彼女は10年間もの間、皮にされていたー。
ようやく解放され、病院で目を覚ました彼女。
しかし、彼女からすれば”いきなり10年が経過している”
そんな状態で、戸惑うことしかできなかったー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あなたを皮にしたこの男に、見覚えはありますか?」
医師の男が、そう言葉を口にすると、
純恋は困惑した表情を浮かべながら、
純恋自身を皮にしていたのだと言う男ー、
後藤 辰信の写真を見つめたー
「いえ……」
純恋は困惑しながらそう言葉を返すー。
”後藤 辰信”という名前にも聞き覚えはないし、
当然、顔に見覚えもないー。
「ーーそうですかー」
医師はそう言葉を口にすると、写真を女性看護師の方に
渡してため息を吐き出すー。
「ーー彼は既に警察に逮捕されていますが、
なぜ、あなたの身体を乗っ取って10年間もそのまま過ごしていたのかー、
そして、なぜ、今になって急にあなたを解放したのかー
そのあたりのことは一切黙秘しているようですー
ーーあなたにも、何も心当たりはない、とー?」
医師がそう言うと、純恋は
「はいー」と、心底不安そうな表情を浮かべるー。
そんな、純恋の不安そうな表情を
医師はしばらくじっと見つめていたものの、
やがて息を吐き出してから首を横に振ったー。
「ーーいや、申し訳ないー。
あなたを不安にさせるつもりはないのですー。
どうか、落ち着いて下さいー。」
医師の言葉に、純恋は頷くと、
「すみませんーまだ10年も経過した実感がなくてー」と、
そう言葉を口にするー。
「ーそ、そういえばー…」
純恋は、思い出したかのように、
「わ、わたしのお父さんとお母さんはー…」と、不安そうに呟くー。
「ーもう、”このこと”は知っているんですかー?」
純恋がそう言うと、
医師は女性看護師のほうを見つめながら、
戸惑いの表情を浮かべるー。
そんな反応に純恋は強い不安を覚えると、
「連絡したいのは山々なのですがー」と医師は戸惑いながら
言葉を続けるー。
「ーーーえ……」
純恋は青ざめながら医師のほうを見つめると、
「松川さんーーーー」と、真っすぐと純恋のほうを見つめながら
言葉を続けたー。
「ーあなたのお母さまは、3年ほど前に亡くなっていますー」
とー。
「ーーーー!!!」
純恋は、”自分が乗っ取られていた10年間”のうちに
母親が亡くなってしまったことに強いショックを受けて
言葉を失うー。
「ーー……あなたのお母さまは、
最後まで、あなたが乗っ取られていることを知らなかったー。
大学に入り、悪さを繰り返すようになったあなたを前に、
心労が蓄積され、倒れられてしまったと聞いていますー。
最後まであなたのことを想い、嘆いていたーと」
医師は申し訳なさそうにしながらそこまで言うと、
「松川さんー。あなたは乗っ取られていただけです。
あなたは何も悪くない」と、力強くそう言葉を口にする。
けれど、純恋の目からは涙があふれて止まらないー。
そんな様子に、医師も女性看護師も言葉を止めるー。
”これ以上”は、純恋が耐えられないと
そう思ったのだろうかー。
しかし、純恋は涙を拭きながら
「お父さんはー…」と、そう言葉を口にするー。
「ーーーー」
医師は「辛い話ばかりで申し訳ない」と、そう言葉を口にすると、
「あなたのお父様は、現在、病院で入院されています」と、
そう呟くー。
純恋は一瞬「す、すぐに会えますかー?」と、そう確認するも、
医師は首を横に振ったー
「ーうちの病院は、”皮にされた人”の経過観察とケア、必要であれば治療を
行うための特殊な病院ですー
松川さんー、あなた以外にも同じような被害を受けた方が、
ここで社会復帰を目指している状態ですー
ですので、あなたのお父様はこの病院に入院しているわけではなく、
別の病院に入院してますー」
医師がそこまで説明すると、
純恋は残念そうな表情を浮かべるー。
そして、医師はさらに気まずそうにしながら言葉を口にしたー。
「それとー、あなたのお父様は残念ですがー
今は”昏睡状態”の状況でしてー…」
