂のほうを見つめたー
「ー愛梨ちゃんの身体でお風呂ー
うへ…うへへへへへ」
愛梨がボソッとそんな言葉を口にすると、
愛梨の母親はドン引きしたような表情を浮かべながら、
愛梨を見つめたー。
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「ーーー…ここもダメかー」
仲良しカップルの達也と野々花は、
”憑依以外”の部屋から出る方法を探していたー。
既に脱出した奥手な男女・正雄と由梨の二人と同じように、
この二人は5組の中で協力し合っているものの、
正雄・由梨ペアとは違い、あくまでも”憑依薬”を使うつもりはないようだー。
達也も、野々花も”憑依薬”などと得体の知れないものを前に、
”毒入りなのではないか?” ”男の説明は正しいのかどうか”などなど、
疑いの目を向けていて、信用するつもりはなく、
結果的に二人は”他の脱出ルート”を
一生懸命探していたー。
「この扉、二人で体当たりしたら壊れたりしないかな?」
野々花の言葉に、達也は
「試してみる価値はあるかもしれないなー」と、頷くー。
「ーでも、あまり無理はするなよー?
野々花が怪我しちゃったら、大変だしー」
達也がそう言葉を付け加えると、野々花は「ありがとうーでも大丈夫」と、
微笑みながら、二人で扉の前に立って、扉を”破壊”できないかどうか
考え始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
男は、残る3組のモニターを見つめていたー。
達也・野々花ペアは憑依薬を使わず、扉の破壊を試みているー。
幼馴染の亮介・葵ペアは”助けが来ること”を確信して、
二人で部屋でくつろいでいるー。
「ー”動”の二人と”静”の二人だなー…
まぁ、どちらも手段としては間違ってはいない」
男はワイングラスに手をつけると、そのままそれを口に運ぶー。
その時だったー。
男のスマホが鳴り、男がスマホを手にすると、
男は言葉を口にしたー。
「ー藤山(ふじやま)ですー。」
黒い手袋をはめた手で手にしたスマホに向かって言葉を口にするー。
しばらく、相手と話し込む男ー。
電話相手は”警察”関係者ー。
警察の上層部にいる男だー。
”一人にならないと出られない部屋”に5組の男女を幽閉した彼はー、
”藤山 甚五(ふじやま じんご)”ー。
生まれてすぐに親に捨てられて、資産家である藤山家に養子として迎えられー、
その後、数々の陰謀を張り巡らせて、義理の家族を全員抹殺ー、
”自然に”家族が全員いなくなったことで、
藤山家の資産を手中に収めた男だー。
その後、彼は莫大な資産を元手にビジネスを行い成功ー。
現在は、大金をはたいて手に入れた憑依薬で、”実験”を度々行っているー。
今回行っているのは”憑依薬の耐久テスト”ー。
極限状況下において、憑依薬を前にした二組の男女がどんな反応を示すかー、
その実験を行っているー。
こういった”実験データ”は、裏社会の組織に高く売れるー。
「ーーー…分かりました。ありがとうございます」
甚五はそう呟くと電話を切り、笑みを浮かべるー。
警察の上層部の男にも”大金”で仲間にした味方がいるー。
故に、ここでの出来事は通報しても、表ざたにならず、捜査も行われないー。
”ーーあはははははははっ!これでわたしはここから出れる!”
