<女体化>12月32日 屍(後編)

今年も”12月32日”に迷い込んでしまった者たちー。

異様な世界の中、その世界に留まる”老人”と出会った二人は、
あることを聞かされるもー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「”12月32日”とは、この世界のバグー。
 バグは修正される。
 案ずることはないー」

この世界に留まる老人は、
この世界に迷い込んで女体化してしまった少年・輝樹と、
この世界に迷い込んで男体化してしまった史奈に
そう説明したー。

”12月32日”と呼ばれるこの場所は
”この世界のバグ”ー。

毎年、年越しのタイミングで数名が
この空間に迷い込み、
そして”12月32日が終わると帰っていく”のだと言うー。

「この世界には修正作用があるー。
 バグは”修正”されるんじゃ」
老人がそう言葉を口にすると、
女体化してしまった輝樹は目を輝かせながら
「じ、じゃあ、俺たち、元の世界に戻れるってことー!?」と、
そう言葉を口にする。

「そうじゃー。お前さんたちも元に戻れるー。
 去年も、その前の年も、ここに迷い込んだ者がおったが
 みんな、元の世界に戻って行ったー

 今日が終われば、お前さんたちは
 2026年1月1日に戻るー。
 こことは時間の流れが違うはずじゃからなー
 恐らく、周りの人間からすれば
 お前さんたちが一旦この世界に飛ばされたことも
 認識できないはずじゃ」

老人がそこまで言うと、
男体化した史奈は少し表情を曇らせてから、
口を開いた。

「でも、おじいさんはずっとこの世界にいるんですよねー?
 ”本当にこの世界を去った人”たちは
 元の世界に戻れたのですかー?」

とー。

「ーーーーー」
ゴクリ、と唾を飲み込む女体化した輝樹ー。

「ーーー確かに、その疑問は最もじゃ。
 人間、仮に死後の世界があったとしても、
 この世に留まっている人間に、その後の世界のことが分からんように、
 儂には、12月32日を去った人たちのことは分からん」

そう答える老人。
男体化した史奈は赤い月を見つめながら、一気に不安そうな表情を浮かべるー。

「じゃがー、人間には”まだ見ぬ宇宙”のことを色々突き止めて来たように
 実際に目視したもの、体験したもの以外を知る力があるー。

 ーー考えて見るんじゃー。
 お前さんたちの世界で、”12月32日”のことが話題になっていたか?
 毎年、”大晦日の日に姿を消す人がいる”とニュースで騒がれていたりしたか?

 ーしないじゃろう?」

老人がそう言葉を口にする。

「それが、ここを去った人間が、”元の世界”に帰ることが出来ている証拠じゃ。
 それも、1月1日0時に帰れると、儂は見ている。
 
 たとえ、少しの間でも、姿を消した人がいれば騒ぎになるじゃろうからな」

その言葉に、
男体化した史奈は「ー確かに、そうですねー」と頷くー。

12月32日に迷い込んだ人間が”元の世界に帰れない”のなら、
このおじいさんの言う通り、
”元いた世界”では、騒ぎになっているはずだー。

しかし、男体化した史奈は
”大晦日に人が失踪”などというニュースは聞いたことがないー。

もちろん、別件で失踪したりしている人はいるかもしれないけれど、
”年越しの瞬間に急に人が消えちゃいました”という話は
史奈は一度も聞いたことがなかったー。

まだ女体化した輝樹には少し難しい話だったのか、
不思議そうな表情を浮かべている輝樹のほうを見ると、
「ーーやっぱり”今日”が終われば、元の世界に戻れるみたい」と、
穏やかな表情を浮かべるー。

