”感染型憑依薬”を手に入れた男子高校生。
自分自身の魂をまるでウイルスのように周囲に広げていくことが
できるその憑依薬の力で、彼は欲望を満たしていくー。
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「ーーー学校のやつらも、そろそろ”感染”するんじゃねぇか?」
妹の千里が笑みを浮かべながら言うー。
千里には既に正彦の分身が憑依している状態で
感染型憑依薬の影響が出ているー。
「ーでも、一度俺の魂が”感染”したら、もう元には戻せないんだよな?」
正彦がそう言うと、
千里は自分の足を触りながら「へへー…まぁ、そうみたいだなー」と、
そう言葉を口にするー。
「ーってことはー…」
正彦は少し寂しそうに目の前にいる”千里”を見つめるー。
感染型憑依薬によって、正彦の分身に憑依されて
”正彦”になってしまった人間は、もう元には戻らないー。
一度、憑依した正彦の分身は、相手の身体に定着し、
その身体から抜け出すことはできないのだー。
「ーーー…千里にはもう会えないってことかー」
ふと、正彦は表情を曇らせるー。
千里も「ーーまぁ…そうなるなー」と、少し寂しそうにするー。
千里に憑依しているのは正彦の分身ー。
当然、正彦本人と”同じような思考”であるために、
共に寂しそうな表情を浮かべているー。
「ーーーー…うるさかったけどー
いざ、会えなくなると寂しいなー」
正彦は”感染型憑依薬”を使ったことを少しだけ後悔しながらも、
「ーへへ…ま、寂しい時は俺が千里のフリをしてやるからー」と、
千里に憑依した正彦の分身は笑うー。
「ーーーそれにーーこんな格好出来てるのも、千里の身体の
おかげだしな」
と、千里は制服姿の自分を嬉しそうに自慢するかのように
言葉を口にするー。
「ーははー…まぁ、母さんと父さんにはバレないようになー」
正彦はそう言葉を口にすると、
「そうだー」と、”母さんと父さんも俺になっちまったら困るから”と、
マスクを身に着けるのだったー。
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「ーー天坂さんに”俺”を感染させるためには
やっぱ、天坂さんと喋る機会を作らないときつくねー?
どのぐらいの感染力なのかは知らないけどさー」
翌日ー
学校で、隣の座席の女子生徒・恩田 由奈(おんだ ゆな)と、
正彦はそんな会話をしていたー。
”隣の座席”の由奈は、正彦の”魂”に感染ー、
正彦の分身に憑依されて、既に正彦自身となっていたー。
「ーーまぁ、そうだよなー」
正彦がそう言うと、由奈は「隣の座席の恩田さんには
数日で感染したわけだからー、感染力はそれなりには
あるわけだろ?」と、そう言葉を口にしながら、
「適当に話す機会作って、天坂さんと話すればいいんじゃね?
どうせ、感染すれば”俺”になるんだし、
どう思われたっていいだろ?」と、言葉を付け加えるー。
「ーーへへーそりゃそうだー
ちょうど俺もそう思ってたところだよ」
正彦はニヤニヤしながら言うー。
すると、由奈はため息を吐き出して、首を横に振るー。
「あ~くそっ、俺も災難だなぁー
せっかく女子になれたのに、恩田の身体なんてー」
隣の座席の由奈は、細い目つきで、
正彦から見ると”あまり可愛くない”タイプの子だー。
その由奈に憑依してしまった”分身”は、愚痴を口にするー。
「千里も”俺”になってるんだったよなー?
