妹のストーカー男と入れ替わってしまった姉ー。
半年ぶりに”お互いの元自分”と再会する二人。
その先に待っている、入れ替わった二人と、
姉妹の運命はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーあ、お姉ちゃんー」
萌美が、絵梨香(和馬)に気付いてそんな言葉を口にすると、
絵梨香(和馬)は
「ーどうしたの?悩み事?」と、心配そうに微笑むー。
「あ、ううんー…大丈夫ー。
ほら、色々考えることもある年頃だからー」
萌美が笑いながら言うと、
絵梨香(和馬)は「そっか」と、言葉を口にしながら、
それ以上は聞かずに、立ち去ろうとするー。
「ーーあの、お姉ちゃんー」
萌美が、不安そうに絵梨香(和馬)を呼び止めるー。
「ーーわたし、”嫌な妹”かなー?」
萌美が寂しそうに言うー。
”入れ替わってから”ー
いいや、あの日、萌美が”中身がストーカーのお姉ちゃん”と
生きて行くことを決めてから、
萌美は、ふとした拍子に、落ち込むことがあるー。
最初はー
”落ち込んだ萌美ちゃんも可愛いなぁ”などと思っていた
絵梨香(和馬)
今も、そうは思うー。
でも、それ以上に”可哀想” ”なんとかしてあげたい”という気持ちが
上回るようになったー。
これもまた、自分が”お姉ちゃん”になった証なのだろうー。
「ーー…ううんー…そんなことないよ。
萌美は、わたしの可愛い可愛い妹ー」
絵梨香(和馬)がそう言い放つー。
どんなにお姉ちゃんっぽくなっても、
”溺愛している”ことには変わりはないー。
ストーカー化するほど、和馬は萌美に執着していたのだからー…。
それが、消えることはないー。
「ーーーーーー…うんー…そっかー
ありがとうー」
萌美はそれだけ言うと、悲しそうに頷いたー。
今でも、
萌美は悩んでいるー
”お姉ちゃん”は、今、わたしのことをどう思っているんだろうー?
とー。
あれから半年ー、
”ストーカー男”であった和馬と入れ替わった姉・絵梨香は
一度も萌美の前に姿を現してはいないー。
やっぱりー、
怒っているのだろうかー。悲しんでいるのだろうかー。
「ーーーーー…」
そんな不安を抱いた時、萌美は必ず”絵梨香(和馬)”に確認するー。
今のお姉ちゃんに聞いても、
”本当のお姉ちゃん”の答えなんて、返って来るはずがないのにー
「ーーー…あ、そうだ」
思い出したかのように、絵梨香(和馬)はふと言葉を口にするー。
”「ーーー…お願いしますー…お願いしますー…
萌美のためにも、どうかー、今はーこのまま立ち去って欲しいー」
「ーじゃあ、お願い、聞いてもらえるー…?」”
先日、”元自分”と再会した時の会話を思い出すー。
「ーー今度の休みの日だけど、一緒に遊びに行かないー?」
そんな言葉を口にする絵梨香(和馬)ー
「ーーえ、あ、うんーいいよ!どこに行くの?」
萌美がその話に乗っかって来るー…。
「ーーーー」
絵梨香(和馬)は、萌美を騙すような気持ちになって
少し心が痛むー。
けれどー、それが”萌美”のためだからー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
土曜日ー。
絵梨香(和馬)と、萌美は、近場の公園にやって来ていたー。
”公園”と言っても、子供が遊ぶだけの小さな公園ではなく、
それなりに大きな公園で、ピクニックやキャンプなど、
色々な用途で使われる、規模の大きな公園だー。
「ーーー」
自然と”女子”としてのおしゃれにもすっかり慣れて来た
絵梨香(和馬)ー
半年ちょっと前まで、自分は”萌美ちゃんLOVE”と書かれた
タンクトップを着て、
カエルが描かれたピンク色のスマホケースを使っているような男だったとは、
自分でももはや信じられないー。
「ーーーぁ」
絵梨香(和馬)は、上空から落ちて来た水滴に気付くー。
「ーーー雨…」
萌美がそう呟くと、
絵梨香(和馬)は”あの日も、雨が降ってたねー”と、
心の中で思いだすー。
