対策班に所属する女性刑事に憑依し、
情報収集を行う日々ー。
しかし、彼の心境には変化が現れ、
ついに裏切り行為を働いてしまうー。
正義に目覚めつつある彼ー。
その行く末はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー助けて!」
子供の声がして振り返る茉莉ー。
「ーーーー!」
そこには、少し前にご飯を食べさせてあげた子供と、
その父親ー、酒のニオイを漂わせた目つきの悪い男の姿があったー。
「ーーーーんだよ 姉ちゃんー。邪魔すんのか?」
少年の父親は、そんな言葉を口にするー。
茉莉に憑依している幸雄は、表情を歪めるー。
「ーー…お願い…助けて!」
子供がそう言葉を口にしながら、茉莉にしがみつくー。
「ーーうるせぇなー…”俺”は今、機嫌が悪いんだ」
茉莉は、自分の本性を隠すことも忘れて子供を雑に振り払うと、
”犯罪組織アビスを裏切ってしまった”自分の行動に
苛立ちながら、その場を立ち去ろうとするー。
どうしてー?
どうして、捜査官の女を助けてしまったのかー?
なぜーー?
そんなイライラを感じながら、そのまま立ち去ろうとする茉莉ー。
「やめてよ!」
子供の声が背後から響き渡るー。
「ーへへ…このクソガキがー。俺を避けやがってー」
父親はそんな言葉を口にして、乱暴に子供を連れ去ろうとするー
「いやだ!いやだ!離して!」
必死に逃げようとする子供ー。
そんな我が子に対して怒りを隠さずに、頬にビンタを喰らわせると、
「クソガキがー!」
と、酔っ払いの父親は罵声を浴びせるー。
がーー
「ーークソはお前だろ」
気付いた時には、茉莉に憑依している幸雄は、
その男の手を掴んで、鋭い視線を男に浴びせていたー。
「ーあぁ?邪魔すんじゃねぇ!」
酔っ払いの父親が声を上げるー。
茉莉に憑依している幸雄は、
犯罪組織アビスの下っ端ー。
それでも、それなりの場数は踏んでいるし、
喧嘩にも明け暮れてきたー。
こんな貧相な酔っ払いになど、負けないー。
それにー”女性刑事”の身体は、やっぱり動きがいいー。
酔っ払いの父親の攻撃をかわして、
「ー俺は今、イラついてるんだ!」と、声を上げると、
茉莉はその男に拳を叩きつけて、
ノックアウトしたー。
「ーーす、すごいー!」
子供が目を輝かせながら茉莉に近付いて来るー。
「すごい!!お姉ちゃん!すごい!!!」
そんな子供に対して、茉莉は表情を歪めると、
少し息を吐き出してから言ったー。
「ーお前ーー名前はー?」
そう呟くと、子供は「ぼ、僕ー?僕は亮太(りょうた)だよー」と、
そう言葉を口にするー。
茉莉は「ーーー俺ーいや、わたし、”警察”なんだー」と、
そう言葉を口にすると、
子供に暴力を振るおうとしていた父親に対して
「ー話は警察の方で聞かせてもらいます」と、そんな言葉を口にしたー
その男を連行し、ひと息ついた茉莉は
亮太に対して、
「大丈夫だったかー?」と、そう言葉を口にするー。
「ーーうん。ありがとうー
お姉さんは僕のヒーローだよ」
亮太はキラキラした目を茉莉の方に向けるー。
茉莉は、髪を掻きむしりながら「そんなんじゃないよー」と、
それだけ言葉を口にしたものの、
”人に感謝される喜び”を感じてしまっていたー。
「ーーーー」
”俺は、いったいどうしちまったんだー”と、
そう思いながらも、
今は”犯罪組織アビス”の一員として自分がやってきたことー、
そして、自分自身が今もアビスの一員として
悪事に手を染めようとしていることに
強い嫌悪感を覚えたー。
「ーーどうしたのー?」
険しい表情をしている茉莉を見て、助けられた少年ー、亮太が
そう言葉を口にすると、
茉莉は少し舌打ちしてから
「別にどうもしないよ」と、それだけ言葉を口にしてから、
「さ、家はどこだー?送っていってやる」と、
亮太を家まで送っていくために立ち上がったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
犯罪組織アビスー。
”やつら”を野放しにしておけば、
多くの人が傷つくー。
”今の”幸雄はそんな風に思ってしまっていたー。
