謎の女性ライダーとの出会いー。
一緒にご飯を食べることになったその日、
彼女の口から語られたのはー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ー鉄平くん、わたしのこと気になってるよね?」
愛由美が、そんな言葉を口にするー。
「えっ…!?」
鉄平は、ファミレスの周囲の音が聞こえなくなるぐらいに
緊張した様子で、
「え…!?えっ…?」と、顔を真っ赤にしながら繰り返すー。
「ーいいよいいよ。隠さなくてもー
わたしも”そっち側”だったからかなー
”男”の気持ちはよく分かるからー」
愛由美はそう言うと、いつものように髪を邪魔そうに
払いのけながら「ーー少し前に、鉄平くんのお姉さんから
わたしに連絡があったの」と、言葉を口にするー。
「姉さんが?」
鉄平が言うと、愛由美は頷くー。
少し前に、姉・円花が実家から引っ越す手伝いをしに行ったとき、
姉・円花の卒業アルバムに愛由美が写っているのを見て、
鉄平は姉に愛由美の話をしているー。
それがきっかけで、電話したのだろうかー。
姉・円花と愛由美は同級生だったようだがー、
クラスは違ったし、そこまで仲良しだったわけでもない、と
この前、姉の円花から聞かされているー。
「ーーそれでー、言われたのー。
”愛由美ちゃんのこと、弟が気になってるみたい”って」
愛由美はそう言いながら、少し困惑の表情を浮かべるー。
がー、同時に、その言葉には鉄平も困惑の表情を浮かべたー
”あぁー…出た…姉さんの空気を読まないおせっかいー”
鉄平が内心でそんなことを思うー。
”姉さん”は昔からそうだー。
今回も、鉄平が”愛由美”のことを気になってそうだと判断して、
愛由美に連絡して、”よろしくね”みたいなことを言ったのだろうー。
だから、愛由美も”わたしのこと、気になってるでしょ”とか
言い始めたのだろうー。
「ーーす、すみませんー…なんかーそのー」
鉄平が謝ると、愛由美は「別に、それはいいんだけど」と、
首を横に振るー。
「ーわたしも、バイク仲間が増えるのはうれしいし、
鉄平くんは面白いから、嫌いじゃないー」
愛由美はそれだけ言うと、相変わらず、
あまり笑顔を見せないまま、淡々と言葉を口にしたー。
「ーでも、”友達”になる前にー…
言っておかないといけないことがあるの」
愛由美はそう言うと、鉄平は表情を歪めるー。
「ーー聞く?」
まるで覚悟を求めるかのような愛由美の言葉ー。
鉄平は、迷ったあとに「聞きますー」と、答えたー。
愛由美はため息をつくと、到着した料理を受け取り、
店員に向かって微笑むー。
笑顔は、とても可愛らしくー
普段の愛由美とは別人のように見えるー。
ステーキを食べ始める愛由美を見て、
鉄平が意外そうにしていると、
「ーーーこの前は冗談って言ったけど、わたしは元々男だったー」と、
ステーキを切りながら言葉を口にするー
「えぇっ…」
鉄平が再び驚くー。
「って言っても、女装してるわけじゃないし
そういうのじゃなくてー、
身体は正真正銘、女のものー。」
愛由美はそう言うと、鉄平のほうを見て
「ーー嘘だと思うなら、触れば分かるから」
と、言葉を口にするー
「い、いやいやいや、べ、別にー」
鉄平はハンバーグを口に運びながらそう言うと、
愛由美は「ーーーーこれが、前のわたしー」と、
スマホの写真を見せ付けて来たー。
そこにはー
金髪の男が写っているー。
どう見ても、愛由美とは別人だー。
「ーーえ」
鉄平が呆然としていると、
「ーわたしはー”バイク”好きで、毎日のようにバイクで走ってたー」
