<憑依>デジタル空間で生きる父③~願い~(完)

②にもどる!

自分の寿命を悟って、生前にその精神をデジタル空間に
転送した父。

しかし、やがて彼は”中身の身体”への執着を強めて行き、
他人に”憑依”して、その身体を勝手に使うようになっていってしまうー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「頼むから、人の身体を乗っ取るなんてこと、やめてくれよ」
恭輔は、父・竜司の顔が表示されたモニターの方を
見つめながら、悲しそうにそう言葉を口にするー。

その言葉を聞いた父・竜司は暗い表情を浮かべると、
そのまま沈黙するー。

そんな竜司に対して、恭輔は
「ー俺の身体は定期的に貸してるだろ?
 それで満足してくれよー。
 他の人の身体を勝手に乗っ取るなんてー…
 犯罪みたいなもんだよー」
と、そう言い放つー。

”ーー法律、憑依してはいけないなんて法律はー…”
父・竜司はなおも反論しようとするも、
「ーそ、それはそうかもしれないけど、
 ーほら、身体を勝手に使うなら窃盗みたいなもんだろ!?
 それに、どう考えても勝手に憑依しまくっていいわけなんてないし!」と、
恭輔はそこまで言葉を口にしたー。

父・竜司は今度こそ分かってくれるだろうかー。

そう思いながら、父・竜司の意識が保存されている
コンピューターの電源のケーブルに手を伸ばしたまま、
恭輔はどこか不安そうに
「ーー使うなら、俺の身体だけにしてくれー。」
と、再度そう言葉を口にするー。

が、父・竜司は少しだけ苦笑いしながら言ったー。

”ー女の身体の方がドキドキするし、気持ちよくてなー”
とー。

「ーおいっ!」
恭輔は呆れ顔でそう叫ぶと、
竜司は”ー女子に憑依しているうちに、
男の身体では物足りなくなってしまったんだー”と、
そう自分の心情を吐き出すー。

その言葉に、恭輔は呆れ顔で父・竜司の方を見つめるー。

そして、しばらく考え込むような表情を浮かべると、
やがて、静かに言葉を口にしたー。

「でも、やっぱダメだよ父さんー。
 そんなことは許されないー。

 俺の身体で良ければこれからも貸すからー
 それで我慢してほしいー」

とー。

”ーーーーーー”
父・竜司は沈黙するー。

「ーーーーーー」
恭輔も、父・竜司の方を見つめながら
しばらく沈黙を続けるー。

ゴクリと唾を飲み込む恭輔ー。

もし、父・竜司が説得に応じてくれない場合ー…
これからも、他人に勝手に憑依する行為を続けようとする場合にはー…

父を、止めなくてはならないー。
父を止められるのは、自分だけだからー。

緊張した様子で、父・竜司の顔が表示されているモニターを
恭輔が見つめると、
やがて、父・竜司は意を決した様子で口を開くー。

”ーー分かったー”
とー。

「ーーーー…本当に、分かってくれたのかー?」
恭輔はそこまで言葉を口にすると、
父・竜司は”あぁー”と、そう言葉を返すー。

恭輔はその言葉に少しだけ安堵の表情を浮かべると、
父・竜司の意識が保存されているコンピューターの
ケーブルから手を離すー。

「ー父さんだって辛いのは分かってるー。
 こうしてここにいられるとは言っても、
 やっぱり、自分の身体がないってのは辛いと思うし、
 色々やりたいことだってあるよなー。

 ーーだからー、
 俺の身体で良かったら、言ってくれれば予定を合わせるしー
 まぁー、俺は父さんの望むような”女の身体”じゃないけど、
 それでも、生身の身体ではあるから、それで我慢してくれればー…」

恭輔はそこまで言うと、竜司は静かに言葉を口にしたー。

”ーーー”生きている人間”に俺の気持ちなんてわからないってことがー”
とー。

「ー!?」
予想外の言葉に恭輔は驚いたような表情を浮かべると、

父・竜司の顔が表示されているモニターに
大量の”BODY SWAP”という言葉が表示されたー。

「ーーと、父さんー…!い、一体ー」
恭輔がそう言葉を口にするー。

しかし、竜司の顔が表示されているモニターには
大量の”BODY SWAP”の文字が浮かびー
父・竜司の姿が不気味に揺らぐー。

”ーー生身の身体ー生身の身体ー
 生身の身体が欲しいー
 欲しい欲しい欲しい欲しい欲しいー”