どうせなら千里が良かったなぁー」
由奈は、妹の千里の名を口に出すと、正彦は
少しだけ笑いながら、
「いやいや、俺なんかそのままの身体だぞ?」と、
由奈に対してそう言い放つー。
「ははーなら、女子の方がいっかー。
これから俺好みにしていけばいいんだしー」
由奈がそう言うと、正彦は「へへーそうそう」と、
そう言葉を口にしたー。
その日のうちに、正彦は意中の相手である
天坂 麻奈美に”話がある”として話しかけるー。
しかし、話の内容があまり思い浮かばずー、
しかも、麻奈美が”俺”になった時のことを妄想しただけで
ドキドキしてしまって、
なかなかうまく会話ができなかったー。
「ーあぁくそっー…こんな短時間じゃ、
俺の魂、移らないだろうなぁー」
そんな風に思っていると、
また、由奈が声をかけてきたー。
「ーなぁなぁー、そういえば、”感染型憑依薬”って、
”俺”からも移るのかなー?」
由奈が自分を指差しながら言うー。
「ん???」
正彦はそう言葉を口にするとー、
”あ、そっかー”と、ポン!と手を叩くー。
例えば、インフルエンザなら、
AからBに感染したら、AだけではなくBからも感染が広がっていくー。
この”感染型憑依薬”も、
正彦本人からではなく、
正彦から”正彦の魂”が感染した状態の千里や由奈からも感染が
広がっていくのだとすればー…
「ーへへ ここは”女子”である俺の出番だろ?」
由奈がニヤニヤしながら言うー。
正彦が、天坂 麻奈美にしつこく声を掛けるのは
変な目で見られるリスクもあるー。
しかし、由奈ならー…
「ー幸い、こいつ、天坂さんと結構話してたからなぁ」
由奈はニヤニヤしながらそう言うと、
「ーーよし!じゃあ、天坂さんに”俺を移す”のは任せた!」と、
由奈に対してそんな言葉を口にしたー。
がーーー
「ーーーあ」
正彦は、ふとある不安を覚えるー。
”俺”だけではなく、”俺”が感染した人々からも”俺”が
広がっていくのだとすればー…
そう思いつつ、あわてて妹の千里に
LINEを送るー。
”ー家では千里もマスクをしてくれるかー?”
とー。
”あ?なんだよ急にー”
千里からそんな返事が返って来るー。
LINEの画面の上方には、”憑依される前の千里”との
やり取りが表示されていて、
少しだけ寂しくなりながらも、
”千里からも”俺”が広がるかもだから、母さんと父さんに移るかも”と、
そう言葉を伝えるー。
”ーーあぁ、確かにそれはあるかもなー
母さんと父さんまで”俺”にするわけにはいかないしー
オッケー、今日から家ではマスクしてるよ”
千里からの返事に、正彦は少しだけ安堵するー。
がーーー…
遅かったー
帰宅すると、母の典江が
「俺、母さんになっちまったんだけど!」と、
そんな言葉を口にしながら駆け付けてきたー
「えー……う、嘘だろ?」
正彦がそう言うと、母・典江は
「う、嘘じゃねぇよー。母さんにも移っちまった」と、
そんな言葉を口にしたー。
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「え~…何でだよー
俺が家事をー?」
母・典江が不満そうに呟くー
「だ、だって仕方ないだろ?
誰かが家のことしなくちゃだし、
俺と千里は高校に行かないとだからー」
正彦が言うと、妹の千里は「そうそう」と頷くー。
すると、母・典江は不満そうに
千里を見つめると
「いいなぁー…若い身体でJKできるなんて」と、
母・典江に憑依してしまった正彦の分身は
心底不満そうに言葉を口にしたー
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翌日ー
「ーーマジかー…」
正彦は呆然とするー。
それもそのはずー
親友の北沢 俊太も”俺”になってしまったからだー。
「ーいやぁ、まさかー男に憑依する羽目になるとは思わなかったしー
北沢ともう喋れないと思うと、寂しいよなー」
親友の俊太とは、毎日のように話をしていたー。
それが原因で”感染型憑依薬”を飲んだ正彦の魂に感染ー、
正彦の分身体に憑依された状態になってしまっていたー。
「ーーー北沢とはもう喋れないし、
しかも俺は女になれなかったしー
踏んだり蹴ったりだぜ」
俊太がそう言うと、正彦は「ーで、天坂さんはー?」と、
そう言葉を口にするー。
がー、少し離れた座席の女子生徒が近付いてくると、
「まだ感染してないみたい」と、不満そうに言葉を口にしたー
「ーえ…あ、お、お前も”俺”?」
正彦がそう言うと、その三つ編みの女子生徒は頷くー
感染は確実に広がっているー
けれどもまだ、憧れの天坂さんには感染していなかったー。
「ーー天坂さんに近い子を、どんどん”俺”にしてきゃ、そのうち
感染するだろ?」
三つ編みの女子生徒がそう言葉を口にすると、
正彦は「そりゃそうだけどなぁ…でも、あんま俺ばっかになっても
気持ち悪くね?」と、苦笑いするとー、
親友の俊太が「だよなぁ」と、呟くー。
