夜の街で、
豪快にバイクを走らせる女と出会った男ー。
しかし、とてもバイクに乗りそうな見た目には見えない
彼女に、次第に興味を抱いていくー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜の街をバイクで走り抜ける男ー。
特に、行先が決まっているわけではないー。
大学生の彼は、バイクに乗るのが趣味で、
バイトがない日は、こうして夜の街を意味もなく走っているー。
もちろんー、彼は”暴走族”ではないー。
交通ルールはちゃんと守っているし、騒音で近所迷惑、なんてことにも
ならないように注意している。
ただ単に、純粋にバイクに乗るのが好きなだけの
男子大学生だー。
「ーーふぅ」
山道を少し走ったところで、休憩スポットとなっているところに
バイクを停車させると、
バイクに乗るのが趣味な彼ー、森塚 鉄平(もりづか てっぺい)は、
ヘルメットを脱いで、ひと息をついたー。
飲み物を口に運びながら、
夜の景色を見つめるー。
特に何かを考えるわけでもなく、
夜風にあたりながら、
そろそろ出発しようかなー、と
思ったその時だったー。
1台のバイクがやってきて、
その場所に停車するー。
ここは、他のバイク乗りもよく使うスポットだし、
他のライダーと居合せることは、特段珍しいことではないー。
”女の人かー”
鉄平はそんな風に思うー。
特別下心を持ったとか、そういうことではなくー、
単純に少し珍しい感じがしただけだー。
もちろん、女性ライダーもそれなりにはいるがー、
この道は結構マニアックなところだしー、
何よりもー…
ヘルメットを脱いで、髪を揺らすその女のほうを見つめるー。
とても大人しそうな可愛らしい雰囲気の顔立ちだー。
体格も華奢で、バイクに乗りそうな感じには、
あまり見えないー
「ーなに?」
「ーあっ…」
鉄平は、うっかりと目が合ってしまったことに
少し驚きながら
「あ、いえ、すみませんー
ちょっと珍しいなと思ってー…」と、
慌てて目を逸らすー。
「ーーそう」
ライダースーツ姿の女は、
「確かにーわたしみたいな子はあまりこの道は走らないかもね」と、
だけ呟いて、そのまま夜景がよく見える場所まで歩いて、
夜景を見つめるー。
「…一人ですか?」
少し気まずくなって、鉄平がそう聞くと、
女は「そうだけど?」と、返事を返してくるー。
声も、とても優しそうな感じで、
やはりー、何と言うかバイクでこんな山道を爆走するような子には
あまり見えないー。
「ーーーそれが、何か?」
女の言葉に、鉄平は「あぁ、いえいえー、すみませんー」と、
さらに気まずくなって口を閉ざすー。
「ーーーー」
女は、夜景を見つめながら何かを考えている様子だったー。
沈黙ー。
別に、相手は知り合いではないし、
バイク乗り同士仲良くしなくちゃいけないなんて
法律もないから、
”沈黙”状態が続くのも別におかしなことではないー。
しかしー、
いきなり視線を送ってしまった鉄平は少し気まずくなって、
「じゃあ、お先にー」と、そのまま立ち去ろうとすると、女が
鉄平に声をかけたー。
「ーねぇーそのバイクー」
「え?」
その言葉に、鉄平が振り返ると、
女は無言で、髪を揺らしながら近づいて来たー。
少しドキッとしながら鉄平が、その女を見ているとー、
女は、鉄平のバイクを興味深そうに見つめるー。
その表情は”かなりのバイクマニア”とでも言うような
そんな感じだったー。
「ーーーバイク、お好きなんですか?」
鉄平がそう言うと、
女は顔を上げて、
「好きじゃなきゃ、こんな夜に一人で走らないでしょ」と、
そっけなく言われるー。
再び、鉄平には興味がない、という様子で
バイクのほうを見つめると、
何故だか”懐かしそうに”
その女が少しだけ微笑んだー。
「ーーありがとう」
女はそれだけ言うと、そのまま立ち去っていき、
自分のバイクの方に向かうー。
「ーーーそれじゃ」
女はヘルメットを被ると、それだけ言い残して
そのまま走り去っていったー。
「ーーーー」
一人残された鉄平は、
”何だか不思議な人だったなー”と、思いながらため息をつくー。
女性のバイク乗りと話をしたことは
これまでにもあるし、
他のメンバーを交えて一緒に食事をしたこともあるー。
だがー、これまで出会った女性たちとは
