意識を完全に乗っ取ることができなかった男は
咄嗟に、少女に対し「君の中の別人格」だと嘘をついたー。
それが、予期せぬ方向に向かってしまう
結果になるとも知らずに…。
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「--お、、お、、、俺は…君の中に生まれた…別人格…
え、、、あ、、、そ、、その、二重人格ってやつだー」
乗っ取った深雪の精神世界で、
深雪に対してそう言い放つ翔太ー。
完全に乗っ取ることができなかった、という
動揺から、そんな嘘をついてしまったー
「-----」
深雪は口をぽかんと開けたまま、翔太の方を見つめているー
”ってーー”
翔太は頭を掻きながら思うー。
別に、俺の姿を見られたって、どうすることもできないだろうし、
この女から抜け出せばいいだけじゃねぇか。
自分の身体も、まだ死んではいないだろうし、
一旦自分の身体に戻って、
出直してくるのが一番いい。
この女が、特別に憑依に耐性があっただけかもしれないし、
別の候補の女に憑依しなおせばいいだけだー。
嘘をつく必要なんてなかったー。
「(この女で楽しみたかったが、意識が残ってるんじゃ
色々面倒だしな…)」
そう呟きながら、翔太は無言で、深雪の身体の中から
出て行こうとしたー。
その時だったー
「そっか」
深雪が呟いたー。
「え?」
翔太が振り返るー。
「-わたしが、生んじゃったんだ…
だったら……怖いけど、仕方ないよね」
深雪の言葉に、
翔太は首を傾げるー
「--わたし、二重人格になっちゃったんだー。
--わたし、深雪。
あなたは?」
おいおいおいおいおいおいー
翔太は戸惑うー
やけにあっさりと、二重人格を受け入れやがったー。
翔太は「あ、いや、俺、もう、君から出ていくから」と
戸惑いながら返事をするー。
そして、深雪の身体から抜け出そうとするー
説明書には
”身体から抜け出すイメージをしながら、飛び跳ねる感じ”で
乗っ取った身体から抜け出せる、とも書かれていたー
「----」
翔太は抜け出すイメージをするー。
そしてー
深雪の身体からー
「だめ!」
「--!?」
翔太は、唖然としたー
深雪が、翔太の手を引っ張っているー
「--あなただって、消えたくないでしょ!?
簡単に出ていくなんて言っちゃだめ!」
深雪は翔太の方をまっすぐ見ながら言うー
「ーーなんであなたが生まれちゃったのかは分からないけど、
わたしが生んじゃった人格なんだから、身体から出ていけ!なんて
わたし、思わないよ!」
深雪の言葉に、翔太は”おいおいおいおいおい”と、内心でさらに激しく戸惑ったー
「--…う~ん…身体はひとつしかないから…」
深雪が、一人で考え込むー。
翔太は、その隙に深雪の身体から
幽体離脱しようとするー
しかしー
”できない”
「--!?!?」
翔太は表情を歪めたー
まるで”蓋”をされたかのように、
深雪の身体から出ることができないー
”行かないで”
そんな、深雪の意思を感じたー。
二重人格だと嘘をついてしまったことにより、
深雪は、翔太を受け入れてしまったどころか、
”簡単に消えるなんて言わないで”という感じに
なってしまっているー
「---うん!半分こしよ♡!」
深雪が笑ったー
「え…?」
翔太はさらに戸惑うー。
「--わたしたちって、身体はひとつでしょ?
だから、半分こしよ!
わたしは学校と、家の時間の一部を使うから、
あなたは夜と、朝の学校の用意の時間!
これでどう!?」
深雪の提案に
翔太は「いや…その…」と、言葉を口にするー
”面倒くせぇ女だな”
そう思いながらー
「お、、俺、、さっきは、嘘をついたんだー
俺、君の別人格なんかじゃなくて…
その…憑依薬ってクスリを使って、勝手に君を
乗っ取ろうとしただけなんだー」
と、”本当”のことを口にしたー
この際、本当のことを打ち明けて、さっさと深雪から
出て行った方がよさそうだー。
どうせ、この精神世界で姿は見られていても、
俺にたどり着けるはずはないし、
万が一現実世界で俺にたどり着いても、
俺が憑依したなどという証拠はない。
大丈夫だー。
「----君を乗っ取ろうとしてすまなかったー
俺はもう君から出て来るから…
邪魔して悪かったな」
翔太はそう言って、
深雪の身体から、出て行こうとしたー
しかしー
「---そういう嘘はよくないよ!」
深雪が叫んだー
「--は?」
翔太は、深雪の身体から出て行けずに困惑するー。
「--あの、、なんていうかな?
