<憑依>ひとりにならないと出られない部屋①~幽閉~

謎の部屋に二人一組で閉じ込められてしまった複数の男女…

その部屋は”一人じゃないと出られない部屋”だったー…

そして、その部屋の中には憑依薬ー。

何をするべきかは明白だったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー」
イスに座った男が、ワイングラスを手に、
5つの部屋の映像をそれぞれ見つめているー。

”5つの部屋”には、それぞれ男女が一人ずつー…
各部屋に2名、合計10名の人間がいるー。

男は、そんな5つの部屋の様子をモニターで見つめながら
再び、ワインを口に運ぶー。

車田 達也(くるまだ たつや)
岸川 野々花(きしかわ ののか)
そう表示されたモニターを見つめるー。
二人は、”どうにかして、二人で脱出する方法を探そう”と
冷静に言葉を口にしながら、部屋の中を見回しているー。

柏木 正雄(かしわぎ まさお)
月野 由梨(つきの ゆり)ー
その二人がいる部屋のモニターを続けて見つめる男。
二人はー、”柏木くんがわたしに憑依してー…”
”えぇ…月野さんが僕に憑依していいよー”と、
何やら”譲り合い”をしているー。

諏訪部 芳樹(すわべ よしき)
吉井 愛佳(よしい まなか)
この二人の部屋では、二人が口論して争っているー。
どうやら、どちらも”譲る”気はないようだー。

下村 壮一(しもむら そういち)
田本 愛梨(たもと あいり)ー
そんな名前が表示されているモニターに映し出されている部屋には
既に、”誰も”いないー。

増田 亮介(ますだ りょうすけ)
新藤 葵(しんどう あおい)と、表示されている部屋では、
二人で「オェッ!」と、何やら嫌悪するような表情を浮かべているー。

そんなー、”5つの部屋”の映像を見つめながら
男はワイングラスを横にあるテーブルにおくと、
「ーその部屋からは”一人”にならないと出れないー」と、笑みを浮かべるー。

そうー…
10人…いや、”残り8人”は、この謎の男によって”閉じ込められて”いたー。

”一人にならないと出られない”
そんな、部屋にー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数時間前ー。

とある学校ー
その学校では今日は”文化祭”が行われていたー。

賑わいを見せる中、
学校の正門付近に”相性診断”などと書かれた車が停車したー。

”男女の相性を占います”
そう書かれている車ー。
大きさは、小型のバスぐらいの大きさだろうか。

普段なら、怪しいと思う生徒がほとんどだろうー。
しかし、今日は文化祭ということもあって、
”どこかのクラスの出し物”だと誤解されて、
あまり、”怪しい”と、誰も感じていなかったー。

「ーお?なんだあれ…?」
そんな”相性診断”と書かれた車に気付く、男子生徒の車田 達也ー。

達也の彼女である岸川 野々花も、
「面白そうー。並んでないみたいだし、やってみる?」と、
そんな言葉を口にしながら微笑むー。

そうして、車に乗り込んでいく二人ー。

しかしーーー…
二人が、車の中から出て来ることはなかったー。

そしてー…
一組、また一組と、”相性診断”だと騙されて車の中に入った男女は、
謎のガスによって眠らされてー、
そのままどこかへと連れ去られてしまったー。

合計”10人”ー。
5組の男女が、謎の男によって連れ去られたのだー。

「ーーーう…」
目を覚ます10人ー。
目を覚ました時には、10人は、
”一緒に相性診断を受けようとした相手”と共に
それぞれ二人一組で、別々の部屋に閉じ込められていたー。

「おいおい…何だよこれ!」
諏訪部 芳樹がそう叫ぶと、芳樹と一緒に幽閉された愛佳が不満そうに
「あんたのせいでしょ!」と、そう叫んでいるー。

出口と思われる扉は固く閉ざされていて、
他に窓もないー。
そして、机の上には謎の緑色の液体が入った容器ー。

「ーーくそっ…おい!俺たちをこんなところに閉じ込めてどうするつもりだ!」
芳樹がそう叫ぶー。

自分たちを連れて来たであろう人物に、この声が届いていれば
何か反応があるかもしれないー。
そう思っての叫び声ー。

他の部屋からも、それぞれ戸惑う男女の声が投げかけられたタイミングで、
ようやく”男”は口を開いたー

”ようこそー”
各部屋に設置されたスピーカーから声を発する男ー

”突然のことでびっくりしているだろう?
 だが、気を悪くしないでほしいー。
 別に、私は君たちに危害を加えるつもりはないのだ”

