憑依する決定的瞬間を目撃されてしまった男ー。
お金持ちのお嬢様である女子大生の身体を奪ったもののー、
”その瞬間を目撃されてしまったこと”が
彼にとっての唯一の誤算だったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ぁぁぁぁあ…すっげぇ…」
帰宅した絵梨花は鏡の前で胸を揉みー
鏡に映る自分にキスをしてー、
変なポーズを取ったり、
さらには”茂樹”に告白させたり、
わざと乱暴な言葉を口にしたりー、
卑猥な言葉を叫ばせたりしたー
こんなに可愛い子が全て
”自分の思うがまま”に動くー。
これほどまでの興奮は、この世には存在しないだろう、と
茂樹は思いながら、
絵梨花の身体でさらに自分自身に告白させたり、
愛の言葉を言わせたり、
茂樹の苗字である”久保田”を名乗らせてみたりして、
顔を真っ赤にしながら、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるー。
この日は、一晩中、寝ることすら忘れてー、
やがて、エッチなことを初めて、一人で絶頂を迎えー、
お風呂ではじっくりと身体の観察も行いー、
さらには絵梨花の自宅にあった色々な服を着たりして、
ファッションショーも楽しんだー
だがー
絵梨花の家には過激な衣装の類はなく
”ごく普通”の、比較的落ち着いた感じの服が
多かったために、物足りなさも感じー、
色々な服をネットで注文したー
「ーえへへへへぇ…」
メイド服を選びながら、思わず涎を垂らしてしまう絵梨花ー
「やべぇやべぇ、完全にエロオタクみたいな顔になっちまったー」
ニヤニヤしながら涎を拭きとると、絵梨花は
ドキドキしながら、さらに色々な服をネットで見つめるのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「絵梨花!」
大学にやってきた絵梨花は、
背後から声を掛けられて振り返ったー。
早朝から大学に向かう時間にかけて
絵梨花に憑依した茂樹は
絵梨花のスマホのLINEやメールのやり取り、
絵梨花のパソコンに保存されていたあらゆるもの、
大学の案内やノート、そういったものを徹底的に確認したー。
欲望の時間をまだまだ過ごしたかったが
今後、絵梨花として生きていくためには
そういうことも必要だったー。
「ーーーー…」
だがー
絵梨花になった茂樹の”唯一の不安”と言えるのがー
この女子大生ー
昨日、”絵梨花が憑依された現場”を目撃した子だったー
「ーーー……髪型、いつもと違くない?」
その子のそんな言葉に、絵梨花は表情を歪めるー
「今日は、気分転換にー」
本当は、茂樹が大好きなポニーテールをいち早く
試してみたかったため、ポニーテールにしてしまったのだが、
この友達はー
それすらも疑っている様子だったー
”こいつはー
どうやらこの女とは一番仲良かった子らしいなー”
茂樹は心の中でそんなことを思いながら舌打ちをするー。
彼女は、絵梨花の友人である、
橋野 奈美(はしの なみ)ー。
絵梨花のLINEのやり取りから、その名前や
とても仲良しだったことを知ったー。
その奈美に”憑依現場”を目撃されてしまったのは
非常に厄介極まりないー。
「ーーー絵梨花のフリをしないで!」
奈美が決めつけるようにしてそう言い放つー。
”この女ーー鬱陶しいなー”
絵梨花は苛立ちを顔にも浮かべながら、
奈美のほうを見つめるー。
「ーーえ、絵梨花のフリって言ったってー
わたしが絵梨花だしー…」
絵梨花がそう答えると
「違う!絶対に絵梨花じゃない!」と、
奈美が言い放つー。
”くそっ!どこからそんな自信がー”
絵梨花はさらにイライラしながらも
それを押さえて言葉を続けるー。
「ーそんなこと言われても~…
ホントに、絵梨花なんだけど~」
今にもキレそうになりながらも
我慢してそう口にするー。
「ーでも、わたし、見たから!
