<憑依>増殖を続ける「俺」①~感染型憑依薬~

”感染型憑依薬”

それを服用することで、自分の魂を増殖させて
周囲の人々に”飛沫感染”させることで
憑依していくタイプの新種の憑依薬ー。

そんな憑依薬を手に入れた彼は”俺”を増やしていくー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーなんだこれー…」

男子高校生の桧山 正彦(ひやま まさひこ)は、
スマホに表示された広告を見つめながら表情を歪めていたー。

そこにはー
”自分自身をウイルスのように他人に感染させることができる”
などと、そんな文言が表示されているー。

「ーーーー???どういう意味だー?」
戸惑いながら、正彦はその広告を凝視するー。

すると、そこには
”好きなあの子も、嫌いなあの子も、みんなあなた自身に
 他人の身体を乗っ取りまくりの夢の憑依を楽しめる”
などと書かれていたー

「ハッーなんだよこれーくだらねぇ」
正彦は、思わずその広告を鼻で笑うと、
「最近、おかしな広告増えたよなー」と、苦笑いするー。

がーーー
正彦は、しばらくスマホを操作していると、
ふと、”さっきの広告”のことが気になって
再びその画面を表示するー。

「ーーーーー…」
正彦はじっと、”感染型憑依薬、ついに登場”と
書かれた広告を見つめるー。

「ーーーもしーーもしもこれが本物ならー…
 天坂(てんさか)さんの中身も”俺”にできるってことかー…?」
正彦はそんな言葉を口にするー

天坂さんとは
同じクラスの女子生徒・天坂 麻奈美(てんさか まなみ)のことで、
正彦は、そんな麻奈美のことが密かに好きだったー。

がー、クラスのアイドル的存在である麻奈美と、
そこそこ友達はいるけれど、そんなに目立つ存在でもない自分が
付き合えるなどとは夢にも思っておらず、
その想いは伝えずにいたー。

がー、もしもこの”感染型憑依薬”とやらが本当に使えるのであれば
その天坂 麻奈美のことも”俺”にすることができるー。

そんなことを考えつつ、”感染型憑依薬”の広告をタップして、
その中身をじっくりと読み始める正彦ー。

「ーーー…」
妙に詳しく書かれている説明に目を輝かせながら
”まさか、本当に使えるのかー?”などと、
そんな言葉を口にするー。

購入ボタンを見つめる正彦ー。
正彦は、週に数回バイトをしていて、
バイトで稼いだお金は毎月、3分の1ぐらいしか使っていないために、
そのお金を使えば、買えないこともない金額だったー。

「ーーー」
”いやいや、でも絶対詐欺だろー”

憑依なんてできるはずがないー。
それに万が一できるとしても、
こんな怪しいものを使うのはー、と
自分の中の理性が”やめておけ”と、正彦にそう語り掛けるー。

自分の理性と欲望の狭間で揺れ動く正彦ー。

しかし、そうこうしているうちに、
正彦の妹である千里(ちさと)が、部屋にやってきたー。

「ーねぇ、もうご飯できてるよー」
千里が”いつものご飯の時間”になっても、いつまでも
自分の部屋から出て来ない兄・正彦に
半分苛立った様子を見せながら部屋まで迎えに来たのだー。

「ーーあ、あぁ、もうそんな時間かー悪い悪いー」
正彦がそう言いながらスマホを机に置くー。

「ーもうーー
 自分で降りて来てよねー。
 そうしないと、お母さんにわたしが呼びに行かされるんだから」

不満そうに呟く千里ー。

「はいはい」
正彦はそう言いながらも、2階にある自分の部屋から
1階に降りようと準備を始めるー。

「ーー!」
そんなー、”急かされているタイミング”で、
正彦はスマホに表示されているある文字を見てしまったー。

スマホの画面には
”残り3点ーお早めにご注文下さい”と、
表示されているー。

「ーーーやべっ… えっ…マジかー?」
正彦は”早くご飯食べに行かないと千里もうるさいしー”と
焦りながら、けれども悩んでいたら
”感染型憑依薬”がなくなってしまうかもしれないという焦りからー、
勢いで”購入手続き”をサッと済ませてしまうー。

「ーーあぁ、くそっ買っちまったー
 絶対損するだけなのにー」

”感染型憑依薬”などというものが本物だとはーー
思っていない。
どうせ、金をだまし取ろうとする詐欺広告だとー。

けれども、欲望に負けた正彦はそれを購入してしまったのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーへへー。
 また”天坂さん”のこと見てただろ?」

