<憑依>デジタル空間で生きる父①~意識~

研究者の父は、自らの寿命を悟ると
自らの意識をデジタル空間へと転移させたー。

そんな父との生活を続ける息子ー。

が、やがてデジタル空間で生きる父は
生身の肉体を欲するようになっていきー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーただいまー」

男子高校生の篠宮 恭輔(しのみや きょうすけ)は、
いつものように帰宅すると、そう言葉を発したー。

しかしー
この家の中にはたった今、帰宅した恭輔以外は
”誰も”いないー。

この家に今、いるのは帰宅したばかりの恭輔だけだー。

がーーー
この家には”父”がいたー。

少しすると、巨大なコンピューターが起動し、
そのコンピューターの近くに設置されている
モニターに、恭輔の”父”の顔が表示されたー。

”おかえりー恭輔ー。今日は雨で大変だったなー”

父・竜司(りゅうじ)は、
そう言葉を口にするー。

モニターに表示されている父・竜司は、
まるで映像付きで通話しているかのように
自然な形で動いているーー

しかしー……
父・竜司はもう、”死んでいる”ー。

竜司は今から3ヵ月ほど前に、
病気によって命を落としているのだー。

ただしー…
死んだのは”肉体”だけで、
”精神”は死んではいないー。

父・竜司は昔から色々な研究をしていた研究者で、
一般的にはあり得ないような、特殊な装置や発明も
繰り返していたような人物だー。

実際に父・竜司が発明したものの中には、
今、世の中でたくさん使われているような技術も存在していて、
母は小さい頃に亡くなり、父も”死んだ”今でも、
こうして恭輔が高校に通い、普通の生活を続けることが
できているのは、
その父の発明による収入が未だにあるからだー。

が、そんな父・竜司は
”世間には公表していない自分の好奇心を満たすだけの研究”も
いくつもしていて、
そのうちの一つが、”人間の精神をデータとしてネットワーク上に
転送する”と、いうものだったー。

つまり、人間の魂をコンピューター上に移し替える、と言う研究だー。

ただ、その研究はまだ完全には完成していなかったー。

しかし、そんな中、父・竜司は病に倒れ、
自分の死期を悟った竜司は
まだ未完成だったその研究を使いー、
肉体を捨てて、自分の魂をコンピューター上に転移させたのだったー。

その結果ー、竜司の肉体は急激に衰弱ー、
程なくして死亡し、
人間としては”死んだ”ことになっていたー。

ただ、その父・竜司は今でもこうして
コンピューター上に存在していて
”肉体がない”こと以外は、
生前と何も変わらない状態が続いているー。

「ーー今日、雨の予報じゃなかったからびっくりしたよー」
学校の荷物を片付けながら、恭輔は
苦笑いしつつ、そう言葉を口にすると、
モニターに表示されている父・竜司は
”そうだなぁ…確かに、朝の時点では雨の予報はなかったなー”と
ネット上の情報を探りながらそう言葉を返すー。

「ーそういや、父さんーもうすぐ誕生日だったよなー…?
 ーー……何か欲しいもの、あったりするー?

 ーその状態だと、何あげていいか今まで以上によく分からないけどー」

冗談めいた口調で、恭輔はそう言いながら
学校の片付けを終えると、そのまま冷蔵庫の方に
飲み物を取りに行こうと歩き出すー。

がー
そんな恭輔の後ろ姿に向かって、父・竜司は
静かに言葉を口にしたー。

”ーー生身の身体”
とー。

「ーーえっ?」
冷蔵庫からジュースを取り出していた恭輔が
少し戸惑ったような表情を浮かべつつ、振り返ると、
モニターに表示された父・竜司の顔が少しだけ”揺らいだ”気がしたー。

しかし、すぐに竜司は笑みを浮かべると、
”ははははー、冗談だよ、冗談ー。”と笑い飛ばして見せるー。

そんな様子を見て、恭輔は「はははー、だよなー」と、
そう言葉を口にしたものの、
恭輔は少しだけ不安を覚え始めていたー。

最近、父・竜司は”生身の身体が欲しい”と、何度かそう言葉を
口にしているのだー。

最初の頃は、そんな発言をすることはなかったー。

もちろん、ただ単に自分の肉体を失って、
コンピューターの中にデータとして意識が残っている状態に
”慣れて”冗談を言う余裕が出来た、と、
いうことなのかもしれないー。