「ーホントに?あ~~~よかったぁ~」
女体化した輝樹は安堵の表情を浮かべながらそう言葉を口にするー。

「ーーこれで、美彩にもまた会えるやー」
女体化した輝樹は妹・美彩のことを思い出すー。

今まで喧嘩してばかりだったけど、
こんなことになって初めて気づいたー。

やっぱり、美彩のことも
何だかんだで大切な妹だと思っている、ということを
自分でも改めて自覚するー。

「ーーあぁーそうじゃよ。家族にもまた会えるはずじゃ
 だから心配しなくていいー」

老人はそれだけ言うと、赤い月を見つめるー。

「12月32日は、不思議な世界じゃー。
 どうせ1日だけじゃし、ここに留まりでもしない限り、
 ”もう二度と”この不思議な世界に来ることもないじゃろうー

 だから、今日は貴重な経験が出来たと思って
 ゆっくりしていきなさいー」

老人はそう言葉を口にすると、
「儂はこのあたりにいるから、帰るまでの間、何かあればいつでも来るといいー」と、
そう笑うー。

「ーー分かりました。ありがとうございますー」
男体化した史奈はそう言うと、
「なんのなんのー。”元の世界”で年越しの時以外、この世界にいるのは
 儂だけじゃからなー。こうして1年ぶりに人に会えるっていうのは
 それなりに楽しんじゃよー」と、
おじいさんはそう言葉を口にしてから、そのまま立ち去って行ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー帰ったら、友達に”1日だけ女になってたんだ~!”って
 自慢してあげるんだー」
目を輝かせながらそう言葉を口にする女体化した輝樹ー。

しかし、男体化した史奈はふと”空”を見上げるー。

「ーーー……」

本当にー、
本当に、元の世界に戻れるのだろうかー。

おじいさんが言うにはここは、”この世界のバグ”ー。
そして、世界には”バグの修正作用”があるのだと言うー。

今までに数々の人がここを訪れ、去って行ったー。

おじいさんの言う通り、今、ここに人の姿はないー。
恐らくは本当に”ここ”は去っているのだろうー。

そして、これもおじいさんの言う通り、
”元の世界”では大晦日で毎年人が失踪したなどという
ニュースは聞いたことがないー

そう考えると、”元の世界に戻っている”と考える
おじいさんの推理は理にかなっているー。

けれどー……

”世界のバグには修正作用があるー”
”12月32日が終わればこの世界から去っていく”
”元の世界では騒ぎになっていない”

この、3つの条件を満たす”もう一つの推理”が
男体化した史奈の頭の中に浮かんでしまったー。

それはーーー

”迷い込んだ人間は、元の世界に戻っているのではなく、消滅している”
という説ー。

”世界のバグは修正される”
この世界に迷い込んだ人間は”バグ”ー

その存在ごと”なかったこと”になってしまえばー…
”元の世界”では誰も騒ぐ人間はいないー。

例えば、史奈が消滅して、
”史奈の存在など最初からなかったこと”になればー…
”元の世界”では騒ぎにならないー。

最初から”史奈などいなかった”のだからー。

「ーーーーー…」
男体化した史奈は、ちょうど最近読んだホラー系の少女漫画で
”主人公の存在が最初からなかったことにされてしまう”という内容の
ものを読んでいたために、そんなことを思ってしまうー。

「ーーーーーー」

”元の世界に戻れる”
そうは思いたいけれどー、
でもー……

「ーーー…大丈夫?」
女体化した輝樹が少し不安そうに呟くー。

そんな輝樹を見て、男体化した史奈は
「ーちょっと、もう1回あのおじいさんに会いに行かない?」と、
そう提案するー。

女体化した輝樹は「え?どうして?俺たち時間が来れば戻れるんだよね?」
と、戸惑いながら言葉を口にするー。

「う、うんーそうだと思うけど
 ただー…ほら、あと2時間ぐらいで”ここから”立ち去ることになるでしょ?
 だから、おじいさんにも会えなくなるし、
 もうちょっと色々聞いてみたいなぁってー」

男体化した史奈が少し照れ臭そうにそう言うと、
「勉強熱心だなぁ」と、笑う女体化した輝樹ー。

が、輝樹も”おじいさんに会いに行く”ことには納得して、
二人でさっき”おじいさん”と会った場所へと向かって行くー。

がーーー、
思ったよりも”おじいさん”を見つけるのに戸惑ってしまい、
女体化した輝樹と、男体化した史奈が”おじいさん”を発見した時には
既に12月32日の23時55分ーー…
間もなく”12月32日”が終わるタイミングだったー。

遠目におじいさんの姿を確認した男体化した史奈は、
女体化した輝樹の身を案じつつも、
急いでおじいさんに近付いて行くー。

「ーおや、まだいたのかー
 そろそろ戻るときじゃろ?」
おじいさんがそう言葉を口にするー。

”おじいさん”がここに留まることが出来ている理由は何なのだろうかー。
それも気にしつつも、もう時間がないことを
把握していた男体化した史奈は言うー。

「ーーおじいさんー、元の世界に戻れるって話ー」
男体化した史奈が言うと、
「ーーそれなら、心配いらんよー。
 もうすぐ、戻れるはずじゃ」と、最初に出会った時と同じような
説明をおじいさんは口にするー。

