事故により、彼女が昏睡状態に陥ってしまったー。
しかし、どうしても彼女のことを忘れられない彼氏は
”ある憑依人”の元を訪れていたー。
彼女に憑依してもらい、
もう一度彼女と話をしたいー…
例え、それが”本当の意味での彼女”じゃなかったとしてもー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー」
男子大学生の野崎 秀幸(のざき ひでゆき)は、
悲しそうな表情で、その病室を訪れていたー。
その病室にいるのは、
同じ大学に通っている”彼女”の、
柏木 雫(かしわぎ しずく)ーー。
秀幸と雫は、いつも仲良しで
付き合い始めてから1年以上が経過しているものの、
喧嘩したことも1度もなく、
強い絆で結ばれていたー。
しかしー、そんな幸せな大学生活に”転機”が
訪れてしまったのは、
半年前のことだったー。
彼女の柏木 雫は、
信号を無視して暴走していた乗用車に追突されて
頭を強打ー、
命は助かったものの、
昏睡状態に陥り、目を覚まさない状態が
続いていたー。
「ーーー雫ー…」
雫が事故に遭ったと聞かされたあの日から、
半年ちょっとー。
秀幸は毎日のように病院に通っているものの、
雫は一向に目を覚ます様子はなかったー。
”そういえば秀幸ー、来月誕生日だったよねー?
今年はすっごいやつ、考えてるから楽しみにしててねー?”
いつも控えめな雰囲気の雫が、
珍しくそんなことを言っていたのを思い出すー。
とてもワクワクして、自信がありそうな
そんな顔だったー。
けれどー
そんな会話をした5日後ー
雫は事故に遭い、昏睡状態に陥ってしまったー。
「ーーーー」
あれからずっと、雫は目を覚まさないままー。
「ーー雫ー…”すっごいの”が何なのか俺、知りたいよー。
それにー…そのお返しもちゃんとしたいよー」
秀幸は悔しそうにそう言葉を口にするー。
けれど、昏睡状態の雫から”返事”が返って来ることはなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから、さらに3ヵ月が経過したー。
雫が昏睡状態になってから9カ月ー。
秀幸は雫のところにまだ、
毎日のように通い続けているー。
が、それと同時に
あまりにも時間が経ちすぎて
雫の記憶がだんだんと薄れてきてしまっていることも
感じていたー。
もちろん、雫が嫌いになったわけじゃない。
今でも”雫以外を好きになる”なんてことは、ないー。
けれどー…
人間は時間が経てば経つほど、記憶の薄れていく生き物ー。
雫のことは忘れもしない。
それでも、雫の細かい動作や雫の声ー、
雫の笑顔ー、そういったものが毎日少しずつ
薄れて行ってしまうー。
このままでは”動いている雫”の姿が自分の中で
遠い過去のものになってしまうー。
秀幸は、そんな”焦り”に似た感情を覚え始めていたー。
”このままずっと、時の流れに身を任せていてはいけないー”
そう思った秀幸は、毎日必死に”状況を変える方法”を
探り始めたー。
そしてー、その結果、秀幸は出会ってしまったー。
”憑依”の存在とー。
「ーー憑依ー…」
秀幸は、そう言葉を口にすると、
”憑依”について調べ始めるー。
”憑依”なら、もしかしたらー…
そんな希望を自分の中に抱きながら…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから半月後ー。
秀幸は”ある人物”の元を訪れていたー。
「ーーー何のことだか、分かりませんけどー…」
相手の女は、戸惑いの表情を浮かべながらそう言葉を口にしたー。
「ー宮尾(みやお)さんー。
いや、”憑依人”さんーーー
別に、あなたをどうこうしようってわけじゃないんですー
”その力”を貸してほしいんですー」
秀幸が、同じ大学に通っている後輩の女子大生ー、
宮尾 亜美菜(みやお あみな)にそう頭を下げるー。
秀幸と亜美菜には、元々面識はなかったー。
大学で”見かけたこと”はお互いにあったかもしれないけれど
”同じ大学に通う接点のない後輩”でしかなかったー。
その亜美菜に、秀幸は必死になって
”力を貸してほしい”と頼み込むー。
「ーーごめんなさいー”憑依”とか、意味が分からないのでー」
亜美菜はそう言い放つと、立ち去ろうとするー。
がー、秀幸は”憑依”のことを必死に調べるうちに、
知ってしまったのだー。
同じ大学の後輩に”憑依されている子がいる”と、いうことをー。
それを知った秀幸は、その亜美菜の元を訪れて
必死に頼み込んでいたー。
”どうか彼女に憑依してほしい”
とー。
「ーーーーーー」
しかし、亜美菜に憑依している”男”も、
簡単には正体を明かさなかったー。
彼は1年前に憑依薬を手に入れて、
”宮尾 亜美菜”として充実した女子大生ライフを送っている男ー。
どこから”憑依”のことを知られたのかは分からないが、
軽々しく「こいつの身体は1年前から俺のものだ!」などと
明かすわけには行かないー。
「ーーー…どうしてもー、どうしても、
彼女に憑依してほしいんですー!