と、愛由美が懐かしそうに言うー。
「でも」
愛由美が飲み物を口に運んでから、ひと呼吸おくとー、
「ー正直、調子に乗ってたー」と、
バイクで多少なりとも無謀な運転をしていたことを明かすー。
そしてーーー
「ーー無謀な運転で、勝手に事故って、この女を巻き込んでー
”死んだ”」
愛由美が自分の胸のあたりに手を当てながら、
悲しそうにそう呟くー。
「ーー…そ、それはどういうー?」
鉄平がそう言うと、
愛由美は「わたしが吹っ飛んだ時ー、この女は軽傷を負っただけだったけどー」
と、言葉を口にすると、
愛由美は鉄平のほうをまっすぐと見つめたー。
「目を覚ました時ー、”こう”なってたー。
わたしー、ううん、あえて”俺”って言うけどー…
俺はこの女に憑依した状態になってたー」
愛由美の言葉に、鉄平は「ーーう…嘘…ですよね?」と、思わず言葉を
吐き出してしまうも、愛由美の表情はとても嘘をついているようには
思えなかったー。
「ーこの女が、高校を卒業した春休みの時に、
その事故を起こしてー
幸い、大学には”この女”を知る人間はほとんどいなかったからー
あまり疑われずに生活できたー。」
愛由美がそう言うと、
「ーーーわたしは、死ぬほど反省したー。
勝手に死ぬだけならともかくー
この子の身体と人生を奪ってしまったんだからー」
と、悔しそうに言葉を口にしたー。
愛由美に憑依してしまったという男は、”中島 浩紀(なかじま ひろき)”と
名乗ったー。
”検索してみてー?事故のニュース、出てくると思うから”などと言われて
鉄平が検索すると、そこには”中島 浩紀”が、女子学生を巻き込んで事故死した
ニュースが確かに存在していたー。
「それ以降ー、わたしは”村西愛由美”として生きていくことを決意したー」
愛由美は言うー
「ー”愛由美本人”の意識がどうなったのかは分からないー
でも、いつか急に目覚めるかもしれないし、
そうなったときに、極力元の状態で身体を返せるように、
わたしはこうして、村西愛由美に成りきって、生きてるー」
その言葉に、鉄平は唖然としていたー。
「ー本当はさー」
愛由美は、そう言うと、自分の髪を邪魔そうにしながら少しだけ笑うー。
「ー髪、邪魔でジャマで仕方ないからーバッサリ切りたいのー。
でも、この子は、いつも髪を長くしてたから、
勝手に切っちゃうわけにはいかないでしょ?
だからー、我慢してるのー」
愛由美のその言葉に、いつも愛由美がジャマそうに髪を払ってる姿を思い出すー。
「ーーーこんなおしゃれもしたくないんだけどさー…
女の子だし、それなりにおしゃれに過ごしてあげないとー ね」
自分のネイルを触りながら、愛由美は自虐的に笑うー。
愛由美に憑依したという男は、どうやら、いつか愛由美が目覚めると信じて、
できる限り、愛由美として過ごすようにしてるようだー。
この前電話してた”弟”は、愛由美ではなく、中島浩紀の弟で、
弟にだけは正体を明かしているのだというー。
「ーーーーーまぁ、でもー」
愛由美は少しだけ間を置くと、
「ゴーカートにも乗れないようなこの子を、バイク乗りにしちゃったのだけはー
どうしても、我慢できなかったのー」と、言葉を口にするー。
愛由美は、バイクになど興味もなかったし、乗れなかったー。
愛由美に憑依した浩紀は、”愛由美に成りきろう”としたが、
どうしてもバイクへの愛だけは捨てることができずー、
愛由美を女性ライダーにしてしまったのだと、そう説明したー。
「ーーーーーーー…何で中身が男なのに、ずっとこの喋り方なんだー?