数日後の昼休みー。
弁当を食べ終わってのんびりとしていた正彦のところに
親友の北沢 俊太(きたざわ しゅんた)が声をかけてきたー。

「ーー見てねぇよー」
正彦は、少し気まずそうに目を逸らしながらそう言うと、
俊太は「へへー目を逸らすってことは見てたんだなー」と、
小さく笑うー。

「ーーっっ…」
図星だった正彦は、少し不満そうにしながらも
「ーー少しぐらい見たっていいだろー」と、そう言葉を口にするー。

俊太は「まぁ、そりゃそうだなー」と言いつつも、
「ーなぁ、知ってるかー?」と、そう続けると、
正彦にとっては”ショック”な言葉を口にしたー。

「天坂さん、少し前からA組の石田(いしだ)と付き合い始めたらしいぞー」
とー。

「ーーえっ」
正彦の顔が途端に青ざめていくー。

石田とは、生徒会書記を務める真面目な男子生徒だー。

「ーーい、い、石田とー!?マ、マジで!?」
思わず声を上げてしまう正彦ー。

そんな正彦の反応を前に「しーっ」と、仕草をしながら
俊太は「聞こえるぞ?大声を出すなよ」と苦言を呈すると
「ってことで、お前の片思いは実らずってことさー」と、
揶揄うようにして、そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はぁ…」
ため息をつきながら、帰宅した正彦ー。

すると、母親の典江(のりえ)が、
「あ、そういえば、何か届いてたよ~」と、
そう言葉を口にしながら、リビングの机の上に
置かれている小包の方を指差したー。

「ーーえ?何か届いてたー?」
”なんか頼んだっけ?”とそう思いつつ、
その荷物を確認すると、
そこには、あまり聞き覚えのない会社名と
テクノロジー事業部と、書かれているのが見えたー。

「ーーー」
思い当たるものがすぐに浮かばず、首を傾げる正彦ー。

が、やがてー

”あ、これーもしかして…”

そう思いつつ、小包を部屋に持って行き、
開封すると
その中に”感染型憑依薬”が入っていたー

紫色の透き通った液体ー。

それを見て、正彦は困惑の表情を浮かべるー。

「ーー…ほ、ホントに届いたー…
 ま、まぁ…でも……どうせこの液体ー
 ただのぶどうジュースとかなんだろ」

そう言葉を口にしつつも、
つい、心のどこかで期待してしまうー。

一瞬、その液体が”毒物”である可能性も
当然考えたものの、
それでも、欲望が勝って、
それを正彦は飲んでしまったー

味は、ほとんどしなかったー。
ただの水を飲んでいるような感じだー。

「ーーーー」
正彦はしばらく”何か起こるんじゃないか”と身構えていたものの、
やがて、大きくため息をついたー。

「なんだよー
 何も起こらないじゃないかー」
とー。

”やっぱ金の無駄だったか”

騙された、と思いつつ、正彦は不満そうに
感染型憑依薬が入っていたダンボール箱をゴミ箱のほうに
向かって放り投げるのだったー。

しかし、その数日後ー

「ーーー入っていい?」
妹の千里が、部屋にやってきたー。

普段、ご飯に呼びに来るなど、
用事がある時を覗いて、
滅多に自分から兄・正彦の部屋にやってくるようなことはない
千里が部屋にやってきたことに、少し首を傾げる正彦ー。

「ーちょっと、大事な話があるんだけどー」
千里は、高校の制服姿のままそう言葉を口にするとー、
部屋の扉を閉めて、中まで入り込んで来たー

「な、なんだよー急に改まってー」
正彦がそう言葉を口にすると、
千里は少し間を置いてから言葉を口にしたー

「ーー”感染型憑依薬”ってなにー?」
とー

「えっ!?」
正彦は驚くー。

「ーーーーな…なんでそれをー」
ギクッとする正彦ー

まさか、クラスの意中の子を”自分”そのものにして、
あんなことやこんなことをしようとしたなんて
絶対に言えないし、
そもそも、”感染型憑依薬”などというおかしなものを
ネットで購入したー、などと妹の千里に気付かれたら
それこそ色々な意味でヤバいー。