何だか違う雰囲気のー、不思議な感じだったー。
「ーーと」
気まずい雰囲気に気圧されて、
早めにここを去ろうとしていたが、
あの人がいなくなったことだしー、
もう少しここにいようー。
そんなことを思いながら、鉄平は
今一度、夜景の方に視線を向けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー」
それから数週間が経過したー。
偶然ー
”あの日”と同じ時間帯に同じ場所でひと息ついているとー、
背後から声がしたー。
「ーーーーーあなた、この前のー?」
背後から声がして、鉄平が振り返ると
「あっ!」と、緊張した様子で「この前はすみませんでした」と、
頭を下げるー。
「ー別に、謝られるようなこと、されてないけど」
ヘルメットで乱れた髪を整えながら、
そう呟く女ー。
邪魔そうに髪を手でどかす仕草をしながら、
「よくここには来るんだ?」と、
女が訪ねて来るー。
「ーーあぁ、はいー
それなりにはー」
鉄平が緊張した様子で言うと、
女はまた、髪を邪魔そうに手でどかすー。
そういえばー
この前もその仕草を何度もしていたー。
”そんなにジャマなら、短くすればいいのにー”と、
鉄平は思ったがー、
男には分からない何かがあるのかもしれないー、と
鉄平は余計なことを口にせずに、
適当に話を合わせるー。
それにしても綺麗な人だー。
何となく”守ってあげたくなるようなか弱い雰囲気”が
あるのに、その一方で
”何でも一人で出来てしまいそうな”そんな強そうな雰囲気もあるー。
何か、アンバランスな印象を受けるー。
「ーーー」
その時だったー
スマホが鳴り、女がスマホに出るー。
少し離れた場所まで女が歩いて行ったためー、
会話の内容はハッキリとは聞こえなかったー。
がー
しばらくすると、突然、女が声を荒げ始めたー。
「ーーーーあ?おいテメェいい加減にしろよー?
そういうことすんじゃねぇって言ってんだろうがー」
少し離れていてもその声が聞こえて来て、
鉄平は思わずビクッとしてしまうー。
可愛い声なのに、男のように荒々しい口調ー。
「ーおいコラ!俺を女だと思って舐めてるとー!」
そんな言葉と共に、相手に電話を切られたのか、
「チッ!」と、明らかに不満そうな態度を取ると、
電話を切って、鉄平の方に戻って来たー。
「ーー…あ」
鉄平が明らかに怯えたような様子を見せていると、
「あ…聞こえた?」と、女が少し気まずそうに言うー。
「ーーー……え、えっと…な、何もー」
鉄平が露骨に下手な嘘をつくと、
女は「ホントに?」と、冷たい目で鉄平を見つめて来るー
「ーーい、いえー、き、聞こえましたー
す、すみませんー」
思わず謝罪の言葉を口にする鉄平ー。
そんな鉄平を見て、女はフッと笑うとー、
「ー弟」
と、言葉を口にするー
「弟がねー、荒れてて
また、悪いことしたって言うから、
いい加減にしろよ、って言ってやったの」
女がそう言うと、鉄平が「あ…あぁ、そうなんですねー」と、
少しだけ安心したような様子を浮かべるー。
口調は怖かったがー、
相手が、何かヤバいやつなのかと思っていた鉄平は
少し安心したのだー。
「ーーーーーまぁ、わたしも、あんま人のこと言えないんだけどさ」
女はそれだけ言うと、自分の手を意味深に見つめながら
そう呟いたー。
「ーーーまぁ、そのー怖がらせてごめんね」
「いえ」
鉄平がそれだけ言うと、女はこの前と同じように
立ち去っていくー。
「ーーあ、あのー」
鉄平がふと、女を呼び止めると、
女は振り返って、少しだけ笑ったー
「ーー愛由美(あゆみ)ー」
とー。
「ーーあ、えー?」
鉄平は顔を赤らめるー。
呼び止めたのは、
”別に気を使わないでまだここにいてもいいですよ”と
言おうとしたためだったが
何か勘違いされたようだー。
鉄平は気まずそうに
「お、俺は鉄平ですー」と、だけ言うと、
愛優美は「鉄平くんね 一応覚えてとく」とだけ、言葉を口にして
そのまま立ち去って行ったー。
「ーーーー~~~~~~」
愛由美の姿がしばらく頭に焼き付いて、
首をぶんぶんと振ると、
鉄平は「な、何を考えてるんだー俺はー」と、
言葉を口にするー
「俺の恋人はバイクだぞ」
そう自分に言い聞かせるように、自分のバイクを見つめるー。
鉄平には、彼女がいない。