父・竜司は気が狂ったかのようにそんな言葉を繰り返すー。

恭輔はそんな様子を見て
「もうーこれは、父さんじゃないー…」と、
呆然としながらそう言葉を口にするー。

死期の近付いた肉体から、自分の意識を
全てコンピューター上に転送した父・竜司。

もちろん、最初は竜司本人の意識が
そのままコンピューター上に移動した状態で
あったのは確かだー。

しかしー…コンピューター上で生活していくうちに、
人間だった頃とは”思考”の仕方も変わってしまったー。

人間であれば”脳”で色々なことを考えー、
感情も含めながら色々な決断を下すー。

しかし、ネット上のデータとなってしまった竜司は
徐々に感情ー、人間らしい要素を失ってしまっていたー。

元々の自分の”記憶”という名のデータを元に、
感情があるかのような喋り方をしているものの、
今の父・竜司には人間らしい感情というものは
存在しなくなってしまっていたー。

生前の記憶から、
”生身の肉体があった方が快適に生活できる”と判断ー、
さらには、法律をスキャンして、
”憑依”は法律で規定されていないために、
法律上も問題ない、とそう判断してしまったー。

今の父・竜司には”倫理的”な判断をすることはできないー。
もう、竜司は人間ではないのだからー。

「ーー父さんーごめんー」
父・竜司がもう取り返しのつかないところまで
”暴走”してしまっていると確信した恭輔は
心底寂しそうな表情を浮かべながら、
ケーブルに手を伸ばすー。

そして、父・竜司の記憶が保存されている
コンピューターの電源を抜こうとしたー。

がーー

その時だったー。

「ーーーーー!?」
恭輔は”得体の知れない感触”を覚えて、
その場で動きを止めるー。

いやー、恭輔はこの感覚が”何”だか知っているー。

これはーーー…

”ーー憑依”ーーー

父・竜司に何度か身体を貸す生活を送っていた恭輔は、
自分の身体を襲った得体の知れない感覚の正体にすぐに気づくー。

しかしー、
既に恭輔はどうすることもできず、そのまま意識を失ってしまったー。

「ーーー残念だったなー恭輔ー
 お前の身体にも既に”チップ”は埋め込んであるー」

そう言葉を口にする”憑依された恭輔”ー。

父・竜司は、恭輔が身体を貸してくれることになってすぐに、
自身の発明の一つである、”膨大なデータを一瞬にして転送するチップ”を
改造することに決めたー。

そのチップを改造して、
”人間の中に溶け込ませることができるように”したー。

これによって、父・竜司は
チップを溶け込ませた人間相手であれば、
その相手が遠くにいる場合でも、
”自分の精神”というデータを送信ー、
遠くにいても”憑依”できることができるようになったー。

恭輔の彼女である麻奈美に憑依した時のように、
ケーブルで直接接続する必要はなく、
遠く離れた相手に憑依することができるようになったのだー。

その力で、父・竜司は夜間になると、
チップを溶け込ませた相手の中から、その日の気分で好きな子に憑依ー、
梨沙や、他数名の子の身体で”生身の人生”を堪能していたー。

”チップ”を埋め込むのも、そう難しくはなかったー。

恭輔の身体を借りるようになった父・竜司は
恭輔の身体を使って、遠距離からデータを瞬時に受信するためのチップを、
人間に飲み込ませることで、その体内に溶け込むよう、カスタマイズしたー。

そこまで完成すれば、後は簡単だったー。

そのチップを”憑依したい子”に飲ませることで
いつでも竜司は、コンピューター上からその子にアクセスー、
自分の意識を送信して、憑依が可能になるー。

梨沙も、他の子も竜司が恭輔の身体を借りている最中に
声を掛けたり、隙をついて、飲み物にチップを投げ込みー、
それが溶けた状態のものを飲ませたことによって、
いつでも憑依できる状態にしていたー。

そして、恭輔自身の身体でもそれを飲ませておいたために、
こうしてケーブルを接続せずにいつでも憑依できる状態になっていたー。

「ーー恭輔ー、俺は生身の身体が欲しいんだー」
そう言葉を口にすると、「俺は決めたぞ」と、不気味な笑みを浮かべながら
静かに言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その数日後ー。

「ーーこの前は、本当にごめんなー。」
恭輔がそう言葉を口にしながら、
彼女の麻奈美と共に家の中へとやって来るー。

「ーーうんー。それで、お父さんはー…?」
麻奈美は、恭輔の父・竜司が保存されていた
コンピューターの方を見つめると、
「ーーー”反省”したみたいだよー」と、
恭輔がそう答えたー。