男の言葉に、幼馴染の葵と共に閉じ込められている
亮介が「だったら早くここから出せ!」と、叫ぶー。

その言葉に、男は反応するー。

”ーー”条件”を満たせば、君たちはすぐにその部屋から
 出て、そのままお帰りいただくことができるー”

とー。

「ー条件?」
亮介の横にいた葵がそう反応すると、
”君たちがいる部屋は、”一人にならないと出られない”部屋ー。
 その部屋に、それぞれ二人ずつを、閉じ込めている状態だー。”
と、男は説明を続けたー

”部屋の中にいるのが一人になれば、自動的に扉の鍵が外れて、
 そこから外に出ることができるー”

そんな言葉に、
女子生徒・愛梨と共に閉じ込められている壮一は
「まさか、殺し合いでもさせるつもり…なのか?」と、
戸惑いの言葉を口にするー。

”ははは、そんなことはさせないさー”
男はそう言うと、
”君たちのいる部屋の机の上を見たまえ”
と、言葉を続けるー。

各部屋の机の上には、謎の緑色の液体が入った容器が
置かれているー。

それを見た達也は困惑しながら
「これは何なんだ?」と、そう尋ねると、男は答えたー

”憑依薬ー。
 飲んだ人間を霊体にし、他人への憑依を可能にする薬だ”

とー。

「ひ、憑依薬…?」
驚きの表情を浮かべる大人しそうな男子生徒・正雄。

”そう。他人に憑依し、身体を乗っ取ることが出来る薬だ”
男はそれだけ呟くー。

すると、10人のうちの一人、芳樹は言ったー。

「ーーそうかー。
 これで、相手に憑依すれば、身体が一つになり、
 扉が開くー…

 一人にならないと出られない部屋ー…っていうか、
 つまり、”憑依しないと出られない部屋”ってことかー」

芳樹の言葉に、
”ご名答”と、男は答えると、
”その通りー…君たちは相方に憑依すればその部屋を出ることができるー。
 なに、建物の出口に”憑依を解除するための”薬も置いてあるから、
 それを飲めば元に戻れる”と、そんな言葉を口にしたー。

”一人にならないと出られない部屋”に
2人一組で閉じ込められた10人ー。
その部屋の中には、憑依薬ー。

つまり、どちらか片方が相手に憑依して、”一人”になることで、
部屋の扉は開き、脱出することができるのだー。

「ーーへぇ…そっか」
10人のうちの一人、下村 壮一はあっさりとした反応を示すと、
有無を言わさず、憑依薬を飲むー

「え…ち、ちょっと…待って!?」
壮一と同じ部屋にいる田本 愛梨は声を上げるー。

がー、
すぐに壮一に憑依されてしまい、愛梨はビクッと身体を震わせて、
笑みを浮かべながら胸を揉み始めたー。

「えへへへへへへ…♡ やっべぇ…すっげぇ…!」
”下心丸出し”などと言われてしまっている男子生徒・壮一は、
憑依の話を聞いて、何の躊躇もなく”幼馴染”の愛梨を乗っ取ると、
そのまま胸を揉み始めたー

”ほぅー。決断が早いな
 まだチュートリアルの段階だったんだがなー”

様子をカメラ越しに見ていた男はそう言うと、
”これで、部屋の扉は開いたー。君は自由だー”
と、そう言葉を口にしたー。

続けて、施設の出口に”憑依を解除する薬がある”と、
そう呟くと、愛梨に憑依した壮一は「へへーそれじゃお先に~」と、
嬉しそうに部屋の外へと歩き出したー。

「ーーーー」
施設の出入り口の付近に、男の言う通り
”憑依した霊体を離脱させて元に戻す薬”が、置かれていたー。

がーー

「ーー飲むわけないだろ?これで今日から俺がー
 いいえ…… ふふ… わたしが愛梨よ♡」と、
笑みを浮かべると、壮一は愛梨の身体を持ち逃げして、
そのまま外へと歩き出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そしてー、現在に至るー。

ワイングラスを手にした男は、
5組の男女のうち、まだ脱出できていない4組の男女が
それぞれいる部屋の映像を見つめるー。

「ーークク…さっきの下村とかいう男ぐらいに、
 開き直って速攻で決断できるようなやつばかりならー
 悩む必要も、争う必要もないだろうにー」

男はそう言いながら、再びワインを口に運ぶー。

壮一が、愛梨に憑依してそのまま脱出したため、
残りは4組の男女ー…8人だ。

4組の男女は、未だに脱出することができていないー。

「人間とは面白いものだなー。
 脱出する方法は”どちらかが相手に憑依して一人になる”しか
 ないと言うのにー
 そこに希望を見出すものもいれば、どちらが憑依するか口論する者もー、
 逆に譲り合う者もいるー。