って、思うでしょ?」
愛由美は自虐的にそう言葉を口にするー。
「ーー何年もさー、”村西愛由美”やってるとー、
もう、わたしは、わたしになっちゃってるんだよねー。
言い方が良く分からないけどー、
今は男っぽくしゃべる方が、違和感あるしー、
”女”としての振る舞いと言葉遣いが身に沁みちゃって、ねー」
愛由美はそこまで言うと、ふぅ、とため息をついたー。
「ーだからー、
わたしは、”いつ”消えるか分からないー。
この子の意識が戻ったら、わたしはこの子に身体を返して消えるー。
それでも、”友達”になるかどうかー。
わたしは、それを聞きたかったのー。」
その言葉に、鉄平はゴクリと唾を飲み込むー。
「ーーーそれと、身体は女だけど、中身は男だからー」
愛由美が、少し揶揄う様にしてそう言葉を口にすると、
鉄平は、少し緊張した様子で口を開いたー。
「ーーー決まってるじゃないですかー」
その言葉に、愛由美は少し表情を歪めるー。
「ー友達になります!いや、というか、なりたいです!」
鉄平がそう言うと、
愛由美は少しだけ笑うー。
「ホントに?こんな身体してるのに、中身は男なのよ?」
愛由美が確認するようにそう言葉を口にするー。
「ーバイク好きに性別なんて関係ありませんよ!」
鉄平が満面の笑みで言うー。
「バイクが好きなら、みんな仲間です!」
単純そうにキラキラ目を輝かせる鉄平を見て、
愛由美は思わず笑うー。
「それにーーーー」
鉄平は、愛由美のことを呼ぼうとして、
一瞬”中身”の名で呼べばいいのか、
”身体”の名で呼べばいいのかを迷うー
それを察したかのように、
「ー愛由美でいいよー。昔の名で呼ばれるの、もう気持ち悪いしー」と、
目を閉じながら言うと、
「ーー……え、えっとー、村西さんー」
と、恥ずかしそうに言葉を口にするー。
「ーー名前で呼ぶのはドキドキしちゃう感じ?」
愛由美が少しだけ揶揄う様に言葉を口にすると、
「え!?いやー、えっ!?ま、まぁー…正直、そうですね」
と、鉄平が顔を赤らめながら言うー。
「村西さんは、さっき”もう女としての振る舞いが自然と出るー”って
言ってましたし、中身が男とか、気にしなくていいと思いますー。
だってー、身体の性別はそう簡単に変えられないけどー、
中身の性別なんて、ほら、自分が思う分には自由じゃないですかー。」
鉄平がそう言うと、
愛由美は、鉄平のほうを見つめながら少しだけ笑ったー。
「ーじゃあ、わたしが”やっぱり俺は男だ!”って、
男みたいに振る舞い始めても、友達でいてくれる?」
愛由美のそんな言葉に、
「ーえぇっ!? もちろん! 男でも女でも怪獣でも
バイク乗りは友達です!」
と、鉄平は笑ったー。
そしてー
「ー友達と言わずに、恋人でもなんでも!俺は全然平気ですよ!」
鉄平がつい勢いでそう言うと、
愛由美は少し驚いてから、
「ーーやっぱ鉄平くんは面白いねー」と笑うー。
鉄平としては、愛由美のことが気になってはいたものの、
今、この場で告白したつもりはなかったしー、
単に何も考えずにそう言っただけだったのだがー、
愛由美は、笑いながらこう答えたー。
「もしかしたら、明日終わるかもしれないけどー
わたしみたいな奴でよければ、ぜひー」
とー。
”明日終わるかも”と、言うのは、愛由美本人の意識が戻った場合、
自分は消えるー、と、そう決めているからだー。
愛由美本人の意識が戻るのは、いつかー。
明日かもしれないし、永遠に戻ってこないかもしれないー。
けど、愛由美本人の意識が戻ればー、
”バイク好きの愛由美”は、消えるー。
「ーーーー」
逆に鉄平が瞬きをしながら、困惑した表情を浮かべるー。
「ーーー………え?」
鉄平が思わず変な顔をしながらそう答えると、
「ん?今、告白したよね?」
と、愛由美が首を傾げるー。