モニターのひとつからそんな声が響き渡るー。
甚五はその様子を見つめると、
一緒に閉じ込められていた”芳樹”を殺して、
血のついた手で笑う愛佳の姿を確認したー。
「おやおやおや…相手を殺して”一人”になったかー」
甚五は思わず笑ってしまうー。
”一人にならないと出られない部屋”
まさか、そこから相手を殺して脱出する人間が
出て来るとは思わなかったー
「ーおめでとうー。君は3組目の脱出者だー。
と、言っても、相方を殺してしまったようだがー。」
少し笑いながら甚五がそう言うと、
愛佳は狂ったように笑いながらカメラの方に目線を向けー、
そのまま笑みを浮かべると、施設の外へと走り去っていくー。
「ーーやはり、狂ったかー」
そう思いながら、男は残り2組のモニターの方に視線を向けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーあの~…トイレ、お借りしてもいいですかね?」
幼馴染ペアの亮介がカメラに向かってそう言葉を口にしたー。
”ーーー構わない。部屋のトイレを使え”
男=甚五がスピーカー越しにそう答えると、
亮介は「どうも」と、言いながら、本を読んでいる葵に向かって
「俺、ちょっとトイレ」と、そう言葉を口にするー
「は~い!っていうか、わたしたち、同棲してるみたいじゃない?」
葵が本を手にしたまま少しだけ笑うと、
亮介は「オェッ!葵と同棲とか考えられないー」と笑うー。
「ーあはは、夫婦的なのは無理だけど、
友達とシェアハウス~みたいな感じならいけるんじゃない?」
葵がそう言うと、亮介は「確かに!」と、頷くー
お互いに相手を異性としては見れないが、
幼馴染としては信頼しているー。
「ーーそれは、姉弟とかー!」
葵がそう言うと、
亮介は「俺が兄で、葵が妹か~」と笑うー。
「違う違う、逆逆ー。わたしが姉で、亮介が弟ー」
葵のそんな言葉に、「え~!俺が兄だよ!」と笑いながら
トイレの方に向かって行くー。
二人は全く緊張感なく、”助けが来る”のをひたすら待っていた。
それが正しいのか、間違っているのか、
答えはまだ、分からないー。
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「ー野々花!少し下がってて」
野々花の彼氏・達也がそう叫ぶと、
部屋にあったイスを扉に叩きつけたー。
達也・野々花のカップルが幽閉されている部屋では、
引き続き、”他の脱出方法”を二人が探していたー。
扉の破壊を試みる二人ー。
だが、やはりと言うべきかー、
そう簡単に扉を破壊することはできなかったー。
「ーーやっぱ、そんなに簡単にはいかないねー」
戸惑った様子の野々花ー。
「ーーくそっ」
達也はそれだけ呟くと、扉のほうを見つめるー。
普通の家にもある感じの扉だー。
大きな施設にあるような頑丈な感じの扉ではないー。
やはり、破壊できるかもしれないー。
「野々花はちょっと休んでてー。
扉は俺がー」
達也がそう言うと、野々花は「ごめんね」と、少し息を吐き出しながら呟くー。
散々、扉にタックルして少し疲れてしまったようだー。
野々花が扉以外の場所を見渡す中、
達也はなんとか扉の破壊を試みるー。
そしてーー
執念深い”扉”への攻撃がついにー…
身を結んだー
「ーーうわっ!?!?」
扉が急に外れて、達也は扉と一緒に部屋の外に、身体ごと転倒してしまうー。
「ーーあ…!と、扉が!」
他の場所を調べていた野々花がそう言うと、
達也は腰を傷めながらも「野々花ー…これで出られる!」と、
嬉しそうに笑顔を向けたー
「ーー…よ、よかった…!本当によかった!」
達也・野々花ペアはそのまま施設の外に向かって走り出すー。
”おめでとうー君たちで4組目だー”
男=甚五の声が響き渡る中、
達也と野々花は、執念深い扉への攻撃で、無事に脱出を果たしたのだったー。
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「ーさて、あとはあの暮らしてる幼馴染二人かー…
あの二人は、当分脱出しそうにないなー」
甚五はそう思いながらモニターで葵・亮介ペアを見つめるー。
流石に、このままずっと見ているつもりはないー。
各部屋を監視するために使っている部屋を出て、
甚五は廊下を歩きだすー。
「すまないが、少しだけ”揺さぶらせて”貰うよー」
そう思いながら、亮介と葵がいる部屋の方に向かうー。
既に、他の4つの部屋の扉は開いているー。
仲良しカップルがいた部屋ー
奥手な二人がいた部屋ー
速効で身体を持ち逃げした壮一がいた部屋ー
そしてー
「ーー…死体の始末は後でしておかないとなー」
愛佳に殺された芳樹の遺体のある部屋ー。
芳樹の遺体を確認して、甚五は亮介たちの部屋に向かおうと、
再びその部屋から出るー。
「ーー!?」
ふと、甚五はイヤな感覚を覚えたー。
「ーーー!?!?!?!?」
すぐに振り返るとー、そこにはー
さっき、同じ部屋にいた芳樹を殺してこの施設から脱出したはずの
愛佳の姿があったー。
「ーーー君はー」
甚五がそう言いかけると同時に、愛佳は持っていたナイフで
甚五の首筋を斬りつけたー
「がっー…」
血を流しながら床に蹲る甚五ー。
「ーーあんたのせいだー…!あんたのせいでわたしは!