 …君たちがどうなるのか、じっくりと見させてもらうよー」

そう呟くと、男は再び4組の男女がそれぞれ映し出されている
モニターのほうを注視し始めるー。

達也と野々花は、
一生懸命、部屋の中を探索し続けていたー。
”仲良しカップル”として学校でも有名な二人は、
あくまでも”憑依”以外の道を探しているー。

「ーーその扉以外に出られる場所があればいいけどー」
野々花がそう言うと、達也は「きっと何か方法があるはずー」と、
そう言葉を返すー。

しかしー、”他の方法”など存在しないー。
一通り部屋の中を見回して、達也はため息をつくと、
「野々花ー…」と、そんな言葉を口にして、
机の上の憑依薬を見つめたー。

「ーーー……俺に憑依すれば、多分外に出れるー」
達也は、野々花を自分に憑依させようと考えるー。
”憑依される側”は不安だろう、と配慮してのことだー

その言葉に、野々花は不安そうな表情を浮かべながら、
静かに言葉を口にするー…。

「それは、ダメだよー…」
とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

正雄と由梨の二人は、
”譲り合い”を続けて居たー

生徒会のメンバー同士で、お互い、相手のことは
意識しているけれど、二人とも奥手なため、
まだ付き合うところまでは進展していない二人ー。

その二人は「柏木くんがわたしにー」
「月野さんが僕にー」と、譲り合いを続けていたー。

お互いに、相手のことを優先し続ける二人ー

「そ、そんなに遠慮しなくてもいいんだよー?」
「か、柏木くんこそー…」

過剰な譲り合いが続き、二人の結論は出ないままだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

芳樹と愛佳ー
二人は昔から憎まれ口を叩き合う、犬猿の仲とも言える間柄で、
何かあるといつも口喧嘩をしているー。

今もそうだー。

「あんたが、わたしに憑依するなんてありえないー!」

「うるせー!俺が憑依した方が、確実だろうが!」
芳樹がそう言うと、愛佳が「どうせわたしの身体で変なことするつもりでしょ!」と、
声を上げるー。

しかし、芳樹も負けじと
「お前だって、信用ねぇよ!俺の身体で何をするか分かったもんじゃない!」と、
そんな言葉を口にするー。

にらみ合う二人ー。

やがて、芳樹は愛佳を無視して、憑依薬を勝手に飲もうとし始めるー。

がー、それに気づいた愛佳が憑依薬の容器を取り上げて、
それを床に叩きつけてしまうー

「あっ…!」
芳樹が真っ青になるー。

憑依薬の容器が割れて、床に全部こぼれてしまったのだー。

「お…おい!これじゃ、脱出できねぇよ…!どうするんだよ!!!」
芳樹は怒りの形相でそう叫ぶと、愛佳は「あんたのせいでしょ!」と、反論したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

亮介と葵は幼馴染ー。

互いに、相手に憑依することを考えてはオェッ!などと
声を上げているー。

二人は芳樹たちとは違い、仲が悪いわけではなく、
小さい頃からずっと一緒の幼馴染ー。

常にずっと一緒にいたからか、兄妹、あるいは姉弟のような間柄で
相手に憑依するとか、そういうことは想像できないのだー。

「ーー…わ、わたしが亮介に憑依するなんて、
 ちょっとーなんか…オェッ!」

葵がそう言うと、
亮介も「お、俺もなんか気意味悪いー」と、声を上げるー。

そして、カメラに向かって亮介が語り掛けるー

”ちょ、ちょっと俺たちー…憑依とか無理なんで、
 どうにかなりませんかね?”

とー。

その言葉がモニターから聞こえて来て、男は思わず失笑すると、
その言葉を無視して、それぞれのモニターを見つめるー。

「ーークク…まだまだ君たちは脱出できないようだなー…」

男はそう呟くと、
”まぁーだがー…”と、笑みを浮かべるー。

「ーー”時間”は人間を狂わせていくー。
 部屋に閉じ込められている時間が長くなれば長くなるほど、
 君たちの心境にも変化が現れるだろうー。」

そう言葉を口にしながら、男は静かに笑みを浮かべたー

②へ続く

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”憑依しないと出ることができない”
そんな部屋に閉じ込められてしまった5組の男女の
お話ですネ~!

既に1組はあっさりと脱出してしまいましたケド…笑

続きはまた次回デス~!

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