「ーーなんでってー…
 この前、届いてたダンボールにそう書いてあったでしょ」
妹の千里が不快そうに言葉を口にするー。

「ーー…えっ… …あっ…」
表情を歪める正彦ー。

数日前ー
高校から帰宅した際に、母親の典江から”何か届いていたよ~”と
言われた時のことを思い出すー。

そうー。
感染型憑依薬は、正彦が帰宅する前に家に届いていたー。
そして、妹の千里は確か、あの日、先に帰宅していたー。

”う、嘘だろー?ダンボールの伝票に感染型憑依薬って書かれてたのかー?”
震えながらそんなことを考える正彦ー。

「ーーねぇ、”感染型憑依薬”ってなにー?
 ネットでちょっと調べたら、変なの出て来たんだけどー」

不満そうに千里が、正彦に顔を近づけて来るー。

「ち、近いよー」
誤魔化すような言葉を口にしながら、
正彦がスマホを見つめるー。

そこには、感染型憑依薬を使って
欲望の限りを尽くしているという動画が表示されていたー。

”お、おいおいマジかー”
正彦は呆然とするー。

正彦も”感染型憑依薬”の広告を見つけたあの日ー、
後からネットで検索したが何の情報もなかったー。
しかし、その後、動画が出回ったのだろうかー。

憑依された子らしき人物が喘いでいる様子が
映し出されているー。

「ーーー……どういうつもりー?
 誰にこれを使おうとしてたのー?」
千里がそう言うと、正彦は青ざめながら
「お、お、お、俺は知らないしー」と、
明らかに挙動不審な反応を示し始めるー。

もはや、”俺が犯人です”と言っているに等しいレベルの
どうしようもない反応だー。

「ーー警察に通報するからー
 あと、お母さんとお父さんにも報告するー」
千里が不満そうに言いながら、そのまま部屋の外に向かうー

「け、警察…!?な、なんで!?」
思わず声を上げる正彦ー

「ーだって、こんなの犯罪でしょー
 他人の身体を好き放題するなんてー」
千里がそう言い切ると、
正彦は「は、は、犯罪!?いやいやいや、待てって!」と、
慌てた様子でそう叫びながら、
「ーーひ、人に憑依しちゃいけないなんて法律ないぞ!!」と、
必死に叫ぶー。

がー、その言葉に千里は
「あ~あ、認めちゃったね」と呟くー。

「ーやっぱ、”憑依”するつもりなんだー」
とー

「ーー……い、いや、待て待て待て!違う!それはたとえ話でー!」
半泣きのような状態で正彦が叫ぶとー
千里が部屋の外にそのまま出て行ってしまうー。

慌てて後を追いかけようと、
閉められた扉を開けて、自分も部屋から飛び出すー。

がー

「ーうわぁっ!?!?!?」
部屋から出て行った千里が目の前に立っていて、
驚いて声を上げながら尻餅をついてしまうと、
「ーな、な、な、なんだよ!?」と、
正彦は青ざめながら叫んだー。

「ーぷっーーくくー」
千里が突然笑い出すー

「ーははははははっ!なんてなー
 おいおい、そんなに慌てるなよー」
千里が突然、男のような口調で話し始めるー。

正彦は困惑しながら「え…??え…??こ、今度は何ー?」と、
そう言い放つと、
千里は尻餅をついた正彦に近付きながら言ったー。

「ー何寝ぼけてるんだよー
 ”成功”したんだよー。”感染”」
とー。

「ーーえっ…」
正彦が呆然とするー。

「ーへへへー安心しろよー
 ”千里”は何も知らないー。
 ちょっと”俺”を揶揄っただけだー」
千里がニヤッとしながら笑うー

「ま、ま、ま、まさかー…お、俺!?」
正彦が千里に向かってそう叫ぶと、
千里はニヤッと笑ったー。

「へへへーそうだよー
 ほら、飯の時とか一緒だし、
 部屋も近いだろー。
 千里に”俺”が感染したんだよー」

千里はそう言いながら、ニヤニヤと笑うー。

「ーな、な、な、なんだよ!!!驚かせやがって!」
正彦は叫ぶー。

まるでウイルスのように”自分”が感染していくー。
それが、感染型憑依薬ー。
その最初の”相手”となったのが妹の千里だったー。

千里に憑依した”正彦の分身”は、
本体である正彦を揶揄おうとあんなことを言ったのだー。
先程の動画は、憑依薬とは何も関係のないただのHな動画で、
正彦本体を驚かせるために、探してきたものだと、
千里に憑依した正彦の分身は説明したー。

「ーもうすでに学校のやつらの中にも”俺”になったやつがいるかもしれないぜ?」
千里がそう言うと、正彦は「へへーすげぇ」と、そう言葉を口にすると、
「ち、千里の身体でなんかしたのかー?」と、そう確認するー。

が、千里は
「ーー妹の身体でエロいことするのってなんか背徳感があってなぁ~…
 まだ揉んだぐらいしかー」
と、苦笑いするー

「へへー、やっぱそうだよなー」
正彦は”さすが俺の分身”と思いつつ、笑みを浮かべるー

そしてー
この日、正彦は”感染型憑依薬”が本物であると確信するのだったー

②へ続く

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今月最初のお話は憑依のお話デス~~!

明日はどんどん”憑依”の感染が広がっていくのデス…!

改めて、今月もよろしくお願いします~~!

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