彼女には、高校時代3年間の記憶が存在しなかったー。
両親からは”事故で3年間昏睡状態だった”と説明されていた彼女。
しかし、彼女はある日、知ってしまうー。
その”空白期間”は、眠っていたわけではないことをー。
”事故”などではなく、”憑依”されていたということをー
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現在、大学生の
丸山 楓(まるやま かえで)には
”高校時代の3年間”の記憶が存在しなかったー。
気付いた時には、病院のベッドに寝転がっている状態で、
”あれ…?わたし、いったいどうしたんだろうー?”と、
そう思いながら困惑していると、
担当医の杉内 栄次郎(すぎうち えいじろう)医師が姿を現して、
”高校の入学式の日に事故に遭って、3年間昏睡状態だった”と、
そう伝えられたー。
戸惑う楓ー。
確かに、入学式の日の朝、桜が舞う中、
学校に向かっていたのを最後に、記憶が途切れているー。
けれど、”どんな事故”に遭ったのかは記憶になくー、
最後の記憶は、学校に向かう途中に川沿いを歩いていたことぐらいだー。
「ーーあの…わたしー…事故に遭った記憶がないんですけどー…」
楓は戸惑いながら、担当医の杉内医師に確認すると、
杉内医師は苦笑いしながら言ったー。
「大きな事故にあった人にはよくある症状なんだー。
事故の前後の記憶がなくなったり、不明瞭になったりすることはー。
人によっては事故の直前だけじゃなくて、
その前後数日の記憶が消えたりもするー」
とー。
そんな言葉を聞いて、楓は戸惑うー。
けれど、杉内先生からは”焦ってもいいことはないから、
まずはゆっくりと調子を戻していこう”と言われて、
少しだけ焦る気持ちを抑えて、深呼吸をするー。
診察を終えて、病室に戻った楓ー。
そうこうしているうちに、
母親の丸山 千秋(まるやま ちあき)と、
父親の丸山 紀明(まるやま のりあき)もやってきてー、
楓が無事に正気を取り戻したことを喜んでいたー。
”3年間”という長い時間、眠りについていたー
そう聞かされた楓。
両親の説明も杉内医師と同じで、
やはり、楓は入学式の最中に信号無視をした車に追突されて
頭を強打、昏睡状態に陥っていたのだと言うー。
楓は、自分が3年間も眠っていたことに驚き、
困惑しながらもリハビリを経て無事に退院ー、
そして、”大学”に通うことになったー。
”寝たきりで高校に通うことができていないのに、大丈夫なの?”と
そう心配した楓ー。
しかし、大学側が特別に配慮してくれただとか、
色々な難しい説明をされて、結局、楓はそのまま
高校ではなく、大学に通うことになっていたー。
「ーーわたし、高校に通ってないからね~…」
苦笑いする楓ー。
そんな楓の隣で、「ーーそ、そうだったねー」と、
少しだけ気まずそうに笑うのは、
楓の幼馴染・峰倉 聡美(みねくら さとみ)ー。
楓が小さい頃からの知り合いで、
”意識を取り戻した”楓のことを何かと心配し、
色々と手伝ってくれているー。
聞けば、楓の両親から”大学で助けてあげてほしい”と
お願いされたらしく、
聡美自身、楓と小さい頃から大の仲良しだったために、
本人の望みもあって、こうして楓を支えてくれているー。
「ーーーねぇ、聡美ちゃんー」
ふと、楓が少し表情を曇らせながら言葉を口にするー。
「ーーなぁに?」
聡美が楓のほうを見つめながら返事をすると、
楓は少しだけ考えてから「ううんー。なんでもないー」と、
無理に微笑んで見せるー。
「ーーーー」
聡美は、そんな楓の様子を見ながら
少しだけ複雑そうな表情を浮かべると、
「ー3年間も”眠ってた”んだもんねー。
まだ色々混乱することもあると思うけど、
でも、わたしも楓のためにできることは何でもするからー」と、
そんな言葉で楓を元気づけようとするー。
「ーーーうん、ありがとうー」
楓は少しだけ落ち着いた表情を取り戻すと、
「ーそうそうー、3年間の間にー」
と、聡美は明るい雰囲気に切り替えようと、
聡美が中学時代に好きだったスイーツ店の話をし始めたー。
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楓と別れた聡美は