「ーえっ!? えっ!?!?」
鉄平は、顔を真っ赤にしながら、自分の言葉を思い返すー。
「い、いや、あ、あれはー!あれはただのたとえでー」
鉄平が慌ててそう言うと、
愛由美は「じゃあー…彼女は取り消し」と、笑いながら言うと、
「えぇっ!?取り消さないで!?」と、鉄平はせっかくなんだし!と、叫ぶー。
愛由美はクスクスと笑いながら鉄平を見つめるとー、
「ーじゃあ、愛由美さんが好きですー って言ってみてー?」と、
揶揄う様に言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー。
愛由美と鉄平は、バイクでいつもの道を走りながら、
楽しんでいたー。
ライダースーツ姿の愛由美が、
鉄平のバイクを見つめながら、あれこれ嬉しそうに言葉を口にしているー。
まさかー、
バイク好きの彼女ができるなんて、夢にも思わなかったー。
とっても不思議な人だしー、
過去も含めて驚きばかりだけどー、
彼女が一緒にいてくれるうちは、存分に楽しみたいー。
そして、もしー、
もしもいつか、彼女が”バイク好き”から、元の愛由美に戻る時が
来たのであればー、
その時は、事情を知るものとしてー、
彼女のことをできる範囲内で、支えてあげたいー。
もちろん、彼女が正気を取り戻したら、自分は彼氏面をするつもりはないしー、
一人の事情を知る人間としてだけ、接するつもりだー。
その日が来るのか、来ないのかは、今はまだ分からないー。
「ーーわたし、昔それで事故起こしたんだから、気を付けないとダメよ!」
愛由美に”憑依”している男が、自分が事故を起こした経験を元に、
そんな風に鉄平に言葉を口にするー。
”愛由美に憑依している男”は、
愛由美の身体でバイク乗りになってからは、以前のような無謀な運転は一切せず、
とにかく気を付けるようになったのだというー。
それ故だろうかー。
危険な運転や油断が目につくと、まるでお姉さんのように叱って来るー
「ーーははは」
愛由美に叱られながら、鉄平が少しだけ笑うと、
愛由美は頬を膨らませながら「何よ 真剣に聞いてる?」と、
怒りっぽく言葉を口にするー。
「ーーいや、何だかー、姉さんがもう一人増えたみたいでー」
鉄平がそう言うと、愛由美は「なにそれ」と、少しだけ笑うー。
「ー村西さんは、俺の大事なバイク仲間で、彼女で、友達で、お姉ちゃんってことです!」
鉄平がそう言うと、
愛由美は笑いながら「鉄平君は、本当に面白いなぁ」と、呟くー
鉄平は、幸せを噛みしめながら思うー。
いつまで一緒にいられるかは分からないけれどー
とにかく、今、この瞬間を大切にしていこうー、と。
もちろん、愛由美本人の意識が戻ったあとには、
彼氏ではなく、第3者としてにはなるけれど、全力でサポートしていこう、と、
改めてそう決意するのだったー。
「ーねぇ」
愛由美が、少し不満そうな顔で、鉄平の目の前にやってきて言葉を口にしたー。
「ーもう彼女なんだから、村西さんじゃなくいて、愛由美って呼んでよね」
愛由美のそんな言葉に、鉄平は「いっ!?」と、顔を真っ赤にしながら、
「ーあ…あ、あ、あ、…あ…愛由美ー…さん」と、
やっと、彼女の名前を呼ぶのだったー。
おわり
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コメント
ライダーポゼッションの最終回でした~!☆
愛由美に憑依している男の弟が絡むバージョンの
エピソードも頭の中にはあったのですが、
それをやると全然違うお話になっちゃうので、
今回はこんな感じのお話になりました~!☆!
お読み下さりありがとうございました~★!
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