既にコンピューターのモニターには”竜司”の姿は見えないー。

「ーーー」
麻奈美は少しだけ複雑そうな表情を浮かべるー。

この前、自分に憑依した件で反省して
彼氏の父親は消えてしまったのではないかと、そう思ったのだー。

「ーーあ、オレンジジュースでいい?」
恭輔はそう確認すると、麻奈美は「あ、うんー」と、静かに頷くー。

がーーー
父・竜司に乗っ取られている恭輔はニヤリと笑みを浮かべると、
オレンジジュースの中に恭輔の身体で作り出した新たな
”人間に溶け込むチップ”を盛ったー。

オレンジジュースの中にそれが溶け込んでいくー。

「ーーはい」
恭輔に手渡されたオレンジジュースを受け取り、
「ありがとう」と、言いながらそれを飲み込む麻奈美ー。

「ーーふふ、これで俺の人格を流し込む準備は整ったー」

「ーーえ?」

麻奈美が困惑の表情を浮かべるー。

それと同時に恭輔に憑依していた父・竜司が
恭輔の身体から抜けて、コンピューターに戻っていくー。

恭輔はその場に倒れ込みー、
コンピューターの画面にBODYSWAPという文字が大量に表示される中、
麻奈美は「な、何なのー…?」と、呆然としながら、
倒れた恭輔に駆け寄ろうとしたー。

がーーー

「ーーひっ…!?」
チップが溶け込んだオレンジジュースを飲んでしまった麻奈美は
そのまま、恭輔の父・竜司にまた”憑依”されてしまうー。

「ーふふふー
 ごめんな麻奈美ちゃんー。
 君の生身の身体が、やっぱり一番居心地がいいー」

麻奈美になった竜司はニヤニヤしながら、
自分の胸を少し揉むと、
コンピューターのケーブルを手に、
それを自分の耳に捻じ込んだー

「ーーっ… ぁ」
麻奈美が白目を剥いてピクピクと震えだすー。

「人格の上書き及び定着プロトコルを開始します」
麻奈美が機械のような口調でそう言葉を口にすると、
ぴくぴくと震えながら
「旧人格の削除50パーセント完了ー」と、
そんな言葉を口にするー。

白い涎のようなものを垂らしながら
しばらく震えると「100パーセント完了ー旧人格を削除」と、
そう言葉を口にした麻奈美は、
「これより新人格の永久定着を行います」と、
そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーぅ…」
父・竜司に憑依されていた恭輔が目を覚ますと、
そこには、彼女の麻奈美の姿があったー。

「ー恭輔ーよかったー」
少しだけ不気味な笑みを浮かべている麻奈美ー。

「ーー麻奈美ー…?」
恭輔は意識がハッキリとしない状況のまま
そう呟くと、「何が…あったんだー?」と
そう言葉を口にするー。

すると、麻奈美は
「ーーたまたま家に来たら、恭輔の様子が変だったからー…」と、
そう言葉を口にした上で、
コンピューターの方を見つめるー。

麻奈美の視線の先には、コードが引っこ抜かれて
停止した父・竜司が記録されていたコンピューターの姿があったー。

それを見た恭輔は「ーー麻奈美が、助けてくれたのか?」と、
そう言葉を口するー。

麻奈美は「うんー」と、そう答えると、
恭輔は少し苦しそうに立ち上がりながら、
父・竜司が保存されていたコンピューターを見つめたー。

父・竜司は変わってしまったー。
”データ”となった父は、もう、父ではなかったのかもしれないー。

そんなことを思いつつも、父・竜司が消えたと思っている恭輔は
悲しそうな表情を浮かべながら目を閉じるー。

がーー
その背後に立っている麻奈美は
不気味な笑みを浮かべると、自分の胸を片手で揉みながら
気持ち良さそうに息を吐き出すー。

「ーーー…生身の身体を手に入れた今ー
 もう、そのコンピューターは必要ないー」
麻奈美は、恭輔に聞こえないように静かにそう言葉を口にすると、
ニヤリと笑みを浮かべるのだったー。

おわり

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コメント

最終回でした~!!★

彼女の身体が奪われてしまいましたネ~…!

でも、恭輔くんがそれに気づくのは…
きっと遠い遠い未来なのデス…!

お読み下さり、ありがとうございました~!★

「デジタル空間で生きる父」目次

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