主人格のために自分を犠牲にする、って、それっておかしくない?
あなただって、ちゃんと自分の意思があるんでしょ?
どうして、あなたが生まれちゃったのかは分からないけど、
わたし、あなたを消そうなんて思わないよ!」
深雪が言うー。
”おいおい…なんでこんなに二重人格をあっさり信じるんだこいつは”
翔太はそう思いながら、
「いや、だから二重人格じゃなくて、憑依」
と、深雪に伝えるー
しかしー
深雪は微笑んで、こう答えたー
「わたしのために、気を遣わなくていいの。
これからよろしくね。”もうひとりのわたし”-」
とー。
その日からー
”深雪の別人格”としての共同生活が始まってしまったー。
なぜかー
深雪は”自分が二重人格になった”という”嘘”を
あっけなく受け入れてしまいー
逆に、翔太がいくら”俺は憑依して、身体を奪おうとした極悪人だ”と
主張しても、信じてもらえなかったー。
深雪が学校から帰宅するー。
「---ふ~~あ、ここがわたしの家で、ここがわたしの部屋!」
深雪が嬉しそうに案内しているー
”------”
翔太は答えないー
無理やり乗っ取ることはできるがー
深雪の意識は消せないみたいだし、
深雪にも身体を動かす権利があるため
強引に身体の主導権を握っても
身体をちゃんとコントロールすることが、できない。
”くそっ!なんなんだこの女は…”
翔太は、自分が”幽閉状態”になってしまったことで
苛立っていたー。
二重人格、という嘘をすぐに信じて、
そして、”本当は憑依したんだよ”と言っても
それは信じないー。
”そう言って、わたしの中から消えようとしてるんでしょ?
そんなのダメだよ”
とか、言ってきて、話にならないー
”くそ!頭おかしい女だったのか?”
翔太は、”4”を出したサイコロを呪ったー。
意識も含めて完全に乗っ取ることができなかったために、
翔太は今、こんな目に遭ってしまっているー。
どうにか、
どうにか、この状況から抜け出したいー。
しかし、
深雪の強い意志からか、翔太の霊体は
深雪から抜け出すこともできなかったー。
”あ~くそ!あのスポーツ女の果穂とか、
天然女子の涼花とか、その辺を
乗っ取ってれば、今頃やりたい放題だったのに!”
翔太がそんな風に言ってると
「ねぇねぇ、聞いてる?」と深雪が声を掛けてきたー
”まったく聞いてねぇよ。
ってか、もうお前の身体から出ていきたいんだけど”
翔太が言うと、深雪は、
「--そうやって、自分は、主人格じゃないから、消えようとするの良くないよ」と、
深雪が呟いたー。
”だからぁ…あのなぁ”
翔太は困惑してしまうー
何かがおかしいー。
この女は、元々二重人格者か何かか?
それとも、人格が分裂しそうな境遇にでもいるのか??
そうじゃなきゃ、二重人格と言われたからって
こんなにあっさり”はいそうですか”状態になるはずがないー
「--そういえば、名前ってあるの?」
深雪の言葉に、翔太は
”知らねーよ”と、不貞腐れた態度を取る。
”早く出してくれよここから”と、呟いていると、
深雪は「だ~め!あなただって生きてるんだから」と、少し叱るような口調で言ったー。
「------」
深雪が、呟くー。
「--ーーーわたしね…お姉ちゃんがいたの。
年の離れたお姉ちゃんが」
”………”
翔太は、語り出した深雪の話を黙って聞くー。
「---お姉ちゃんは、
解離性同一性障害……つまり、二重人格…
今のわたしと同じような状態だったの」
深雪が言うー。
”---身内にそういうやつがいたのか”
翔太は思う。
だから、すんなり二重人格を受け入れたのか?
