”憑依能力者”は弾圧される世界ー。
能力を悪用する者だけではなく、
悪用を考えていない者まで、
まとめて”害虫”として扱われるその世界で、
生き抜くカップルの運命は…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”逃亡した憑依能力者2名を追跡中ー”
無線で仲間と連絡をしている兵士が
そう言葉を口にしているー。
繁華街の中ー、
隠れ家にしていた地下から脱出した涼介と真梨香は
身を隠しながら移動を続けていたー。
「ーーわたしたち、”外”でゆっくりできるようには
ならないのかなー…」
真梨香が悲しそうに呟くと、
涼介は、どう答えていいか分からずに
戸惑ってしまうー。
現実的に考えれば、
”この先”も憑依能力者たちは弾圧され続けるー。
ただー、そんな希望のない未来を真梨香には
伝えたくないー。
もちろん、真梨香自身も、
どこかで”それ”は理解しているとは思うし、
覚悟もしているとは思うー。
ただ、それでもー、
真梨香に”俺たちはずっと、隠れながら生活していかないといけないんだ”
などと、夢も希望もないことは言いたくなかったー。
「ーー大丈夫ー。いつか、きっとー」
涼介がそこまで言葉を口にすると、
突然、女の笑い声が聞こえたー。
「ー!?」
その方向を見つめると、
人だかりが出来ているー。
涼介と真梨香は不安そうな表情を浮かべながら
その声がしている方向にこっそりと近づいていくと、
可愛らしい雰囲気の女子高生が笑いながら
一緒に歩いていた友達にキスをしたり、
乱暴に腕を掴んで抱き着いたりしていたー。
どよめく通行人たちー。
「も、萌愛(もえ)ちゃん!やめて!」
抱き着かれた方の子が、悲鳴を上げながらそう言葉を口にすると
「へへへーじゃあ”お前の方に憑依してやっても”いいんだぜー?」と、
邪悪な表情を浮かべつつ、萌愛と呼ばれた子はそう呟くー。
”憑依能力を悪用する憑依能力者ー”
涼介たちは”黒”の憑依能力者と呼んでいるものたちの仕業だー。
「ーーあはははははっ!
ほら、もっと激しくキスしようぜ!」
萌愛と呼ばれた子がゲラゲラ笑いながら、
そう言葉を口にすると、
もう一人の子は泣きながら「た、助けてー」と
周囲に助けを求めるー。
しかし、憑依されている萌愛は、
「邪魔をしたら”そいつ”に憑依して滅茶苦茶にしてやるからなー?」と、
周囲の通行人たちを脅すー。
”次は自分が憑依されるかもしれない”
そう思った通行人たちは、誰も、友達が憑依されて
襲われそうになっているその子を助けようとはしなかったー。
「ーーあの子、あのままじゃー…」
少し離れた場所から”憑依された子”を見つめていた真梨香が
そう言葉を口にするー。
しかし、涼介は首を横に振ると、
「今、あそこに出て行けば俺たちも巻き込まれるかもしれないー」と、
あくまでも自分と真梨香の身を守ることを優先する言葉を口にするー。
もちろん、涼介の判断は間違ってはいないー。
ただ、それでもー…
「ーーー…」
真梨香は、まだ先日地下の隠れ家内で撃たれた傷が
完全には癒えていない状況のまま、
憑依されている子ー、萌愛が笑っている方向を振り返ると、
「涼介ー、ごめん!」と、そう言葉を口にして、
そのまま人だかりの方に向かって行くー。
そしてーー
”友達”に、抱き着いてもう一度キスをしようとしている萌愛に
近付いていくと、
「いい加減にしなさい!」と、そう叫びながら、
真梨香は萌愛を突き飛ばしたー。
「ーーぐぇっ!?」
突き飛ばされた萌愛は倒れ込むと、怒りの形相を浮かべながら
「ーくそっ!邪魔しやがったな!」と、声を上げるー。
真梨香はすかさず、憑依された萌愛に襲われていた
その友達に「今のうちに逃げてー!」と、そう声を掛けるー。
「あ、ありがとうございますー」
その子はそう返事をすると「でもー」と、
憑依されている”友達”の方を見つめるー。
すると、真梨香は「大丈夫ー。必ずあなたの友達も元に戻るから」と、
そう言葉を口にして、その子を安心させるー。
憑依された萌愛の友達が無事に逃げ延びたことを確認すると、
真梨香は、憑依された萌愛を見つめるー。
「ーーなんだテメェはー邪魔したことを後悔させてやるぞー」
怒りの形相を浮かべながら萌愛はそう言葉を口にするー。
がー、真梨香は「ーあんたみたいなやつがいるからー…
普通に暮らしているだけのわたしたちが迷惑するの!」と、
そう言葉を口にすると、
その場で”憑依能力”を発動してみせたー。
「ー!?