変な男の人の幽霊みたいのが、絵梨花の中に入っていくのを!」
「ーーーー」
まさか”霊体”が見えるとは意外だったー。
だが、そんなこと騒いでもー、無駄だー
「ーーー…奈美、頭おかしいんじゃないの!」
絵梨花に憑依している茂樹はイラッとしてそう言い放つー。
「ーそういうこと言われると、わたしも不愉快!」
それだけ言って立ち去ろうとすると、奈美はさらに言葉を続けたー
「ーー憑依薬ー」
とー。
「ーーーー!!!!」
目を大きく見開いて、鬼のような形相をする絵梨花ー。
絵梨花本人が、こんな恐ろしい顔をしたことがあるのだろうかー。
いや、今はそんなことはどうでもいいー
「ひ、ひ、憑依薬ー?」
絵梨花は困惑しながら背後を振り返るー。
奈美は、そんな絵梨花を見て、
「わたし、騙されないから」と呟くと、
「ま、まさかこんなー…
憑依薬がマジだったなんてー
うへ…へへへへー」
と、奈美が言葉を口にしたー
「ーーー!!!」
絵梨花が青ざめるー。
昨日、”絵梨花に憑依した直後”に、茂樹が
絵梨花の身体で呟いた言葉だー。
まさか、それまで聞かれていたとはー
「ーー憑依薬って、なに?」
奈美が明らかに怒ったような口調で、
絵梨花に詰め寄るー。
「ーだ、だ、だからぁ…え、演劇の練習だってー!」
昨日言ったことを繰り返す絵梨花ー。
だがー、
しかしー
「ー徹夜で色々調べたの」
奈美がそう言いながら”憑依薬”に関して
ネットで調べたことを絵梨花に突き付け始めるー
「ーあんたが誰だか知らないケドー
これは、犯罪よ」
奈美が強い口調で言うー。
絵梨花はチッ、と舌打ちをすると、
「だから、わたしは絵梨花だって言ってるだろ!」と、
ついカッとなって声を荒げてしまったー
「絵梨花はそんなこと言わない!」
奈美の反論に、絵梨花は「ふん!一人で勝手に言ってなよ!」と
不愉快そうに立ち去っていくー
「何を騒ごうと無駄だ!
憑依なんてー、憑依なんて、誰も信じやしないんだー」
絵梨花は歯ぎしりをしながら一人そう呟くと、
奈美を無視して、一人で大学の構内を移動し始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーうああああああ…か、可愛すぎるぅぅぅぅう」
帰宅後ー
メイド服を身に着けて鏡の前に立った絵梨花は
あまりの可愛さに、顔を真っ赤にして
手で顔を覆っていたー
「ーふぁぁぁ…俺の身体なのに、直視できないー
ふぁぁ…」
語学力を失ったかのように、そんな言葉を何度か
呟くと、ようやく手を顔から離して
再び絵梨花のメイド服姿を見つめるー
「ーーあぁぁぁ…わたし…かわいい…♡」
絵梨花の身体が激しくゾクゾクしているのを感じながらー
「ーーダメだ…我慢できないー」と、
はぁはぁ言いながら姿見に抱き着いて、
狂ったように一人、キスを始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーねぇ、絵梨花ー…
最近、奈美が変なこと言ってるんだけどー」
数日後ー
奈美とは別の、絵梨花の知り合いから
大学内でそう声を掛けられたー
「変なこと?」
絵梨花が振り向いて、その同級生のスマホを確認すると、
奈美が親しい友達にLINEで”絵梨花が変な男に憑依されてるの!”と
必死に言いふらしているのが確認できたー。
「ーあっ、あははは!憑依?何それ!あはははは!」
怒りと笑いがこみ上げてくるー。
思わず笑いながらも絵梨花は、
”あの女…邪魔ー…!”と激しい怒りを燃やすー
”この女は俺のものなんだー
あんな女に邪魔はさせないー”
だがー
それからも奈美は、絵梨花が憑依されている、ということを
周囲にどんどん伝えて、憑依薬のこともさらに深く調べ始めていたー。
さらにはーー
「ーー”口止め料ー”?」
絵梨花が表情を歪めるー。
「ーそう。絵梨花のお父さん、お金持ちでしょ?
これ以上、わたしに憑依のこと、調べてほしくなかったら、
お金、ちょうだい?」
奈美の言葉に、絵梨花は表情を曇らせるー。
”なんなんだこの女ー?
今度は金の要求かー?”
絵梨花に憑依した茂樹は、返事を”保留”するも、
帰宅後、怒りに任せてエッチを行いながら、
ふと、思いつくー
「だいたいあいつ、何で俺が憑依した場にいたんだー?