いや、そもそも作ろうとしたこともなかったし、
欲しいと思ったこともなかったー。
別に”女嫌い”ということでもないのだが、
”彼女を作るために時間とお金を費やす”のであれば、
その分、バイクに時間とお金を費やしたい、という考えの
持ち主で、友人の茂(しげる)の前でもよく、
「俺はバイクと結婚するぜ!」などとふざけて言葉を口にしているぐらいだー。
「ーーーーー」
良くも悪くも、自分には
”異性が気になる”というそういう感情はないのだと、
そんな風に思っていたー。
がー、その日はバイクで走っていても、
愛由美と名乗ったあの女性のことがどうしても
気になってしまっていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーへ~…バイクと結婚するんじゃなかったのかよ」
翌日ー
大学で友人の茂に、愛由美のことを話すと、
笑いながら、茂はそう言葉を口にしたー
「ーも、も、もちろん俺の恋愛対象はバイクだし!」
鉄平が少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら
そう言葉を口にすると、
「ーははは…冗談冗談ー」と、言葉を口にしたー。
「ーーまぁ、でも、気になるなら気になるでいいんじゃね?
相手が既に人妻だったり、恋人がいるなら
良くないだろうけどさ、別に今のところ、そういう話も
聞いてねぇんだろ?」
茂がそう言うと、
鉄平は「まぁ…」と、恥ずかしそうに笑うー。
「ほら、同じ趣味を持つ者同士、上手く行くって言うしさー」
茂のそんな言葉を聞いて、鉄平は、
「ま、まぁ…それもそうかもなー」と、照れくさそうに言葉を口にしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
鉄平は実家に戻って、”あること”をしていたー。
それは、鉄平に続き、一人暮らしを始めることを決断した、
1歳年上の姉・円花(まどか)の引っ越しの手伝いをするためだー。
円花は”鉄平だって忙しいだろうし、悪いからいいよ”などと
言っていたものの、鉄平は”そんなことないさ”と、
こうして今日、手伝いに来ていたのだったー。
姉の円花と弟の鉄平は、小さい頃から仲良しで、
二人とも大学生になった今でも、
その間柄は続いているー
もっとも、姉の円花はもう就職活動も終えて、来年からは
新社会人になるから、じきに今よりも忙しくなるだろうけれどー…。
「ーーあ~!懐かしい高校時代の卒業アルバム~」
円花が引っ越しの作業をしながら、
高校時代の卒業アルバムを見つけて
それを眺め始めるー。
「ーまだ懐かしい、って言うほど昔じゃないだろ」
鉄平がそう言うと、円花は「わたしの中では半年以上経過してれば昔だけど」と笑うー。
「昔になるの早くね!?」
鉄平がツッコミを入れながら、卒業アルバムを見つめるー
がー、
その時だったー。
円花がペラペラと卒業アルバムのページをめくる中ー、
それを見ていた鉄平は、「えっ!?」と、言葉を口にしたー
「ん?どうしたの?」
円花が不思議そうに首を傾げるー。
「知り合いでもいた?」
そんな円花の言葉に、鉄平は「ちょ、ちょっといいかな?」と
1ページ前…「3年D組」のページを見せてもらうー。
するとそこにはー…
”村西 愛由美(むらにし あゆみ)”と書かれた
女子生徒の写真が掲載されていたー。
「ーーーー!」
”愛由美”
「ーー」
鉄平は思うー。
ちょっと雰囲気は違うけれどー…
間違いないー、あの人だー…とー。
優しそうに穏やかな笑みを浮かべている愛由美ー。
今とは全然雰囲気が違うー。
けれどーー、間違いなく、あのバイクの女性だー。
「ーーーこの人ー」
鉄平が愛由美の写真を指差すと、
円花は首を傾げながら、
「知り合い?」と、静かに言葉を口にしたー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
夜に出会う謎の女性ライダーの正体は…!?
続きはまた明日デス~!
今日もとっても暑いので、
暑さにノックアウトされないように気をつけて下さいネ~!☆
私はもう…溶けそうデス~笑
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