まさかお前もー!?」
萌愛に憑依していた憑依能力者は、
驚いたような表情を浮かべるー。
それと同時に真梨香は”憑依された状態の萌愛”に憑依すると、
そのまま萌愛の身体の中で”男”の霊体と争いを始めたー。
「ーーこの子の身体から…出て行きなさい!」
真梨香が必死にそう声を発するー。
しかし、萌愛に憑依している男もそう簡単に
真梨香の言葉に素直に従う素振りは見せなかったー。
”憑依”できるのは一人だけー。
同じ身体2人以上の憑依能力者が憑依した場合、
その人間の”中”で精神力が強い方が
その身体を支配し、もう一人は身体から追い出されるー。
真梨香はそれを利用して、
萌愛に憑依している”黒”の憑依能力者を追い出そうとしていたー。
萌愛の中で激しく男と争う真梨香ー。
しかし、その時だったー。
「ーーー害虫ども!そこまでだ!」
騒ぎを見ていた通行人たちが通報したのだろうかー。
対憑依治安維持局の兵士たちがその場に姿を現すー。
しかも、そのうちの一人は
先日、地下の隠れ家にやってきていたショートヘアーの女兵士ー。
涼介が真梨香を救うために一時的に憑依してー、
真梨香が”殺すのはダメ”と涼介を説得したことで、見逃した相手だったー。
通行人たちがどよめく中ー、
憑依されている萌愛と、倒れている真梨香を見つめる
ショートヘアーの女兵士ー。
「こいつはー…」
ショートヘアーの女兵士は、”抜け殻”になっている真梨香を見つめると
”あの時逃げられたー”と、真梨香のことを思い出しながら、
今度は、”争い”を続けている萌愛の方を見つめたー。
「ーーそ、その人はーー…
わ、わたしの友達を助けようとしてー」
少し離れた場所で様子を見ていた萌愛の友達が、
”真梨香は悪い憑依能力者じゃない”と、ショートヘアーの女兵士に告げるー。
がー
「ーーーー害虫に良い害虫も悪い害虫もないー。
全てを駆除するだけだ」
と、ショートヘアーの女兵士はそう言葉を口にすると、
倒れている真梨香の身体に向かって銃を向けたー。
「ーー真梨香!」
”萌愛”の身体に憑依して、黒の憑依能力者と内側で
争っている最中の真梨香に向かって
涼介は必死に叫ぶー。
”自分の身体に戻れ”
とー。
がーー
「ーそうだ!害虫は駆除だ!」
「やっちまえ!!」
「ーその子だって、どうせ人の身体で悪さするのよ!」
通行人たちも、”萌愛を助けようとした”真梨香のことを
”害虫”だとそう言い放って、
ショートヘアーの女兵士に対して”殺せ!”と、そう叫んだー。
「ーーこれが、民意だー」
ショートヘアーの女兵士はそう言うと、
真梨香の抜け殻に向かって発砲したー。
「~~~~~~~~…」
萌愛に憑依している最中だった真梨香は、
萌愛の身体で目に涙を浮かべるとー、
そのまま、自分の身体が死亡したことによって、
”消滅”したー
「ーーぉ…?へ、へへへー
鬱陶しい女が消えやがったー」
萌愛に憑依していた男は、真梨香が消えたことで
再び萌愛の身体を完全に掌握すると笑みを浮かべるー。
しかし、その直後、その憑依人の”本体”が別の治安維持局の兵士に
殺されたのか、萌愛はその場で失神して倒れ込んだー。
「ーーーーーー」
呆然とする涼介ー。
ショートヘアーの女兵士と同行していた兵士が
真梨香の遺体をゴミのように扱う中、
周囲に集まっていた民衆のほとんどは、
”害虫が駆除された”と喜びの声を上げているー。
そんな様子を目の当たりにした涼介は
怒りに身体を震わせるー。
そしてーーー
「ー何が害虫だー…
ーー俺たちだって、俺たちだってー」
怒りの形相でそう言葉を口にすると、
涼介はその場で憑依能力を発動したー。
「ーー!」
ショートヘアーの女兵士が涼介が憑依能力を使ったことに気付いて
すぐに涼介の身体ー…本人の霊体が抜けて”抜け殻”になったその身体を
始末しようと銃を向けるー。
しかし、この前よりもさらに早く、涼介は
ショートヘアーの女兵士に憑依すると、
「もう、容赦しないからなー」と、女兵士の身体でそう言葉を口にするー。
他の兵士が涼介の本体を撃とうと銃を向けるも、
女兵士に憑依した涼介はそれよりも早く