”萌美”が、”今”を選択したあの日も、
そう、雨が降っていたー。
雨の音が大きくなるにつれてー、
降り注ぐ雨粒の数が増えて行くー。
「ーとりあえず、屋内に移動しよ!お姉ちゃんー!」
公園内の屋内施設に移動を促す萌美ー。
だが、その時だったー
「ーーー…!」
萌美の表情から笑顔が消えるー。
姿を現したのはー、
カエル柄のスマホケースを手に、
あまり似合っていないチェック柄のシャツを着た和馬(絵梨香)の姿ー
「ーーーー……」
萌美は表情を歪めるー。
”中身はお姉ちゃん”だと分かっているー。
だからこそ、ずっと罪悪感を感じて来たー。
この半年、”一度も”ストーカー男になったお姉ちゃんは
目の前には姿を現していなかったー。
だから、”辛うじて”心の平静を保ってここまでやってくることが
出来ていたけれどー…
今になっての再会に、萌美は激しく動揺するー。
”ーー萌美ー”
絵梨香(和馬)は、心配そうに、萌美のほうを見つめるー。
萌美の身体が小刻みに震えているのが分かるー。
”中身が誰であろうとー”
萌美にとって、この”ストーカー男”は見るだけで身体が震えるほどの
トラウマー。
けれど、中身はお姉ちゃんー。
萌美はようやく、震える身体で口を開こうとしたー。
がー
「ーえへへへへ…萌美ちゃん…久しぶりぃ…」
和馬(絵梨香)が、そう言い放ったー。
「ーーー!!」
萌美は言おうとしていた口を閉ざすー。
「ーー…い、い、今更何のつもり!?」
絵梨香(和馬)が言うと、
和馬(絵梨香)はニヤニヤしながら、
「僕は、萌美ちゃんのこと、一度も忘れたことなかったよぉ」
と、叫ぶー。
その様子に、萌美はたまらず声を発したー。
「ーーあ、あのーーー……お姉ちゃんー?」と、
小声でーー。
「ーーーん~~~?何言ってるんだ萌美ちゃんー
僕は、僕だよー
あの時の作戦は失敗したからさぁ、
正攻法に出たんだよー えへへー」
和馬(絵梨香)がニヤニヤしながら言うー。
「ーーーお姉ちゃんなんか、より、僕の方がー
ずっと、ずぅっとー、萌美ちゃんのことを愛してるー」
和馬(絵梨香)のそんな言葉に、
萌美は咄嗟に後ずさりしていくー
「ーーちょ、ちょっと!萌美に手を出さないでー」
絵梨香(和馬)が止めに入ると、
和馬(絵梨香)はニヤニヤしながら絵梨香(和馬)のほうを見つめるー。
”ーーーーー”
絵梨香(和馬)は、”和馬(絵梨香)の手が小刻みに震えている”ことに気付くー。
「ーーーー…萌美に、手出しはさせないー
萌美は、わたしが絶対に守るー」
絵梨香(和馬)が、そう言い放つと、和馬(絵梨香)は
悔しそうに絵梨香(和馬)のほうを睨みつけたー。
「ーーー…」
萌美は、怯えた表情を浮かべながら二人を見つめるー。
”もうーーー…忘れちゃったのー…?”
萌美は、そんな風に思うー。
”今のお姉ちゃん”は、もう、完全に”お姉ちゃん”と言ってもいいー。
だんだんと”様子の変なお姉ちゃん”から、
”いつものお姉ちゃん”になっていく様子を、この半年間、
一番側で見ているー。
でも、だとすればー
”ストーカー男になったお姉ちゃん”にも同じことが起きているはずー。
萌美は、複雑そうな表情で、
和馬(絵梨香)の方を見つめたー。
ずっとずっと、”本当のお姉ちゃん”は傷ついていて、悲しんでいて、
怒っていてー…
そんな風に、この半年間思い続けて、罪悪感を感じていたー。
もちろん、その罪悪感はこの先も永遠に消えないー。
でもー…
「ーーお姉ちゃん!!!」
萌美は、あえて叫んだー。
絵梨香(和馬)が、その言葉に振り返るとー
「大丈夫だから、心配しないで!」と、そう叫んだー。
けれどー、
和馬(絵梨香)は、もう一切の反応を示さなかったー
「ーーこれ以上つき纏ったら警察を呼びますー」
絵梨香(和馬)がそう言うと、
和馬(絵梨香)は「チッー分かったよー」と言いながら、
萌美と絵梨香(和馬)を見つめるー。
「ーこんなに萌美ちゃんのこと愛してくれてるのに、
振り返ってくれないなんて、もう、僕も時間の無駄だー!