茉莉の身体に沁みついた”正義感”に影響されたのかー
あるいは、幹部である龍夜を通じて提供された
”茉莉の思考を読み取れる薬”のせいで、それが暴走したのかー。
そんな中ー、
アビス対策班の班長である”宮根”から呼び出された
茉莉は、宮根班長から
先日の”罠にはめられた件”について問い詰められていたー。
捜査官の石島 暁人らが死亡した件ー。
元々、茉莉が手に入れた情報を元に任務を実行に移して
殉職者が出たことで、宮根班長は茉莉に色々と質問をしていたー。
「ーすみませんー。アビスの罠だとは気づかずー」
茉莉がそう言葉を口にすると、
話を聞き終えた宮根班長は穏やかに笑うー
「でも、2人だけでも無事でよかったー。
よく、生きて帰って来てくれたー」
リーダーとして、部下たちからも信頼されている宮根班長が
そう言葉を口にすると、
茉莉は「ーこれからも、アビスを壊滅させるために全力を注ぎます」と、
そう言い放って、宮根班長の部屋から退出したー。
「ーーーーーーーー」
一人残された宮根班長は少しだけ表情を曇らせると、
静かに何かを呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー…」
帰宅した茉莉は、自分の胸を揉みながら
欲望を楽しんでいたもののー、
少しすると、暗い表情を浮かべたー
「ーーあんたは、ああいうガキを守るために
頑張ってたんだなー」
鏡に映る茉莉を見つめながら、そう言葉を口にするー。
「ーーー…俺はー…」
茉莉に憑依した幸雄は、
茉莉の身体に憑依したことがきっかけかー、
あるいは実験中の薬を幹部の龍夜で投与したことがきっかけかー、
何らかの原因で、茉莉の身体に沁みつく正義感に強い影響を
受けてしまっていたー。
「ーーー…くそっーー…俺はー」
茉莉に憑依してしまったことを後悔する幸雄ー。
別にー、自分自身が影響を受けてしまったことを
後悔しているわけではないー。
こんなに、一生懸命悪と戦っていたであろう人間に
憑依してしまったことを、今の幸雄は強く後悔していたー。
「ーーせめてーーせめて、あんたのためにー、俺はー」
茉莉は鏡に映る茉莉に向かってそう言葉を口にすると、
”犯罪組織アビスを葬り去る”と、そう言葉を口にして立ち上がったー。
そしてーーー
茉莉は夜の街に出かけると、
夜景を見つめながらため息を吐き出したー。
”犯罪組織アビス”に歯向かった以上ー、
もう、自分は敵としてみなされているだろうー。
”俺は、消されるー
そう遠くないうちにー”
茉莉は、自分の手を見つめるー。
いかに、犯罪組織アビス対策班の人間とは言え、
犯罪組織アビスが本気で一人を抹殺しようとすれば、
上層部にいるわけでもない捜査官を一人ぐらい、
抹殺することはできるー。
それに、茉莉本人ではなく”茉莉に憑依した幸雄”とあれば
尚更だー。
だがー
その前にー
「ーーーーああいうガキが、将来、犯罪に巻き込まれないためにもー」
茉莉は拳を握りしめると、意を決したように歩き始めるー。
犯罪組織アビスのリーダー・魔崎と、幹部の龍夜を仕留めるー。
もちろん、それだけではアビスは崩壊しないー。
けれど、壊滅的打撃を与えることはできるー
特に、現リーダーの”魔崎”は危険すぎるー。
排除するべきだー。
「ーへへーまさか、俺がこんな風に正義に目覚めるなんてなー」
茉莉はそう言葉を口にすると、吸っていた煙草を吸うのをやめて
「この女の身体だとー、美味しくねぇなー」と、
少しだけ寂しそうに呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーご苦労ー」
魔崎は、”幸雄”の裏切りの報告を受けて笑みを浮かべていたー。
「ーーどうする?」
幹部の龍夜がそう言葉を口にすると
魔崎は笑いながら答えたー。
「ーーいいさー。元々”憑依”が与える影響と
実験中の新薬の影響のテストのために、
アイツを選んだんだー。
こうなることは、想定済みだー」
魔崎は、ワインを飲みながらそのグラスを机の上に置くと
笑みを浮かべながらグラスのほうを見つめるー。
「ーゴミでも、カスでも、使えるものは何でも使うー。
知ってるだろー?