医師の言葉に、純恋は震えるー。
「ーーこ、こ、昏睡…ど、どうしてですかー?」
純恋がそう言うと、
医師が気まずそうにしながら、目を逸らすー。
代わりに、女性看護師が戸惑いながら
「ーー火事で意識不明の重体となってー、
一命はとりとめたのですが、
意識を取り戻さない状態が続いています」
女性看護師の言葉に、純恋は震えるー。
「か、火事…?」
「ーーはい…確か2年ほど前のことだったと聞いてますー。
松川さんのお父様は今でも昏睡状態のまま
目を覚ましていませんー」
女性看護師がそこまで言い切ると、
純恋は絶望の表情を浮かべたままー、
”そんなー…”と、絶句してみせるー。
「ーーーーで、でも、どうして火災になんかー」
純恋は、泣きそうになりながらそう確認すると、
医師は首を横に振ったー。
「あなたは何も悪くありませんー。
全部、”後藤 辰信”の仕業ですー。」
そう、言いながらー
「え…それって…ど、どういう意味ですか…?」
純恋が言うと、
「ー後藤 辰信に憑依されていたあなたが、
お父様のいる実家に火をつけたー…ーーー
ー警察からは、そう聞いていますー」と、
そう言葉を口にする医師。
それを聞いた途端、純恋は耐えきれなくなって
泣き叫び、パニックになってしまうー
「松川さんー落ち着いてー落ち着いて下さいー」
医師は慌てた様子でそう言葉を口にするも、
純恋は泣きながらその場に座り込んで、
今にも過呼吸を起こしてしまいそうなぐらいに
激しく動揺していたー。
「ーーわたしがーーわたしが、お父さんをー」
泣きながらそう言葉を吐き出す純恋ー。
「ー松川さんー。しっかりして下さいー。
あなたは”皮”にされて後藤 辰信に乗っ取られていたー
それだけなんですー。」
医師はそこまで言うと、
「ー包丁で人が殺されたとして、
その包丁を作った人や、メーカーが悪い、とはならないでしょう?
ーー松川さんは、何も悪くないー。
ただ、あなたは乗っ取られていただけです」
と、そう言葉を口にしながら、純恋を何とか落ち着かせようとするー。
その言葉を聞いた純恋は、まだ過呼吸になりそうな様子で
荒い息を吐き出すも、ようやく少し落ち着くと、
「ーーー……わたしーー…いっぱい悪いことしたんですかー?」と、
医師にそう確認するー。
医師は、戸惑いながらも
「ーあなたの”罪”は何もありませんー」と、そう言葉を口にした上で、
「あなた以外にも”皮”にされて身体を乗っ取られていた人たちがいて、
”皮”に関する法律が出来上がったんですー。
乗っ取られていた人間が犯した罪は、全て”その内側にいた人間”のものになる、とー」
と、そう説明するー。
純恋は、その言葉を理解はしつつも、
「でも、わたしがー…」と、”自分の身体”が恐らくたくさんの罪を
犯して来たのだろうと、そう思いながら
悲しそうな表情を浮かべるー。
「ーーーふぅー」
医師は大きく息を吐き出すと、
「いきなり、色々話をして申し訳ありませんでしたー。
今日はもうお疲れでしょうからー、
ゆっくり休んでください」と、それだけ言葉を口にするー。
純恋はまだ聞きたいことがあったものの、
疲れ果てた様子で「分かりましたー」とだけそう言葉を口にすると、
涙目で、そのまま表情を曇らせるー。
医師と女性看護師はそのまま頭を下げて
病室から出ていくと、病室には純恋が一人、
取り残された状態となったー。
「ーーーーー…」
窓の外を見つめる純恋ー。
本当にー
本当に、10年経過してしまったのだろうかー。
何か、悪い夢なのではないかー。
そんなことが、頭の中をぐるぐると駆け巡るー。
けれど、これは夢ではないー
医師が用意してくれたタブレットで、
ネットで色々な情報を見つめるー
10年前ー
好きだったアイドルグループは既に解散していてー、
10年前ー
楽しみにしていた少女漫画は、”続きが楽しみ”どころか
既に完結していたー。
いや、それだけではなく10年の間にその作者は亡くなっていたー。
ニュースも、10年前のニュースはとっくに過去のニュースになり、
純恋にとって”知らない話題”だらけー。
「ーーーー」
”10年間、身体を乗っ取られていた”というのは
