ある日、憑依薬を手に入れた男ー。
十分な準備をして、
目当ての子に憑依したー
…はずだったー。
しかし、その瞬間を目撃されてしまいー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ー憑依薬ー?」
男性会社員の久保田 茂樹(くぼた しげき)は、
ネット上で”憑依薬”と、呼ばれるものを見つけたー。
茂樹は、30代後半の独身男性ー。
趣味は少なく、友達も少なく、
時間を持て余していたー。
そんな彼が暇つぶしに”女になりたい”みたいなワードを
ネットで検索していたところ、
”異性になる方法”として宣伝されていた
”憑依薬”にたどり着いたのだー。
そのサイトには”憑依薬”の説明が
詳しく書かれていたー。
それによれば、
文字通り、”他人に憑依することができる”というものだったー。
「ーマジかー」
思わず、そう呟く茂樹ー。
もしも、憑依薬を使って美少女の身体を乗っ取ることができるならー
人生、大幅に変わるかもしれないー。
自分のセピア色みたいな人生が、
一気にカラフルな人生になるー。
その当時、生まれてはいないが、
モノクロだったテレビがカラーになるような
そんな感動を味わえるかもしれないー。
茂樹はそんな風に思ったー。
がー
「ハッ!こんなものが現実にあるなら、の話だけどな!」
そう笑い飛ばすと、茂樹はいつも通り、晩御飯の
冷凍食品を作るために、開封した冷凍のえびピラフを電子レンジに
放り込むー。
彼の食事はほとんどが冷凍食品だー。
今の世の中は便利だー。
独身で、料理が苦手でも簡単に美味しい料理を食べることができる。
昨日はナポリタンを食べたし、
一昨日はグラタンを食べたー。
電子レンジがあれば、何でも食べることができるのだー。
「ーー俺にとっちゃ、電子レンジが嫁みたいなもんだぜ」
得意気な表情でそう呟いた茂樹ー。
だが、次の瞬間ー、
購入してから既に10年以上が経過していた電子レンジが
変な音を立ててー
そのまま壊れてしまったー
「!!!!!」
えびピラフを加熱し始めて40秒ー。
まだ無情にもえびピラフは凍っているー。
「ーくそが!離婚だ離婚!」
電子レンジをぺしんと叩いて、不機嫌そうに再びパソコンの前に
戻ると、
「あ~一つぐらい面白いことはねぇのかなぁ」と、
再び憑依薬の説明を読み始めたー。
”憑依薬”は機密故に、販売はネットではなく
特定の場所で実際に対面で売ると書かれているー。
その金額は現金一括で10万円ー。
高額ー
にも思えるが、
逆に”憑依”などという恐ろしいことができる薬が
10万円と考えると、非常に破格な気がするー。
「ーーー………」
どうせ、この場所に行くとヤバいやつらが
待ち構えていてボコボコにされるのだろうー、と
思いつつも、茂樹は「まぁ…どうせ大した人生じゃないし」と、
記載されている連絡先に、電話を入れたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
憑依薬を販売している業者に連絡した際に
指定された場所にやってきた茂樹ー
かなりボロボロの雑居ビルの一室にあった
事務所に入ると、
そこにはボサボサの髪のがさつそうな男が
待ち構えていたー
その辺にいそうなごく普通の、いい加減そうな雰囲気の男で、
悪そうにも見えないし、強そうにも見えないー。
「ーお、あんたがこの前連絡くれた久保田さん?