やっぱ、三次元なんかより二次元の方がいいって気付けたよ!
リアルの女なんて、糞だ!」
和馬(絵梨香)は、吐き捨てるようにして近付くー。
「ーーー…それはー…もう、わたしたちにつき纏わないってことー?」
絵梨香(和馬)がそう言うと、
和馬(絵梨香)は「あぁそうだよ!誰がお前たちなんかと!」と叫ぶー。
そしてー…、
和馬(絵梨香)は、
絵梨香(和馬)に近付くとー
「~~~~~~~~~~~~~~~…」
何かを耳打ちして、
最後に萌美の方をチラっと見つめて、
そのまま立ち去って行ったー。
「ーーー萌美ー…大丈夫だったー?」
そんな言葉を掛けて来る絵梨香(和馬)に対して、
萌美は「う、うんー」と、頷くー。
そして、少し寂しそうに”和馬(絵梨香)”の後ろ姿を見つめたー。
「ーー(ーーーごめんなさいー)」
もうー、”お姉ちゃん”は、”お姉ちゃん”じゃなくなってしまったー。
そしてー、
”今”のお姉ちゃんが、完全にお姉ちゃんになったー。
それを、改めて実感させられたー。
寂しそうな表情を浮かべる萌美ー。
”お姉ちゃんー…ごめんなさいー”
心の中で今一度、そう呟くと、萌美は
絵梨香(和馬)のほうを振り返ってー、
「ーもう、大丈夫ー」と、そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
”このままじゃ、みんな前に進めないー”
和馬(絵梨香)は、一人歩きながら
そんなことを考えていたー。
この半年間、”萌美”のことを見守り続けて来た
和馬(絵梨香)は、
”わたしになったストーカー男”の様子がどんどん変わっていくのをー、
そして、自分自身もどんどん変わっていくのを、身をもって体感したー。
”今の”わたし”なら、萌美のことを託すことができるー”
そう、感じたー。
その一方で、”このまま”萌美の側にいれば、
いつか自分で自分にブレーキをかけることができなくなってしまうかもしれないー。
そんな風にも思い始めていたー。
自分は絵梨香ー。
それは分かってはいるけれどー、
どんどん、どんどん、ストーカー男の身体に、自分自身も
冒されているような、そんな気がするー。
そしてー、
もうひとつ。
この半年間ー、萌美はふと、寂しそうな表情を浮かべることがあったー。
”きっと”、わたしのことを想って、まだ罪悪感を感じているのだと、
そう思ったー。
このままじゃ、萌美はずっと”本当のお姉ちゃん”のことを気にし続けて
生きることになってしまうー。
わたし自身も、いつまでも”ストーカーお姉ちゃん”から、前に進めない
生活を続けることになってしまうー。
だからーーー
”ーじゃあ、お願い、聞いてもらえるー…?”