1日だけ、1日だけでもいいですからー」
亜美菜に向かって、なおもそう言葉を口にする秀幸ー。
「ーーーーーー…」
しかし、
亜美菜は小さく舌打ちをすると、
「しつこいですよー。憑依って何ですかー?
変な男子にしつこくされて困ってるって大学に言いますよー?
それじゃー」
と、それだけ言葉を口にして、足早に立ち去ってしまったー。
「ーーーくそっーーー…どうしてー」
悔しそうな表情を浮かべる秀幸ー。
亜美菜が憑依されているのは間違いないー。
そのことについて、秀幸自身はどうこう言うつもりはない。
もちろん、亜美菜本人からすればとんでもないことだとは思うー。
けれど、秀幸は亜美菜のことを知らないし、
憑依している男のことも知らないー。
互いの事情も知らないー。
そして、秀幸は正義のヒーローではない。
だから”元々面識のない亜美菜のために”
未知なる”憑依”に立ち向かうようなー、
そんなことまではできなかったー…。
只々、彼は雫ともう一度会いたいー。
もう一度、動いている雫を見たいー。
それだけで、今の彼は行動を続けていたー。
暗い表情を浮かべる中、
秀幸が帰宅すると、
突然、背後から「おい」と、女の声がしたー。
「ー!?」
秀幸が少し驚いたような表情を浮かべつつ振り返ると、
そこには、黒いライダースーツ姿にサングラスの女の姿があったー。
一瞬、亜美菜に”憑依人さんですよね?”などと聞いてしまったせいで、
命でも狙われる状態になってしまったのではないかと、
身構える秀幸ー。
がー、
「ーーーーわたしですけどー」
と、ライダースーツ姿のサングラスの女が、サングラスを外すと、
大学で見るのとはまるで別人のような雰囲気の亜美菜が、
近付いてきたー。
「そんなに驚くとは思わなかったのでー。
何なら、”女子大生モード”で喋りますけど?」
亜美菜が腕組みしながらそう言葉を口にすると、
「ーーあ…い、いえーど、どちらでもー」と、
秀幸は困惑しながら言葉を口にするー。
「ーー昼間の話の続き、聞かせて貰えます?
大学内でギャーギャー騒がれると迷惑なので」
亜美菜はそう言葉を口にすると、
秀幸は、ハッとした様子で
「えっ…じ、じゃあ、雫にー…雫に、憑依してくれるんですか!?」と、
目を輝かせながら言うー。
すると、亜美菜は不愉快そうにしながら
「ーあのー。後輩の女子に寒い場所で立ち話をさせるんですか?」と、
そう言葉を口にしながら、
秀幸の家のほうを見つめるー。
「ーえっ!?あ、いやー…え、でもー」
秀幸は、相手を女子として扱っていいのか、どうなのか戸惑いつつ
亜美菜のほうを見つめると、
「ーー”中身”は男ですから大丈夫ですよ」と、
亜美菜はニヤリと笑みを浮かべながら、
そのまま「続きは中でー」と、そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーなるほどーー…
それは悲惨でしたねー」
家の中で、秀幸は改めて事情を説明すると、
亜美菜はガムを噛みながらそう言葉を口にしたー。
大学での亜美菜はそういう雰囲気ではないために、
秀幸は少し戸惑いながらその様子を見つめるー。
「ほ、本当に身体と中身が別人なんですねー…?」
秀幸がそう言うと、
亜美菜は「まぁーそうですねー」と、笑うー。
「ーー”素”で話した方がいいか?」
亜美菜がそう付け加えると、
秀幸は「あ、いえー」と、少し戸惑いながら、
亜美菜を見つめるー。
すると、亜美菜は少しだけ笑いながら、
「ーまぁー、って言っても、
1年も、宮尾 亜美菜として生きていると
どっちが素だか分からなくなるんですけどねー」
と、そう言葉を口にするー。
”元の自分”と、
”亜美菜として生きている自分”ー
1年もこの身体で過ごしていると、
どっちが”本当の自分”なのか、
自分でも分からなくなるのだと言うー。
「今はこうー、後輩キャラがわたしの中でも
染みついている感じです」
亜美菜はそこまで言うと、