お、悪いー
ちょっとまだ昼飯食ってる最中だからー
そこの椅子、適当に使って待っててくれー」
そう言うと、男は奥に行き、
待つこと10分ー
事務所の方に戻ってきて「悪いなー、ははっ!」と、
笑いながら、「憑依薬、だったよな?」と呟くー。
電話した際に求められた”履歴書”や”年収が分かるもの”などを
手渡すと、男はそれを確認して「よし」と頷くー。
そしてー
男は”容器に入った飲み薬”のようなものを持ってきて
言い放ったー
「これがその憑依薬だよ」
とー。
「ーーーーー」
憑依薬をじっと見つめる茂樹ー。
「ー毒入りの変なシロップじゃないか、って
疑ってんだろ?」
男はそう言うと、
「ーまぁ、安心しろよー
これはホンモノだー。
俺みたいな胡散くせぇのが言っても信じないかもしれねぇけど」
と、言葉を口にしたー。
「ーーー…いや、まぁー」
茂樹が戸惑っていると、
男は憑依薬の説明を始めるー。
憑依薬を飲むと、自分の身体は消滅して霊体になるため、
元の身体には戻れないことー
一度憑依したらその身体からは抜け出せないことー。
ただし、もう一度憑依後の身体で憑依薬を飲めば
乗り換えはできることー、
などを順番に説明していくー。
「一度きり…か…。じゃあ、失敗はできないな」
茂樹が言うと、
男は「へへ、そうだな」と、笑うー。
「だからまぁ、あんたにピッタリな子を紹介してやるからー、
その点は安心しなー
俺は”憑依相談”も担当してるからさー。
”ハズレ”は引かせねぇ」
茂雄は色々説明を聞いたあとに、
少し考え込んでからー、
「ーーよしー買います」と頷くー
「へへ、そうこなくちゃー
あ、そしたら先に、支払いをお願いしようかな」
男が、憑依薬の代金として10万円を請求すると、
茂樹は銀行から下ろしてきた10万円を男に手渡したー。
「はは、確かにー」
男は10万円を確認すると、憑依薬を刺激に手渡しー、
”憑依相談”を始めるー
「、表向き人材の斡旋とかの仕事をしててさー
色々、人間の情報が入って来るんだよー。
だから、まぁ、あんたの好みがわかりゃ、
最適な相手を紹介してやれるぜ?」
男の言葉に茂樹は自分の希望を次々と伝えていくー。
「ーふんふんーJKかJDの金持ちで可愛い子かー」
男はそう言うとパソコンをいじりながら
”5人ほどの候補者”を表示させたー。
どの子も可愛く、茂樹の好みだー。
「ーー…あぁ、でも、この子は家庭環境にちょっと問題があるのとー
こっちの子はメチャクチャ貧乏な家庭でー」
男は5人のうちの2人にそう付け加えるー。
「ーーそ、そうなんですかー。
じゃあー…」
茂樹は迷った挙句ー、
「女子高生だと実家暮らしで面倒臭そうなんでー…
この、一人暮らしの女子大生の子にしようかなー」と、
言い放つー。
「ーお~ 福村 佳純(ふくむら かすみ)ちゃんねー。
いいんじゃないかー
じゃあ、通ってる大学と、住所を送るからー」
その言葉に、茂樹は
「あの、本当に10万でいいんですか?」と確認するー
後からお金を搾り取られたりするのはごめんだー。
「ーーん?あぁ、俺たちはそんなあくどい商売はしないさー。
へへー、10万以上は求めないし、架純ちゃんに憑依したあとの
あんたは自由だから、安心しなー」
その言葉に、茂樹は安心した様子で頷いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、その翌日ー
茂樹が”憑依”を実行する時がやってきたー。
憑依薬を飲み終えて、霊体となった茂樹が
やってきたのはー
とある大学ー
だが、昨日紹介された福村 佳純ではないー。
彼女とは別の大学に通う、
野森 絵梨花(のもり えりか)に
憑依することにしたのだー
裕福な家庭のお嬢様で、
とても可愛らしい子だー。
絵梨花が一人暮らしであることも確認したし、
大人しい性格の絵梨花はそこまで幅広い交流がないことも
大学で確認したー
あまり交流が広いと、
”憑依したあとに豹変した”と周囲から思われやすくなり、面倒臭いー。
「ーーーー」
茂樹は周囲を見渡すー。
大学も薄暗くなりー、
人の気配があまりない場所を絵梨花が歩いているのを確認した
茂樹はーーー
そのままーーー
一思いに絵梨花に自分の霊体を重ねたー
「ーーぁっ…!」
ビクンと震えて、持っていたノートを落とす絵梨花ー。
ふらっとよろめきながらも、
何とか倒れずにバランスを保った絵梨花は
すぐに自分の手を見つめたー
「うわっ…まさか…本当に…や、やべぇぞこれ…」
