”脳移植”を専門とする移植病棟ー
”数々の失敗”に目を瞑りながら
実用化された脳移植に迷いを抱きながら、
脳移植外科医である彼女は、今日も手術を続けるー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
脳移植外科医の紀香は、今日もオペを行っていたー。
今日は、とある大企業の社長の男の”脳”を、
自ら”ドナー”に志願した女子高生の身体に移植する手術だー。
”自らドナーに志願する”ー。
それは、”身体”あるいは”脳”を提供する人間を
増やすために、世界各国が話し合い、導入された世界基準の法律ー。
自ら”死”を望む人間は、”ドナー”に自ら志願して、
”自分の身体”あるいは”脳”を買い取ってもらうことができるー
そんなシステムだー。
それによりー、世界は”脳”の提供者ー、
あるいは、”脳”を移植する先の”身体”の提供者を
確保していたー。
今日、大企業の社長の男の”新しい身体”として提供されたー、
墨谷 萌愛(すみたに もえ)という子も、
そうして”ドナー”となった子だったー。
彼女は、2度にわたり、自ら命を絶とうとした末に
両親・本人の同意の元、”移植される脳に身体を提供するドナー”となり、
両親にはその報酬が支払われたー。
逢坂院長は言うー。
「ー”死にたい”と願っている本人にとっては合法的に
誰にも迷惑をかけず、感謝されて人生を終えることができるー
彼女の両親も、大金が手に入り、その後の生活が潤うー。
そしてー、その身体を使って、神崎(かんざき)社長も
新しい人生を送ることができるー。
倫理的とか、人道的とか、そんなことよりも結果なんだー。
死にたい墨谷さん本人は楽になり、
ご両親は金を手にし、
神崎社長は身体を手にするー。
Win・Win・Winだ。 分かるね?」
とー。
「ーーーー」
しかし、紀香はどこか納得が行かない表情のまま、
萌愛の身体から”萌愛の脳”を摘出ー。
そして、神崎社長の”脳”を萌愛に移植していくー。
”脳側”を救う手術の場合、
ドナーとなる身体からは”脳”の大部分を摘出するー。
”萌愛”の脳は摘出され、萌愛はこの時点で
死んだも等しい状態になるー。
残されるのは”脳”と”身体”を繋ぐ部分のみー。
そこに、救う側ー…今回の場合は”神崎社長”の脳を移植していくー。
反対に今回とは違い、”身体側”を救う手術の場合、
元の人間の”脳”は、異常のある部分以外を残し、
ドナー側の、移植する脳に調整手術を行った上で、
必要な部分のみを取り出し、助ける人間い移植する方法で
脳移植手術を行うー。
「ーーーーー」
紀香は助手に的確な指示を下しながらも、
険しい表情を浮かべるー。
紀香は、納得していなかったー。
今回、”脳”を移植して救う相手ー
神崎社長は”色々と黒い噂のある”大企業のトップだー。
そんな社長が、金にモノを言わせて、
まだ若い少女の身体に自分の脳を移植しようとするー。
そんな状況に嫌悪感も感じたー。
紀香は、今回の手術を逢坂院長から言われた際に、
”現在、30代男性のドナーもあります。そちらの方に移植しては?”と、
そう提案したー。
しかし「ーー彼は女性への移植を希望している」と、
そう言葉を口にすると、
「ー神崎社長の希望である以上、我々は患者である彼の希望通りにするだけだ」と、
そう続けたのだー。
不満そうな表情を浮かべながら、
手術を続けていく紀香ー。
最初は”人の命を救うため”だとそう思っていたー。
紀香の妹が、小さい頃に脳の病気で若くして命を落としていて、
今の技術ー、”脳移植手術”があれば助かった事例でもあったことから、
紀香は数年前に脳移植手術が実用化される前から、
既に導入予定となっていた脳移植手術を学び、腕を磨いて来たー。
それが、多くの人々を救うことになると信じて。
もちろん、純粋に救われている人々もいるー。
けれど、脳移植外科医として働き始めて見た実態はーー
”金持ちの娯楽”のようになっている状況ー。
神崎社長は60代であるものの、身体は至って健康だー。
脳移植を直ちにする必要性はない。
しかし、”美少女になりたい”という私利私欲から
大金にモノを言わせて、脳移植手術を受けているー。
「ーーー」
”わたしの描いた世界は、こんな世界じゃなかったー”
紀香はそう思いつつも、
どうしようもない現実を受け止めながら、
神崎社長の脳を、萌愛に”移植”する手術を無事に終えたー。
「ーーーーーーー」
そんな、紀香の様子を院長室のモニターで
じっと確認していた逢坂院長ー。
「ーーーーーーーーーーー」
逢坂院長は、手術中に紀香が時折見せる
”迷い”のような表情を決して見逃さなかったー。
「ーー君は外科医として優秀だー。
スキルもあるー。
だがーーー」
逢坂院長はそう言葉を口にすると
険しい表情を浮かべながら言葉を続けたー
「だがー、心が穏やかではないー」
とー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー。
女子高生・萌愛に脳移植された神崎社長は
萌愛の身体を事実上、乗っ取った形で目を覚まし、
嬉しそうにしていたー。
「ーはははは!