「ーーえへへへー
 戻った後、ここでの記憶が残ってたらみんなに自慢してやるんだー!
 俺、”12月32日にいたんだ”ってさー」
女体化した輝樹はご機嫌そうにもう、元に戻ったあとのことを
考えているー。

が、男体化した史奈の不安は尽きなかったー。

「おじいさんー…わたし、思ったんですー」
男体化した史奈が言うと、
おじいさんは少しだけ表情を歪めるー。

そして、男体化した史奈は先ほどの仮説を頭の中に思い浮かべるー。

12月32日が終われば、ここに来た人たちはここから去るー。
元の世界でも消えた人たちが騒ぎになっていないー。

それは、確かにおじいさんの言う通り、
12月32日が終われば、この世界に迷い込んだ人たちは
”バグの修正作用”によって元の世界に戻るー、と、言うことなのかもしれないー。

ただーーー

「ーこの世界に迷い込んだ人間は、この世界から去ったあとー、
 元の世界にーーー」

男体化した史奈がそこまで言葉を口にすると、
突然ーーー

「ーーー!!!」
”煙”のように、二人の姿が靄となり、そして消えてしまったー。

「ーーそー、そうじゃったー」
一瞬、驚いた表情を浮かべたおじいさんー。

が、ちょうど”0時”を迎えたタイミングであることに気付くと、
息を吐き出すー。

”目の前で”人が12月32日から帰る瞬間を見たのは久しぶりだー。
そのため、少し驚いてしまったー。

「ーーーー…あの子は、何を言おうとしたんじゃろうなー…?」
おじいさんはそう言葉を口にすると、
静かにため息を吐き出すー。

「儂はもう、どの道、生きていてあと数年じゃー。
 この世界に留まるー。留まり続けるー」
おじいさんはそう言葉を口にすると、
静かに、この世界で見つめた不思議な色に光る石を握りしめるー。

”この世界から離れたくないー”
”ずっと、ここにいたいー”

彼の執念が、
彼だけは12月32日の”先”へと進まないようにー
この場に留めているのだろうかー。

”ーーー「ーこの世界に迷い込んだ人間は、この世界から去ったあとー、
 元の世界にーーー」”

男体化した史奈が”元の世界に戻る前”の言葉を
今一度思い出すー。

がーー

「ーーー…そう、戻れるんじゃよー。元の世界にー」
おじいさんは、少しだけ考えた後にそう言葉を口にすると、
そのままゆっくりと”12月32日”の世界の中を歩き始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”9.999999999999999999999999月9999999999999999日”

何もない黒い世界ー

そこに、史奈と輝樹はいたー。

「な、なんだよこれー…
 なんだよ!!」

元の世界に戻れると思っていた輝樹は泣きながら叫ぶー。

”世界のバグは修正されるー”

12月32日に迷い込んだ人間は”バグ”
バグは消さなくてはならないー。
世界は、修正作用によって、バグを修正するー。

「ーーーー」
男体化した史奈は、絶望の表情を浮かべながら
ため息を吐き出すー。

「ーーーー輝樹くん、だったよね」
史奈はそう言葉を口にすると、
覚悟を決めて、輝樹を抱きしめるー。

「大丈夫ー。わたしが一緒にいるー」
史奈の優しい言葉と同時に、その場に残ったのは”無”だけだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーあけましておめでと~~~!!」

新年を迎えた輝樹の妹・美彩は
両親と共に新年を祝っていたー

”1秒前”まで、この場に存在していた輝樹のことは
もう覚えていないー。

両親も、美彩も、もう、覚えていないー。

世界のバグは修正されるー。
”最初からなかったこと”になるー。

けれどーーー

両親と楽しそうに新年を祝いながら
ふと、美彩は振り返るー。

「ーーーーー」

「どうしたの?」
美彩の母・美智子が戸惑いながら笑うと、
美彩は「ううんー何でもないー」と、穏やかに笑うー。

けれどーーー
修正された”記憶”をー
もしかしたら、いつの日かーー
自覚できる人間が、現れるかもしれない。

いつの日かー。

おわり

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コメント

今年で4年目を迎える”12月32日”でした~★★!!

すっかり(?)年末に毎回登場する作品の一つに
なっちゃいましたネ~!!

来年もまた、きっと登場するのデス~!

お読み下さりありがとうございました~!★

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女体化<12月32日>

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