嘘ではなかったー。
純恋はそう確信せざるを得ない状況に陥って、
悲しそうに涙を流したー。
そして、その翌日ー。
「ーー純恋ー……」
「ーーー!」
病室で、未だに現実を受け止めきれず落ち込んでいた
純恋の前に”見覚えのある人物”が姿を現したー。
その人物はーー…
純恋が乗っ取られる前ー
10年前、同じ高校に通っていた純恋の親友ー、
高野 晴美(たかの はるみ)だったー。
「は、晴美ー…?」
純恋は困惑の表情を浮かべながら、晴美を見つめるー。
10年前よりも、少し大人びた感じになっていると同時に、
少しあの頃よりも年齢を重ねたような感じも受けるー。
10代後半と20代後半ではやはり、
大抵の人が”全くそのまま”と、いうわけにはいかないー。
「ーーーー”正気に戻った”って、本当だったんだー…」
晴美がそう言葉を口にすると、
純恋は「ーーわ、わたしのことー…聞いてるの?」と、
そう返すー。
晴美は「うんー。病院の先生が教えてくれてー」と、
そう言葉を口にすると、
純恋のほうを見つめたー。
10年前ー
高校時代とは違い、眼鏡をかけている晴美を見て、
純恋は気まずい沈黙を打ち破るかのように、
「ー眼鏡…かけ始めたんだねー」と、そう言葉を口にするー。
「ーーえ?あぁー、うんー。
もう随分前だけど、視力が少し落ちちゃったからー」
晴美はそう言うと、
純恋は、”10年をちゃんと過ごして来た晴美”を見て
改めて悲しそうな表情を浮かべるー。
晴美はー、ちゃんと”この10年”を生きて来たー。
だから、10年分の変化があるー。
でも、自分はあの時のままー。
そもそも、乗っ取られていた純恋からすれば
目を覚ました今となっては
”一晩寝た”ような感じでしかなく、
10年も経過してしまったことは、やっぱり信じられなかったー。
「ーーーーー……」
純恋は戸惑いの表情を浮かべつつも、
意を決して「わたし…晴美に、何か酷いことした?」と、
そう言葉を口にするとー、
晴美は少し悲しそうな表情を浮かべながら、
「ーーーー急に学校で不真面目になったからー…
びっくりしちゃったけどー…わたしは直接何かされたってことはないよ」
と、それだけ言葉を口にするー。
「ー急に、不真面目にー…」
純恋は悲しそうな表情を浮かべるー。
晴美によれば、高校時代、乗っ取られた純恋は
急に不真面目になっていき、
見かねた晴美が”どうしちゃったの!?”と、そう言葉を口にしたのだと言うー。
しかし、純恋は”うるせーな”と聞く耳を持たず、
そのまま疎遠になってしまったのだと、晴美はそう説明したー。
「ーーー……ーーー」
そして、晴美は迷うような表情を浮かべた末に、
スマホを手にして、
「ーーこれーー…高校の時のー」と、そう言葉を口にすると、
”動画”を再生し始めたー。
高校近くの路地になっている部分で、
純恋が、おじさんに絡んで金を巻き上げる様子が映し出されているー。
”ーーお金出しなよーそうすれば見逃してあげるー”
邪悪な笑みを浮かべる制服姿の純恋ー。
「ーーーー!」
純恋は”乗っ取られているわたし”の映像を見せられて
震えが止まらなくなってしまうー。
当時、”急に純恋がおかしくなったこと”を心配していた晴美は、
偶然出くわしたこの場面を撮影して、先生に相談したのだというー。
「ー結局ー、純恋はそれでも好き勝手しててー
どうすることもできなかったけどー」
悲しそうに笑う晴美ー
純恋は震えながら「ごめんー…ごめんねー」と、
そう言葉を口にすると、
晴美は純恋の頭を優しく撫でながら、
「大丈夫ー。純恋が元に戻って、よかったー」と、
そんな言葉を口にしたー。
”後藤 辰信”ー
その男に奪われたのだという10年間は
もう戻ってこないー。
純恋は、晴美が去ったあとも
一人、病室の中で悲しそうに涙を流すことしかできなかったー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
次回が最終回デス~!!
辛い状況が続いてますネ~!!
明日、どんな結末が待っているのか
ドキドキデス…★!
今日もありがとうございました~~!

コメント