そうは思いつつも、恭輔は少しだけ不安な日々を
送っていたー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜中ー

コンピューターが起動し、
何やら複雑なプログラムのようなものが
表示されているー。

「ーーーーzzzzz…」
しかし、息子の恭輔は寝静まっていて、
そのことには気付いていないー。

モニターに父・竜司の顔が表示されて
竜司は左右を見渡すような動きをしてから、
恭輔が寝ていることを、カメラを使って確認すると、
その顔が再び消えて、モニター上に
謎のコードが表示され始めるー。

そのコードの多くは、常人には
理解することも出来ない、
意味不明な文字の羅列だったー。

大量の文字や数字が表示される中、
一つの単語が不気味に揺らぎながら表示されるー。

そこにはー
”BODY SWAP”と、そう表示されていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー。

「ーーお邪魔しま~す…」
恭輔と同じ高校に通う彼女で、
幼馴染の沼内 麻奈美(ぬまうち まなみ)が、
恭輔の家にやってきたー。

恭輔は、そんな麻奈美を家の中に招き入れると、
麻奈美は家の中を見渡しながら
「懐かしいなぁ~…小さい頃はよく遊びに来たもんねー」と、
そう言葉を口にするー。

その言葉に、恭輔も
「ははー、よく父さんの変な発明で遊んでたよなー」と、
当時を懐かしみながらそう言葉を口にすると、
麻奈美は「それで、お父さんはー…?」と、
少し緊張した様子で言葉を口にしたー。

恭輔の家に遊びに来るのは久しぶりの麻奈美ー。

小さい頃からお互いを知る間柄である二人は、
よく互いの家を行き来していて、
麻奈美も、小さい頃はよくここに遊びに来ていたー。

ただ、最近はなかなかお互いの家に遊びに行くような
機会はなく、幼馴染から恋人同士になった後も、
恭輔の家に来るのはこれが初めてだったー。

「ーーあぁ、父さんなら、そこだよー」
恭輔はそう言うと、巨大な機械と、
そこに繋がれたモニターを指差して見せるー。

「ーー…本当に、お父さんがいるのー?」

既に、恭輔から父・竜司の死と、
竜司の今の状況は聞かされている麻奈美。

今日は、その話を聞いて好奇心と、
”久しぶりに挨拶しておこうかなー”と、そんな思いから
遊びに来ていたのだったー。

”ーーー麻奈美ちゃんじゃないかー。久しぶりー
 随分大きくなったなぁ”

モニターに父・竜司の顔が表示されて、
麻奈美は少し驚いたような表情を浮かべるー。

それと同時に「こ、こんにちはー…」と、麻奈美はそう言葉を口にすると、
”ははは、急に驚かせてすまないねー。
 恭輔からもう聞いているとは思うが、
 今はこんな状態でねー”と、父・竜司は
モニターの向こうで笑いながらそう言葉を口にするー。

その姿だけを見ていると、恭輔の父・竜司は今も存命で、
どこか違う場所から映像を通してやり取りしているように、
そんな風にも錯覚してしまうー。

がー、恭輔の父・竜司は
もう”この世”にはいないー。

”それにしても、麻奈美ちゃん、
 しばらく見ない間に可愛くなったなぁ”
父・恭輔がそう言葉を口にすると、
麻奈美は少し照れ臭そうに「あ、ありがとうございますー」と、
そう返しながら頭を下げたー。

「ー父さん、部屋の方に行ってるから、何かあったら連絡して」
恭輔は少しだけ笑いながらそう言葉を口にすると、
父・竜司は”わかったー”と、そう返事をしながら、
”ーま、二人の時間を楽しんでくれ”と、そう言葉を付け加えたー。

父・竜司は、ネットを介して電話を掛けることもできるため、
離れた場所にいても、連絡を取ることが可能だー。

「ーーじゃあ、足元気を付けてー
 色々ケーブルとかあるからー」
部屋に案内しつつ、恭輔は麻奈美にそう呟くと、
部屋に向かっていく二人を見つめながら
父・竜司は静かに呟いたー

”生身の身体ー”
とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

部屋にやって来た麻奈美と恭輔は、
小さい頃とあまり変わらない様子で
楽しそうに雑談したり、一緒にスマホで動画を見たり、
恭輔の部屋にあるゲームで遊んだり、
そんな時間を過ごしていくー。