これからは君にもいい思いをさせてやるからな」
萌愛が、手術を受ける前とは別人のような様子で、
部下の男にそんな言葉をかけつつ、
”わざと”その男に自分の胸を当てているー。
「ーーーー神崎社長ー」
思わず、萌愛になった神崎社長に声をかけてしまった紀香は、
「ーあまり、そういったことはー」と、そう指摘するー。
がー、
萌愛になった神崎社長は
「その名前で呼ばないでくれるー?わたしは墨谷 萌愛なんだから」と、
不満そうに言葉を口にするー。
「ーーーーー失礼しましたー」
一応、患者相手であることから、
感情を抑えて、紀香がそう言葉を返すと、
萌愛は笑みを浮かべながら言うー。
「ーこの身体はもうわたしのものなんだからー
わたしが自分の身体で何をしようと勝手でしょ?」
とー。
「ーーーー」
紀香は怒りを堪えて、
「ー移植直後に、極度の興奮に晒されると
副作用が出る可能性がありますので」と、そう指摘する。
が、萌愛は
「ーうるさいよー。”おばさん”」と、
舌打ちしながら言うと、部下の男と共に、
そのまま立ち去っていくー。
「ーーーー…っ」
萌愛に脳を移植された”神崎社長”は60代ー。
まだ30代の紀香からすれば”おじさん”、
いや”おじいさん”と言ってもいい相手だー。
その相手から”おばさん”と言われたことにー
そして、何よりも若い子の身体を好き放題しているような様子を見て、
紀香は苛立ちを覚えていたー。
そしてーー
それから数日ーーー
「ーー佐倉先生ー」
少し前に、紀香が移植手術を行った
”杉島 純一”…ドナーがその時は女子大生の身体しか存在せず、
止むを得ず、女子大生・清美に脳移植された純一が、
退院の日を迎えて、挨拶をしてきたー。
「ーーーあ、杉島さんー」
紀香は穏やかに笑うー。
彼はー、杉島純一はコツコツと貯金していたお金で、
脳移植手術を希望していた男で、
善良な一般人ー…と言う感じの人物だー。
彼自身、”同性の身体”を希望していたものの、
不本意な形で女子大生・清美になってしまいー、
今の状況にある。
しかし、神崎社長とは違い、清美になったあとも、
清美の身体で欲望塗れの行動をしたりするわけではなく、
”女として生きていくにはどうしたらいいか”を真剣に考え、
勉強している様子も入院中に見ていて、
紀香も、こういった”脳移植で純粋に救われた人”が退院していくことは
嬉しく思っていたー。
「ーーお元気になられたようでよかったですー。
慣れない性別での生活は大変だとは思いますがー、
もし、大変なことがあればまた診察を受けに来てくれれば
いつでも相談に乗りますよ」
紀香がそう言うと、清美になった杉島純一は、ぺこりと頭を下げて
お礼を口にしたー。
「そうですねー。まずは外で男子トイレに入らないように気を付けますー。
病院でも、何度もやらかしたので」
清美が苦笑いしながら言うと、
紀香は「ふふー」と、穏やかに笑うー。
がーー
そんな”清美になった純一”が去り際に
ある言葉を口にしたー。
「そういえば、佐倉先生ー。
先日の手術ー」
清美がそう言うと、紀香は少し不思議そうな表情を浮かべるー。
神崎社長を女子高生・萌愛に移植したあのあとー、
紀香は病院内の廊下で一人、悔しそうに佇んでいたー。
その姿を、清美は偶然目撃していて、
紀香のことを心配していたのだー。
「ーーーー恥ずかしいところを見られてしまいましたねー
申し訳ありません」
紀香は苦笑いしながらそういうと、
清美になった純一は「いえー、僕も気持ちは分かります」と、
そうした上で続けたー。
「ーー実は、一昨日偶然聞いてしまったのですがー」
リハビリのために病院内をよくウロウロしている清美は、
”ある話”を聞いたのだと言うー。
それはーー
「ーー先生が、あの社長を移植した身体ー
墨谷 萌愛さん、でしたっけー?