「ー別に、男子まで俺にするつもりはなかったしー
あまり広がりすぎるのもなー」
親友の俊太に憑依してしまった正彦の分身体は
そう言葉を口にするー。
「ー確かにー
ってか、せっかく憑依したのに男子とか、災難だよなー」
三つ編みの女子生徒が笑うと、
クラスの端っこにいつもいる髪がボサボサの男子生徒が
近付いてきて「俺なんか、マジでハズレだぞ!」と、
そう叫んだー。
感染は、確実に広がっているー。
憧れの天坂 麻奈美に感染するのも
きっと、”時間の問題”のはずだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーう、嘘だろー…?」
帰宅した正彦は戸惑いの表情を浮かべるー。
「ー嘘じゃねぇよー…
父さんも”感染”して俺になっちまったー」
妹の千里が、メイド服姿でそう言葉を口にするー
「えっ、って、何でそんな格好ー?」
正彦がそう言うと、千里は
「え?だって俺、メイド服好きだろ?」と、笑うー。
「母さんも父さんも俺になっちまった以上、
もう隠す必要はないしー
千里になってみるとこうー結構可愛いかなぁってー」
千里は笑うと、正彦は少し照れ臭そうにしながらも、
「ーーホントにもう千里はいないんだなって思うと少し寂しくなるよ」と、
心底寂しそうな表情を浮かべるー
「あ、そうそうー俺のー
っていうか、千里の高校の奴らも3,4人ぐらい感染して
俺になっちまったんだけどさー
一人、滅茶苦茶可愛い子が俺になってー」
千里がニヤニヤしながら言うー。
”分身体”との記憶は共有できていないー。
”相手に感染した時点”までの記憶を分身体は持っているものの
”その先”ー憑依してからの記憶はお互いに共有はできないー。
そのため、千里に憑依している分身体の”今”の状況は
正彦本体には、千里に聞かない限り分からないー。
「ーーあーー隣の家の人にも感染してたぜー」
母・典江がそう言葉を口にするー。
「えぇっ…」
正彦が表情を歪めると、
典江は「思った以上に感染が早いよなー。
ここまで”俺”を増やすつもりはなかったんだけど」と、
そう呟くー。
正彦は険しい表情を浮かべながら、
「ー”俺”が増えれば増えるほど、やばくねー?」と、
そう言葉を口にすると
「ってー、今日も冷凍食品かよ!」と、用意された晩御飯を
見つめながら叫ぶー。
すると、母・典江は
「いやいや、だって俺に母さんみたいな晩御飯用意できるわけないだろ!」と、
そう言葉を口にすると、
正彦も、千里に憑依している正彦も「それは確かにー」と、
そう静かに頷いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
「ーー今日はーーじ、自習で」
国語の女性教師がそう言葉を口にするー
クラスの半分がざわついている中、
正彦や、女子生徒の由奈ー、親友の俊太らは
別の意味で戸惑っていたー。
”正彦”の感染が先生たちにも広がり始めたのだー。
「ーさすがにヤバくねー?広がり過ぎだろ?」
由奈がそう言葉を口にすると、
眼鏡の真面目そうな女子生徒も
「さっき数えたらクラスの3分の2は俺になってるなー」と、
そう言葉を口にするー。
昨日までは黙々と勉強していたこの子も、既に正彦だー。
正彦はチラッと、”天坂さん”の方を見つめるー。
が、天坂さんには”まだ”感染していない様子だー。
「ーーて、天坂さんに感染するまでは我慢して
その後に対策を考えよう」
正彦がそう言葉を口にすると、
太った体格の男子生徒が「ーだな」と、頷くー。
正彦の分身体はウイルスのように伝染を繰り返しー、
感染型憑依薬の脅威が発揮されていくー。
が、正彦は次第にこの状況が怖くなり始めていたー。
そんな中ー
その3日後ーー
「ーへへへへ!喜べ!俺!ついに、ついにやったぞ!」
正彦が好きな子ー…
天坂 麻奈美がニヤニヤしながら、正彦の元に駆け寄ってくると、
「ーへへへ!ついに憑依で着たぞ!」と、麻奈美が嬉しそうに叫ぶー。
そんな麻奈美を見て、正彦も「マ、マジかー!?」と、
嬉しそうに声を発すると、
麻奈美は「早速キスしようぜ!」と嬉しそうにしながら、
そのまま正彦にキスをしたー。
「いいなぁー」
「くそっ!俺なんか男子に憑依させられたんだぜ」
「俺もブスだし!」
「俺なんか用務員のおっさんだぞ!!!」
正彦の分身体たちが、”麻奈美に憑依できた分身体”の幸運を
羨ましがるような言葉を口にする中ー、
正彦は、憧れの麻奈美とキスしながら嬉しそうな表情を浮かべるのだったー。
③へ続く
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コメント
次回が最終回デス~!★
どんどん”自分”が増えていく状況…
なんだか恐ろしいですネ~!
あ、そういえば今日は節分でしたネ~!
今年は2日が節分だそうデス~!!
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