”憑依能力”
それを使いこなすには”訓練”が必要だったー。
十分な訓練をせずに”憑依”することで、起こるトラブルー。
そのような事態を防ぐために訓練する場所ー
それがこの”訓練所”だったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー…!」
男は、表情を歪めたー。
「ーこれが”なれの果て”の一例ですー」
スーツ姿の女がそう言葉を口にするー。
彼女は、”憑依訓練所”の教官を務める人物ー、
明星 里奈(あけぼし さとな)ー
その彼女が、示した先にはー、
ピクピクと痙攣をしながら、涎を口元から垂らしている女がいたー。
激しく痙攣しながら、うめき声をあげているその女は、
とても正気には見えなかったー。
「ーーーーー」
教官・里奈に、廃人のような女の姿を見せられた男と、
その周囲にいる人々は、それぞれ、驚きの表情を浮かべたり、
困惑の表情を浮かべているー。
「ー”憑依”した際の、乗っ取られる側の”拒絶反応”によって、
廃人となってしまった例ですー。
こうなってしまうと、憑依された側だけではなく
憑依した側も、社会復帰が困難になって
使い物になりませんー」
里奈は淡々とそう言葉を口にするー。
「ーーー…憑依したやつも、”あの身体”から出られないってことですかー?」
男がそう言葉を口にすると、
教官の里奈は「ええ」と、頷きながら微笑んだー。
「ー乗っ取られた側も、乗っ取った側も、もう死んでいるも同然ー
そういう状態ですー」
里奈はそれだけ言うと、集まった”訓練生”の方を見つめたー。
「ー”憑依”は素晴らしい能力ですー
上手くいけば、”わたし”のように、こうして身体を完全に支配して
自由に意のままに使うことができますー。
でも、ちゃんと使いこなせないとー、
そこの廃人のような末路を辿ることになるー」
里奈はそれだけ言うと、
訓練生たちに「教室に戻りましょう」とだけ言葉を口にして、
”授業”が行われている教室へと戻っていくー。
訓練生たちが教室に戻ると、
里奈は笑みを浮かべながらスクリーンに
映像を表示したー。
「ー憑依の力を使いこなせていない場合、
今、皆さんにお見せした”廃人”になるケースのほかにも
色々な”失敗例”がありますー」
里奈はそう言うと、
スクリーンに”2つの事例”を示すー。
「ー例えば、この例ー
とある犯罪組織の男が、お金持ちのお嬢様・蘭(らん)に憑依したものの、
自分が自分であることを忘れてしまって、
今は自分のことを”蘭”だと思って生きていますー。
元々の蘭って子は、乗っ取られて意識を失っているけどー、
乗っ取った側の男が、自我を失って、
自分を蘭だと思い込んでしまっているー。
そんなケースですねー」
里奈の言葉に、訓練生たちは表情を曇らせるー。
他人の身体を乗っ取ることに成功しても、
”自分が自分であることを忘れてしまったら”
意味がないー。
”俺がこの身体を乗っ取ったんだ”と、自覚できるからこそ、
憑依の意味があるのだー。
「ーーそして、このケースは
”相手に取り込まれた”ケースですー。
下心から、女子高生に憑依したこの男はー、
逆に相手に取り込まれてしまって、
今は、この女子高生の身体の中で幽閉されている状態です。
たぶん、2度と表に出て来れることはないでしょうし、
この子が、そのことに気付くこともないでしょう」
映像を見せながら呟く
教官・里奈の言葉に、訓練生たちはゴクリと唾を飲み込むー。
”裏社会”に出回った憑依薬ー。
しかし、その憑依薬の扱いは難しく、
十分な訓練をせずに、
会得した憑依能力を使えば、自我を失ったり、相手に取り込まれたり、
乗っ取られる側が拒絶反応を起こして廃人になってしまったり…
様々なことが起こってしまうー。
そんな状況を見かねた憑依薬を流通させている犯罪組織が
複数の組織で共同で設立したのが、この”憑依訓練所”だー
「ーーー…へへー面白いじゃねぇかー」
腕組みをしながら、自信満々の笑みを浮かべる男ー
”一匹狼”として恐れられる岩城 大夢(いわき ひろむ)は、
そう言葉を口にしたー。
「ーー何が面白いんです?」
眼鏡をかけた、暗そうな雰囲気の男ー
栗島 秀介(くりしま しゅうすけ)が言うと、
大夢は笑みを浮かべたー
「つまり、弱ぇ奴は、憑依能力を使っても
相手の身体を乗っ取ることができねぇってことだー」