険しい表情を浮かべていたー。
楓が”意識を取り戻してから”2か月ー。
最近の楓は”違和感”を抱き始めているー。
それも、無理はないー。
親友の聡美は、そんな楓の戸惑いを見るたびに
辛くなるー。
”楓に本当のことを隠している”
そんな、自分にー。
楓はー
”事故”に遭って3年間昏睡状態に陥っていたわけではないー。
”交通事故”など、そもそも存在しなかったのだー。
楓が3年間、意識を失っていたのは事実ー。
けれど、その”理由”は別の理由だー。
そうーー
楓は、”3年間”「憑依」され続けていたー。
入学式の日ー。
高校に向かう最中に”男”に憑依されてー、
そして、卒業式の日ー、
卒業式を終えた後に、”男”は、楓の身体を捨てたー。
男はどうやら”JKになりたい”と思っていたようで、
高校を卒業した楓の身体は”用済み”だったようだー。
高校も同じだった聡美は、
そんな”憑依された楓”を間近で見ていたー。
見た目は楓なのにー、まるで”別人”の振る舞いをする楓をー。
他の女子をイヤらしい目つきで見たりー、
自分の身体を使って男と遊んだりー、
平気で学校内で悪さをする楓の姿をー。
”憑依されている間の楓”は、
本当に嫌な子だったー。
”ーーあんたの人生、滅茶苦茶にしてあげよっかー?”と、
そんな風に脅されたこともあるー。
最初はー、”高校生になって楓は変わってしまった”と、
聡美はそう落ち込んでいたー。
が、やがて、楓の両親が”楓は憑依されている”ということに気付き、
聡美も楓の両親からそれを知らされて、
楓の両親と協力しながら、楓を元に戻す方法を
探していたー。
けれどー、結局、楓の両親と聡美は、
”楓を助ける方法”を見つけることができないまま、
最終的には楓に憑依している男が
”俺はJKにしか興味がないんでなー”という理由で、
卒業式を終えた楓の身体を捨てて、
そのまま逃亡したー。
3年間も憑依されていた影響か、
失神した楓は、そのまま意識を取り戻すことがなかったもののー
3月下旬、ようやく意識を取り戻し
現在に至っているー。
ただー、”憑依されていた三年間”で、
楓は多くの人を傷つけてしまったー。
そしてー、楓自身、”取り返しのつかないこと”を
たくさんさせられてしまったー。
例えばー、多くの男子と身体の関係を持ってしまったりもしているし、
クラスメイトを一人、不登校にも追いやっているー。
そんなことを知れば、楓はきっとショックを受けるし、
”3年間も自分が乗っ取られていた”などということは、
本人も受け入れられずに、壊れてしまうかもしれないー。
そう危惧した両親や、聡美、周囲の人々は
”目を覚ました楓”に、
”3年間憑依されていた”ではなく、”3年間事故で昏睡状態に陥っていた”と、
そう伝えたのだったー。
楓が解放された後、両親は地方に引っ越しをし、
楓の親友である聡美が進学した大学に、
楓の父親の”知り合い”を通じて入学できるように手配して貰ったー。
さらに、”憑依”されていた楓の診察をしてくれるという
医師も発見し、学校・診察・家族ー
全てが口車を合わせることによって、
楓に”憑依されていた真実”を隠すー、
そんな環境を整えたのだったー。
でもーー
やっぱりーーー
「ーー楓、なんだか、違和感を感じてるみたいですー」
聡美が、楓の母親に電話でそう報告するー。
”そうー…”
楓の母親・千秋は不安そうにそう言葉を返してくるー。
もしー、
もしも、”わたしは3年間も身体を乗っ取られていた”と、
楓が知ってしまったらー…
楓はショックから立ち直れなくなってしまうかもしれないー。
”ーーー…ごめんねー。聡美ちゃんにも色々迷惑をかけてー”
母・千秋がそう言うと、
聡美は穏やかに微笑みながら
「いえー、親友ですからー」と、そう返事を返すと、
「ーー…それにー、許せないのは”楓をこんな目に遭わせた人”ですー」と、
そうハッキリ言葉を口にしたー。
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「ーーーーー」
楓は、”違和感”を拭えずにいたー。
意識を取り戻し、大学に通い始めて既に2カ月ー。
けれどー、
”本当にわたしは、事故で3年間も眠っていたのー?”と、