先日ー、
半年ぶりに”元自分”の前に姿を現した和馬(絵梨香)は、
絵梨香(和馬)に対して提案したー
”お互い、入れ替わった相手に”なってしまった”ことにするー”
という提案をー。
そして、今日、この場所で
”打ち合わせ通り”にお互い、演技をしたー。
萌美に、”二人はもう、元の自分のことを完全に忘れている”と、
思わせるためにー。
”いつまでも、ストーカー男の身体のお姉ちゃん”がいる状態ではー、
萌美は永遠に罪悪感に苦しみ、悩み続けれるー。
けれど、”もう”ストーカー男になったお姉ちゃんは、
”ストーカー男そのもの”になってしまったと見せ付けー、
”もう、本当のお姉ちゃんはいない”という状況にすればー、
そうすれば、萌美はきっと、前に進めると信じてー。
・・・・・・・
それから1か月後ー。
「ーーーお姉ちゃん ただいま~!」
いつも通り帰宅する萌美ー。
絵梨香(和馬)は「あ、おかえり~!」と
笑顔で萌美を出迎えると、
”やっぱり今日も萌美は可愛いなぁ…”と、心の中で呟いたー。
最近はーー
心の中でも、萌美のことを”萌美ちゃん”とは思わなくなったー
”もう、僕は完全にお姉ちゃんなんだなー”
そんな風に思いながら、絵梨香(和馬)は、手を洗っている萌美の
ほうを見つめるー。
萌美は、あれから、だんだんと吹っ切れたような、
そんな雰囲気を見せているー。
”ストーカー男の中身はお姉ちゃん”という状態が、
ずっとずっと引っかかっていたのかもしれないー。
けれど、あの日の演技で、”二人とも身体に染まってしまった”と
見せ付けたことで、吹っ切れて前向きになったのだと思うー。
もちろん、萌美にはまだ、罪悪感や思うところはあるとは思うー。
それでも、前より”時々悩むような”そんな雰囲気はなくなったー。
そしてー
”萌美のこと、託すからー。絶対に泣かせちゃダメよ”
と、あの日、最後に和馬(絵梨香)からそう耳打ちされたことを思い出すー。
”もう、あんたが新しいお姉ちゃんなんだからー責任取ってもらうからー”
そう、言われたー。
「ーーー」
絵梨香(和馬)は、
”ストーカーだったわたしが、お姉ちゃんだなんてー”と、
心の中で笑いながら、
ふと、苦笑いするー。
”ーーーあははー…心の中でまで”わたし”とか言っちゃったー”
「ーーまぁ…でも、任せておいてー」
絵梨香(和馬)は一人そう呟くと、
「ーあ、そうだ、萌美~!昨日のアレだけどー」と、
いつものように、嬉しそうに雑談をし始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”わたしは、あんたの身体で
滅茶苦茶イケメンになって、
あんたが自分の身体を捨てたことを後悔するぐらいー、
幸せになってみせるからー”
和馬(絵梨香)は、
最後に、絵梨香(和馬)に言い放った言葉を思い出しながらー、
家の掃除を完全に終えて、食生活の見直しもして、
服も全部買い替えてー、
見違えるような状態で、過ごしていたー。
もう、お姉ちゃんには戻れないー。
でも、わたしはストーカーになんて、ならないー。
”ーーいつかー、”生まれ変わった僕”を見せてあげるからー
覚悟しておきなさい”
和馬(絵梨香)は心の中でそう呟きながらー
鏡に映る”別人のようになった”自分の姿を見て、
少しだけ寂しそうに、けれども前向きに微笑んだー
いつかー
”大人になったわたし”に会いに行こうー。
そう、思いながらー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
「ストーカーはお姉ちゃん」の後日談でした~!★
元々の作品が上手く書けた(気がする)作品なので、
私の頭の中にあった、朧げなその後をしっかりと形にしつつ、
ドキドキで後日談を仕上げました~★!
少しでも皆様に楽しんでいただける作品になっていれば嬉しいデス!
お読み下さりありがとうございました~!!
コメント
こんな風に綺麗なハッピーエンドになるのはなかなか意外でした。
もし和馬(絵梨香)が言ってるみたいにイケメンになったら、元妹の萌美と恋人として結ばれるなんて、未来もあり得るかもしれませんね。
コメントありがとうございます~!☆☆
ズブズブのぐちゃぐちゃエンドも候補にあったのですが、
元々リクエスト(※当時、受付をしていましたが今は受付停止しています)を頂いた方が、
バッドエンドよりもある程度明るいエンドの方が好きだった気がしたので、
こっちの案にしてみました~!
もっと先の話もまたいつか書けたりするかも…しれませんネ~!
ダークな落ちになるのかな……と思ったら、2人とも前を向いて進んでいけるすごい綺麗な話に纏まっていて驚きました!
元々の話がかなりダークな味わいだから続きはどうなるかなと思っていたけど、良い意味で予想を裏切る面白い結末。
凄い良かったです。
ありがとうございます~~!☆
ダークエンドとハッピーエンド、2つのルートを考えて
こっちの方がいい感じのような気がしたので
こちらにしました~!☆!
(ハッピーの方が好きだとTwitterで聞いた気もしますし笑)
楽しんでいただけて良かったデス~!