大夢はそう言うと、
「逆に言えば、強ければどんな身体も思いのままってことだなー?」
と、教官の里奈の方を見て言うー。
「ーーええー。
憑依能力を十分にマスターすればー
この通りー
どんな身体でも好きにできますよー」
里奈はニヤッと笑いながら自分を指差すー。
「ーーーへへー」
その言葉に、笑みを浮かべる大夢ー。
しかし、里奈は同時に”忠告”を口にするー。
「ただー…
求められる”強さ”は”心の強さ”ですー。
あなたの言うような単純な強さだけではありませんからー
そのことは忘れないようにして下さいー」
里奈の言葉に、大夢は「ケッ」と、少し不満そうに舌打ちするー。
そんな様子を見ていた訓練生の一人、
近山 宗吾(ちかやま そうご)は、ゴクリと唾を飲み込むー。
「ーーどんなに苦難が待ち受けていようと、
俺は必ず憑依をマスターしてみせるー」
そう言葉を口にする宗吾ー。
彼は、ある犯罪組織に所属する若手の構成員ー。
組織の中で”もっともっと上に行きたい”という野心を持つ彼は、
憑依能力をマスターして、組織の役に立とうと、そう考えていたー。
「ーーーこれから、1ヵ月間かけて、皆さんには”憑依能力”をマスターして貰いますー。
支配した身体を、わたしのようにちゃんと使いこなせるようにー、
皆さんも卒業目指して頑張ってくださいー」
里奈のそんな言葉と共に、宗吾の近くにいた
ツインテールの美少女が「ーー憑依能力ー、ドキドキしますねー」と、
宗吾にそう声を掛けるー。
「ーーえ?あぁ、はいーそうですねー」
宗吾は”この子も、どこかの組織の者かー?”と、少し首を傾げながらも、
「あ、俺は近山 宗吾ですー」と、軽く自己紹介するー。
「ーわたしは愛梨(あいり)!よろしくねー」
ツインテールの訓練生・愛梨はそう言葉を口にするー。
そしてー
”憑依訓練所”での、憑依能力をマスターするための訓練は始まったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーあなたの名前はー?」
里奈の言葉に、宗吾は「近山 宗吾ですー」と、そう言葉を口にするー。
「ーあなたの名前はー?」
何度も繰り返される問いかけー。
その都度、宗吾は「近山 宗吾です」と、答えるー。
「ケッーこんなん、意味あるんですかね?教官ー」
腕組みをしながら、大夢が言うと、
「ー言ったはずですー。憑依後に”自我”を喪失する者が何人もいる、とー。
あなたも、今のまま誰かに憑依すれば、
いずれ自分が”岩城 大夢”だということも忘れて
自我を失うことになるかもしれませんよー」
と、教官の里奈はそう言葉を口にするー。
「ーーーー…チッ、
俺はさっさと”実習”したいんだけどなー」
宗吾の言葉に、里奈は「実習に移る前に基礎訓練です」と、
冷たくそう言い放ったー。
「ーーー」
そんな宗吾を他所に、真面目に「俺は近山 宗吾ー」と、
自分の名を口にする宗吾ー。
「へっー真面目だなぁ」
大夢はあざ笑うようにそう言葉を口にすると、
面倒臭そうに自分の名前を呟き始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
睡眠時における脳波チェックー
憑依の仮想訓練を兼ねたVR憑依シミュレーター…
憑依の筆記試験ー
座禅による精神的なトレーニングー
あらゆる”授業”が行われていくー。
やがてー、
半月が経過しようとしたある日、
里奈は言ったー。
「ーおめでとうー
今日からみんなは、”実技”の訓練も行っていくことになりますー」
里奈のその言葉に、大夢は「やっとかー」と、ニヤニヤ笑みを浮かべるー
眼鏡をかけたガリガリの男ー、秀介も、少し嬉しそうにしているー。
「やりましたね!」
宗吾の隣にいたツインテールの訓練生・愛梨も嬉しそうに笑うと、
宗吾も「そうですねー」と、嬉しそうに頷くー。
「ーーでもよ、教官ー。
”訓練”って誰に憑依するんだー?」
大夢がそう言うと、
教官の里奈は「ーー”組織”が集めた”テスト用の身体”ですー」と、
そう答えるー。
「テスト用の身体ー?」
宗吾がそう言葉を口にすると、里奈は頷くー
「ー借金を抱えていた親から”回収”した娘や息子ー、
家出して、あてもなくさ迷っていた若者ー、
繁華街でたむろしていた若者ー
そういうところから”入荷”した備品です」