手を開いたり、閉じたりするー。
単純にそれをするだけでも
”自分がこの子の身体を動かしている”ことを
実感できて、激しい興奮を覚えるー。
しかも、興奮するのは自分自身ではなく、
絵梨花の身体がー
こんなに可愛い子が変わりに興奮するのだー
「ま、まさかこんなー…
憑依薬がマジだったなんてー
うへ…へへへへー」
絵梨花はニヤニヤしながら自分の胸を軽く何度か揉んで
振り返るとー
背後にーーー
「ーーーー…え……えり…か?」
「ーーー!!!!」
別の女子大生の姿があったー
”憑依したときには、いなかったはずなのにー”と、
咄嗟に思うと、
”憑依の瞬間を目撃された”ことを悟るー
「ーーー……い、今ー…何かが、絵梨花にー…
そ、それに…今、何してたのー?」
その子の言葉に、絵梨花に憑依した茂樹は
すぐに「え…あ、え、、え、演劇の、れんしゅう!」と
不自然な口調で叫ぶー。
だが、相手の子は戸惑いー、
そして、言葉を口にしたー
「ー今、何かが絵梨花の身体に入っていくのが見えたんだけどー…
ほ、本当に…絵梨花ー?」
その友達の言葉に、
絵梨花は険しい表情を浮かべるー。
正直、”この子の名前”も分からないー。
茂樹の予定ではー、
憑依に成功後、絵梨花のことを色々と調べて、
絵梨花に最低限、なりすましながら裏で
欲望の生活を送るつもりだったー。
もちろん、絵梨花の記憶を奪うことができない以上、
”絵梨花に100パーセントなりきること”はできないー。
しかし、
”何か最近変わったね”ぐらいで済ませることはできるはずだー。
誰かの様子が変わったとしても、人は
”憑依された”なんて思うことは、まずないだろうー。
なのにー
「ーーーえ、絵梨花ー?」
友達かー知り合いかー
いずれにせよ同じ大学に通う女子大生に目撃されてしまった
絵梨花に憑依した茂樹は困惑したー。
「ーー……そ、そんなわけないでしょ。気のせいだよ」
絵梨花が普段、どんな喋り方をしているのかは知らないー。
だが、これからバラ色の人生が始まるんだー
裕福な家庭のお嬢様として、
欲望に満ちた人生を送るんだー。
「ーーー…絵梨花ー…じゃないー…」
その女子大生が呟いたー。
「ーー…」
絵梨花は表情を歪めるー
「あなた、誰ー…?」
その子の言葉に、絵梨花は表情を引きつらせながら
「何言ってるの?どこからどう見ても、わたしは絵梨花でしょ!」と、
そう言い放つー。
「ーーーーー違う…絶対に違う!」
その子はなおも食い下がるー。
「ーーー……ちょっと、失礼だよー?」
”せっかく憑依できたのに、面倒臭そうな子に目撃されてしまった”
そう思っていたせいか、少し苛立ち混じりの口調でそう呟く絵梨花ー。
「ーーー違うってなに?だったらわたしは何?
わたしは絵梨花以外の何だって言うの?」
絵梨花に憑依した茂樹はそこまで言いながら
”やべっ、少しきつく言いすぎてるかも”と、
余計に疑われることを懸念しー、
相手のほうを見るー。
相手の女子大生は困惑の表情を浮かべながらもー、
「だって今ー…絵梨花の中に、男の人の幽霊みたいのが
入って行ったもんー」と、食い下がるー
”くそっー…こいつ、完全に見てやがったー”
霊体になった状態では、普通の人には見えてない感じだったが、
この女は一体なんだー?
そう思いつつも、絵梨花に憑依した茂樹は
”落ち着け、俺”と、自分に何度も言い聞かせるー。
この女が仮に、騒いだところでー
”憑依”なんて誰も信じやしないー
「ー気のせいでしょ!見間違えでおかしなこと言わないで!」
絵梨花はだんだんとイライラしてきてそう言い放つと、
そのままその子を放置して歩き出したー
「ーーあぁ…この子の家に帰ったら触り放題…
何をしてもいいんだ…
へへへへー
しかもー…どんなことだって言わせることもできるんだー…」
絵梨花は一人暮らしー。
帰宅後の”欲望の時間”を頭の中に思い浮かべながら
茂樹は、絵梨花の身体で下品な笑みを浮かべたー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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せっかく憑依したのにその瞬間を目撃されてしまった彼の運命は…!?
続きはまた明日デス~!
今月もよろしくお願いします~!☆
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