「ーーまぁ、こんな話は先輩にはどうでもいいことでしたね」と、
そう言葉を口にした上で言うー。
「それで、わたしに、昏睡状態のままの
先輩の彼女さんに憑依して、
彼女さんの動く姿を見たいー、
彼女さんとして振る舞って欲しい、と、
そういうことでいいですか?」
亜美菜がそう言うと、
秀幸は「は、はいー」と、そう呟くー。
「ーーーなるほどー」
亜美菜はそれだけ言葉を口にすると、
腕組みをしながら考え込むー。
「ーーーーー」
秀幸は緊張した様子で亜美菜のほうを見つめるー。
やがて、沈黙に耐え切れなくなったのか、
秀幸は「あのー…やっぱり、無理でしょうか?」と、
そう確認すると、
亜美菜は「ー大学では敬語、やめてくださいよ?今はいいですけどー」と、
そう言いつつ、
「まぁ、わたしのことをわざわざ見つけるほどの執念ー
願いは叶えてあげたいですけどー」と、そう続けるー。
亜美菜に憑依している男は、かなり慎重に立ち回っているー。
”亜美菜が憑依されている”という情報をどうやって手に入れたのかも
分からないぐらいに、”かなり慎重に”亜美菜として生きているー。
が、それを手に入れたのだという秀幸は、
相当強い執念で、”昏睡状態の彼女と話すため”に行動を続けたということ
なのだろうー。
その恐るべき執念に敬意を表して、
”憑依”もしてあげたいとはそう思っていたー。
ただー…
”よし分かった”とは言えない事情があったー。
「ひとつ、問題があるんですー。
”わたし”が、先輩の彼女に憑依している途中ー、
わたしはこの身体から出なくてはいけませんー。
そうなるとー
この身体の本来の持ち主ー
つまり、本当の宮尾 亜美菜が意識を取り戻すことになりますー」
亜美菜がそう言うと、
秀幸は「あ…」と、そう言葉を口にするー。
「ーーわたしがこの身体から抜けている間、
この身体がずっと眠っているのなら良いのですけどー」
亜美菜はそこまで言葉を口にすると、
秀幸は「そ…そうですよねー…」と、そう言葉を口にするー。
「ーーーわたしは今のー、”女子大生ライフ”を捨てるつもりはありません。
”その問題”がクリアできないと、
先輩の彼女さんに憑依してあげたくても、それはできません」
亜美菜はハッキリとそう言ったー。
「ーーーーーー」
秀幸は沈黙するー。
ただ、亜美菜に憑依している男が言いたいことは分かったー。
せっかく手に入れた身体を手放したくないー。
一時的にだったとしても、亜美菜の身体を抜け出せば
本来の亜美菜が意識を取り戻すために、
力になるのは難しい、と、そう言いたいのだろうー。
「ーーーー」
秀幸はしばらく戸惑いの表情を浮かべながら考え込むー。
がー
その時だったー
「あ…!」
秀幸はそう言葉を口にすると、
立ち上がって、何やら容器を取り出すー。
「ーー?」
亜美菜が少しだけ表情を歪めると、
「これー…俺が眠れない時に使ってる薬なんですけどー
あ、ちゃんと普通に売ってる市販のやつですー」と、
そう言葉を口にした上で、
彼女の雫が昏睡状態に陥ったあと、精神的に参ってしまって
不眠になった際に使っていた薬を手にしたー。
「ーこれを飲んで、効果が出て来たら
その身体から抜けるって言うのはどうでしょうか」
秀幸がそう言うと、
亜美菜は「ははー」と、少しだけ笑ってから、
その薬を受け取るー。
「ーー身体が寝てる間に、先輩の彼女に憑依するってことですかぁ」
亜美菜はそう呟くと、少し考えてから
「ーー分かりましたー。いいですよ」
と、そう言葉を口にするのだったー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
”昏睡状態の彼女がもう一度動いている姿を見たい”という
願いを叶えるための憑依のお話デス~!!
ちゃんと願いが叶うのかどうかは、明日のお楽しみデス!

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