そんな疑問を拭えずにいたー。
ー拭えないどころか、
その疑問はだんだんと楓の中で膨らんでいたー。
「ーーーー……」
けれどー、楓の両親や、楓の周囲の人々は、
”徹底的に”楓にそれを隠す覚悟でいたー。
楓が”違和感”を抱くであろうことも、当然
母親も、父親も理解はしているー。
”3年間憑依されて意識を失っていた”という現実を、
”3年間事故で昏睡状態に陥っていた”という設定に
塗り替えることは、そう簡単なことではないー。
けれどー
それでも、楓のためを思い、それを徹底的に隠すことにしたー。
”真実”を知れば、楓は絶対に苦しむし、
憑依されていた間の自分の行いを知って、苦しむと思うからー。
「ーただいまー」
今日も、楓は大学での1日を終えて帰宅すると、
母・千秋のほうを見て、穏やかに微笑むー。
「おかえりなさいー。今日はどうだったー?」
母・千秋も穏やかに微笑み返しながら
大学での様子を聞くと、
「ーーうんー。今日も聡美ちゃんに色々教えてもらいながら
だったけどー、上手くやれてるよー」と、
大学ではそれなりに上手く過ごせていると、そう答えたー。
「ふふーなら良かったー。
でも、まだ意識を取り戻して2カ月だし、
あまり無理をしないでねー」
母・千秋がそう言うと、楓は少しだけ考えるような表情を
浮かべてから
「ねぇ、お母さんー」と、そう言葉を口にするー。
そして、さらに少し迷うような表情を浮かべてから、
言葉を続けたー。
「ーわたし、”3年間も寝てた”って思えないぐらいに
身体の調子はいいんだけどー…
本当にー、3年間も眠ってたんだよねー…?」
とー。
「ーー!!」
千秋はドキッとするー。
もちろん、楓がそんな疑問を抱くことは
”想定”はしていたー。
父・紀明も”楓は賢い子だし、絶対に違和感は抱くと思う”と、
以前からそう言っていたー。
中学時代は生徒会の会長もやっていたぐらいに真面目で
しっかり者ー、そして色々な気配りもできる子だったー。
そんな楓が、”3年間の空白”の違和感に気付かないはずはないー。
でも、そんな真面目な娘だからこそー、
”3年間も憑依されていて”悪い子”になっていた”ことを知ったら
壊れてしまうかもしれないー。
そんな危惧をしていたー。
「ーふふーそうよー。
でも、身体の運動の機能が落ちないように、先生も
一生懸命色々してくれていたからー」
母・千秋は事前に考えていた内容の返事を、
動揺が悟られないように、何食わぬ顔で返していくー
「そっかー」
楓は自分の手を動かしながらそう呟くと、
納得した様子で頷くー。
「ー3年も、みんなに迷惑をかけちゃってごめんねー。
もちろん、お母さんにもー」
楓はそう言うと、千秋は「そんなこと気にしなくていいのー」と、
穏やかに笑いながら、楓のほうを見つめるー。
やがて、安堵した様子で自分の部屋へと戻って行く楓ー。
母・千秋はそんな楓の後ろ姿を見つめながらー、
楓が部屋に戻って行くのを確認すると、
自分の”腕”を見つめたー。
そこにはー
”消えない傷跡”が残されていたー。
”ーーーうるせーんだよ、”俺”に口出しするなー”
憑依されている楓からナイフで切り付けられたあの日のことを思い出すー。
”ーへへー娘に切られたって通報するかー?
でもそしたら”わたし”が、悪人になっちゃうけどねぇ~へへ”
憑依されている楓は”通報も無駄だ”と、邪悪な笑みを浮かべながら
母・千秋を脅すー。
「ーーーーー…」
千秋はそんな時のことを思い出しながら
”言えないー。絶対にー”と、身体を震わせるー。
優しい楓が”わたしがお母さんを傷つけた”と知ったらーーーー
「ーー言えないー」
千秋は今一度そう言葉を口にすると、
意を決して、”絶対に隠し通す”ことを改めて決意するのだったー。
②へ続く
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コメント
3年間憑依されていた事実を
本人のために、周囲が隠し続けるお話デス~!!
無事に隠し続けることができるかどうかは、
この先のお楽しみ…★!

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