大きくなっても、恋人同士になっても、
元々が幼馴染同士だからか、
昔とあまり変わらない姿がそこにはあったー。

そんな中、
「あ、飲み物なくなっちゃった」と、
家に来た時に恭輔が用意してくれた飲み物を
全部飲み干してしまったことに気付いた麻奈美ー。

「ーじゃあ、入れて来るよー。何がいい?」
恭輔がそう言葉を口にして立ち上がると、
「ーあ、大丈夫ー。冷蔵庫の場所は知ってるし、
 わたしが行ってくるー」と、麻奈美は穏やかに
笑いながらそう言葉を返すー。

「ーーははー、じゃ、足元気をつけてなー」

「うん」

そんなやり取りを終えて、部屋から出た麻奈美ー。

恭輔の父・竜司の意識が転送されている
コンピューターも置かれている部屋に行くと、
そこの一角にあるキッチンのようになっている場所の
冷蔵庫の前に行き、ジュースを取り出すー。

がー、その時だったー。

”麻奈美ちゃんー。ちょっといいかなー?”
コンピューターに備え付けられているモニターに
恭輔の父・竜司の顔が表示されて、
麻奈美にそんな声を掛けて来たー。

「ーあ、はいー。どうかしましたかー?」
麻奈美は穏やかに笑いながら、父・竜司のコンピューターに
近付くと、
”そこのケーブルをつなぎたいんだー。手に持ってもらえるかな”
と、竜司がそう言葉を口にしたー。

「えっと、これですかー?」
コンピューターの周りに垂れ下がっているたくさんのケーブルから
そのうちの一つを手にすると、
”そうそうーそれだよー”と、竜司はそう答えるー。

「ーこれを、どこに繋ぐんですか?」
麻奈美は穏やかに笑いながら、そのケーブルを手にしたまま
竜司の方を向くー。

が、その時だったー。

”麻奈美ちゃんにー”
その言葉と同時にケーブルが突然、麻奈美の耳に飛び込むようにして動くと
「えっ…!?」と、驚いて麻奈美がそのケーブルを振り払おうとするー。

しかし、既に手遅れで耳に入り込んだケーブルから
”竜司”の意識が、転送され始めるー。

”ーー悪いね麻奈美ちゃんー
 生身の肉体がどうしても欲しいんだー”

竜司はそう呟くも、既に麻奈美は膝をついて、
白目を剥いたままピクピクと言葉を口にしているー。

「ーーせ、せ、せいしん…転送処理…実行中…」
麻奈美がロボットのようにそう言葉を口にするー。

同時に、竜司が宿っているコンピューターのモニターには、
”精神転送”と、そう書かれているー。

「ーーひ…… ぅ……
 て、て、て、転送ー…80パーセント…」
ビクンビクンと痙攣しながら麻奈美がそう呟くと、
しばらくして、「ーー100パーセント」と、
麻奈美は静かにそう呟いたー。

ゆっくりと立ち上がる麻奈美ー。

「ーーー…ごめんね麻奈美ちゃんー
 でもーーふふー
 生身の身体だー」
麻奈美はニヤリと笑みを浮かべると、
”転送完了”と表示されたモニターの方を見つめるー。

耳から乱暴にケーブルを引き抜くと、
少し耳から血が出たのに気付いて
麻奈美はそれを自分の指につけると
ペロリと自分の舌で舐めるー。

そして、コンピューターの前に行くと、
麻奈美はコンピューターのキーボードを操作し始めるー。

「ーーふふふふー
 生身の身体ーー」
麻奈美に自分の精神を転送した竜司は、
麻奈美の身体を乗っ取って、生身の身体を手に入れた喜びを噛みしめるー。

しかしー…
その時だったー

「ーーな…何をしてるんだよー…父さんー…」

「ーー!?」
麻奈美が驚いて振り返ると、
そこには”戻って来るのが遅いなー”と、心配して
部屋から様子を見に来ていた息子・恭輔の姿があったー…

②へ続く

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コメント

デジタル空間で生きる父親に憑依されてしまった彼女…!

なんだか、大変なことになってしまいそうですネ~!!

続きはまた明日デス~!!

続けて②をみる!

「デジタル空間で生きる父」目次

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