冷たい口調でそう呟く里奈ー。
「へーーへへ…」
いつも生意気な振る舞いの大夢も、少し引きつった
笑みを浮かべているー。
そんな様子を見て、里奈はクスッと笑うと、
「ー実習用の”身体”はもう、実習室に用意してありますから、
さっそく移動しましょう」と、そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーここが、実習室ですー」
教官の里奈がそう呟くと、そこには10名ほどの男女が
”用意”されていたー。
既に諦め切った目をしている者ー
虚ろな目つきで精神崩壊していると思われる者ー
昏睡状態に陥っているのか寝ている者ー。
手錠を掛けられて声を荒げている者ー
色々な姿が見えるー。
「ーこの人たちは?」
訓練生の一人、宗吾がそう確認すると、
里奈は「さっき説明した通りー、”色々なルート”で回収した
訓練用の身体ですー」と、そう言葉を口にするー。
「ーふ、ふざけないで!わたしを今すぐ解放して!!」
そう叫ぶ気の強そうな女ー。
教官の里奈はクスクスと笑いながら、
そんな彼女に近付くと、
「012ー。静かにしなさい」と、そう言葉を口にしたー
「な、何が012よ!わたしは美姫(みき)よ!」
012と呼ばれた美姫がそう叫ぶと、
「ーあなたは教習用の備品、012よー。黙りなさい」と、
教官の里奈はそう言葉を口にしたー。
なおも喚く美姫を名乗る女ー。
そんな様子を見て、訓練生のツインテールの女・愛梨が
少しだけ表情を歪めるー。
「ーーーー」
その様子に気付く宗吾ー。
そうこうしているうちに、里奈は喚く美姫を無視して、
訓練生たちの方を向いたー。
「これから、皆さんにはここにいる”テスト用の身体”に
憑依して貰いますー。
既に十分、訓練は積んだとは言え、初めての憑依ー
決して、油断しないようにして下さいー。
自我を失ったり、逆に取り込まれたりするのには
ある程度時間がかかることが多いので、
今日の実習では心配いりませんが、
拒絶反応は憑依直後に起きることがあるので、
意思が弱いと飲み込まれて、乗っ取った身体共々
廃人になりますー。
くれぐれも、そうならないようにー」
教官の里奈がそう説明しー、
さらに言葉を発しようとしたその時だったー。
「いい加減にしてよ!」
012と呼ばれた女・美姫が、背後でそう叫びながらー、
せめてもの抵抗として、教官の里奈に向かって唾を吐き捨てたー。
「ーーーーーーー」
唾が足に当たった里奈は、しばらく無言で立ち尽くすと、
振り返って、突然、美姫を蹴り飛ばしたー
「ふざけんじゃねぇぞ!この実験器具ごときが!」
今まで丁寧な教官として訓練生に接していた教官・里奈が
声を荒げて、美姫に殴る・蹴るの暴行を始めるー
「ーひっ…!?」
訓練生の眼鏡の男・秀介が驚いて声を上げるー。
が、教官の里奈はお構いなしに
「テメェは、借金まみれの父親に”売却”されたんだ!
お前にもう自由なんてないんだよ!!」
と、声を荒げながら、美姫の髪を引っ張るー。
ボロボロになった美姫が頷くと、
里奈はため息をついてから、振り返るー。
「ーーと、ごめんなさいねー
”012”みたいな不良品もありますけどー、
まぁ、みんなには今から憑依の実習をしてもらいますー」
にこっと笑う里奈ー。
「ーー…」
ゴクリ、と唾を飲み込む宗吾ー。
その横では、ツインテールの訓練生・愛梨が険しい表情を
浮かべているー。
「ーーへへへーじゃあ、まずは俺から行かせてもらうぜー」
”一匹狼”として恐れられている訓練生・大夢がそう名乗りを上げると、
「ーじゃあ教官ー。俺はその”不良品”に憑依していいか?」と、
自分から憑依相手を指名するー。
「ー構いませんよー。教えたことを忘れずに、油断しないように」
里奈がそう言うと、
大夢は「へへー俺を誰だと思ってやがるー」と、
そう言葉を口にしながら、”憑依”の力を使い、012こと美姫に憑依したー…。
②へ続く
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今月最初のお話は、
”憑依の訓練”を行うお話デス~!!
憑依能力を使いこなすのも、
なかなか大変そうですネ~!
続きはまた明日デス!!

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