あの子ー、本当は死のうとなんてしてなかったって
話ですよ」
清美のその言葉に、紀香は「えっ?」と、表情を歪めるー。
「ー実は、あの子の父親が神崎社長の会社から借金をしていて
返済できずー、
強引に”娘さん”をドナーにさせられたのだとー…
ーー昨日、社長と会社の人らしき人が話していましたー」
清美がそう続けるー。
紀香は唖然としながら
「じ、じゃあ、あの子はー…強引に身体を奪われたってことー?」
と、そう言葉を吐き出すと、
清美は、困惑した表情を浮かべながら静かに頷いたー。
”この世界は、汚いー”
脳移植手術は、権力者や財力を持つ者が、
”強引に”移植先の身体を確保して、
身体を奪うケースもあるー。
”一部”とはされているものの
裏ではそういった事例が多く存在していて、
”脳移植手術の闇”が、確立されてしまっていたー。
「ーー許さないー」
紀香はそう言葉を口にすると、
脳移植で、萌愛の身体を乗っ取った神崎社長の元へ向かおうとするー。
しかしーー
「ーどこへ行くのかね?」
逢坂院長が、その前に立ちはだかったー。
「ーー院長ー…!」
紀香は、”清美から聞いた”とは言わずに、
神崎社長が強引に身体を奪ったのではないかと、そう説明するー。
がーー
「ー佐倉先生。我々は”警察”ではない。
君はいつ巡査になった?いつ巡査部長になった?
ー我々は医師だ。
たとえそれが事実だとしても、我々が警察ごっこをするべきではない。
ー分かってくれるね?」
と、逢坂院長はそう言葉を口にするー。
納得いかない紀香。
しかし、逢坂院長は”既に神崎社長は退院したよー”と、
そう言葉を口にすると、
紀香に対して”これ以上は関わらない方がいい”と、
それだけ言葉を口にして、
「我々医師の仕事は何か、もう一度よく考えてみたまえ」
と、そう言葉を口にしたー。
「ーーーー」
それでも、紀香は
”神崎社長”の不正を突き止め、
自分が”移植してしまった”負い目を感じながら、
神崎社長に乗っ取られた萌愛の無念を晴らそうと
動き始めたー。
「先生、最近忙しそうだね?へへー」
脳移植後ー、予期せぬ反応により
変態女になってしまった入院中の真里菜が
そう言葉を口にするー。
そんな、真里菜に対して
紀香は「ー色々あってねー」と、そう言葉を返すと
疲れた様子で歩き始めるー。
が、廊下を歩いていたその時だったー。
背後から突然、首筋に痛みを感じると、
紀香は驚いて振り返るー。
そこには、逢坂院長の姿ー。
「ーーい、院長ーー…?」
薄れていく意識の中、紀香は必死にそう言葉を
振り絞るも、そのまま倒れ込んでしまったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーこれより、”脳移植”手術を始める」
逢坂院長が手術室に入って来ると、
そう言葉を口にするー。
そしてーー
「ーー君には、期待しているよー」
逢坂院長は、紀香の隣の手術台に寝ている男に
そう言葉を掛けると、
その男は「はいーー…師匠ー」と、そう言葉を口にするー。
その返事を聞いて、逢坂院長はニヤリと笑みを浮かべると、
「これより、佐倉 紀香への脳移植手術を始めるー」と、
そう宣言する逢坂院長ー。
”紀香”の知識や技術などの部分を残しつつ、
邪魔な部分を摘出し、
そして、自らの愛弟子である男の脳を”移植”するー。
そうすることで、
”紀香の知識や腕前”を持った状態の
自分に忠実な駒が完成するのだー。
逢坂院長は、邪悪な笑みを浮かべると、
そのまま紀香への”脳移植手術”を始めるのだったー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
恐ろしい事態に…★!
結末は、明日の最終回のお楽しみデス~!!
今日もありがとうございました~!★!

コメント