あはっ!あははははははっ!」
愛佳は、狂ったように笑いながら倒れ込んだ甚五に
ナイフを何度も突き立てるー。
甚五は意識が遠のいていくのを感じながら思ったー。
”ーーあぁ、この女ー…
ナイフを買いに一度ここから出てー…
俺を殺すために戻って来たのかー”
そう思いながら、甚五は自虐的に笑みを浮かべながら
そのまま絶命するー。
甚五を始末した愛佳は笑みを浮かべながら、
既に脱出済みの4部屋それぞれの入口を見つめながら、
そのうちの一室ー…
仲良しカップルの野々花と達也がいた部屋に入ったー。
そこには”二人が使わなかった憑依薬”がそのまま置かれているー。
それを見た愛佳はニヤァ…と笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーこのまま助け来なかったらどうする~?」
残る一室ー…
幼馴染の葵と亮介は未だ、のんきに助けが来るのを待っていたー。
葵がそんな言葉を口にすると、
亮介は「ここで暮らしちゃうか」などと笑うー。
「ーあははーそれもいいかもね」
葵がそんなことを言いながら、再び本に目を通そうとしたその時ー
ガチャっ
と、扉の音がしたー。
そしてーー
扉が開くー
「おっ ホラ!助けが来た!俺の言った通りだっただろ?」
亮介がそう言いながら、部屋に入って来た人物の姿を見て驚くー。
入っていた女ー…愛佳は血まみれのままー。
「ーーえ… せ、先輩ー?」
葵が表情を歪めるー。
同じ学校の文化祭で連れて来られた生徒同士ー。
しかし、クラスや学年はバラバラで、
葵たちからすれば、”愛佳”は1学年上の先輩にあたり、
葵の方に辛うじて面識があったものの、
ほとんど接点はない状態だったー。
「ーーー先輩?」
亮介が葵に確認すると、葵は「ホラ、美化委員会のー」と、
それだけ言葉を口にしたー。
「ーー…そ、その血はどうしたんですかー?
と、とにかく助けに来てくれてよかー
そこまで言いかけた亮介は、突然言葉を止めたー。
”うっ”といううめき声と共にー
「ーーき…きゃああああああああああああ!!!」
幼馴染の葵が悲鳴を上げるー。
愛佳が、持っていたナイフを亮介の首筋に突き立てたのだー。
その場に倒れ込む亮介ー。
「ーあははははは…ここの施設の男のせいで、
わたし、人殺しになっちゃったー
でもねー」
愛佳はそう言うと、野々花・達也ペアの部屋に残っていた
憑依薬を手に笑ったー。
大人しい正雄・由梨ペアの部屋の憑依薬は脱出のため使用済みー、
芳樹と愛佳の部屋の憑依薬は争った際に容器が破損して消失、
壮一と愛梨の部屋の憑依薬は壮一が愛梨に憑依して使用済みー。
葵・亮介以外の部屋で唯一未使用で残っていた
野々花・達也ペアの部屋の憑依薬を見つけてー、
愛佳は思ったのだー。
”他の子の身体を奪えば、人殺しにはならないー”
とー。
まずは邪魔者である亮介を”自分の身体”で始末しー、
そしてーーー
「ーー葵ちゃん、だったっけー?
その身体、貰うねー?」
愛佳はそう呟くと、笑みを浮かべながら、憑依薬を飲み干しー、
悲鳴を上げる葵に憑依したー
「ーふっ…ふふふ…あははははははははっ!」
憑依される直前に涙を流していた葵は、
涙目のまま笑うと、
幼馴染の亮介の遺体を邪魔そうに足で蹴りつけて、
そのまま部屋の外にー…施設の外に向かって歩き出したーー…
脱出した者と、脱出できなかった者ー。
他人の身体を奪った者ー、平穏に脱出できた者ー。
その”明暗”は大きく分かれたのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・
車田 達也
脱出成功
岸川 野々花
脱出成功
柏木 正雄
脱出成功
月野 由梨
脱出成功
諏訪部 芳樹
死亡 ※愛佳に刺殺された
吉井 愛佳
脱出成功 ※葵の身体を奪って脱出
下村 壮一
脱出成功 ※愛梨の身体を奪って脱出
田本 愛梨
身体を奪われる ※身体は脱出
増田 亮介
死亡 ※愛佳に刺殺された
新藤 葵
身体を奪われる ※身体は脱出
「ーーーーーー」
施設の管理人であった甚五が死んだにも関わらず
”何者か”からデータを受け取った男は、
そのデータを見つめながら静かに笑みを浮かべたー…。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
無事に脱出できた人もいれば、
そうでない人も…☆
平和に脱出できたのは、
カップルペアと奥手なペアの2組ですネ~!
お読み下さりありがとうございました~!☆
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