まるで知ってたかのようにー…」
憑依薬を販売していた業者からオススメされた子とは
別の子に憑依した茂樹ー。
それは”業者に憑依した相手を知られている”状態が
なんとなくいやだったからだー。
しかしー
「ーーーーーー…あいつー…まさかー」
絵梨花は怒りの形相を浮かべるー
奈美と”憑依薬を売っていた業者”はグルなのではないかー。
そんな仮設が頭の中に浮かぶー。
10万円なんて安すぎると思ったんだー。
10万円という安い価格で憑依薬を売り、
憑依の現場を協力者に”目撃”させ、
そして、金銭を要求するー。
そうすれば、あの業者は、大儲けすることになるー。
奈美は、母親しかおらず、生活は苦しいと、
過去のLINEの履歴に書かれていたー。
”憑依薬を安価で売り、憑依する場面を協力者に目撃させ、
憑依のことを黙っている代わりにと金を要求、
協力者を通して金を儲けるー”
それが、あの業者の正体なのではないかー。
「ーーーくそっ!でも、あの奈美って子をどうこうすることはできねぇ」
絵梨花は怒りの形相で机を叩くー。
あの子の命を奪えばー
いくら女子大生の身体とは言え、そのまま犯罪者になってしまい、
その価値は失われるー
だからと言って、事件沙汰にならずに始末する方法も浮かばないー。
「ーーくそっ!くそっ!くそっ!」
不機嫌そうに何度か机を叩くと、絵梨花は
「あぁ、イライラしてたら腹が減った」と、近所のコンビニに向かおうと、
着替えてから、家の外に向かったー。
”短いスカートで夜の街を歩くー”
そんな経験も、絵梨花に憑依した茂樹にとっては
初めての経験ー。
この何とも言えないー
”頼りなさ”がまた、たまらないー。
このスースーした心もとなさがたまらないー
「ーあの奈美って女ー…
憑依薬を売ってたあの業者とグルの可能性も高いからなー
近いうちに確かめてみるかー」
コンビニに向かう道路を歩くー。
しかしー
その時だったー。
反対側からやってきたチャラそうな男がー
いきなり、絵梨花の首に何かを打ち込んだー。
「ー!?」
そしてー
絵梨花はそれが何かを理解する前にー
その場に崩れ落ちて、
あとはもう、何も分からなかったー。
人通りの少ない夜の路上に、目を見開いたまま
倒れ込んでいる絵梨花が
発見されたのは、それから1時間ほどが
経過したタイミングだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー」
憑依薬を販売した際に茂樹と対面した
がさつそうな男が、
事務所で枝豆を食べながらテレビを見つめているー
”昨夜ー、相次いで女子大生の遺体が発見された事件でー、
二人が同じ大学に通っていたことが先ほど、分かりましたー”
テレビのニュースがそう伝えー
昨夜、遺体で見つかった二人の顔写真と名前が
テレビに表示されるー
”野森 絵梨花”
”橋野 奈美”
昨夜ー
特殊な薬剤の入った注射器を打ち込まれて即死した絵梨花ー。
その数十分後には別の場所で絵梨花の友人で、
絵梨花に金を要求し始めていた奈美も同じ男に
注射器を打ち込まれて即死ー
二人は相次いで遺体として発見されたのだー
「ーダメじゃんかー。憑依した現場を見られるなんてー」
憑依薬を販売した男は枝豆を食べながら静かに呟くー。
「ー悪いけど、憑依薬の存在が表に出ちゃ困るんでなー」
男はーー
”裏社会の暗殺者”に依頼して、昨夜
憑依された絵梨花と、絵梨花が憑依された場面を目撃した奈美の二人を
始末したー。
絵梨花に憑依した茂樹は
”奈美とこの業者”が繋がっているかも、と考えていたもののー
実際には、憑依薬を売ったこの業者と奈美は何の接点もなく、
”偶然”奈美が憑依現場を目撃し、
当初は絵梨花を助けようとしていたものの、生活苦に苦しんでいた奈美は
”憑依された絵梨花からお金を巻き上げられそう”と、考えてしまい、
先日から絵梨花に金を要求し始めていた…だけのことだったー。
だがーー
”憑依薬を売った業者”からすれば、
”憑依を目撃されるというどうしようもないヘマを犯した茂樹”とー、
”憑依薬のことでゆすりを続ける奈美”を放置しておくわけにはいかずー、
”始末”したのだったー。
「ーーせっかく、新しい人生を送れるはずだったのに、
残念だったなー」
テレビに映し出されている絵梨花の顔写真を見つめながら
販売業者の男はそう呟くと、
「ーー憑依するときゃ、まず周囲をしっかり確認しろー」と、
一人呟いてからー
「ま、今更言っても遅ぇよな」
と、一人笑い、そのまま事務所の奥へと歩いて行ったー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依した瞬間を目撃されてしまったお話でした~!☆
目撃さえされてなければ
上手く誤魔化して思うがままに生活することも
できたかもしれませんネ~!
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
奈美は憑依の瞬間を見て、憑依人を問い詰めるまではいいのですが、途中から憑依されてる友人そっちのけで、揺すってお金を取ろうとしたのは人として、ろくでもないので、始末されちゃったのは、因果応報、自業自得という感じがしますよね。
ところで、憑依する状態の霊体を奈美が見えたのは、霊感があったとか、そういう理由なんですかね?
途中からお金のことばっかりになっちゃう友達…★
確かに最後の結末は仕方のないことかもですネ~!
憑依する瞬間が見えたのは
ただ単に憑依薬がそういう仕様だっただけですネ~笑