ゴミにだって、利用価値はあるー。
この世の全てのものは”何か”に使えるんだー
あのチンピラも、お前も、このグラスもなー」
魔崎はそう言い放つと、
龍夜は少しだけ表情を曇らせてから、
「それで、身体側に影響を受けた裏切者はどうする?」
と、再びいつものような無表情に戻ると、龍夜は
そう言葉を口にしたー。
「言ったろ?何でも使い道はあるって」
魔崎はそれだけ言うと、笑みを浮かべながら立ち上がるー。
そして、拷問器具を手にしながら
「ー俺の”趣味”に使うさー」と、そんな言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー」
茉莉に憑依した幸雄は、犯罪組織アビスの本部を目指していたー。
”どのみち、このまま普通に過ごしていれば、俺は消されるー”
”死”は既に覚悟していたー。
このまま、茉莉の身体を乗っ取ったまま、茉莉ごと死ぬー。
けれどー
その前にーー
せめてー、罪滅ぼしとして、
犯罪組織アビスの現首領・魔崎だけでも葬り去るー。
「ーーーこいつに憑依したせいで、俺もーー影響を受けたってことかー?」
茉莉は自分の手を見つめながら呟くー。
けれどー、もしそうだったとしても
それでもいいー。
今はー”もっと早く”こういう気持ちになれれば良かったと
思っているのだからー。
”憑依して”茉莉の身体を奪ってしまう前にー、
正義に目覚めることができていればー。
「ーーー!!!!」
犯罪組織アビスの本部を目指して夜道を歩いていた茉莉が
人の気配を感じて振り返るー。
「ーーー?」
がー、その男は何事もなかったかのように
すれ違っていくー。
何かされた様子はないー
「ーーーえ…?」
がー、首筋にいつの間にか小さな”針”のようなものが
刺さっていたー。
「ーー!」
茉莉が咄嗟にそれを抜いて、投げ捨てるも、
すぐに身体に異変が生じるー。
「ーーーぐ……」
急激に力が抜けていき、その場に倒れ込む茉莉ー。
「ーーーーそ…そんなーーー」
”ここまで早く”魔崎が動くとは思わなかったー。
やつは、他人をいたぶることを趣味としているー。
まだ”消される”まで時間があると、そう思っていたのにーー
茉莉に憑依した幸雄はそう思いながら
「ーー俺が悪かったーーー」と、そう言葉を口にするー。
乗っ取ってしまった茉莉に対しての、謝罪の言葉ー。
もちろん、憑依されている茉莉に、
もうそんな言葉は届かないー
けれど、謝罪の言葉を口にせずにはいられなかったー。
すれ違った男が去っていくのを見つめながら、
乗っ取られた茉莉も、乗っ取った幸雄も、
そのままその場で生涯を終えてしまうのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”ーー依頼通り、処理に完了しましたー”
茉莉を仕留めたヒットマンの男からの連絡が入るー。
その言葉を聞いて
依頼人は”そうかーご苦労”と、だけそう言葉を口にして
そのまま連絡を終えるー。
そしてー、少しだけ溜息を吐き出すー。
「ーーー」
茉莉の様子が何だかおかしかったー。
犯罪組織アビスと”内通”していたか、あるいは”何か”されたかー。
いずれにせよ、茉莉の情報で
石島 暁人ら、有力な捜査官を失ってしまったー。
”不安要素”は取り除いておくに限るー。
「ーーーー」
アビス対策班の捜査官・茉莉の始末を依頼したのは、
犯罪組織アビス側ではなく、アビス対策班の班長・宮根班長だったー。
宮根班長は表向きは頼れる”班長”を装いながら
犯罪組織アビス撲滅のためには手段を択ばない冷徹な捜査官ー。
茉莉の行動・振る舞いに違和感を覚えた
宮根班長はその理由を確認することもなく、茉莉を始末したのだったー。
まさか”こっち側”から始末されるとは、
茉莉に憑依した幸雄も、思っていなかったのかもしれないー。
正義に目覚めた悪党はー、
こうして、目覚めた正義を振るうことができないままー、
命を落としてしまったのだったー。
乗っ取った茉莉の人生を、巻き添えにしてー…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーそうか」
部下から報告を受けた
犯罪組織アビスのリーダー・魔崎は
少しだけ残念そうな表情を浮かべるー。
用意していた拷問器具を空しそうに見つめると、
「ー対策班の班長とやらも、なかなかイカれてるな?」
と、背後にいた幹部の龍夜に対してそう言葉を口にするー。
そして、魔崎は立ち上がると、
「ーまぁいいー。最後に笑うのは俺たちだー」と、
それだけ言葉を口にして、闇の中へと姿を消すのだったー
おわり
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コメント
憑依したことで、正義に目覚める極悪人の
物語でした~!★
でも、周りも危険人物だらけで、
正義に目覚めたのに、子供を助けただけで
終わっちゃいましたネ~…!
お読み下さり、ありがとうございました~~!★
コメント
正義に目覚めましたが…子供にとってはヒーローですネ!☆
宮根班長なら何かやるなと思ってましたが…
しかも宮根班長側が消したとは…
さすが無名さんですネ!!
宮根班長も班長になるまでに上司も同じようなことをしてきたんでしょうネ!!
感想ありがとうございます~~!★
あの子にとってはいいお姉さんになれましたネ~!!
宮根班長も魔崎さんもいつかやっつけないとなのデス…!