とー。
「---小さい頃のわたしは、”どっちのお姉ちゃん”とも
仲良くなったー
でもね、もう一人のお姉ちゃんのほうー
”最初からいなかったほうのお姉ちゃん”は、
ある時から”元々のお姉ちゃん”のために、
消えようとし始めたのー。
わざとお姉ちゃんに嫌われようとしてー
わざと憎まれてー。
最終的に人格統合することになって
もう一人のお姉ちゃんは、消えていったー」
深雪の言葉に、翔太は何も答えないー。
「---”消えることができて、せいせいする”
もう一人のお姉ちゃんは、そう言ってたー。
でもねー。
最後の…消える前の日に
わたしと話した時、
”もう一人のお姉ちゃん”は、
泣いてたの
本当は、消えるのが怖いって
だからー」
深雪は、少しだけ笑うー
「だから、あなたも、わたしに気遣って消えようとしちゃだめ。
わたしが二重人格になっちゃった理由は
よくわからないけど、
きっとお姉ちゃんもそうだったんだし、
遺伝か何かなのかな?」
”---二重人格は遺伝とか、そういう問題じゃないと思うぞ”
と、突っ込みたくなったが、面倒くさいので、翔太は
何も言わなかったー
深雪は、姉のことを思い出して
寂しそうに涙をこぼすー
”---お姉ちゃんは…今、どうしてるんだ?”
翔太はなんとなく聞いてみたー。
「------”もう一人のお姉ちゃん”がいなくなって
心のバランスを壊してーーー
お姉ちゃん、自殺しちゃった」
深雪が悲しそうに呟くー。
”そうか”
翔太はそれだけ答えたー。
やけにあっさり二重人格という”嘘”を受け入れてしまったことー
翔太が、本当は憑依だ、と言っても信じずー
そして、身体に縛り付けるかのような、強い気持ちを抱いているのは、
そういう過去があるから、であることを翔太は理解したー。
二重人格は遺伝かな?とか言ってるあたり、
この深雪という子の性格も、そもそも天然なのだろうが、
”---面倒なやつに憑依してしまった”
と、思わずにはいられなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
深雪が、学校に向かうー。
昨夜、深雪が寝ている間に、深雪の身体を乗っ取って
鏡の前で色々ポーズを取ったり、
さらには胸を揉んでみたりしたがー
なんとなく、気分が乗らずに、それだけで眠ってしまったー。
起きている間も、乗っ取る気が起きないー
”なんか、興ざめしちまったな”
翔太は、そう思いながら、深雪の身体から
抜け出す方法を考えるー。
過去の経験から、深雪は
”もう一人の人格も、生きているんだ”という考えを
強く抱いていて、翔太をどこかに行かせまいと
強い気持ちを持っているー
その強い気持ちが、翔太の脱出を阻んでいるー。
”まったく…”
そう思っていたその時だったー。
「いたっ!」
深雪が悲鳴を上げたー。
”--?”
翔太が、深雪に今、何が起こっているのか、
考え事をやめて確認するとー
深雪は、翔太が憑依しようとしていた
”憑依候補者”の一人、金村 恵梨香ー
腹黒生徒会副会長に、髪を引っ張られていたー
「ねぇねぇ~あんた、昨日”この身体は俺のものだ”と
叫んでたけど、どういうこと~?」
恵梨香がニヤニヤしながら言うー。
”---!”
翔太は思う。
”昨日、憑依した瞬間を見られたのか”
とー。
誰もいない生徒会室に連れ込まれた深雪ー
深雪は悲鳴を上げているー。
「あんた、いつもいつも後輩とか先生から褒められてて、
うざいのよ!」
恵梨香が深雪をビンタするー。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
深雪が悲鳴を上げながら、恵梨香に対して謝っているー
”日常的に”いじめ”を受けているー”
生徒会副会長の恵梨香に、
書記の深雪は”日常的にいじめ”を受けていたー
翔太は、深雪の心の中から
そんな光景を見つめてー
ため息をついたー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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別人格だと嘘をついたことで、
抜け出せなくなってしまった翔太…
続きはまた明日デスー!
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