女兵士の身体で周囲の兵士たちを蹴散らしていくー。
「ーーぐ…そ、そいつを止めろ!」
他の兵士が憑依されている女兵士ごと銃撃をしようと試みるも、
涼介は”撃たれても、この身体は俺の身体じゃないし問題ないー”と、
そう思いながら、痛みにだけ耐えつつ、
他の兵士を蹴散らすー。
真梨香が”処分”されるのを喜んでみていた民衆たちも
逃げ惑う中、
女兵士の身体で、涼介はその場に膝をつくー。
他の兵士との戦いで何発も撃たれて、
もう立ち上がることも出来ないー。
「ーーー」
涼介は、そんな女兵士の身体から抜けると、
自分の身体に戻って立ち上がるー。
そして、女兵士が意識を取り戻したのを確認すると
「わ、わたしはー… ぐっ…」と、苦しそうにするのを見て
涼介は言ったー。
「ーーよくも、よくもみんなをー
そして、真梨香をー。
俺たちは、何もーー何も悪いことをしていないのにー」
涼介は目に涙を浮かべながら言うー。
そんな言葉に、正気を取り戻した女兵士は
苦しそうにしながら涼介の方を見つめると、
「ー良い害虫と、悪い害虫の区別などつかぬー」
と、そう言葉を吐き出すー。
「ーでも、俺たちはーー…!」
涼介は、自分たちは何も悪いことをしていない、
と、そう言葉を吐き出すー。
ずっと普通に生活したかっただけだとー。
憑依能力を悪用する人間は確かにいるー。
でも、憑依能力者の中にも悪用なんて一切考えていない人もいる、とー。
「ーー”気持ち”は分かるー。
だが、我々の立場で考えてみろー。
良い憑依能力者と悪い憑依能力者の見分けはつかないー。
そして、”憑依されること”への対策を立てるのは難しいー。
で、あればどうすれば良い?
ーー全部始末するしかないんだよ」
苦しそうにショートヘアーの女兵士は呟くー。
その言葉に涼介は反論するー。
「ーーじゃあ、何もしてない憑依能力者は、
そのまま黙って死ねってことなのか!?
隠れ続けて人生を送れってことなのか?!」
とー。
が、ショートヘアーの女兵士も、
「ーでは、わたしたちはー…
憑依能力者に殺されたわたしの妹のように、
いつ憑依能力者に人生を滅茶苦茶にされるか分からない状況で
生活を続けて、憑依能力者に憑依されたら”運が悪かった”で
済ませろと言うのかー?」
と、そんな言葉を口にするー。
「ーーーー」
涼介と、ショートヘアーの女兵士は、しばらく相手を睨むと、
やがて女兵士は自虐的に笑ったー。
「ーーどっちも幸せになるルートなんて、ないんだー。」
そして、既に自分の身体がもう助からないことを悟っている
女兵士は、自分に銃を向けると、
「ーもう、苦しいのはごめんなんでな」
と、そう言葉を口にして自ら命を絶ったー。
一人残された涼介は、複雑な表情を浮かべながら
その場に立ち尽くしたー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”どっちも幸せになるルートなんてない”
女兵士から最後に言われた言葉を思い出しながら
涼介は、一人、今日も潜伏生活を送っていたー。
「ーーーいや、あるはずだー」
涼介はそう呟くー。
確かに、憑依能力者がいる限り、善悪の区別はつけにくく、
常に憑依される恐怖に怯えながら生きることになるという
言い分も分かるー。
けど、やっぱり、だからと言って
”悪いことをしていない”憑依能力者が
”はいそうですか”と、諦めて死ぬことなんて受け入れられないー。
どうにかー、
どうにか、共存の道があるはずだー。
涼介は、今はまだ見えない共存の道を探し求めて、
今日も身を隠しながら、歩き出すのだったー…
おわり
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コメント
憑依能力者たちが弾圧されている世界の物語でした~!★
憑依能力を無効化できる何かが開発されれば、
共存することができるかもしれませんネ~…!!
お読み下さり、ありがとうございました★!
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